掲示板小説 オーパーツ34
援護を頼む
作:MUTUMI DATA:2004.2.22
毎日更新している掲示板小説集です。修正はしていません。


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「今度こそ終わりにしようぜ、グロウ」
「ああ」
 隣を走るウルクに頷き返し、グロウは右手を掲げる。真直ぐに前に差し出し、ウルクに聞こえる様に囁いた。
「来たぞ」
「強硬突破か?」
「ふん。ここ迄やれば誰が裏切ったか、馬鹿でも気付くだろうさ」
 嘯き、グロウは前方から迫る人影に発砲した。光エネルギーが短い間隔で連射される。最初に飛び出した人影は、呻き声をあげて倒れた。後発の者達が銃を構える。瞬間的に、二人は柱の影に隠れた。
 ヒュン、ヒュン。
 レーザーエネルギーが、二人の耳元をかすめる様に、壁のコンクリートを抉る。
「動かないと囲まれるな」
 次々と人がここに集まって来る気配に、ウルクは少し焦りながら漏らす。敵は攻撃の手を緩めない。最初から最後迄、グロウ達を殺す気でいるようだ。尋問も必要ないと判断されたらしい。
「ここで手間取る訳にはいかない」
 グロウは呟き、ジャケットの内ポケットから、銀色の棒に似た物体を取り出す。右手に銃を、左手に棒を持ち、グロウはタイミングをはかった。
「援護を頼む」
「ああ」
 ふうと呼吸を整え、ウルクもニードルガンのセーフティ装置が外れている事を再確認した。いいかと、グロウが目で問うのに、小さく返し、二人は銃撃の合間を縫って飛び出した。何十発もの弾丸が、光と熱を発し向かって来る。
 それを無視し、グロウは低い姿勢で射列の前に飛び込んだ。グロウの背後から、ウルクの撃ったニードル、細い針が、銀色の光となって敵に吸い込まれて行く。グロウは左手を一閃させた。
 手に持った棒からスルリと赤い光が伸び、鞭の様にしなる。細い糸の様に伸びた赤い光は、空を這う様に敵に向かった。円を描く軌跡を残し、敵に向かって襲いかかる。
 ビイイイン。
 か細い音がし、赤い糸に触れた物は抵抗を残さず切れた。コンクリートの壁も、銃器も盾も、人間も、何もかも。武器を持つグロウには肉を断つ感触もしない。なのにあっという間に血を吹いて敵は倒れた。反撃をする間もなく。
 グロウは左手を翻し、なおも敵を翻弄しながら、右手に持つレーザー銃を乱射した。通路を封鎖した敵に動揺と恐怖が広がる。その瞬間を逃さず、二人は人垣の割れた部分を突破する。
 走るグロウの靴が、床に広がった赤い血溜まりを踏みしめる。ピシャリと、深紅の水滴が飛び散った。

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 センサーの張り巡らされた廊下を前に、一矢は立ち竦む。この先に進みたいのだが、一歩でも動けば瞬く間に感知されてしまう。
 テレポートをしてやり過ごそうにも、目で確認出来る範囲全てがセンサー網の中なので、それも難しい。要するに手詰まりだった。
 どうする?
 一矢は自問し、再び聞こえて来た悲鳴に覚悟を決める。
 ああ、もう!
「こうなったらもういいよ。瞬間的に制圧して、力尽くで押し通してやる!」
 腹を括ると決断は早い。さっさと潜入の基本ルール、証拠を掴む迄なるべく弱い子供の振りをしてやり過ごす、を無視し、一矢は自分の中で力を練った。
 やるからには徹底的に完膚なきまでに、が信条の一矢だ。力の出し惜しみをする気は毛頭もない。
 一矢は右手を前に差し出す。ユラリと光の粒子がその先に集まって来た。発光する球体がパシリと音を発て稲妻を放つ。半眼でそれを睥気し、一矢は右手を横に払った。
 ドン!
 瞬間的に音速を越えた球体は大きな音を放ち、廊下の中央を直進する。バリバリバリと大きな音をあげ、球体は廊下自体を抉って行った。床や壁が剥き出しになり、繊細なセンサーが焼き切れる。露になった配管が粉々に破壊され、水がパイプから滝の様に吹き出した。
 バシャァァッ。
 漏れ出た水が床に跳ね返る音がする。その瞬間、廊下の端に辿り着いた球体が爆発した。
 ドオオオオオン。
 轟音がたち、地下にもかかわらず建物自体が激しく揺れる。爆発した球体から漏れたイオンが電気を起こし、溢れる水の中を伝って走った。煽られる様に、小さなコンクリートの破片が弾ける。

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 水中を這う電気の放電現象が終わったのを確認すると、一矢は一気に廊下であった残骸を駆け抜けた。ぼこぼこの床を滑る様に走り、悲鳴が聞こえていた最奥の扉を蹴り破る。
 他にある様々な扉の中からは、人の気配はしない。今一矢が蹴り開けたここに、どうやら集中しているらしい。恐らく多くの人間が収容出来る遊戯室的な空間なのだろう。一矢は遠慮なく扉を破壊して、部屋の中に侵入した。
 一瞬だけ、薄暗かった廊下とは対照的な明るさの室内に、目が眩む。一矢が飛び込んだ部屋は、想像通り大きな空間だった。高く丸い天井を持つ、ドームのような造りの部屋だ。
 突然の轟音に爆発。そしていきなり扉を蹴り破って飛び込んで来た一矢に、室内に居た者達は騒然となる。
 半裸の男達が大声で何かを喚き、盛んに一矢を指差した。それに呼応するかの様に、傭兵と思しき武装した一団が、躊躇いもなく一矢に武器を向けた。
 傭兵達もまだ混乱した顔をしている。一矢が侵入者に間違いはないのだが、どうみても、攫われて来た子供にしか見えないのだ。だから。
「止まれ! どこから逃げて来た!?」
 くみしやすしと思った者達が、そう声を荒げる。

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 一矢が飛び込んだ室内は、悲惨な様相を呈していた。中央の舞台には、全裸に近い少女達が身を寄せあう様にして震えている。下着すら身に着けていない者もいた。露になった線の細い肢体と、白い肌が一矢の目に焼き付く。
 そんな少女達とは別に、男達に拘束され四肢を押さえ付けられたままの少女もいた。ばらばらに絡まった金髪に投げ出された腕。ピクピクと長い指が動く。だらしなく開けられた口の端からは、白い泡が出ていた。
 少女を押さえ付けている男達は皆裸だった。男達は少女の体を床に押さえ、無理矢理体を繋いでいたのだ。その上少女の細い首を、指が食い込むぐらいの強さで絞めていた。
 少女は白目を剥き、その体は断末魔の痙攣を繰り返している。ガクガクと揺れる少女の内股から、赤く濁ったものが細い足を伝って流れた。
 一矢はそれを見、思わず息を飲んだ。
「……お前達!!」
 そう叫び、剣呑な眼差しを男達に向ける。その目には既に優しさなどこれっぽっちもなく、あるのは冷酷な殺意だけだった。

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 剣呑な一矢の様子に、傭兵達が反応する。一矢を向いた銃口が一斉に火を吹いた。ほとぼしるレーザー光線をひらりと躱し、一矢は跳んだ。ごく短いテレポート。
 一瞬の後に、一矢は傭兵達の頭上に現れる。そのまま男達の背後に滑り落ち、一矢は両脇の傭兵達の銃を、それぞれ片手で捻りあげた。
「なっ!?」
「うわっ!」
 体が回転し驚く男達に素早く当て身を喰らわせ、瞬間的に気絶させる。
「この餓鬼!」
 カッとなり向かって来た傭兵には足を払い、バランスを崩させた上で、腹に膝蹴りを叩き込んだ。傭兵は、「はぎゃ」っとみっともない声をあげ、床をゴロゴロと転がって行く。



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