第38章 ステディカム(もどき)の製作(自作)
(球面ジンバルの利用)(油圧ダンパーの採用)

移動(歩行)しながらのビデオ撮影ご法度

動画撮影で、何がくやしいといって、歩きながらの撮影ができないことではないだろうか、いやできないわけではないが、やればひどいブレブレ、船酔いで、見せられた方はたまったもではない。だから、これはご法度、封印せねばならん。しかしわかってはいても旅行やハイキングなどでは、ついあせってついこの歩行撮影をやってしまう、せっかくのシーンが、ブレブレ台無し。ナンテことも。

カメラメーカーによる手ぶれ軽減方法ブレの補正機能を内蔵したカメラもある。が、あまり期待しないほうがいいようだ。ほとんど”歩行手持ち撮影には対応していません”!?。とある1*

ステディカム

それでは歩行手持ち撮影は完全にあきらめざるを得ないのか
方法がある。商品化もされてもいる。それがステディカム(商品名)というものだ、これはカメラスタビライザー(姿勢安定器)の一種で、手ブレを補正するのではなくカメラ自体を揺れにくくするものだ。これにカメラを乗せるだけで、たちまち手ブレがなくなるという原理は慣性モーメントを利用しただけというチョーローテク、だが、事実。実写をみれば一目瞭然。どでかい錘や、ジャイロなど高級なものは一切使われていない。こんなもので、歩行のひどいブレがほとんどなくなるなんてにわかには信じられるまい。が本当のようだ。 

値段を見てまた驚くのだ。10万超え!まさか、マジか!ビデオカメラが10台も買えるぞ! Made in USA!-----USA高杉。定価 $800。なら¥70000くらいのはずだが?マーいずれにしても買う気なし。原理は極めて簡単。自作すれば安く、もっといいものが出来るにちがいない。こりゃDIYの腕試しにちょうどいい。

自作の要点

拙者はこれまでいくつかのステディカム(もどき)をつくっているが、もっとも重要なのはジンバルだ。これは持ち手と可動部分を繋ぐ接点で、これの出来不出来がステディカムの出来に直結する。
1)ジンバル(自在支点)
A)すべての方向に自由自在に抵抗なく回らねばならない。
抵抗が大きいと、カメラは持ち手の動きに引きずられてカクカクした絵になる。しかしカメラの方向のコントロールはしやすい、一方抵抗がなければ、非常にスムーズな絵が撮れるようになる。がコントロールはむつかしくなる。

B) 回転軸(X,Y,Z軸)はすべて1点で交わらなければならない
ジンバルにはさらに重要なことがある。すこし難解かもしれないが、ジンバルの回転軸(X,Y,Z軸)はすべて1点で交わらなければならない。ということ。スタビライザとして十分な効果を発揮させるには重心と回転中心(ジンバル中心)は1/10ミリのオーダーまで近づけなければならない。近づければ近づけるほどわずかな軸のずれの影響が大きく現れる。
2) ジンバルの方式について
A)ベアリング+ユニバーサルジョイント方式
垂直軸にボールベアリング、残りの軸をユニバーサルジョイントをつかうというもので。
この方式がDIYではもっともポピュラーのようだが筆者はあまりお奨めしない。市販のユニバーサルジョイントはガタが多く、抵抗も大きく、精度もよくない、からだ。

B)球面受け(フリーベア)方式
そこでまず考え付くのが、ロッドエンド、自由雲台などだ。しかしこれらは無負荷で軽やかに動くが固体摩擦があるから荷重がかかったとき動きが渋い。ボールをボール(ベアリング)で受ける全転がり方式のジョイント(例、前輪駆動車の操舵駆動用ボールジョインント様なもの)がないだろうかとさがしてみたが、残念ながらないようだ。 たどりついたのが、”フリーベアー”という商品名で販売されている物で、全方向で、低い摩擦抵抗(ボールベアリングなみ)を実現、 構造がきわめてシンプル、価格も¥1000以下と安く、精度も強度もマズマズ申し分ない。まさにDIYジンバルにはうってつけだ。

注意しなければならないのはホームセンタなどでも似たものが売られているが、外観は同じでも構造がまったく違うのがあることだ。これらは受け皿が平皿。ボールベアリングが全方向で回転せず抵抗が大きく、ジンバルには不向きだ本来は受け皿は半球形でなければならない。理屈が判らないなら黙ってフリーベアーを買おう。これなら間違いない。


その他の方式

c) ピンポイント方式
これはやじろべえオリジナルと同じ方式。テストの結果、性能は申し分ない。ただし運搬中移動中などにピンポイントが外れやすく、取り扱いがやや難しいので使いたくない。

d) 提灯方式(ワイヤ吊り下げ式)
小田原提灯ぶらさげて。と、なにより単純明快。精密部品がまったく要らない、最も安価、、この方式の最大の売りは、固体摩擦がまったくないということだ。浮遊感もありスタビライザーとしての素質はなかなかのものだ。ただ最大の問題はぶらぶらが一旦始まるとなぜか簡単に止まらない、一旦テストを打ち切ったが、機会を見て再挑戦してみるつもり。もっともローテクなのが
DIYには最有力かもしれない
上記以外にもいろいろの方式を試してみたが総合的にみてフリーベアにかなうものはないようだ。しかし、使い勝手(コントロール)には問題がありその解決に苦しむこととなった。

フリーベアをジンバルに使うための加工

フリーベアー”だがこれはもともと台や床に埋め込んでおき、重い荷物の入ったダンボールなどを転送するためのものだ。ボール(大ボール)は完全球形で、その上焼きが入っている。これをジンンバルに使うには、何らかの方法でボールにボルトなど固定するための道具を生やさなければならない。どうすればできるのか、例によってメーカーは”できない、やらない”とにべもない。(と、あるブログ))ところが”ボールは表面のみが硬いだけで、中は柔らかくねじ立てはできる”との記事を発見。これに背中を押され、ついに購入、即分解、ボール(大ボール)を取り出し、サンダーでボール表面を削り、ドリル加工。。。。、ウーン、、、、、だめだ、ドリルが焼けるだけだ。歯が立たん。さてはガセだったか、、、、、焼きなましをするか?
ボール(大ボール)を真っ赤にやき空冷するのだ、使うのは携帯ボンベのバーナー。しかしちょろい。1台ではろくに赤くならん。古いバーナ(点火不良)も出して、2台を使ってやっと赤くなった。がちょっと温度低いか?、だがこれ以上は無理。そのまま放置、あら不思議、これだけで
機械加工(ドリル加工、ネジ立て)が普通にできるようになった。。。。。何時もの事だが、こんな簡単なことがメーカーがわからんはずもなかろうに、問い合わしても”できない、やらない”とはなんちゅう、DIYをナメるなよ。。。それにしてもバーナー弱すぎ、2台つかってやっとこさ、これ以上の大物ならどうしよう。

剛性とガタについて

剛性がないと歩行の周期と同期し、共振がおこることがある。弱くなりやすいものはポストで、。特にマリーン型のように曲がったものは要注意。フラットバーをつかうのなら、簡単に曲がる程度(2~3mm)ではいけない。少なくとも素手では曲がらない位(5~mm)以上のものを用意しよう。20mmくらいのパイプが理想だ。 また背の高い(例ザクティなど縦型)カメラではプラスティックの三脚ネジ1本だけで固定するのでは弱く、走り撮影など衝撃が加わった場合、ぶるんぶるんと、余分な振動が発生する。

ガタはもっとも悪影響がある。ガタがあると、ステディカムが撮影中、急にバランスを崩したりする症状となって現れる。よく注意すれば必ず発見できる。構造上の問題が絡んでいることが多く、改善するのが難しいものもあるが、取り除いておかなければ必ず後悔する。

風の影響について

風の影響は思ったより大きい。主な原因は横に張り出したモニタだ。たとえ無風でも少し早く歩くだけであたる風でカメラの向きが簡単に変わってしまうほどだ。もちろん走るとアッと言う間に横をむいてしまう。この対策はモニタと逆の位置にダミー(帆)を取り付けるか、カメラの風圧の中心にZ軸中心を合わすのがいい。

理想のステデイカムとは

多くのステディカム(もどき)を作って、使ってみた結果、ステディカムに要求される性能とはどんなものか少しずつわかってきた。それによると理想的なステディカムとは

1)
移動撮影してもブレがないこと。(浮遊感があること--これはもちろんだが、これだけでは非常に使いにくいのだ。つまり
2)必要なとき、
思ったとうりカメラを上下、左右、傾けることが自在にできること
3風や外乱に姿勢を乱されないこと2)、3)の対策がなければ実際のフィールドではほとんんど役に立たないのだ。

ジンバルに要求される性能
ジンバルはカメラマンとカメラを結びつける唯一のパーツだから最も重要だ。
基本的に全方向抵抗なくうごかねばならない。しかしこれは、風など外乱に弱いことを意味する。
屋外の環境は思ったよりはるかにシビアだ。風のない日などない。完全にバランスをとったステディカムがほんのわずかな風で動きはじめ、あれよあれよという間にとんでもないところに向いてなかなか目的の方向にむいてくれない。一旦こうなればサミング(サミングとはステディカムの回転軸をつかみむりやり目的の方向に向けること)しかなくステディカムとしての機能はどうでもよく、サミングの腕だけの勝負になる、サミングするのなら高級なジンバルはいらない。。

常時ブレーキを使う方法
勝手に方向がかわることがなくなるには常時ブレーキを掛けておけばいい。で、やってみた結果は
NG、ブレーキを強くかけなければコントロールできない。強ければカクカクした動きになる。適切なところはない。

方向制御スプリングを使う方法
上下、傾きは重力による復元作用がある。が、水平回転には復元作用はまったくないから一旦動き始めるとどうしょうもない。スプリングで常時中立点に引き戻すようにもしてはどうか。やった経験ではサミングとこのスプリング、どちらがいいかというと?慣れればサミングのほうがいい。

必要なときだけ方向制御ブレーキを使う方法
必要なとき必要なだけ効かせる様にすれば?これがもっともよさそうだ。


きのこ型ジンバル
この後も色々トライをくりかえしいた。ところがこのほど、これまでやっていたものよりズッと簡便な方式で。それは、ジンバルを下図のような構造(きのこ型)とすることだ。構造は最も簡単な類だが、ステディカムとしての性能を大きく落とすことなく、持ち手だけでコントロールできる。つまり、チルトやローリングなどの操作が持ち手操作だけでできる。ゆえにサミングは最小限だけでよい。そんなにうまくいくのか、写真を載せて置くので、聡明な読者諸氏に考えていただきたい。

きのこ型ジンバル


グライド型

このレポートにこれまで採り上げたのはマリーン型と呼ばれるポストが持ち手を避けるため曲がっているタイプだが、ポストが真っ直ぐで、ベアリングを貫通したグライド型(フライカム)と呼ばれる方式がある。水平におかれたベアリング(Z軸)と2ピン(XY軸)のジンバルが使われる。持ち手はポストとの干渉を避けるため脇にオフセットされる。素性が良さそうなので、筆者もチャレンジしてみたが自作となると意外に難しい。
自作するうえのグライド型の問題点はやはりジンバルで、一見簡単に見えるが自作するとなるとDIY程度レベルではなかなかむつかしい。というのはXYZ各軸が相当正確に一点で交わるようにしなければならない(おそらく0.1mmくらいの正確さが要求される)からだ。もし1点で交わらなければどうなるか?カメラの方向を少しかえただけで急に不安定になる勝手に傾き、勝手に方向が変わったりするのだまたこの方式はY軸が小さいのでベアリング化しにくい。

グライド型の利点

グライド型の優れた点は、回転バランスを取るのが比較的容易なことだ。このバランスが取れていないとz軸の回りに回したときみそすり運動を起こしカメラが傾いて非常にやりにくくなる。バランスが取れていると垂直なまま安定して回転するからにコントロールが楽になる。マリーン型はこのバランスをとることが難しい。またマリーン型は風の影響を受けやすい。

うまくいかないのはジンバルのX、Y、Z軸が1点で交わっていないことが多い。この心配が全くないという点では球面ベアリング(フリーベア)方式が有利だ。
しかしこの球面ベアリング方式、グライド型に応用できない訳ではないがやりにくい。

グライド型試作機、ジンバルは3軸ベアリング方式。(ダンパー付き)

外乱に強いステディカム(もどき)を作りたい

ダンパー
ジンバルが高精度で抵抗が小さいほど、浮遊感タップリの素晴らしい動画が得られることがわかった。しかし実際にフィールドに持ち出すと、さっぱりダメなのだ。というのは風などの外乱に非常に弱く安定しないのだ。しかも一度姿勢を崩すとフラーりふらーりといつまでたっても正しい姿勢;水平(垂直)に戻らないこれでは使い物にならない。困った。こうなればサミングしかないが自然に見せるには相当な熟練が必要だ。なんとかステディカムだけでスムースに自然収束させる方法がないのだろうか?第六感、閃いたのは、ダンパー、流体抵抗で減衰させるのだ。しかし以前試した固体摩擦を利用したダンパーは、オフセットが出てダメだった。油圧ダンパー(便器のフタのあの動き)ならいけるのでは?、しかし入手しようにも手がかりさえない、こんな小さなスペースだし組み込めるものがあるか?ここで行き詰っていたが、このほど使えそうなダンパーが見つかった、早速使ってみるとその効果は思った以上、素晴らしい。大げさに言えば、滑るように撮れる。外乱に強いわりに(風は最大の難敵だが)こと操作性に関しては本家ステディカムしのぐかもしれない。不自然さが少い。のは理想的だ。予想されたとはいえあらためて感動。
この後さらににサミングをしなくても方向が決まるように、Z軸に中立点に戻る機構を設けた、スプリング式、重し式、マグネット式、などを試したが、マグネット式が断然いい。

1* 最近カメラの手ブレ防止機能が進歩し、いくつかは歩行しながらの動画撮影にも対応出来るようになってきた。しかし、ほとんどの機種では光軸回りの回転ブレには対応していない。そんな機種ではデジタル処理方式で対応しているが、しょせんごまかし、ボケを伴う。そんな中でオリンパスsh-50~60は撮像素子を回転させており回転ブレにも完全に対応している。早速購入実写の結果は他機種とは一線を画すものでこれなら使える。現在最も優れた機種だろう。これでも浮遊感でステディカムにはとてもかなわない。

1脚
こと望遠撮影となれば、ステディカムといえどもブレを防ぎきれない。三脚の出番だ、しかしこの三脚、機動性が損なわれるばかりかはた迷惑にもなる。旅行、移動中にちょっと動画を撮りたい場合には使えない。そんな場合、一脚なら。ということから、筆者も買った。しかし予想に反してほとんど使っていない。その理由は、一脚ではブレがかえって目立つのだ、なぜか。確かに縦横、揺れは非常に小さくなる、が、水平回転(パン)は手持ちとあまりかわらない。そのため、このパン、ブレばかりがやたら目立ち、これが不自然で気になるのだ。 ならばこれにダンパーをつけるのがいいのではないか。そこでユニバーサルジョイントとギア組み合わせて取り付けてみた、結果は、、、、相当いい不自然さが少なくスムーズ。かなりの望遠でも使える、これはもしかして万能選手かもしれない。市販品にはこれに類するものは売られていない。  自作する価値があるだろう。

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