146.ノルウエー刑事行政の指導者ニルス・クリステイー
●ノルウエーの刑事行政
元旦にNHKの「プレミアム8 未来への提言 犯罪学者 ニルス・クリステイー 〜囚人にやさしい国からの報告〜」(再放送)を興味深く見た。これはノルウエーの現在の話である。
ノルウエーは刑務所のあり様だけが特別というわけではない。「参審制度」という国民の裁判参加の歴史がある。近年では「刑事調停」という制度がしかれ、軽微な犯罪では加害者と被害者が双方の弁護士も参加して当事者間の解決をまず促すという。この方法で実に90%の事件が裁判前に加害者側と被害者側の和解が成立するという。
- ノルウエーでは囚人を社会から完全に隔離したりはしない。
- それどころか、一定に頻度で社会に定期的に戻したりして刑期終了後の本人の準備とともに、社会の囚人経験者受入の土壌をも作っている。
- 「刑務所はそれ自体が拷問だ。この中に入って社会と隔離され、それで更生しろというのは困難な課題だ。出所しても社会の偏見にさらされる」
- 世界の風潮は犯罪に対する「厳罰化」に傾いてきているが、それでも犯罪は決して減少するどころか増加傾向にある。
- 犯罪者は悪人だ、懲罰によって更生させるのだ、という考え方は犯罪者は特別な人間という見方と結びついている。犯罪者とよく話し合えばほとんどの犯罪者も普通の人も本質的に違いはないことが理解できる。
司法を専門家だけに任せずに、社会の犯罪を含むトラブルを可能な限り市民の手で解決し、不幸にして犯罪に手を染めてしまった人間に対しても更生に手を貸し、包み込んでいくことが犯罪を減らすことに繋がるというこの考え方は理想だと思われるかもしれない。しかし現実にノルウエーではそれが実践され、比較的上手くいっているようだ。
●クリステイー教授の原体験から学ぶ
このような考え方を指導し、刑事行政を引っ張ってきたのがオスロ大学教授、ニルス・クリステイーだ。
彼がこのような思想を持つに至った原点は、ナチスがノルウエーに侵攻してきた際に連れてきた捕虜を、ノルウエー人の多くの収容所官吏が収容所内で殺害するという事件調査からだったという。
すべての収容所官吏が殺害に加わったわけではなく、殺害に加わらなかった官吏に共通していたのは、捕虜の家族や出身地のことなどで捕虜と会話を交わしてきた官吏は誰も殺害に加わらなかったという事実をクリステイー教授は知り、人間同士のコミュニケーションの重要性を理解したことがこのような刑事思想の原点になったという。
彼は犯罪者といえども、コミュニケーションを通じてその人間を理解し、手を差し伸べ、ともに生きていこうという姿勢を示せば必ず犯罪が減っていくという確信を持っている。
私は日本の裁判員制度に少なからず、疑問を持っていたが、この番組を見てこれまでの考え方を改めなければいけないと思った。犯罪者は特別な人間という思いが多少私にもあったが、もちろん例外はあっても基本的に自分の考え方が間違っていたように思う。
コミュニケーションを通じてその人をよく観察し、理解し、良好な関係を築いていく。
この考えは犯罪者への対処方法だけでなく、企業と顧客、組織内の上司部下の関係などあらゆるところで通用する真理だ。