76.介護の世界の現実と反省
●超高齢化社会の始まり
介護のをめぐる世界でも大きな変化が起こりつつある。
介護保険が2000年に始まり、5年目を迎えた。行政や介護ビジネスに携わる企業から見れば、介護を要する高齢者はお客様である。このお客様にどんなニーズがあり、それにどう対応してきたかがここでの顧客中心主義のテーマである。
その前に日本の高齢化が未曾有のスピードで進んでいる現実を確認しておこう。
超高齢化社会は統計数値の上でも極めて急速に進みつつある。
- 2004年10月1日現在65歳以上の人口は2488万人で総人口の19.5%(2000年10月では2204万人で17.4%)
- 日本の人口は2006年の12774万人をピークに減少に向かう。
- 将来人口は、2050年には10059万人にまで減り、65歳以上人口は同年で3586万人に膨れ人口の35.7%となる。(人口情報はいずれも厚生労働省の発表数値)
- 2004年12月に介護保険法で要介護認定を受けた人は406万人(2000年4月では218万人)
●介護保険運用で分かってきたこと
介護保険の適用を受ける人が着実に増え、定着してきた。このこと自体はよいことであるが、運用面で顧客である介護認定者やその予備軍たる高齢者に安心と信頼を供与しているかといえばまだまだ問題が多い。
ここでは、介護ビジネスに携わる業界が、老人福祉の哲学も薄く、軽度の症状の方に「気の毒だ」ということで車椅子を簡単に提供したり、過度の家事サービスを施したりなどで、業界も行政も本当の顧客ニーズが十分理解できないでいたことがこのような結果になってしまった。結果的に業界はこの面では顧客を食い物にしたという一面が残った。
- 介護保険では認定者のランクをその症状に応じて「要支援、要介護1〜5」の6ランクに分けられている。要介護2〜4の認定者数は2000年から2004年の間におおむね50%前後の増大しかないが、軽度の「要支援、要介護1」はそれぞれ200〜230%と大きく増加している。
- 「要介護1」のような軽い症状の人に対して、リハビリなどで回復可能な人が多いにもかかわらず車椅子供与や過度のサービス提供で自立能力を奪ってしまうようなことが多く発生している。
- 結果的に、要介護2以上の中、重度の人よりも生活能力改善度が低いというおかしな結果を来たしてしまった。(以上、下図参照)
●新しい方向の模索
本当に介護保険利用者(=顧客)のためになるためには行政や介護業界が何を考えなければならないか、この視点抜きに介護だけを見ると今までのようなことになってしまう。
重要なことは、
かくして行政は介護の面では「介護予防」というテーマを掲げるようになり、来年度から新しい運用が始められる。
- 健康なとき、少し体力的に衰えてきたとき、軽度の障害に陥ったとき、中重度の障害に入ったとき、それぞれの段階で人間の尊厳に関わる生き方と治療とは何かの哲学(使命感)の必要性。
- それを踏まえた老人福祉行政と医療保険制度のシームレスな政策づくり、およびビジネスの対応が求められること。
ビジネス界は、単なる介護支援という一見単純労働提供から、「生きることの喜びと治療」の両方のソフトを提供出来る企業が出てくるのではないか。少なくともそういう哲学のある企業が伸びていくことは間違いない。
ポイント: 顧客が求めるものを単純に提供することが顧客の利益とはいえない場合がある。また過度の一方的なサービス提供も同じだ。介護関連事業も哲学と高いソフト能力が求められる。