掲示板小説 オーパーツ33
あの女をいぶりだせ!
作:MUTUMI DATA:2004.2.22
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


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「【66ー20】(ヒュレイカ)、本当にオーディーンか?」
「亜機種じゃないですよ。プラズマ砲の格納ユニットがありますし。この形状ですし、それに……ほらここ。うちのマーク……」
 ヒュレイカはしらねの前面端末に、望遠撮影したオーディーンの画像を出した。飛び去るオーディーンの肩の辺りに、くっきりと星間連合のマーク、月桂樹と太陽が印されている。
「……刻印付きか」
「どう見ても本物でしょ? 偽造っぽくないし」
 しらねは軽く頷き、深々と吐息を吐き出す。
「どこの部門かわかるか?」
「そこまでは……」
 苦りきった顔のヒュレイカに、そうかと応え返し、しらねはロンジーを見る。
「あ〜、今やってますって。通信でしょ、分かってますって〜」
 ロンジーは背後からのしらねの視線にそう返し、機器を忙しく動かす。軽口を叩きながらも、ロンジーは真剣な顔をして業務をこなしていく。ツツーっと、ロンジーの額を汗が一雫伝った。それを拭いもせずロンジーは、フリーダムスターへの回線の割り込みを続けた。
「……ん〜、よっと。んん? あー違う、でも、これがああだから。そっか。よし、これでどうだ!」
 ほとんど独り言の、状況中継のような言葉を漏らしながら、ロンジーはバシバシっとキーを叩いた。瞬間、ロンジーの顔に安堵の笑みが浮かぶ。
「おし! 成功! 回線をオープンにしますよ」
 軽く頷くしらねをちらっとのぞみ、ロンジーはヘッドホンに流れていた会話をブリッジの回線へと回した。慌ただしいフリーダムスターの、緊迫した会話がブリッジに流れる。

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 雑音と共に緊張した声が聞こえて来た。複数の男女の声音がする。そのどれもが緊迫した空気を孕んでいた。
『ファースト、セカンド、サード、部隊展開確認。阻止行動は目下のところなし』
『攻撃目標のシールドとジャミングの解除を、今確認しました』
『ウルクから残りの指示は?』
『ありません。ですが……』
『攻撃に迷いはないか』
『はい』
 頷く女性の声に、別の女性の声が重なる。
『間もなく目標の攻撃圏内に入ります』
『よし。主砲発射準備』
『了解。プラズマ砲発射準備開始。ジェネレーターを解放。全エネルギーのチャージ確認』
『前方の攻撃部隊に、プラズマ砲発射の警告を』
『了解』
 誰かわからないが、男の声はテキパキと指示を出していく。妙に場慣れしている感じがした。どうやら今拾っているのは、ブリッジ内の会話、恐らくインカムを通じてバーチャル的に共有している物なのだろう。ブリッジでの行動が克明に読み取れた。



「……プラズマ砲を撃つだと!」
 フリーダムスターでの会話を聞き、しらねは絶句する。フリーダムスターにそんな物が搭載されていた事にも驚いたし、地表に向かって発射する事にも驚いていた。いくら出来るからと言って、そうそう易々と攻撃されたのでは堪らない。
「冗談じゃないぞ!」
 本来プラズマ砲、高温圧縮されたプラズマエネルギーに一定の指向性を持たせたビーム兵器は、宇宙戦専用だ。戦艦や要塞を攻略するのに用いられる。だが星間戦争の終わった今、ほとんど恫喝用の兵器になっていると言っても、過言ではない。

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 使うとすればせいぜい、軌道を外れた遊星や小惑星を破壊する時ぐらいだ。宇宙船に搭載されているプラズマ砲は、オーディーンに搭載されている物よりも、遥かに大きな破壊力を持つ。故に規制も厳しいのだ。
「奴等正気か?」
 しらねは低く唸りながらも、声を絞り出した。
「……どうします、【08】?」
 ヒュレイカが眉間に縦皺を刻みながら、しらねを振り返る。
「今ならまだ阻止出来ますけど……」
 自分達の位置からなら、フリーダムスターをアウトレンジで攻撃する事も可能だ。あの船のクルー達が何を考えているのか知らないが、今なら行動を無力化出来る。いや、恐らく今しか阻止は出来ないだろう。
 直感的にそれを理解したしらねは、阻止命令を出そうとし、次の瞬間思い止まった。フリーダムスターの指揮官が、はっきりとこう口にしたのだ。
『目標はジェイル・L・リーゼの私邸! あの女をいぶりだせ!』と。
 その声は力強く、微塵にも迷いのないものだった。

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 トン、トン、トトン。
 飛び降りる様に、グロウは急な階段を駆け降りる。ぐるぐるとまわる螺旋の石段を、グロウは本気で走り抜けた。右手にはむき出しのレーザー銃がある。今迄になく、グロウの目は真剣な光を放っていた。
 最後の階段を降りると、グロウは堅い扉を開く。微かに錆の臭いの残る扉を潜り、彼は近代的な照明の灯る空間に身を躍らせた。そしてそのまま一気に駆け抜ける。
 このジェイルの屋敷に侵入する事が出来たグロウの部下は、数える程しかいない。周到な準備とプロの傭兵という表看板がなければ、グロウとてここ迄辿り着けたかどうか。
 様々な思いを抱きながら、グロウは目的のフロアに向かった。外の攻略はフリーダムスターに任せても大丈夫だろうと、グロウ自身は考えている。しかし、内部の攻略は……。ましてセイラの身柄の確保は、他の誰にも委ねる事が出来ない。
 それが自分に委ねられた物の条件なのだと、グロウは考えていた。

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「あなたに誓った。あの女を殺すと……。だから俺は……ここ迄来れた」
 グロウは低く呟くと、長い廊下の先を曲がった。途端に向いから男が1人走り寄って来る。
「グロウ!」
 呼び掛ける男に軽く頷き、グロウは走る速度を緩めた。
「首尾は?」
「上々」
 グロウの問いに若い男、ウルクは端的に答える。
「そうか。ではこちらも派手に行くか」
「そうこなくっちゃな」
 ウルクは上機嫌でグロウに返した。その手には何時の間に取り出したのか、ニードルガンが握られている。ちらりとそれに視線を走らせ、グロウは薄く笑った。



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