掲示板小説 オーパーツ32
航跡を追ってくれ
作:MUTUMI DATA:2004.2.22
毎日更新している掲示板小説集です。修正はしていません。


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 画像に映っていた宇宙船は、差程大きなものではなかった。が、ここ数日の太白のクルーには見なれた物だった。武装に特化した鋭角的なボディ、船体中部に銀の槍のマーク。それらが示すものはたった一つだ。
「船体コード確認! ……フリーダムスターです!」
 ヒュレイカの緊迫した声が飛んだ。しらねは呆然とその光景に見入る。
「どういうつもりだ? 何故今この星に、管制を振り切ってまでも降下する? 何の目的があるというのだ!?」
 混乱した頭でしらねは苛立たし気に呟く。
「【08】(しらね)!」
 ヒュレイカの指示を求める声が、耳を打った。しかし、しらねは小さく首を振ると、黙ってその船を見送る。フリーダムスターは、しらね達の艦隊が潜む直ぐ脇を通り、眼下の雲海に向かって降下していった。宇宙船は大気に擦られ、赤い尾を引く。

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 フリーダムスターの船体が、大気摩擦でオレンジ色に輝くのが、しらね達からもはっきりと見えた。轟音を発しながら、宇宙船は惑星へと降りてゆく。雲を曳き大気を乱しながらも、船は地表へと向かった。
「どこに行くんだ?」
 しらねは思わず呟き、次の瞬間、はっとしてヒュレイカに命じる。
「航跡を追ってくれ。あの船が降下した先に、もしかしたら桜花がいるかも知れない!」

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「了解!」
 ヒュレイカは軽快に応じた。
「【30ー30】! フリーダムスターの通信を拾えるか?」
「げ。……あ〜その。……やってみます」
 ロンジーは一瞬躊躇った後、渋々頷く。通信コードも知らない、他船のしかも動いている宇宙船の、通信を傍受しようというのだ。並み大抵の手腕では出来ない。
「……ううっ。相変わらず人使いが荒いんだからよ……」
 やや肩を落としながら、ロンジーは呟く。そんな部下の悲嘆をあっさり無視し、しらねは更に指示を出した。
「【24ー05】(セネア)! 地上で何か起こっていないか、くまなくスキャンだ! 異常があれば報告しろ」
「了解」
 【24ー05】、セネアはこくんと頷く。ポニーテールの亜麻色の髪が、首の動きに合わせて揺れた。セネアは先程迄、手に持って弄っていた大型のバイザーを装着する。無線通信式のバイザーに、太白の船外監視データが表示される。セネアは感知装置や、カメラを地表へと向ける指示を出した。

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 しらねは同様に僚艦へも、セネアに下したのと同じ指示を出した。監視の目は、一つでも多い方が良いに決まっている。
 太白がおおわらわで、バタバタしている間に、フリーダムスターは何時の間にか豆粒程の大きさになっていた。相当スピードが出ているようだ。
「……無茶をする」
 しらねは苦々しく呟く。

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 外宇宙仕様の船を大気圏内で運用しているのだ。船には相当な負荷がかかっているはずだ。
「何を考えている? ……ジェイルの指示か?」
 考え込むしらねの耳に、ヒュレイカからまたもや報告が入った。
「フリーダムスターから、オーディーン9体が射出! 地表に向かって降下しています!」
 しらねは思わず息を飲む。
「オーディーンだと? なぜ星間連合の機動兵器が、フリーダムスターから射出される!?」
 ほとんど叫び声に近いしらねの疑問に、ブリッジのクルー達は凍りついた。
 オーディーンと呼ばれる人型の機動兵器は、星間連合の専用兵器だ。類似した亜種も星間には数多存在するが、オーディーンタイプを装備することが出来るのは、星間連合に属する軍事部門、星間軍だけと決まっていた。
 オーディーンは本来、宇宙での局地対戦用に設計されている。惑星内部でも使えないことはないのだが、細かな微調整の変更など、使用には若干の問題もあった。だが、それを補って余りある性能を、オーディーンは潜在的に持っていた。人が内部に乗り込み操る兵器の中で、最強と言われる所以である。
 白い翼型の推進装置を広げ、オーディーンの編隊は北上してゆく。後を追う様にフリーダムスターも、北を向いた。



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