掲示板小説 オーパーツ57
責任を押し付けたいんだ?
作:MUTUMI DATA:2004.7.4
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


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「まあ何にしろ、ここでぼ〜っとしててもしゃあねえな」
 鈴が怒って飛び去った後、そんな風に語ったニノンにマリが応じた。
「そうね。フリーダムスターのムーサ指揮官に、追撃命令を出して貰いましょう」
「出すかな? あのおっさん?」
「さあ? 責任感はあまりないように、感じましたけれど……」
 マリはムーサの第一印象をそう語り、その評価にニノンは苦笑を浮かべる。
「脅すか?」
「脅せるならね」
 マリは微妙な表情をする。脅してどうにかなる相手なら、まだやりやすい。脅してもすかしても、どうにもならない質の悪いタイプでない事を祈るだけだ。
「ともかく、私達は鈴を追いましょう」
「ああ、あんな直線女でも一緒のチームだからな」
 ニノンの軽口にマリは笑った。
「心配してるって、言えないの?」
「ほっとけ」
「……くす。……ユナ、聞いての通りよ。私達は鈴を追うわ。オルフィア、聞いてる?」
 マリはユナの上官機を呼びつけた。
「なんだい、マリ?」
 回線に、ハスキーな女性の声が追加される。ユナのチームの上官、オルフィアだ。
「フリーダムスターのムーサ指揮官から、攻撃命令が欲しいの」
「ああ。責任を押し付けたいんだ?」
「そ」
 血も涙もない事を平然と言い、マリはオルフィアに頼む。
「任せて良い?」
「ああ」
 オルフィアは、極短く応じた。それを確認した後、ニノンとマリはオーディーンを急上昇させた。レーダーに映る宇宙船とそれに迫る鈴の機体の方へ、急加速で突っ込む。機体にかかる負荷を難無くあしらい、二人は鈴を急いで追いかけた。
 オーディーンや宇宙船の加速度からいえば、数秒の時間でも、距離にすると数キロに相当する。急いで追わなければ、援護も出来なくなってしまうのだ。だから二人は相当あせりながら、鈴を追った。

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 宇宙船の狭い通路を駆けていたいた一矢とグロウは、バシュッという大きな音と、突然起こった衝撃によろめいた。
「いっ……てぇ……」
 側壁に肩をぶつけた一矢は、涙目で呻く。先程からあちこちを打っているので、痛みで神経が麻痺しそうだった。
 絶対青痣出来てるぞ。やばいなぁ。体育の時間、隠れて着替えなきゃいけないじゃないか。
 以前、先生達から親の虐待と間違われた一矢としては、あらぬ誤解を受けかねない事態は、勘弁して欲しかった。
 全く……!
 愚痴の一つも言いたくなる。
「今の衝撃は……」
「船が攻撃を喰らったんじゃないの?」
 肩を揉みながら、一矢が応じる。
 

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「かなりの衝撃があったけど、……大分緩和された気がするよ」
「?」
「だってこの船相変わらず動いているし、姿勢制御にも異常がないし。シールドの防御機能が働いたみたいだね」
 肩から手を離して、一矢が続ける。

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「攻撃したのは、グロウの味方じゃないの?」
「かも知れませんが……」
 些かふにおちないグロウに苦笑を向け、一矢は肩を竦める。
「どっちにしろ、味方に落とされない事を祈るよ」
 そんな事になれば、洒落や冗談では済まない。敵ではなく味方に殺されるのは、勘弁願いたい。幾ら一矢だって、ブチ切れるというものだ。
「それに対しては自分も同感ですが……」

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そう言って、軽口を続けようとしたグロウだったが、ふと何かに気をとられ、押し黙った。一矢が訝しげにグロウを見る。
「グロウ?」
「しっ。…音が…」
「音?」
一矢は耳を澄ますが、特におかしな音はしなかった。低い重低音の船のエンジンが聞こえるだけだ。
「空耳じゃないの?」
「耳は良いんですが…待ってください。錆びた甘ったるい匂いがしませんか?」
「錆びた?」
そう自分で繰り返し、一矢は眉間に皺を寄せる。
「それ血の匂いじゃないの?」



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