73.企業買収(M&A)騒動から(雑感)

会社は株主のもの?
ホリエモン騒動からM&Aが話題になった。自分の住んでいる世界が資本主義社会であることをいやでも意識させられた。
私は「顧客中心主義」を広く論じ、お客様、社員、取引先を強く意識してきたが、株主のことは意識して避けてきた。
資本主義の下では会社は株主のためにあるという言い方がよくされる。それは経済学的事実としてはその通りだと思うが、けして全体を説明しているとは言いがたい。
また仮に企業が株主のためと言っても株主には、(1)その企業の株を取得することによってその企業への経営全体への関心を高め、発言や支援を行う人と、(2)単純に株価マネーゲームの対象としてだけでその企業を見る人達に分かれると思う。後者は自分の損得だけで行動する人達であり、この人達を顧客や社員、取引先と同列に並べてよいのかと思ってしまう。

純資産倍率と小売業の評価
それはそれとして、M&Aを考えるとき、株価と企業の純資産の関係が分かりやすいモノサシであろう。
    企業の純資産=総資産ー負債
    純資産倍率=株価時価総額÷純資産
という関係にあり、純資産倍率(PBR)が1より低いとその企業の株価は割安感があるという解説がよく行われる。これは会社が即解散しても株価時価総額より純資産が多いので清算すれば損することがないというところからきている。これはまたその企業の評価が低いという意味でもある。

そこで東証一部上場企業の純資産倍率を最近の株価で調べてみた(参考「東証一部上場流通飲食企業株価指標」)
これを主な業態別に平均を見てみると、
   GMSまたはSM21社は 1.16
   百貨店10社は       1.82
   コンビニ6社は       2.07
   飲食20社は        1.66
   家電5社は         1.19
   衣料専門15社は     1.97
   ドラッグストア5社は    1.92
なぜかGMSまたはSM業態企業が特に低い。
ちなみに流通業ではアスクルはPBRが6倍以上、ファーストリテーリングが3.5倍前後、セブンイレブンジャパンが3.3倍前後であり、かなり高い企業である。

同じモノサシをアメリカ流通業で見ると、
   食品小売業36社で        2.11
   百貨店デイスカウンタ23社で  2.22(YAHOO.USAから)
主だったところでは、ウオルマートが4.01、JCペニーが2.59、クローガーが3.21、セーフウエーが2.16などとなっている。アメリカでは企業の純資産価値の2倍以上の株価評価になっているのは株価が過大というより企業価値が評価されている側面の方が強いということだろう。
いずれにしても、日米とも純資産倍率の高い企業に共通していることは、株式市場の評価が高い企業が多いということである。

2005年4月22日現在東証一部上場の流通飲食業は124社ある。このうち純資産倍率が1未満の企業は35社前後(約3割の企業)である。
純資産倍率(PBR)が1未満の企業の場合、株価が割安なため企業買収の対象になりやすい一面があると言われる。但し、資産評価が適正でなく、時価会計が適用されれば実質純資産倍率は全体に向上する企業が多いのではないかと思われるが、株価評価が低いまま純資産倍率が向上しても意味がない。
いずれにせよこれだけが企業買収の要素ではなく、この指標だけを過大評価してはいけないが。

こうしたことを考えた場合、日本小売業の株価が低すぎるのか、あるいはそれだけ魅力の無い企業が多いということなのか、いったいどちらなのであろうか?


ポイント: 数字だけで言えば株価の時価総額が1000億円の企業は単純にいえば500億円あれば購入でき支配できる。純資産倍率が1以下の企業なら買い得だ。企業はこれに対する防衛策が要る時代になったということか?