コラム

社員の化学日記 −第117話 「人間味を持つこと」−

化学に携わるものにとって基本なことは元素,物質を構成する単位となるもので化学と縁の無い人でもアルミニウム,マグネシウム,金,銀など10個くらいは名前を言えるでしょう。

2018年3月時点では118種類の元素が知られています。

陽子の数が113個の元素は日本で発見されたので〔ニホニウム〕と命名されたことは,皆さん耳にしたことがあると思います。 以前このコラムでも取り上げました。

この元素がどのようにしてできたのか,時代の経過とともにいろいろ分かってきました。

前コラムと重複しますが,元素ができるのは宇宙ができてから1秒もたたない1万分の1秒後といわれています。 宇宙は超高温超高圧の状態,いわゆるビッグバンから,ということはCNB(宇宙マイクロ波背景放射)という電波測定によって認められています。 その時に,陽子と中性子ができたと考えられ,陽子は水素の原子核なので水素が存在していたと言われています。

その当時すべて存在していたものは激しく動き回っていたため衝突を繰り返し,3分後に陽子2個と中性子2個が核融合したヘリウムが生まれ,わずかのリチウム(原子番号3)も存在していたと考えられています。

しかしヘリウムより重い原子核(元素)が生まれるにはその時代から4億年もかかりました。

そのくらいの年月が過ぎると宇宙も冷えてきて飛び回っていた水素やヘリウムの動きが弱まり,「お前も仲間やないか」というわけで,お互い集まってガス雲となり星が誕生。星の内部は大きな重力のため「おしくらまんじゅう」状態で高温高圧のため集まった水素が核融合してヘリウムができこのヘリウムの核融合により炭素ができてきます。

核融合や正反対の核崩壊(分裂)のため窒素,酸素,ナトリウム,マグネシウム,アルミニウム,鉄等の原子ができましたが,この原子番号26の鉄Feで星の中の核融合は終わります。鉄の原子核は元素の中で最も安定,即ち核反応を起こしにくい形をしています。鉄より重い元素ができる原因は未知ですが超新星爆発説があります。

さて地球の質量の3分の1は鉄といわれています。「猿の惑星」という映画が昔大ヒットし,最近続作が続いて上映されていますが,本当の地球は「鉄の惑星」といえるでしょう。我々もその恩恵によって成長してきました,ほとんどの生き物の血が赤いのはヘモグロビンが鉄を含んでいるからでこの鉄の化学的な変化によって体の隅々に酸素を運ぶことができるのです。(鉄様感謝)

又,地球の内部にある鉄は高温高圧のため液体で対流しています,それが電磁石の役割となり地球の周りに磁場を作り放射線を防いでいます。この放射線は宇宙に飛び回っていて地球に届けば生命は生きていけません。原発事故と同じ状況ですね。

宇宙の放射線を説明するには宇宙の始まりから考えないといけないのですが,ブラックホールの研究その他で多くの業績を残したスティーブン・ホーキング博士が3月14日に死去しました。[車椅子の天才物理学者,天才科学者]と呼ばれ,常識破りな先進的な理論で周りの科学者から「そんなあほな」と衝撃を与える一方,我々一般人には難しい論理を分かりやすく伝えるように努力を重ねてくれ,多くの人に科学,宇宙に興味を持つきっかけを作ってくれた人だと言われています。私自身にしてもニュートン,アインシュタインまでは(詳しく理解できないが)言ってることは分かる,でも最近の理論は何を言っているのかほとんど分からない。大ベストセラーとなった博士の著書「ホーキング,宇宙を語る」は一般の人のために分かりやすく書かれて全世界で読まれているということなので,読んでみたいと思いつつ今になってしまいました。この本再び話題になって売れているらしいです。

博士の言葉は多大な興味をもたらしてくれるもので,少し取り上げてみます。
「宇宙の成り立ちを知るには相対論と量子論を合体させる必要がある」
「太陽も寿命があるため他の星に住む探査計画が必要」
「ブラックホール蒸発理論」
「宇宙はたくさんあって我々の宇宙はその中のひとつに過ぎない」
「神様は宇宙の始まりには不要」等。

博士の体調に異変が起こった時のことは,私達自身にも降りかかることで興味をそそられます。まだ車椅子が必要でなく普通に過ごしているときに突然動作がのろくなり,平らな道で転ぶ,靴紐を結べない,階段から落ちる等の異変があり病院に行くが,医者に「ビールの飲みすぎや」と言われたらしいです(もちろん大阪弁ではなく英語だと思います)。 その後ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断され余命2年と診断されましたが,その後50年以上の人生そして宇宙物理学の発展を私達に与えてくれました。 生まれたのはガリレオの没後300年の年,少年期のあだ名はアインシュタインで博士が目標の人らしい,死去の日もアインシュタインの誕生日というところに何らかのつながりを感じさせられます。

博士のように,現実を見つめることは必要やけどそれが悲観的なことでも「まけたらあかんで」精神でユーモアを持って人に接して自分自身の生き様をつらぬくことの大切さを改めて感じさせられました。 大阪の人間は意識しなくても普通の行動でお笑いになると言われたことはありますが……。《合掌》

※参考資料等
『おもしろサイエンス 元素と金属の科学』坂本 卓(日刊工業新聞社)2014
『ブルーバックス 地球進化46憶年の物語』ロバート・ヘイゼン(株式会社 講談社)2014
『物理化学のしくみ』齋藤 勝裕(株式会社ナツメ社)2008

平成30(2018)年3月

【今田 美貴男】

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