掲示板小説 オーパーツ65
さっさとそこから出て!
作:MUTUMI DATA:2004.8.29
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


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「桜花! さっさとそこから出て!」
 届かない悲鳴を鈴はあげる。
 闇の中に白銀の翼が煌めいた。オーディーンが苛立つ様に、どこ迄も宇宙船を追って行く。徐々に高度を上げる船を、鈴は歯痒い思いで追い続けたのだった。



「くしゅん」
 むず痒くなった鼻に、思わずくしゃみを一つこぼし、走りながら一矢はぐすっと鼻を擦った。船内の埃っぽい空気に反応したようだ。
 空気清浄化装置を使っているとはいえ、自然な空気と比較するとどうしても様々な特性が出てしまう。人がいる以上、埃はどうやったってたつものだ。
 埃っぽいな。
 カビっぽいよりは遥かにましだと思い直し、一矢は目の前のハッチを開けた。堅く閉ざされていたハッチが、実にあっさりと開いて行く。

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 薄明かりに照らされた通路に、一矢とグロウの影がのびる。ハッチが完全に開ききる前に、一矢は中に飛び込んだ。

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 その後を躊躇いも浮かべずグロウが追う。グロウの任務、セイラの抹殺が意外な結末をみた事で、グロウは今現在、実質的にはフリーだ。任務上の束縛はない。だからなのか、先刻迄あった悲壮な気配が薄れてきていた。陰鬱な空気が和らいでいる。

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 ま、いっか。緊張感を失った訳でもないし。ガチガチに緊迫されると、こっちが気を使うしな。これぐらい気楽な方がいいかな。
 どことなく虚脱感が漂うグロウに、一矢は気付かれない様に苦笑を浮かべた。
 よっぽどセイラを憎んでいたんだなぁ。
 わからなくもないがと思いつつ、そういう思いは生きる上では邪魔になると、頭の隅で考えた。
 憎しみはさらなる憎悪を産むだけだ。……憎みきっていいのなら、僕にはこの世界を潰していい理屈が成り立つ。……それだけの事はされた。神の勢力の側からも、ルービックサイドからも。そして戦後の星間連合からも。
 走りながら軽く吐息を吐き出し、一矢は自分の心の奥底に鍵をかける。
 ……理性がある限りできもしないのにな。
 自嘲気味に唇を歪め、そうひとりごち、一矢は前方に迫った新しいハッチを開けた。

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 開けた瞬間にヒヤリとした空気を一矢は感じる。何かが肌に突き刺さる。ゾクリと背筋が戦慄いた。
「っ!」
 小さく息を漏らし、一矢は前方から飛来した無数の礫を避ける。親指程の金属片が一矢の全身を翳めて行った。ごろごろと床を転がり、一矢は体勢を立て直す。前方を睨み付けると、そこは普通の通路だった。長く伸びた廊下が、静寂の中にあった。
 礫? いや、大型のニードルガンか! 敵が近くにいる。オートメーションによる攻撃じゃない!
 物言わず音一つも発てず、一矢は前方の通路を睨み付ける。ハッチの影でグロウの押し殺した気配を感じた。一矢の様子を見て、とっさに逃げ込んだのだろう。
 一方、遮蔽物の存在しない一矢は、じっと全身の五感を総動員して、見えない誰かを捜していた。肉眼で見えない理由は、とっくの昔にわかっている。
 光学迷彩装置を使っているな。……完全に気配が読めない。



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