第429回定期演奏会 <2009.6.28-29>

指揮:秋山和慶

独唱−福島明也(バリトン)

モーツァルト作曲 交響曲第35番ニ長調「ハフナー」K.385
ディーリアス作曲 小管弦楽のための二つの小品
ウォルトン作曲 オラトリオ「ベルシャザールの饗宴」

秋山和慶 Walton(1902-1983)


久しぶりに秋山和慶さんの指揮。
曲目はまずMozartの交響曲第35番「ハフナー」、これはよく知ってる曲。
つぎはディーリアスの有名な小品で、曲のイメージは想像できる。
ところが今回のメインのプログラムは、ウォルトン作曲「ベルシャザールの饗宴」というオラトリオ
未だかつて聴いたことのない音楽、しかも私が一番聴く機会の少ない宗教音楽。
ということで今回は予備知識なしで20世紀の現代音楽、それも声楽曲を、好奇心いっぱいの状態で聴きました。

“オラトリオ”は日本語で「聖譚曲」と呼ばれます。
なんとなくイメージはわかるのですが、具体的にどんな音楽なのかわからないので少し調べてみました。
要約してみると、宗教的(キリスト教的)な内容を持つ物語をオーケストラと声楽(合唱と独唱)で語る音楽ということになる。
バッハの「クリスマス・オラトリオ」やハイドンの「四季」「天地創造」が有名ですが、じっくり聴いた記憶はありません。
声楽曲の中でも宗教音楽が苦手で、キリスト教そのものが未だによくわからないのが一番の問題なんでしょう。
現代音楽もめったに聴かない私にとって、20世紀のオラトリオとなると、こんな機会でもないと聴くチャンスはゼロに近い。
作品の存在すら知らない曲がメインのコンサート、さてどうだったでしょう?
題材は紀元前6世紀のユダヤ人のバビロン捕囚からとられたもので、旧約聖書を基に書かれたテキストにイギリスの作曲家ウォルトンが29歳のときに作曲してます。
初演の指揮がマルコム・サージェント。20世紀の名指揮者です。
捕らえられてる民衆が嘆くところから始まり、バビロニア王ベルシャザールがバビロンの栄華を賛美する部分が続き、一転してその栄華の終焉が予言され、ベルシャザール王の突然の死によりユダヤ人の歓呼の大合唱のうちに終わる。
紀元前6世紀という古代の出来事で、現代でもその対立が戦争状態にある、中東諸国とイスラエルの関係の根本問題という、古くて新しいテーマ。
音楽はオーケストラと合唱が中心で、バリトン独唱が物語の進行をレチタティーヴォで説明してゆく。
大フィル合唱団と九響合唱団の混成チーム(合唱指揮はどちらも三浦宣明)は見事な歌を披露。
バリトンの福島明也は声量もあり、こういう重々しい音楽にはうってつけ。
オーケストラは、金管と打楽器が大活躍する音楽で、最初から最後まで壮大なスケールでしっかり演奏してました。
若干20代のときの作品で、さまざまな技巧が凝らされてるし、金管のバンダ(別働隊)を2ヶ所に配置したり、オルガンの壮大な響きとたくさんの打楽器で演奏効果抜群の作品。
ただ、大音量の音楽をこれでもかというくらい聴かされ、終わったときの疲労感は非常に大きくて、音楽を楽しむにはちょっと行き過ぎじゃないかなという気がしたことも確かです。
カラヤンが<20世紀に書かれた最も熱いオラトリオ>と絶賛したというけど、スペクタクルな映画を見ているような気分でもありました。
指揮の秋山さんは、オーケストラのコントロールも合唱のまとめ方も実に手堅い人だと思います。
 
こういう曲は普段の演奏会で聴くことはないので、こんな機会にしか出会えない作品を聴けたことは貴重な体験にはなりました。

前半のモーツァルト作曲交響曲「ハフナー」は、実に颯爽としたモーツァルトで、これは結構楽しめました。
大フィルがモーツァルトを演奏すると、えてしてややしまりのない音楽になりがちなのに、しっかり手綱を引き締めて芯のある音楽になってました。
欲を言えばもう少ししなやかさがあれば言う事なし。
ベートーヴェンやブルックナーというドイツのがっしりした曲を中心にしてきた大フィル、モーツァルトはそれほど演奏してきてないはずです。このへんで誰かモーツァルトを得意とする指揮者が出てきてほしいというのは切実な願いです。
生き生きとした音楽、それでいてものすごく繊細で、次から次へと湧き出してくるフレーズ。こんな音楽をオーケストラで表現するのは非常にむつかしいことですが、大フィルに挑戦していってほしいと思います。

ディーリアスの音楽は穏やかさとかすかな憂愁がミックスした、ある意味日本人好みの音楽。
こういう曲は弦のしっかりしたアンサンブルがないと非常にダレた演奏になるので、少し心配だったが、水準は確保されてたと思います。
さらにアンサンブルがよくなると、より大きな感動につながると思います。

梅雨の雨を吹く飛ばすくらいの大音響が、気分爽快にしてくれた一日でした。