掲示板小説 オーパーツ69
敵の腹の中だからなぁ
作:MUTUMI DATA:2004.12.6
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


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 狙いをつける迄もなく、視界に装甲が入って来る。
「直ぐ側にいるのに……」
 鈴は呟き、オーディーンを減速させる。あっという間に眼下を宇宙船が擦り抜けて行った。
「手が届くのに」
 宇宙船の吐き出す噴煙を追いながら、鈴は唇を噛む。とっくの昔に照準装置は宇宙船を捕らえている。トリガーを押せば一瞬で宇宙船は破壊出来る。だが。
「……出来ないじゃないのよ!」
 バンと鈴の両手がコントロールパネルを叩いた。ロックをかけてあるので、キーを叩いた程度でどうこうなるものではないが、通常はたった今鈴が起こしたような行為は戒められている。オーディーンはとても繊細な動きをするマシンだからだ。
「私。……どうしたらいいの?」
 敵の屍を放置して動き出した一矢を見ながら、鈴は呟く。映像の中の一矢は、鋭い眼差しをしていた。獲物を狙う猛禽の眼差しだ。揺るぎない目的を持っている者の目だった。
「桜花でもそんな恐い顔をするんだね」
 知り合いの少年の大人びた表情に、鈴は唇を綻ばす。
 そうだね、桜花だって男の子だもんね。ちゃんと一人前なんだ。
「……だったら」
 私も信用するわ。何が目的なのかわからないけど、ここで待つよ。
「それ迄追いかけさせて貰うから!」
 先を行く白い噴煙を追い、鈴はオーディーンを飛翔させた。真っ白な翼から黄焔が溢れる。夜空に光を撒きながら、2機は徐々に高度を上げて行った。

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 逃げる宇宙船から、毒水の様に垂れ流される映像を傍受していたのは、何も鈴だけではない。ここにも映像を見ている者達がいた。鈴とは別の意味で感慨深気に、複雑な心境でそれを受信している。
「……桜花、そこですか」
 溜め息とも感嘆ともとれかねない声音で、しらねがボソリと零す。旗艦太白の艦長席で深く息を吐き出し、しらねは顎に手を当てた。
「どこをどうやって、あの宇宙船に潜り込んだんだ? あの方は?」
「さぁ? でも……桜花だから」
 言外に、何時もその行動力で不意打ちを喰らってるでしょう?と臭わせ、ヒュレイカはしらねの呟きに応じる。
「……そうだったな」
 たった今それを思い出したのか、しらねは乾いた笑みを浮かべてロンジーに命じた。
「【02】に現状の報告を頼む。一応、桜花を見つけたと」
 しらねの命令に軽く頷き返し、それでもロンジーは困った顔でしらねを振り仰いだ。
「何だ?」
「あの、……【02】からはさっさと合流しろって命令だったんですけど」
 しらねは敵船の中に居る一矢を見、一拍後ゆるゆると首を振った。
「出来るか」
「ですよね〜」
 アハハとこちらも乾いた声で、ロンジーが漏らす。
「敵の腹の中だからなぁ〜」

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「出て来る迄待つしかないという事だ。【24ー05】モニターを続けてくれ」
「了解」
 しらねに命じられ、セネアは小さく頷く。亜麻色のポニーテールの髪がふわんと跳ねた。
「三番艦『一葉』と四番艦『白妙』を残す。他はあの宇宙船を追うぞ」
「残すのは二艦だけでいいんですか?」
 ヒュレイカの声にしらねが頷く。
「どうやら下はカタがつきそうなんでな。さしたる戦力も不要だろう」
 中央ディスプレイに映るフリーダムスターを目の端に捉え、しらねは尚も続けた。
「下はムーサに譲る。たまには奴さんも手柄が欲しいだろうからな」

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「そうっすね」
 ロンジーは曖昧に笑った。しらねとムーサがそれなりに顔馴染みで、仲の良い事を知っているからだ。ごほんと一つ咳払いをし、しらねは後を継ぐ。
「【20ー77】、回頭を」
「了解」
 操舵担当の【20ー77】ことカノンが弾んだ声で応じる。若いカノンは本格的な追跡を前に、ウズウズしていたようだ。
「【30ー30】、船を追いかけているオーディーン達ともコンタクトがとれるか?」
「それをお望みっすか?」
「ああ、早急に頼む。桜花が乗っているのに、撃ち落とされてはたまらんからな」
「ああ、それなら了解っす」
 ロンジーはそう返し、自分の端末に向き直った。忙しくロンジーの長い指がキーボードの上を滑る。暫くカタカタカタという音がブリッジに響いた。

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「ところで【08】、奴等どこに向ってるんでしょうか?」
 ロンジーの軽快な操作音を耳にしながら、ヒュレイカが疑問に思っていた事をしらねに問う。しらねは暫し考え込み、静かに首を横に振った。
「わからん。惑星外に逃げ出すつもりだろうが……その確証はまだない」
「念の為にこの星系のゲートを、封鎖しておきますか?」
「……いや」
 かなり魅力的なヒュレイカの提案を否定し、しらねは考え込む。



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