第8章 精度と修正方法(極軸望遠鏡は必要か) 


赤道儀は1に剛性、2に精度だ。と以前述べた。それでは眼視や、撮影には理論的にはどの程度の精度が必要なのだろうか。驚くなかれ、ポンセットマウントといえども、ミクロン単位の精度が必要だということだ。ポンセットは通常のドイツ式赤道儀ほど精度が要らないという人がいるが、とんでもない。ポンセットといえども(こと写真撮影までやろうとすると)高い精度が必要なのだ。
精度が必要な所、部品はどこか?
それは、セクタレール、車輪、の接触する面、ウォーム、ギヤ、など駆動を司る部分である。  下記に簡単な計算をして立証してみよう。


眼視での要求される精度

動かないと感じられるのはどのていどか?木星を覗いている時を思い出して欲しい。200倍−300倍で見ていて、木星の直径ほど動くとどうだろう?ゆっくり動けば大抵気がつかないだろう。が速く動けばだれでも不快に感じるに違いない。仮にこの程度の誤差に収めるためには誤差は?

木星の視直径=約40秒
 1”は1度の1/3600。 一方1度は2*3.14/360=1/57.3ラジアンだから 1”は(1/3600)*(1/57.3)=0.0000048ラジアンとなる。
木星の視直径は40*0.0000048=0.0001939ラジアン----(1)となる。

角度をラジアンで表し*半径をかけると許容誤差mmがでる。セクタレール半径=350mmをかけると
許容誤差はDs=350*0.0001939=0.067mm =67ミクロンだ。
速く動くとどうだろう?おそらくたいていの人はこの10分の一(4”)でも不快に感じるだろう。つまり6.7ミクロンだ。
これは旋盤などの切削加工ではとうてい達成できない精度だ。研削加工以上の高度な仕上げが必要だ。写真撮影にはこの精度が数分以上キープされなければならない。しかし眼視ならそんな精度は要らない。といっても途中で引っかかったりして、ガクッと動くのはいただけない。ただひたすら滑らかに動くことが肝要だ。

仕上げに摺り合わせ(砂摺)をするのがポイント

精度が必要だといっても自作ではとうてい無理だ。とあきらめるにはまだ早い。できる方法がある。それは、鏡面磨きと同様、雌型をつくり、摺り合わせ(砂摺)という技法を使うのだ。といっても鏡面磨きのような厳密さは必要ない。これでミクロンオーダーの精度が確保できる。逆に言えば、精度の必要な部品は摺り合わせができるよう真円、円弧、にするほうがよい。特殊な曲線にすると摺り合わせができないから精度よく仕上げることなどできない。

極軸望遠鏡まで要るのか?

ポンセットマウントだから極軸合わせがいいかげんでいいか?というと決してそんなことはない。眼視であっても出来る限り正確に極軸セットしたほうがいい。極軸をいい加減に設置すると、星が意外に早く視野から出てしまうものだ。眼視ではさほど問題とはならなくても写真撮影となるとわずか星が動くだけでも失敗だ。では、どのくらいの誤差は許されるのであろうか。?

天の赤道で、仮にデジタル撮影で典型的な6分の露出(追尾)としよう。    1時間に地軸は約15度回るから仮に極軸が1度違っていると1/57.3ラジアンだけくるったままで15度まわることになる。これは15*(1/57.3)ラジアン、つまり0.26radだけずれることになる。6分間ならこの1/10だけずれるはずである。つまり6分間で0.026radだけずれるわけだ。  これを上記の(1)と比較すると、なんと2桁も大きい値だということが判るだろう。こんないい加減な極軸あわせでは写真にはまず使えないのだ。

極軸合わせには正確に調整された極軸望遠鏡が必須なのだ

写真撮影では極軸あわせはこの100分の1以下、少なくとも ’(分) のオーダまで正確に合わせなければならない。これは月の視直径の30分の1にあたる。少なくとも極軸望遠鏡が必要だ。
では極軸望遠鏡で極軸合わせを行っただけで充分か?というとそれでもだめな場合がある。極望の倍率はあまり高くできないうえ製作や調整誤差もある。電動追尾だけ(ノータッチガイド)で直焦点長時間露出の写真撮影をするのには、上述のように、おどろくほど正確な極軸合わせが必要だ。それではどうすればいいのか?答えは、地味であるが実際に星を高倍率で長時間追尾しながら少しずつ修正する方法しかない。写真撮影には極望でさえも目安でしかならない。

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