コラム

社員の化学日記 −第55話 「寿命」−

年が明け,2013年がやってきた。 今年は巳年・・・。小生もとうとう人生の4廻り目を迎えてしまった。 五十路の足音も間近に迫りつつあり,次に蛇年を迎えるときは還暦となってしまう。 赤い頭巾に,赤いちゃんちゃんこ・・・。考えただけでゾッとする。

父親が今の自分と同じ年の頃を思い出すと,老けたオヤジ,おっさんと, 中学生ぐらいの自分は思っていたが,自分もその年齢になってしまった。

昭和1ケタ生まれのその父親も10年ほど前,「とうとう自分もオヤジが死んだ時と同じ歳に なってしまった・・・。」(この「オヤジ」は小生から見れば父方の祖父のこと)とつぶやいて いたことを思い出す。

諸先輩方からすれば40代後半など,まだまだハナタレ小僧,いや人間としてさえも認めて いただけない年齢かもしれないが,20代,30代の頃の体力に比べると今の体力は確実に低下して いる。

10年前ならば1,2日徹夜しても平気だったが,今では少しでも睡眠不足が続くと, 朝目は覚めても体が起き上がれないこともある。 人としての形成はまだまだこれからなのであろうが,生物である人間としては確実に衰え始めて いることを日々実感してしまうのである。

暗い話はこれぐらいにしておいて・・・。

生き歳生けるものにはすべて寿命がある。

「人間五十年、化天のうちを比ぶれば,夢幻の如くなり」(幸若舞「敦盛」の一節)と出陣前に 舞ったのは織田信長。 戦国武将が活躍していた時代は50歳くらいが平寿命であったのであろうが,戦国時代のように 人同士が殺しあうようなこともなく先進医療が発達した現代では,人間の寿命はどんどん延びている。 2012年WHOが発表した日本人の平均寿命は,男79.44歳,女85.90歳だとか。

人間以外の動物の平均寿命は,身近なところでは
      犬:約11年,猫:約14年,スズメ:約1年,カラス:7〜8年(推定)
長寿の動物は
      ガラパゴスゾウガメ:100年以上
       (「鶴は千年,亀は万年」までは難しいか。ちなみに鶴の寿命は30年ぐらい。)
      クジラ:種類,大きさにもよるらしいが,50〜100年以上
      アフリカゾウ:約70年
一方,短寿命の動物は
      ミジンコ:約8日(飼育環境下)
      ハエ:約50日(卵,幼虫の期間も含む)
      蚊:約40日(卵,幼虫の期間も含む)
                        などなど

人間もそうだが,生物の寿命は生活生息する環境条件によって異なる。

一般に医療が発達し,伝染病の流行や戦争などがない時代が続くと平均寿命は延びるし, 内戦が続いたり,物資が不足する国・地域では平均寿命は相対的に短くなる。

人間以外の生物では野生の状態であるか,または人間の飼育環境下にあるか, また卵,幼虫(幼体),成虫(成体)と変態(夜道を歩く女性を狙って 出没する変なオジサンのことではない)していく動物では卵,幼虫の段階では他の生物に 捕食されてしまう確率が大きくなる。 逆に,象,クジラなどの大型動物は他に捕食しようとする敵が少ないため,必然的に 野生環境下でも平均寿命は長くなるらしい。

アメーバなどの微生物や海綿動物,腔腸動物(クラゲ,サンゴなど)や扁形動物 (プラナリア,ヒル,サナダムシなど)の原始的な生物には生理的寿命(整えられた 環境下で他生物による捕食等がない場合の寿命)は存在しない。

上述のような高等生物の個体死とは異なり,細胞の遺伝子情報にきざまれた,細胞分裂を 繰り返すことができる限界の程度(当然,高等生物の細胞にも決められている)によって 寿命が決まってくるのだそうだが,上記のような原始的な生物には酵母や繊毛虫などを 除いてこのような現象が認められていない。 つまり外敵がおらず,生息環境が最適条件であったら永久に生き続けることができる ということのようだ。

プラナリアという扁形動物は自己再生能力が非常に著しいことが知られている。 1匹を前後に3つに切れば,頭部からは腹部以降が,尾部側からは頭部が,中央の断片からは 前の切り口から頭部,後ろの切り口から尾部が再生される。

この体の再生の方向性を決める遺伝子をnou-darake遺伝子(ノウダラケ遺伝子,ndk遺伝子), nou-nashi遺伝子(ノウナシ遺伝子)というらしい。 ダジャレではなくれっきとした専門用語で,頭部に脳が再生されるかどうかを制御している 遺伝子のであるのでこのように命名されたとのこと。

小生もたわいもないことでミスをしてしまうことがあるのもこの"能なし"遺伝子のためか?

中学生のわが子から「老けたオヤジ」などと思われないよう日々努力しようと肝に銘じる今日この頃である。

【道修町博士(ペンネーム)】

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