第4章  ポンセットマウント自作の問題点


いざポンセットマウントを自作してみると、多くの困難に遭遇する。 参考資料はあっても、そのまま自作に応用出来ないこともある。高価であったり、入手が困難だったりする。筆者が実際に製作し、実際に運用しているポンセットマウントを例に問題点を見ていこう。


材料

米国の例ではアルミ、木材などが多いようだが、筆者はこれらをあまりお奨めしない。

アルミ
は軽量で、強度面でも有利だが、素人が簡単に手を出せるものではない。まず高価なうえ必要な形状の材料の入手が困難だ。といって、溶接することもできない。溶接はイナートガス溶接器が必要だ。これらをそろえるだけで、高価な赤道儀が買えてしまうだろうし免許も必要だ。これらを総合すれば、アルミは限られたごく一部にしか使えない素材だということがいえるだろう。
木材
はどうだろうか?大きい構造体には強度や重量面でも有利で、加工も容易である。事実多くの方々が木材で製作している。しかし写真撮影までできるような、正確な追尾をしたいのならば木材はお奨めできない。とくにセクターレールはミクロン単位の仕上げ精度が必要だ。木材は凹みやすく、永久歪が残りやすい。ギヤやレール、車輪など集中荷重のかかるものにも不適当だ。帯鉄やアルミで補強する方法はあるが、曲げ加工では精度がでない。という訳で木材は固定フレームくらいにしか使えない。
鋼材
筆者は思い切って、殆ど全てに(鉄)鋼材を使用することとした。(鋼材で自作した例は見たことはないが)鋼材は万能だ。なにより安価なのがいい。入手も容易だ。板材は3ミリ、フラットバーなら6x50ミリまで、丸棒なら15ミリまで、アングルやパイプも近所のDIYの店でごく安価に購入できる。道具は要るが素人でも切断、溶接は簡単で切削、研削、研磨、など、どんな加工でもできる。やる気さえあれば、比較的容易に高精度がえられ、耐久性も抜群だ。重いのが唯一欠点だが、溶接でリブや形状を工夫すれば軽くすることもできる。意外にも鋼材は試作、即実用には最適な材料といえるのである。

道具、工具

鋼材は木材のように手工具だけで加工するにはあまりにも固く、能率がわるいためやる気さえそがれる。ゆえにある程度の動力機械を用意したいものだ。 鋼材のよさをフルに生かすには何をさておいても溶接機だ。溶接はどんな接合よりも高強度で信頼できる方法だ。溶接さえできればどんな形状のものでも作ることができるといっても過言ではない。これには最低でもアーク溶接機の単相200V以上のものが必要だ。丸いものに精密な加工するには旋盤が必需品だミニの安物でも充分役に立つからぜひ用意しておきたい。その他サンダーや小型のボール盤くらいは揃えておきたい。フライスは、なくても大抵なんとかなる。しかし仕上げを綺麗にしたり、長穴加工には重宝するので購入しておいて損はない。

意外に忘れられるのが切断機だが、木材加工に電動ノコが必需品なのと同様、使用頻度からいえば、いくら投資しても惜しくないほど価値がある。安くて能率が良いのが高速カッター(砥石)。バンドソー、3mm以下ならニブラという手もある。万能なのがガス切断機だがこれを使用するには免許が要るし安全上の問題もある。これに代わるものとして筆者はすこし高価だがエアープラズマ切断機を所有している。これは安全で万能、高能率、免許も不要だからアマチュアにはむしろ最適といえるのではないだろうか。200V機なら12mmまでの鉄板、ステン、アルミ、銅板など直線、曲線、なんでもあっというまに切れる。切り口がやや粗いのが欠点だが他の切断機のようにワークをしっかり固定しなくてもよいから、改造や解体には必需品といっていいだろう。

加工方法

ポンセットマウントは次の部品からなっている。筆者の例で説明したい。名前は適当につけている。写真を参考に御理解ねがいたい。

                         フレーム関係

ベース(BOTTOM SUPPORT PLATE)固定フレーム
はしご状に組み、南北の極軸をうける車輪、軸受けを付ける。主に溶接、ドリル加工。あまり精度はいらない。要点は荷重ができるだけ地面に一直線に落ちるようにすることである。そうでないと重い鏡筒を載せたときフレームに曲がりが生じ精度をそこねる。

可動台(TOP ROCKING PLATE)
赤動儀本体といえるもので、剛性が弱いと使いもにはならない。筆者の場合3tの鉄板を溶接、箱型にした。溶接、ドリル加工が主で中央にフォークを受けるベアリングを設けている。

駆動関係

ポンセットマウントで天体をを追尾させるにはモーターで駆動することになるが、極軸の速度は1/1440RPMと極端に遅いので市販のギアモータを極軸に直結することはできない。なんらかの最終減速方法で可動台を駆動させることになる。また駆動はエンドレスではなく、終点に達したら始点まで戻さなければならない。最終駆動方法はいくつかあるが、実例の多いものが、車輪を回してセクターレールを動かすフリクション駆動方式、タンゼントスクリュー方式などである。


フリクション駆動方式
は最も多用されており、簡単なので採用例が多いが、車輪とレールが両方とも鉄材だとフリクションが小さすぎてスリップして正確に駆動できないことがある。また追尾速度合わせをモータ側でやらなければならない。始点に戻すのに駆動車輪を浮かせることでも出来るが、誤って転倒させないよう、ジャッキ装置を設けるか、高速逆転装置が欲しい。

タンゼントスクリュウ方式
は簡単、スリップもなく確実であるがタンゼントエラーがあるので、30分を超える追尾には適さない。また始点に戻すのがモータを逆転させるしかなく(割りナットを作ればできないわけではないが)高速リセットが難しい。またピリオディックエラーも出やすい。


筆者はあえて前例の少ないセクタウォーム(ウオームギア)方式を採用している、理論上追尾エラーがなく、タンゼントスクリューのように追尾時間に制限がないからだ。始点に戻すのはセクタ、ギヤの噛み合いを外すようにしている。欠点は意外にピリオディックモーションエラーが出やすいこと、自作はやや難しいことだろう。


セクターレール
鋼材6tx50x250のフラットバーをV字型に2枚溶接して一体化し素材とした。当初 極軸(不動点)は鏡筒重心に一致させればいいだろうと、半径を450mmとしたが、これは誤りであった。正解は可動台、経緯台、鏡筒など可動部分を合計した重心に合わさなければならないのだ。350mmが正解だった。
車輪と接触するレール面はミクロン単位の高精度な円弧に仕上げねばならない。特に細かな凹凸は禁物だ。うまい加工方法が浮かばず、試行錯誤を繰り返した。詳しくは章をあらためてのべる。
ウォーム(ネジ最終減速装置)
ウォームは当初市販のずん切りボルトを加工し利用したが、曲がり(ふれ)が大きいためピリオディックモーションエラー(以下PE)が大きく、使えないことがわかった。 現在はミニ旋盤でネジを削り出している。 

セクターギア

正確な半径の切り出しと正確な歯切りが必要である。当初自作は無理と考えていた。しかしやって見ると自作は案外簡単だ。自作方法はあらためて詳しくのべる。

車輪と軸受け
車輪は市販の車輪を使うことも考えられるが偏心や凹凸の心配がある。現在は6201ZZの単列深溝ボールベアリングを各、2個組み、外輪で直接レールを受ける構造としているが問題なく使えている。

車輪の数
車輪の数は多ければよいというものではない。実例ではラジアル用が4個、スラスト用が4個計8個(セクターレールが2本の場合)が多いが、これは良くないやりかただ。車輪が多すぎるからだ。つまり冗長な構造になっている。冗長は百害あって一利なし。理論上最もよい数は2レールの場合ラジアル用が3個、スラスト用が2個の計5個または、ラジアル用が4個、スラスト用が1個の計5個である。実際これ以上の車輪をつかうと、たとえばベースがわずかにひずんだだけでどれかの車輪が浮き上がり、極軸のふらつきを生み、正しい追尾ができなくなる。

追尾用駆動モータと減速機
これは自作の大きなハードルであろう。簡易赤道儀を自作する人は結構多いようであるが、多くの方がこれでつまずき、自動追尾をあきらめてしまっているのではないだろうか。自動追尾がないとポンセットマウントの価値は半減する。

米国ではステップモータを利用した例をよく見かけるが、国内では適当なものが入手し難いこと、高価で、振動が出やすい。ドライバーやコントローラも一般に市販されていないから自作しなければならない、専門知識がないと無理だ。

筆者はシンクロナスモータ(同期モータ)を採用している。 シンクロナスモータは出力軸の回転数が赤道儀に好都合な1〜60RPMのものがネットなどで簡単に入手できる。軽量だから筆者は出力軸をウォーム軸に直結して、モータケースに回転止め(トルクアーム)をつけただけで、宙吊りで使っている。簡単だし、精度も問題ない。回転数の変更や、回転方向も変えることができないから別に速度合わせの機構や巻き戻し機構が必要となるのが欠点だ。

負荷の大小に関係なく、電力周波数に完全に同期(まったくスリップはない)して回る。コントローラや電池は不要。ただ100Vの商用電源に繋げばいいだけだ。回転の正確さは一昔まえの赤道儀や電気時計にも使われていた位で充分すぎる精度だ。しかもうれしいことに減速機込みで、わずか¥500〜1000と激安なのだ。出力は1.5Wのもので充分だ。

振動やトルク変動は60Hzなので少ない、と思っていたが、出力が大きなものは、振動がでることがあるようだ。経験では1.5Wでは全く振動がでなかったが、余裕をもたすため、2.5Wに変えたところ、振動が発生、高倍率では明らかに輪郭のぼけが発生した。

筆者は100Vが無い環境では、自動車用のインバータ(60HZ)を使っている。安いし結構正確だ。(激安インバータは55HZが多いから注意) 


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