掲示板小説 オーパーツ41
お前を殺す事は簡単だ
作:MUTUMI DATA:2004.3.21
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


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「力を笠に偉そうに。高位の能力者が、そんなに偉いものなのか? 弱者を嬲って、そんなに楽しいのか?」
 冷たい目をして、一矢はクリフに問う。
 右手に持っていたレーザー銃を、再びベルトに挟み込み、一矢は機械的に右手を持ち上げ、クリフへと向けた。途端にビクッと、クリフの体が跳ねあがる。
「確かにお前の張るシールドは堅い。でもね……」
 どこか優雅に口元を綻ばせ、一矢は笑った。これ以上はない程の皮肉な笑みを、その綺麗な顔面に張り付かせて。
「壊せない程じゃない」

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 そう言い切り、一矢はパチンと指を鳴らす。途端に、クリフの周りの大気が爆ぜた。予兆も兆(きざ)しも何もなく、それは突然発生した。
 クリフを中心に、床から垂直に爆風が立ち上がったのだ。爆風はクリフの足下から昇り、円柱状に、高い天井をあっという間に飲み込んだ。ギシギシと軋む音が天井付近から聞こえ、次の瞬間、天井は木っ端微塵に吹き飛んだ。瓦礫となった天井の向こうには、美しい星空が顔を覗かせている。
「うわぁぁ!」
 直撃を喰らったクリフが悲鳴をあげて、シールドを強化する。一瞬、見えないはずのシールドが、負荷に絶えかねて陽炎の様に揺らめいた。暴力的な力に翻弄され、クリフは苦痛の声をあげる。

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「うっ、ぐ。あ、あっ」
 クリフの顳かみに玉のような汗が、幾つも浮かぶ。真っ青な顔色が、彼の尋常でない苦痛を物語っていた。
「頑張るじゃないか。でも、もう限界……だろう?」
 一矢は冷然とした笑みを張り付かせたまま、更なる力を加える。実に無邪気に確信的に、クリフの限界を見極め、一矢は爆風の速度とエネルギー密度を上げた。
「うわっ!」
 クリフの一際大きな悲鳴と共に、今迄かろうじて保たれていたシールドが、バラバラに砕ける。ガラスの破片が飛び散る様に、シールドは欠片となって、空中に飛散した。
「うおおおおっ!」
 生身のクリフに、一矢の加えた力が襲いかかる。足下から競り上がって来る爆風は、クリフの体をいとも容易く翻弄し、木の葉の様に弄んだ。それ程、暴力的な力だったのだ。

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 それでも、一矢からしてみれば手加減はしたのだ。その証拠にクリフはまだ生きている。
「あぁぁ!」
 凄まじい爆風に晒されていたクリフの体が、ゆっくりと床に落ちる。それに合わせて、爆風も波が引く様に止まった。
 ズタズタに切り裂かれたクリフの肉体は、浅い呼吸を繰り返していた。滲み出た血の臭いが、嫌でも鼻につく。全身を切り刻まれ、クリフは激痛とショックで腕を挙げる事も出来ない。
 クリフはゆっくりと近付いて来る一矢に、恐怖の眼差しを向けた。
「ひっ……」
 言葉にならない声がクリフの口から漏れ出る。
「力に溺れる者は力に殺される。真理を衝いていると思わないか?」
 倒れたままのクリフの頭上で、一矢はそう呟く。動けないクリフを平然と見下ろし、憐憫の情すら浮かべず、一矢はクリフの喉元に片足を乗せた。そしてそのまま、じわじわと体重をかける。
 幾ら軽いとは言っても、一矢にだってそれなりの体重はある。途端にクリフが、蛙の潰れたような声を張り上げた。
「五月蝿いな。これじゃまるで、僕がお前を虐めているみたいじゃないか」
 ニコリともせず、一矢はクリフを見る。……最後通牒を渡す為に。

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「今更ジタバタするなよ。どうせお前は逃げれない」
 唇の端を持ち上げ一矢が笑うと、クリフはその目に紛れもない恐怖の光を浮かべた。
「お前を殺す事は簡単だ。……他愛もない」
 ほんの少し、一矢は足に体重をかける。ぐぐっと一矢の片足が、クリフの喉に食い込んだ。
「ぐえっ!」
 途端にクリフのだみ声があがる。気道が、一矢によって遮られたのだ。クリフは真っ赤になってもがく。けれど手どころか指1本動かせないので、一矢の足を外す事が出来ない。
 逆さに転がった亀の様にジタバタするクリフを同情もなく眺め、一矢はゆっくりと片足に加えていた力を抜いた。
「理解出来たか?」
 聞き返すと、クリフがひくっと顳かみを動かした。それを同意の合図と取り、一矢は生真面目な口調で告げた。



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