第433回定期演奏会 <2009.11.19-20>

指揮:クリストフ・アーバンスキ

ピアノ独奏:ペーテル・ヤブロンスキ

キラル作曲 「オラワ」
ショパン作曲 ピアノ協奏曲第2番 へ短調 作品21
ショスタコーヴィチ作曲 交響曲第10番 ホ短調 作品93

SHOSTAKOVICH URBANSKI

若干27歳のポーランド出身の指揮がショスタコーヴィチの作品を振るという演奏会は、明らかにマイナーなイメージ。
それでも会場は若干の空席があるという程度で、空席が目立つというほどでもありません。
ステージに小走りで登場したときは、学生が燕尾服を着て照れながら指揮台に飛び乗るという印象だったので、「大丈夫?」と心配になったのですが、1曲目が始まってしばらくするとそんな心配はどこかに飛んでいってしまい、彼の指揮棒とおどけたような体の動きに神経を集中することになりました。

この日の曲でよく知ってるものといえば二曲目のショパンのピアノ協奏曲くらい。
1曲目は全く初めてだし、メインのショスタコーヴィチもほとんど聴いたことが無くて、事前にインバル指揮のCDでチェックしたという位。
でもこの1曲目の演奏で素晴らしい響きを体験できました。
ポーランドの現代作曲家キラルという人の「オラワ」という弦楽合奏の小品なんですが、これが非常に新鮮な響き。
単純なリズム・音型の旋律が、独奏ヴァイオリンに始まり、徐徐に楽器を増やして大きな音になっていくというものなんですが、この音の重なり方がものすごく新鮮で、今まで耳にしたことの無い響きとして伝わってきたのです。
コンサートマスターがテーマをそっと提示し、次いでセカンド・ヴァイオリンの2列目の二人が続き、徐徐に弦楽器全体に広がってゆく。
そして全体で演奏するとすごくスケールの大きな音楽として聴こえてくる・・・・
最後はオーケストラ全員が、“Hey ! ”という掛け声で締めくくる。
10分に満たない小品ですが、すごくいっぱい詰まった音楽でした。

この指揮者、ただ者ではないなと思いつつショパンの協奏曲を聴いたのですが、これはちょっと期待はずれ。
ピアノの音はいいのですがオーケストラの音が薄くて流れがあまりよくない。
オーケストラの問題なのか指揮者の問題かはよくわかりません。
ヤブロンスキのピアノは、柔らかな音で大変優雅な響き。
ショパンの協奏曲ではこの2番が向いてるようです。
決して華やかさは無いのですがピアノでしみじみ歌うような演奏で非常に好感が持てます。
曲はオーケストラの弱音で始まるのですが、大フィルの音がおとなし過ぎてイマイチ盛り上がってきません。
編成が小さいので音量的には若干小さめなのはわかりますが、序奏から主部に入ってもその傾向は変わらず、生き生きした音が聞こえてきません。
もともとショパンの音楽はピアノがすべてを語るようなものなので、協奏曲という形でピアノ以外の音が入ってくるとそれがピアノをマスクしてしてしまうのかもしれませんが、オーケストラとピアノがもう少し協調しあった音楽作りをしてほしかった。

一長一短の前半を終え、最後にショスタコーヴィチ交響曲第10番
CDで聴いてたときから、ややとらえどころのない曲と思っていたのですが、アーバンスキは非常に明快な演奏でこの曲の姿をはっきり見せてくれた、そんな思いがしました。
CDでは音の重なり方や細かい部分がわからないのですが、彼の演奏はそういうところをしっかり聴かせてくれたので、ショスタコーヴィチの音楽がストレートに伝わってきました。
「この作品で私は人間的な感情と情熱を伝えたかった」と説明しているこの曲は、スターリンの恐慌政治下での重圧から開放されつつある時代に作曲されたもので、さまざまな批判にさらされてきたショスタコーヴィチがそれまでの戦意高揚的な作品から脱却するという思いがあったのかもしれません。
低音で暗く悲しげな旋律で始まり(この音型は後の楽章でも何度も出てくる)、暗いイメージの曲かと思うと次の第2楽章は実にあっけらかんとした猛烈に速い音楽で、あまりのギャップにちょっと戸惑う。
ワルツ夕の3楽章の後、終楽章の出だしがまた第1楽章と同じように遅く暗い。
ところがこの序奏部分が終わると一転して明るく陽気な音楽になって全曲を締めくくる。
この終楽章の明るさがどうも納得できない部分で、作曲者の言う「情熱」だとすると、前半のあの暗い音楽との繋がりが全く内容に思えてしまうのです。
「人間的な感情」というのはどのようなものを意味しているのかがわかり難い。
ショスタコーヴィチの音楽には常にこういう二面性が付きまとい、未だに彼の全体像が見えないのです。
それはさておき、アーバンスキの指揮は、この明るい部分と暗い部分の対比を見事に描き分けてました。
明るく賑やかな部分では、音の洪水を楽しめ、これ以上はやりすぎと思えるところで踏みとどまり、うまくまとめていました。
暗い部分では、もう少し凄みを出すくらいやってもよかったのでは?と感じましたが、20代の若者にそれを求めるほうが無理でしょう。



それにしても最近の若手指揮者は、オーケストラをしっかりコントロールし、聴いていてきれいな音にまとめることができるんですね。
指揮の技術・テクニックがそれだけ進歩してるんでしょうね。
オーケストラも演奏テクニックが昔とは比べ物にならないくらいうまくなってきました。
あとは、どれだけ“心”のこもった音楽が出来上がるかだけです。


この日の演奏を聴いて、ショスタコーヴィチの15曲の交響曲はいずれじっくり時間をかけて聴いていかねばならないと改めて思い知らされました。