74.JR福知山線事故は“マネジメント災害”
●直接原因は“マネジメント災害”
JR関西福知山線の事故に、マスコミはじめ多くの眼がJR関西の管理体制に疑問の眼を向け始めた。
こういう事故が起こるとき、今回もそうだが、よく「事故の直接原因は運転士の規則無視の運転にあるが、間接原因としては会社の管理体制にも問題があった」というような表現をする。しかし、企業のマネジメントを論ずる立場からすれば今回の事故は“マネジメント災害”そのものだ。事故の直接的原因が会社の管理体制にあると考えるべきである。
マネジメント論では、現象面での因果関係ではなく、真の原因は何かを論じる。
●JR関西のマネジメント
JR関西のおかれた環境としてこれまで報道されていること。
競争に勝つことは企業の基本的立場であり、ここまでは他の企業となんら変わらない。問題はここから先である。
- 関西は私鉄が発達しており、JRは私鉄と競合する路線が多い。
- 発着本数、所要時間で顧客に便利さを提供し、競争に勝つことを目指し、その結果私鉄に対し優位に立ちつつあった。
企業のマネジメントに関して報道されていることを整理すると次のようなことがある。
ここへ来てJR関西の体質に世間の厳しい眼が向けられ始め、司直も運転士以外の管理者に対しても訴追を視野に入れているという。
- ダイヤ運行優先としつつも、ダイヤより遅れた場合のマニュアルや指導基準は存在しないで、運転士の裁量に任されている。このための裏技があるという。
- 人間は間違いを犯すものであるという前提に立って、超過密ダイヤであるにも関わらず、最新ATSなどの仕組みが設置されていないこと。
- JR関西の人員構成が30歳代が極端に少なく、技術伝承がうまくなされておらず、経験未熟なまま実務につくことが多い。
- オーバーランなどの現象が起きたときに、「再教育」と称して行われる運用が現場任せにされており、再教育の考え方、再教育期間などが考え方が統一されていない。
- 「再教育」内容には、草むしりやペンキ塗りなど刑罰要素が含まれており、かって自殺者まで出して訴訟問題にまでなっていること。
- 運転士間でもこうした管理体制がかなりのプレッシュアーになっているとの証言が多いこと。
- 国土交通省の警告に対して、JR関西が「現場を厳重指導する」と回答したことに対し、国土交通省は「それよりも現状把握を」と注文指導したこと。
●克服すべき古い誤った組織観
こうした状況をみると、JR関西の経営組織観は、
これでは従業員は自己防衛的にウソの報告をしたり、パニックになったり、自殺者が出ても不思議ではない。今回の事故は「マネジメント災害」そのものではないか。
- 従業員は決められたルールを守るべき存在としてのみ意識されているからこそ、「現場を強く指導する」という言い方とか、「再教育」での刑罰的指導などが行われる企業風土の存在。
- 「再教育」は現場裁量に委ねられ、昔の軍隊で古参兵士が新米いびりするのを放置しているのと似ている。
- 人間は過ちを犯すと言う前提で管理体制が作られず、列車遅延やオーバーランなどが起きたとき、本当の原因解明と改善策模索を現場と一体になって行う体制になっていない。
JR経営者は、部分改善もさることながら、組織観にメスを入れることが必要だ。
流通業はどうかなとも思う。よそのことは笑えない。
ポイント: JRだけが特殊ではないが、ここも古い組織観に囚われきっている。これが人命につながる業種では「マネジメント災害」につながる。