掲示板小説 オーパーツ48
確かに時間の短縮はされたな
作:MUTUMI DATA:2004.5.2
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


236

 手足を使うのと同じ感覚で、彼は特殊能力を行使している。恐らく彼には区別がないのだ。日常と非日常の……。それだけ身近な力であり、身体に対する負担も少ないのだろう。
 そう推察し、グロウは更に嘆息を深くした。
 埃のおさまった通路には、無理矢理開けられた穴がぽっかりと口を開けている。穴はその奥にあった壁へと手を伸ばし、まるでトンネルの様に更に奥へと伸びていた。
 つまり壁が連続でぶち抜かれた事により、一瞬にして深部へと至る道が確保された訳だ。

237

「確かに時間の短縮はされたな」
 開けられた穴を見て、グロウは呟く。
「グロウ、先に行くよ」
 さっさと穴の端に足をかけ、一矢がグロウを呼ぶ。グロウは慌てて一矢の後を追った。
 所属が発覚して以降、一矢は自分を繕う事を止めている。今更グロウの前で良い子ぶっても仕方がないし、そんな必要も見出せない。だからなのか、かなり地に近い性格が露出してきていた。

238

 良く言えば勝ち気、悪く言えば唯我独尊。実力に裏打ちされた性格とも言えなくもない。
 先を行く一矢の小さな背を見つめながら、グロウは考え込む。
 どちらにしろ、彼を敵に回したくはない。敵に回せば、殺されるのは俺の方だ。
 薄々グロウは察していた。一矢は別にグロウの味方についたわけではない。ただ単に利害が一致したから、グロウの側に居るだけなのだ。もしも利害が対立すれば、躊躇わずに切り捨てるだろう。

239

 そんな冷酷さを時々感じる。
 別に一矢が冷たい人間なのではない。グロウが相手だからこそ一矢はそう考えるのだ。一矢にとっての庇護対象外だからこそ、そこまで割りきれる。
 もしもここに居るのがパイやシグマなら、一矢は全力で級友達を守っただろう。何故なら彼らは、一矢からすれば保護すべき対象だからだ。民間人を守る為に自分達(星間軍)は在る。一矢はそう信じていた。

240

 そしてグロウは、明確な程民間人ではない。スカーレット・ルノア共和国のれっきとした将校だ。どこをどう突いても、一矢が守らねばならない理由はないのだ。それにある程度グロウは腕もたつ。
 一矢からすれば、自分の邪魔さえしなければ、好きにしていても良いよ、という感じになる。

 どんどんと壁の穴を潜り一矢は奥へと進んで行く。破片と化したコンクリートも、尖った金属片も一矢を止める事は出来なかった。流石に鼻唄は歌わないが、それに近い感覚で一矢は瓦礫を乗り越えていく。グロウはグロウでいつもの様に周囲を警戒しながら、一矢の後を追った。
 ややして、気楽に進んでいた様に見えた一矢が、最後の穴の前で急停止する。じっと何かを探る様に目を穴の中へ向けていた。焦げ茶の瞳に剣呑な光が浮かぶ。
 耳を澄ませば、カサカサとした掠れるような音がグロウにも聞こえて来た。どこかで聞いた事のある音だった。
「ガーディアンマシンですか?」
「みたいだね」
 グロウの呟きに頷きながら、一矢は答える。
「最後の障害ってとこかな。作動音からして、甲殻タイプ。それも多足型。……ああ、脳裏に姿が浮かぶよ、全く」
 愚痴に近い事を言いながら、一矢は壁だった部分のコンクリートに手を添える。中を覗き込むような姿勢を見せた後、クルリとグロウに顔を向けた。
「ちょっと待ってて。その方が早いから」
 一矢の後に続こうとしていたグロウは呆気にとられたが、中にいる物が想像通りなら、その発言もやむなしと思った。だからあっさりと、プライドも何のその、頷く。
 それを確認すると、一矢はスルリと穴の中に侵入して行った。一矢の小さな体が薄暗い闇へと消える。



←戻る   ↑目次   次へ→