掲示板小説 オーパーツ102
艦橋へ二人を近付けるな
作:MUTUMI DATA:2005.5.18
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


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 嫌だの一言で済む話ではないのだが、一矢はそれで済ますつもりらしい。
「鈴ちゃん、ニノンに通信を入れてオーディーンを太白に向かわせて。合流した方が良さそうだ」
「あ、うん」
 鈴が反射的に頷きパイロットスーツに付属している通信機に向かってボソボソと喋る。数分後、説得に応じたオーディーンは進路を変更し太白へと向かった。
 敵艦への攻撃を続行中である太白の邪魔にならない様に側面からまわり込み、オーディーンは太白が開けたハッチから中に入った。オーディンの翼が複雑に羽ばたき、速力を微調整する。
 差程広くもない太白のドックに綺麗におさまったオーディーンは、片足をつくとその手を地面に降ろした。手の上にいた一矢が揺れにフラフラしながら、鈴はグロウの手を借りながら飛び下りる。
「ニノン、サンキューな!」
 ぶんぶんと一矢が両手を振って礼を言うと、くぐもったスピーカー音が応えた。
『気にする事はないさ。こっちも鈴を守ってもらってるしな』
 ニノンの声にはどこか楽しそうな響きが混じっている。この一連の騒動を、任務は任務として厳しい姿勢でのぞむのだが、どうも楽しんでいるようだ。過分にそれは一矢が関係するから、なのだろうが。
 ニノン楽しんでないか? 変な期待を感じるのは気のせいか? いや、気のせいじゃないような……。
 等と反語で突っ込みつつ、駆け寄って来た太白のクルーに声をかける。

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「ニノン機に補給を。それから鈴ちゃんとグロウに暖かい飲み物をふるまっといて」
「了解」
 短く応じ、じっと一矢を見る。クルーの目がそれで桜花はどちらに?と尋ねていた。
「ああ、僕は艦橋」
 言い様走り去ろうとして、ハタッと気付く。だから鈴とグロウの目を盗み、声を潜めてクルーの耳元で囁いた。
「追加命令を一つ。艦橋へ二人を近付けるな」
 唐突な命令にクルーはわずかに疑問の表情を浮かべながらも、顎に手を当て考え込む。
「……それでは、キャビンで歓待させましょうか?」
「そうして」
 戦闘中にも関わらずあっさり許可を出し、くれぐれも頼むねと言いおいて一矢は全速でドックを駆けた。勝手知ったる我が家とばかりに、その行動は素早い。
「あっ、桜花!」
 置いて行かれた鈴が不満の声をあげる。

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「ゆっくりしてて〜。後でね〜〜」
 エコーのかかった声と共に一矢の姿がドックから消える。取り残された鈴とグロウは困惑気味にお互いを見つめた。
「ゆっくりしろと言っていたようですが……」
「……後でって……」
 互いに呟き額に皺を寄せる。そんな二人の心の中では、密かに同じ突っ込みが入っていた。そんな事をしている場合か!?と。
「むう。桜花の馬鹿」
 今更現場から外されても困る!と、鈴は憤慨する。僅かな間とはいえチームで行動していたのだ。少しぐらい説明があっても良かろうと感情が訴えた。理性では所属も違うし、立ち場も違うし。置いて行かれても仕方がないとわかっているが、つい愚痴が出てしまう。
「……しかし、この後どうするつもりなんでしょうね」
「え?」
 愚痴に没頭しかけていた鈴が隣に立つグロウを見上げる。
「桜花ですよ。阻止するとは言ってましたが……」

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 些か単純な戦闘ではなくなってきたこの状況にグロウが低く唸る。
「何とかなるものでしょうか? 自分には対処不能な気がするのですが」
「私にも良くはわからないけど……。でも」
 鈴は一拍置き、短く断言した。
「桜花ならやるわ。あの子時々凄いから」
「……」
 妙に得心のいく台詞にグロウが微苦笑を漏らす。短い付き合いとはいえ、鈴の言いたい事は理解出来た。出会ってから今迄の一矢の行動がその事実を示している。常識を足蹴にしてしまえる力と発想、行動力。どれをとってもグロウにはない物ばかりだ。
「お手並み拝見といきますか」
 ほんの少しの好奇心を滲ませグロウが漏らす。鈴もその隣に立ち同じような事を考えていた。二人は顔を見合わせニコリと微笑む。満面の笑みではなく、共犯者の顔で。

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 戦闘中の艦内を一矢はダッシュで駆け抜けた。淡く点滅するランプの灯りの中、狭い通路をジグザグに曲がる。時々擦れ違う艦内配置員達の驚く顔を尻目に、一矢は艦橋を目差した。
 艦橋が艦上部にある為、最下層のドックからなら艦内エレベーターを使って昇るのが一般的だが、エレベーターを待っている時間が惜しいとばかりに、一矢は自分の足で階段を駆け上がった。ゼイゼイと息が上がりかけた頃、ようやく目的の場所につく。
 軽く息を整え右手をタッチパネルに当てると、一矢は艦橋へと至る扉を開いた。左右に開く扉の向こうから細く室内光が漏れる。影がゆっくりと一矢の背後に伸びた。
 室内からはしらねの指示する声やロンジー、ヒュレイカ、セネアの報告する声が緊張感を伴って響いていた。その中に一矢はゆっくりと一歩を踏み出す。



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