第438回定期演奏会 <2010.5.20-21>

指揮:イオン・マリン
ピアノ:アンドレアス・ヘフリガー

ムソルグスキー(MUSORGSKI) 交響詩「はげ山の一夜」(原典版)
ラヴェル(RAVEL) 組曲「クープランの墓」
ムソルグスキー(ラヴェル編曲) 組曲「展覧会の絵」

Mussorgski(1770-1827) Ravel(1900-1990)

“名曲コンサート”などで取り上げるプログラムで、定期演奏会で取り上げる曲としてはちょっと寂しいなというのが正直な思いで、小林研一郎がアーネム・フィルを率いて大阪でコンサートをしたときのプログラムもこの「展覧会の絵」がメインだったので、躊躇し結局行かないことにしたばかりです。
嫌いな曲という訳ではないのですが、オーケストラのデモンストレーションを聴きたいという強い思いは今はほとんどないのです。
そんなプログラムを組んだ今回の定期、イオン・マリンという未知の指揮者がどんな演奏をするのだろう? という興味だけで出かけました。
事前にプログラムも読まずに席に着き、一曲目の「禿山の一夜」が始まる。
ピアノで始まる細かい動きが徐々に大きくなってゆく。
しばらくするとアンサンブルも安定し、小気味の良い音楽が流れるようになり、実力のある指揮者棚と思わせる響きです。
心地よく聴いてると最後の部分でハッとさせられました。終結部が全く違う音楽になっていくのです。
今まで耳にすることが多かったのは、同じロシアの作曲家リムスキー・コルサコフの編曲バージョンで、ムソルグスキー自身の原作通りではないのです。
この日演奏されたのは原典版で、終結部分が全く違う音楽になるのです。
どちらが良いかという話になれば私はリムスキー・コルサコフ版の方が落ち着いて聴けるし、終わり方も違和感がありません。

ラヴェルは落ち着いて聴くことができました。
フランス音楽の優雅さ、洒脱さはどちらかというと苦手で、おそらく日本人の感性とはちょっと異質なものなのではないでしょうか。
でも今の日本のオーケストラはそんな音楽ももう苦手じゃないようで、大フィルの音もフランスの香り(?)が少ししてたようです。


メインの「展覧会の絵」、予想以上の名演でした。
この曲はよくオーケストラのデモンストレーションとして派手に演奏されることが多いので、ややもすると空虚な音の羅列になってしまうので普段あまり聴きたいと思わない部類の作品なんですが、マリンの指揮はそういう危惧を吹き飛ばしてくれました。
トランペットのテーマが始まったときは、淡々としすぎてちょっと拍子抜けかなと思ったのですが、曲が進むにしたがって非常に見通しのいい、構成のしっかりした音楽創りと感じました。
一つ一つの場面(絵)が引き締まったオーケストラの響きでしっかり表現されてる。
もちろんこの曲のクライマックスは終曲の「キエフの大門」。
手綱をしっかり引き締めて大フィルをコントロール、その音は芯のある響きで進んでゆく。
驚いたのは、オーケストラが全総でテーマを演奏した直後に、コラール風の音楽に急に変わる場面があるのですが、このコラールを長く伸ばしてまるでオルガンの響きのようにしてしまう。
これは効果絶大で、中世の教会音楽が響いてるような錯覚に陥りました。

イオン・マリンという指揮者、決して派手な音楽をする人ではありませんが、堅実で見通しの良い音楽を聴かせてくれると手も素晴らしい音楽家だと思います。
明確な方向性を示し、それに向かってオーケストラを確実にコントロールできる指揮者という印象を持ちました。

通俗名曲を堪能した一夜でした。