第432回定期演奏会 <2009.10.29-30>
指揮:大植英次
チェロ独奏:ピーター・ウィスペルウェイ
バリトン:サイモン・ポーリー
ソプラノ:シモーナ・サトゥロヴァ
テノール:五郎部俊朗
ハイドン作曲 |
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チェロ協奏曲第1番ハ長調 |
カール・オルフ作曲 |
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世俗的歌曲「カルミーナ・ブラーナ」 |
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CARL ORFF |
Wispelwey |
予想を遥かに上回り、大変充実した演奏会でした。
メインの「カルミナ・ブラーナ」が1時間くらいの曲なのでその前に1曲組みこんでプログラムを組んだんだろう・・・
そんな軽い感じで考えてたのですが、ふたを開けた途端、濃い内容に驚きました。
ハイドンのチェロ協奏曲が思いのほか楽しく聴けたということです。
こじんまりした管弦楽と独奏チェロのための軽い音楽が聴けると思ってたのですが、チェリストのウィスペルウェイの演奏はそういうタイプの人じゃなくて、情熱的でのめりこむタイプの演奏家らしく、オーケストラとの協演(競演?)が見ものでした。
気持ちが先行してしまい、時々音が聴きにくいところもあって、惜しいなと感じる部分もありました。
もともと古楽器の奏者として知られた人で、この日の演奏もヴィヴラートを抑えたシンプルな音。
大植英次指揮の大阪フィルもこれに同調した弦楽器群の珍しい響きを聴くことができました。
普段の演奏と勝手が違ってギクシャクしたものになるのでは?という心配をしたのですが、大フィルの皆さんすごく乗っていて、第3楽章でははつらつとしたアンサンブルを聴かせてくれました。
古楽器の奏法に普段あまり慣れてないと思われるオーケストラが、ノン・ビブラートを意識しながらの演奏ではなかなか難しいと思いますが、大植英次に乗せられて(?)楽しく演奏してました。
ウィスペルウェイと大植英次の掛け合いが、見た目にもよくわかり楽しいハイドンでした。
アンコールにバッハの無伴奏ソナタ・パルティータから二曲演奏。
古楽器での演奏が増えてきたようですが、その響きになれてないわたしの耳にはまだ若干違和感を覚えます。
古い楽器のみの演奏会をゆっくり聴いて、慣れる必要があるようです。
後半はガラッと趣が変わって現代の音楽、それも大きな編成のオーケストラと声楽を伴う曲目。
まずこの「カルミナ・ブラーナ」という曲について少し述べてみよう。
ロマン派音楽も爛熟期を過ぎ、20世紀の新しい音楽の試みがなされるなか、原始主義に戻ろうとするような独自の音楽を作り上げたのがこの作品。
主題がいくつかあってそれを展開していくような従来の形式じゃなくて、単純明快な主題を執拗に繰り返し、一貫したリズムで進んでゆく。
一度耳にしたら忘れられなくなるような単純明快なリズムが何度も繰り返されていくので、微妙な感情よりも人間本来の持つ単純なリズムを表現しているようで非常にとっつきやすいことも事実。
単純な音型・リズムパターンが呼び起こす人間の根源的な感情こそが大事とオルフは考えたのかもしれません。
「カルミナ・ブラーナ」というのは<ボイレンの歌集>という意味で、バイエルンのベネディクト派ボイレン修道院で発見された、13−14世紀頃に修道僧や学生たちの作ったと思われる歌詞を集めたものの中からオルフがピックアップしたものが使われる。
世俗的なものばかりで、最も多いものは愛の歌、そのほかは酒や賭博の歌など。
これらの中から、@春の歌 A酒場での歌 B愛の歌 に分け、合計25曲を合唱・独唱・大編成のオーケストラのために作ったのがこの曲です。
これは20世紀はじめに作られた革新的な音楽、ストラヴィンスキーの「春の祭典」をも思わせる内容です。
合唱の威力が必要で、大阪フィルハーモニー合唱団は今回も聞き応えのある見事なもので、特に男性合唱がよかった。
独唱では、バリトンが一番活躍する曲なのでその出来が全体を左右するのですが、サイモン・ポーリーは見事に歌いきったと思います。
最初はちょっと手探りの感がありましたが徐徐に声の張りも出てきて、2メートルもあろうかというその体格に合致した歌を聞かせてくれました。
特に<酒場での歌>では、酔っぱらいの歌をそれらしく歌い、<愛の歌>では、男の燃え滾る情熱を歌うことになり、声量たっぷりの歌でした。
ソプラノのサトゥロヴァも清純な乙女の歌を聞かせてくれました。とくに第23曲の「いとしき人よ」でのコロラトゥーラ(高域の歌)は歌うのに大変難しいと思うのですが、しっかり歌ってました。
(小澤征爾がベルリン・フィルを指揮したCDでは、グルベローヴァが完璧な歌を聞かせてましたが・・・・)
そういえばこの曲はもともと、衣装をつけた歌手が歌い、舞台ではその歌詞をバレーが表現するというように作られたものなので、そういう演出があったほうがもっと楽しめたかもしれません。
大植英次はやはりこういう曲は得意なんでしょうね、オーケストラと合唱を見事にコントロールしていきます。
バレーがない分、彼の踊るようなしぐさの指揮ぶりが見ていて楽しくなります。
全体を通して、小澤の演奏に負けない立派なものだと感心しました。
もし金管群がもう少し頑張ってくれたら、小澤/ベルリンフィルに負けない演奏だと思います。