コラム
社員の化学日記 −第195話「閑人閑話3−セミも暑がりか?−」−
ここ数日でやっと涼しくなってきた(といっても、朝の通勤時は通勤に使っているビジネスリュックが背中に密着しているから、会社に着いた時には背中はまだ結構汗ばんではいるが…)。 毎年言っているように思うが、今年は特に暑かった…。 暑がりであることを自覚しているので仕方ないとは思うが、9月中旬で最高気温が連日35度以上とはさすがに異常気象としか言いようがない。 自分は気象予報士でもないし、大学で専攻したのは化学であって気象学ではないが、この状況を「異常気象」と素人が評価してもそれを咎める人間はまずいないだろう。
局地的に発生するゲリラ豪雨、迷走した挙句、一舜で消えてしまったかのように消滅してしまった台風、(これは昨夏の影響だが)コメの育成が悪く、コメ不足による価格高騰、そして今年はセミの鳴き声をほとんど耳にしなかった。
森林地帯のど真ん中に住んでいるわけではないが、例年の夏ならば近隣の街路樹で鳴いているらしい「シャーシャーシャー…」というクマゼミの鳴き声を「うるさい!」と心の中で感じながら駅まで歩くのだが、今年は聞いた記憶がない。 Web等で調べてみると、セミの成虫の寿命は2週間程度らしいが、寿命が尽きるまでの間に何があっても泣き続けているわけではなく、鳴くのに適した気温があるらしい。 以前は、夜暗くなっても熱帯夜の蒸し暑い夜に鳴いているセミの声を聞いたこともある。 今夏はセミの鳴き声を一度も聞いた記憶がないので、セミが鳴く条件にあった日が1日もなかったということか…。 セミも鳴くのをやめてしまうほど暑かった、ということか。
主に西日本に分布していたクマゼミは、近年の気温上昇で東日本の都市部でもみられるようになり、逆にアブラゼミ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシ、ヒグラシといった定番だった”夏の鳴き声”はほとんど聞かくなって久しい。 でも、今夏はそのクマゼミのうるさい鳴き声さえ聞いていない。 例年、うるさくて仕方なかったが、こいつらも暑がりだったのかと考えると、わずかではあるが親しみが沸いてこないこともない。
思えば子供のころの夏の音の定番は、ミンミンゼミやツクツクボウシの鳴声だったが、悲しいことに今ではWebの動画サイトに頼るしかなくなってしまった(お金と時間をかけて生息している場所に行けば聞けると思うが…)。
音はモノではなく、空気の振動によって伝わってくる物理現象だが、人間の生活は音であふれている。 都市部では人々の雑踏の音、バイク、自動車、電車等交通機関の騒音など、人工的に発生する音がほとんどであるが、農村地帯や山間部では風の音、稲穂や農作物の枝葉がこすれる音、小川のせせらぐ音や鳥獣類の鳴き声も聞こえてくるし、海辺へ行けば打ち寄せる波の音など、目を閉じてじっと聞いていれば、なぜか心が落ち着いてくる。 本で読んだ話だが、昔の沖縄の村では稲の受粉の時期になると、稲の精霊が落ち着いて作業できるように村中が物音をたてることを控え、その代わりに聞こえてくる様々な自然の音(風の音、海の音、動物の鳴き声などなど)の中で暮らしていた。
場所や季節等変わってくれば聞こえてくる音も違って当然であって、街中で暮らす以上は人工音しか聞こえてこないのは当たり前で、それに慣れてしまうのも当然なのかもしれない。 でも、車中で漏れてくる携帯の再生音から漏れ聞こえてくるシャカシャカ音にイラっとすることだけは未だに変わらない。
【道修町博士(ペンネーム)】