掲示板小説 オーパーツ66
……一応手加減はしといたぞ
作:MUTUMI DATA:2004.8.29
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


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 だがどうやっても、生きている証拠を消す事は出来ないさ。
 瞳を細め、一矢はそれを確認する。極小さな呼気音を。
 1、2、3……7、8。全部で8人か。
 ジワリと滲む汗が額に浮かぶ。一矢は瞬き一つせず、前方を睨み付けた。対処法はとっくの昔に決まっている。遮蔽物のない空間で、銃撃戦をするつもりは無い。それでなくても、一矢の後ろにはグロウがいるのだ。自分が避ければグロウに当たる。それがわかっていて強攻策を取るのは、業腹ものだった。
 最も一矢の選んだ手段だって、他者から見れば十分強硬突破には違いがなかったけれども。
 まぁ、要するに。こいつらをどかしゃいいんだよな。
 大凡の敵の位置を把握した一矢は、スウッと瞳を細めた。一矢を中心に何かがゾワリと動き出す。それを察したのか、再び肉眼で見えない敵から、一矢に向って金属片が飛んだ。何十もの金属片が一矢を捕らえる。
「……遅いよ」
 短く漏らし、一矢は右手を横に一閃した。

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 四方八方から一直線に飛んできた音速の金属片は、一矢の体にぶつかる前に全て排除された。右手の動きに合わせるかの様に、金属片は一矢を前に90度方向を転換をする。
 そしてバラバラバラと、左手の壁にめり込んだ。穿たれた何十もの穴を見もせず、一矢は囁く。
「その電子装備が……お前達の仇となる」
 ニッと唇を歪め、一矢は8人の見えない敵のいる辺りに力を放出した。一矢の力はイオンを帯び、ミニチュアのサンダーストームを巻き起こす。

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 空間に突如現れた雷の嵐は、バリバリバリと音をさせ、通路を薙いだ。そこかしこで悲鳴が上がる。
「ひぎゃ!」
「ひっ!」
「げえっ!」
 蛙の潰れたような声が何通りも響き、バチバチと火花が散る。プスプスと黒い煙が上がる中、何もなかったはずの空間から突然人が現れ、バタリと倒れ伏した。
 同じユニフォームを着た8人の男達だった。皆、ランドセルを背負う様に、何かの装置を背負っている。その装置からは雷の影響なのか、いまだ火花がチロチロと漏れていた。
 肉の焼けた臭いが、狭い通路に満ちる。
「……一応手加減はしといたぞ」
 でなければ、とっくに全員が消し炭になっているはずだ。
 我ながらなんて優しいんだろうと思いつつ、一矢は倒れた男達には目もくれず、先へ進んだ。

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 途中で上がるうめき声を無視し、ひょいひょいと男達の体躯を跨ぐ。意識が朦朧とした状態の人間を哀れむでもなく、助けるでもなく、一矢は冷めた感情でそれを見ていた。
 手加減をして死なれたんじゃ、後味が悪いけど……。先に仕掛けてきたのは、そっちだからな。相手見て喧嘩を売れっての!
 底冷えに冷めた心が悪態をつく。基本的に一矢は、自分に対し攻撃を仕掛けて来た者には容赦がない。問答無用で相応の礼を返す方だ。
 敵を作りやすい典型的な性格だが、味方となるとこれ程頼もしい者はいない。呆気にとられる程の素早い対応に、グロウはそれを実感していた。

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 手を出す隙も暇もなかったのだ。
「……一撃ですか」
 グロウの声を聞き咎めたのか、一矢が苦笑を浮かべた。
「相手をしている暇がないからな。それに……」
 何かを言いかけていた一矢は、突然ぱっと横に飛び退く。つられてグロウも体を捻った。グロウの腕を翳めて数本の細いナイフが壁に当たる。
 肌に滲む血を舌打ちしながら感じ取り、グロウは警戒心に満ちた眼差しを眼前へと向けた。
「ちっ!」
 短く息を吐き出し、一矢は自分の直ぐ側、真横に向って回し蹴りを放つ。何かに当たる感触を一矢は得た。
 やっぱり、そこか!
 先手必勝とばかりに、一矢は連続で拳を放った。何発かは避けられ、何発かは見えない敵にヒットする。
 幾度目かの応酬の後、一矢は本能的にグロウの方へと後ずさった。後を追う様に、何本ものナイフが飛んで来る。
 うわっ。何かこのナイフは、当たったら不味い気がする!
 本能の警告に、一矢は正直に従った。グロウに飛びつき、自分と彼を守るシールドを展開したのだ。直後、一矢のシールドに弾かれたナイフが、バラバラと床に落ちる音がした。



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