第9章 剛性に関する考察


どのくらいの強度、剛性があれば快適に観察ができるのだろうか?ここでは可搬型の架台ではどうあがいても実現できそうにないことを証明しよう。

望遠鏡をのぞいていてちょっと触っただけで望遠鏡が揺れ、不快なおもいをした経験は誰にでもあるだろう。 もう少し丈夫だったら快適なのにと、さらに、もっと大きな、もっと高価な赤道儀が欲しくなるのではないだろうか。ちょっと待って欲しい。はたしてそんな架台があるのだろうか?単純な計算で確かめて見よう。

単純化するため、1本の鉄柱(ピラー)が地面にしっかり固定されて垂直に立てられているものとする。柱は100mmの角パイプ、厚みは5mm長さは1メートル、で望遠鏡は柱の先端にがっしり固定されていてずれることはないものとする。ピラー先端に横方向に加重をかけてみよう。この柱はどのくらいの力まで耐えるのだろうか?10kgくらい?それとも100kgくらい?


計算

強度
加重;W  柱長さ;L=1000 外側寸法;h2=100、内側寸法;h1=90 曲げモーメント(最大);Mmax 断面係数;Z 許容応力(最大);σmax=15kg/mm^2(鋼材)  とする、重量はこれだけで16kg、50〜100KGの架台に相当するだろう
材料力学の基本的な計算式から 
Z=1/6*(h2^4-h1^4)/h2    σmax=Mmax/Z だ。 それぞれ数字をあてはめ、計算する .
h2^4=100^4=10*10^7    h1^4=90^4=6.56*10^7          Z=1/6*(10-6.56)*10^7/100=1/6*3.44*10^7/100=0.00573 *10^7 =3.16*10^4   Mmax=L*W =1000*W    σmax(許容応力)=15kg/mm=Mmax/Z=1000*W/3.16*10^4 ∴W=15/1000*3.16*10^4=474KG 
約500kg。    
なんとこのピラー(柱)は500kgの荷重まで耐えられるのである。つまり鏡筒の20kgや50kならば載せるのになんの問題もないのである。

剛性
一方剛性が充分にあるとはどういうことだろうか?がっちりしていて微動だにしないことである。つまり、ちょっと触ったくらいではびくともしないことだ。いいかえれば傾かないということだ。仮に木星の視直径の1/10くらい=4”、つまり先端で4”以下の傾きならいいとしよう。(これでも360倍では見かけ4度のぶれだからあまり快適とはいえないかもしれない)。つまり柱の先端の傾きが下記imaxより小さければよいわけだ。
imax=4”=4/57.3/60/60=1.93*10^-5rad である。


一方材料力学から
imax=W*L^2/(2*E*I)即ち  W=imax*(2*E*I)/L^2  である。   それぞれ該当する数字をあてはめ、計算する
E=2*10^4        I=1/12*(h2^4-h1^4)=1/12*(10-6.56)*10^7=1/12*3.44*10^7=0.286*10^7
L^2=1000^2=10^6
∴W=imax*(2*E*I)/L^2=1.93*10^-5*(2*2*10^4 *0.286*10^7)/10^6=2.20kg


つまり、わずか2キログラム程度の力でもこの程度のぶれ(傾き)が生じるということを意味している。ごつんと当たれば当然これ以上の力が加わるし、実際の架台では三脚の変形やねじれや、可動部分のがたや鏡筒の変形なども加わるから、これよりはるかに大きなぶれが生じるだろう。
強度が充分でも剛性があるとはいえないのだ。剛性が充分と考えられるものは、公称強度は10倍以上必要だ。

ぶれないほどの剛性をもたせるには、こんなものでは駄目で、もっともっとごっつい部材が必要なのだ。もし幸運にもそんな赤道儀や鏡筒が買えたとしても、でかくて重くて、微動だにしまい。ちなみに上のピラーでも重量だけで16KGある。実際はベースプレート、トッププレートや付属部品を入れるとこのピラーだけで100KGだ。さらに赤道儀本体と鏡筒の重量が加わるから全体では200-300KGは楽に越えるだろう。

これではクレーンとトラックが必要だ。手軽に移動するなど夢のまた夢。つまり、ちょっと触ったくらいでも、微動だにしないような、可搬式架台は存在するはずがない。望むほうが無理なのだ。

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