145.モチベーションが人を治し、人を変える!

11月17日、NHKの「プロフェッショナル」という番組で、かねてから注目していた「夢のみずうみ村」の藤原理事長が取り上げられているのを興味深く見た。

●ひとりよがりの福祉の気づき
 思いを遂げた(つつある)人の多くに共通しているように、彼にもハッとする瞬間があった。作業療法士の道に入り、使命感と経験をある程度積んだあるとき、将来最新の設備を備えた医療施設を作りたいという思いをある障害者に話したら、その人からはぽつんと「福祉は君のためのものではないのだ」という趣旨の発言をされ、はっとしたという。
 誰でもそうだが、流通業であれば「お客様のために」、医療関係であれば「患者のために」、学校であれば「子供のために」、などなどと簡単に「他人のため」に自分が努力していることを強調する。だが思考の中身はどちらかというと自分の思いを遂げる方に軸足が残っていることの方が多い。藤原氏もそうであったと述懐されている。
誰もが自分のしていることに自戒すべき点だ。

●モチベーションが人を治し、人を変える
 もうひとつ見逃せなかったのは、藤原氏が愛情あふれた方だと思える出来事を紹介されている。
一人の脳性麻痺女性で、会うと「死にたい、死にたい」といっていた方に、あるとき片手が不自由でも料理できる方法を教えてくれる人がないかと尋ねられて、藤原氏がこの女性を紹介した。もともとこの女性は料理が得意だった。この女性が片手が不自由でも料理できるやり方などを教えているうちに、教えてほしいという人も増え、その活動をがんばるようになった。そのなかで、いつの間にか手の不自由さも改善され、ことばも以前よりは滑らかに話せるようになっていった。何よりも表情が生き生きとなっていったそうだ。やがてこの女性は毎日が楽しくなり、今では「病気になってかえって新しい自分の生き方や生甲斐が見つけられて本当によかった」とまで述懐されるようになった。

 この話を藤原氏は、「生甲斐が自分を治し、立ち直らせるのだと気づかされた」という趣旨のことを話されたが、そのとき自分でも感極まってことばを澱まされた。
顧客へのモチベーション、おそらくは働いている人へのモチベーション、常にこの両方を藤原氏は意識しておられるように見える。施設内でカジノをやりそれに参加している人が本当に笑顔でプレーしている姿が映像にあったが、非常に印象的だった。
このひとは他人の喜びを自分の糧に出来る、愛情のあふれた方だなと思うとともに、これは組織のリーダーに欠かせない資質のひとつだとも思った。

●「ムキになる」ことの大切さ
 ある利用者が服を自分で脱げるようにするリハビリ訓練進行中に、藤原氏がその方の自宅訪問で奥さんから「主人は家では何もしない。服も自分で脱ごうともしない」ということを聞かされた。氏はこれは聞き捨てならないと思い、その利用者に懇々と家でも訓練を兼ねてがんばるように「ムキになって」説いたという。その人は藤原氏の熱意に打たれて自分の努力目標を「「衣服の脱着を自分で出来るようになる」と宣言し、施設内でも公表するに至った。その努力が実を結びつつあるというし、この利用者も藤原氏に感謝の弁を述べられていた。
藤原氏は説得に「ムキになる」ことの大切さ語っておられる。

この話、他のことでも通用する話だ。
我々はついつい人にうまく説明して何とか分かってもらえるようにしたいと考える。説得に失敗した時に、相手に対する愚痴がついつい出てしまう。確かに相手の人の問題はあるのだが、その前に自分の本気度が定まっていないことの問題の方が大きいことが多い。
説得を受ける側の人は、論理の前に、話をする人の本気度をまず推し量っているものだ。論理はその次であることが多い。「ムキになる」という意味は藤原氏流の言い回しであって、彼が言いたかったのはそのことだろう。これもリーダーに必要な資質のひとつだ。
私には耳の痛い話でもあった。

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