75.JR関西の事故と企業風土
●会社の常識は世間の非常識
JR関西福知山線の事故で次のことが槍玉にあがった。
Aの件では、乗り合わせたJR社員(車掌職)は、携帯電話で報告とし指示を仰いでおり、指示は「遅れずに出勤せよ」ということでそのまま出勤したようだ。指示をした上司?は、その社員が来なくなると代わりの人間を手配しなくてはならなくなり、自分の職場の正常な運用を優先したと思われる(セクショナリズム)。
- たまたま乗り合わせたJR車掌が救助活動もせずに出勤してしまった。現場で救助活動に当たるのが当然ではないかという批判を受けた。
- 事故当日、休日の車掌が当初予定していたボーリング大会に大事故と知りながら参加し、しかもうち5名は二次会まで参加しており、きわめて不謹慎だと批判を受けた。
Bのケースでは、大惨事のおきたときに極めて不謹慎だという批判だ。ボーリング大会参加者の大半は大事故を知っており、なかには「まずいと思ったが目上の人にものを言いづらかった」といっている人がおり、これが実情を物語っている。JR関西当局はこれらを連絡体制の不十分さが原因と見て「情報共有体制の改善」を図るとしているが、制度的手直しだけですむ問題ではない(情報共有と判断基準共有の差)。
ABとも共通すること。それはおかしいなと思っても上司の指示命令が行動基準として優先していることである。
この風通しの悪さが懲罰的「再教育」を生み、大事故を招いたのである。
- 部下や人の意見を聞くという空気が日常的に希薄な状態。
- 組織の指示に従っておれば自分だけ悪者になることはないという“安住観”の蔓延。
- 次第に正論が吐けない、企業内「全体主義」社会化。
73項で書いたように今回の事故は「マネジメント災害」であり、企業風土による事故なのだ。
●「本当のところどうなんだ?」と繰り返し聞く態度が決め手
こうした会社では、次のようなことが起きているはずだ。
ではどうすればいいか?難しいことではない。
- トップには悪い情報は入りにくい。
- ルールを守れない人間は“悪”であり、問答無用に近くはじき飛ばされがち。
- 都合の悪いことは隠したがる。
- 自分の仕事を無難にこなすだけに汲々としがち。
- 新しい意見や提案はなかなか出てこない。出る杭は打たれる。
トップ自らが、「本当のところどうなんだ?」と徹底して聞く姿勢を取ること。また幹部にもそれを徹底させるべく指導と制度整備を行うこと。これにより、タブーをなくし、風通しのよさを確保し、トップの姿勢が社内に「本物だ」と評価されるようになれば80%は体質改善できたのも同然だ。但し、それが全く。出来ない幹部は不適格として排除しないとよくならない。
もし難しいとすれば、それはトップの「本気」を示す執着心を見せ付けることだ。
なお、JR関西のこのような問題はこの企業だけの問題ではない。ここまでではないとしてもどこの企業でもある問題だということを自覚する必要がある。
ポイント: マネジメントの背景には常に一定の企業風土がある。マネジメントは企業風土と一体であり、トップはじめ幹部の責任は重い。
それにしてもこんなときにボーリングとはね〜。せめて誰か一人ぐらい「それはおかしい、俺は行かない」と言う人はいなかったのかね〜?