Aプラットホルン(Platthorn) トリフト小屋に1泊 |
登山電車でスネガ(Sunnegga)やゴルナグラート(Gornergrat)に登って西にそびえるツェナールロートホルンを見たときに、その右手前に小さな2つの山が見えます。左側の低いほうがプラットホルン(Platthorn 3345m)です。 高いほうの山をメッテルホルン(Mettelhorn 3406m)と言い、この山を登る人の方が断然多いのですが、メッテルホルンに登る手前に小振りの氷河があるので、もし登るならアイゼンを持っていった方が安全です。 メッテルホルンにできれば登ろうとアイゼンを持参しましたが、重登山靴でなかったためか、手前の雪渓で靴の中に水が浸み込んでしまい、短時間の氷河渡りでも、トラブルになってはいけないと思い、氷河のないプラットホルンに登りました。 今回はロートホルンヒュッテからの登山でしたが、健脚な人ならプラットホルンでもメッテルホルンでも麓のツェルマットからの日帰りが可能です。トリフト小屋に泊まれば余裕のある登山ができます。 |
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ロートホルンヒュッテのトレイルから見るプラットホルン(中央) 左の茶色の山はメッテルホルン |
参考地図:2515 Zermatt/Gornergrat 1/25000 |
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ロートホルンヒュッテの朝、南を見る |
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朝日の当たる氷河とマッターホルン |
昨日苦労して登ってきた上り道を、朝のひんやりした空気の中、快調に下る。素晴らしい展望が広がるが歩きながらのよそ見は禁物。滑り落ちたらタダでは済みそうも無い。立ち止まっては正面に4000m峰を見、右に朝日に輝く氷河を見、マッターホルンの突き出た頭を眺める。昨夕の雷雨時に、マッターホルンに雪が積もったようで頭が特に白い。
オアシスのような小川の畔で少し休憩して更に下り、標識の立つメッテルホルンへの分岐に着いた。
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草地からリスカム(左)やブライトホルン(中央)を眺める |
分岐から左に入ると草地の中の急なジグザグの登りになる。ロートホルンヒュッテから700m以上もどんどん下ってきて急に登りになったせいか息が荒くなる。何とか登ると穏やかな傾斜の草地に変わってくれた。
展望も広がり、昨日からずっと見てきたリスカムやブライトホルンが綺麗に見える。振り返るとマッターホルンが大きく聳え、その右にはオーバー・ガーベルホルンからウンター・ガーベルホルンへと続く尾根と氷河が草地の上に広がり気分が良くなる。
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草地からオーバー・ガーベルホルンを見る。マッターホルン(左)も大きく姿を現す 山は左からマッターホルン(4478m)、ウンターガーベルホルン(3392m)、尖ったピークの頭を出しているオーバーガーベルホルン(4063m)、その手前はヴェレンクッペ(3903m) |
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プラットホルンが見え出す(右のピーク) |
暫く草地の小川の横を歩くと前方に峠のような鞍部とその右にピークが見え出す。峠は地図で見るとフルックイー(Furggji
3180m)と読むのだろうか、ピークはプラットホルンだ。上の方には大分残雪があるように見える。
歩く草地には、はっきりとしたトレイルがつけられていて迷うことはない。小川の右に出てどんどん進むと大きなケルン(Cairn)が現れた。茶色の平らな石に腰掛て休憩。緑の草地もこの辺りまでで、この先は谷の右側の斜面に沿ったガレ石と残雪の雪渓歩きになる。
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峠(Furggji)への登り |
トレイルが不明瞭なところもあるがメッテルホルンに登る登山者は結構多いようで踏み跡があり、さほど心配なく先に進める。雪渓の上にもはっきりとした踏み跡があり、歩きにくいことはない。
ただ残雪が多い、大分雪の中を歩いたせいか靴の中に水が浸み込んできた。2年前に買い換えた厚底で少し重めの軽登山靴だが、見ると縫い糸までほつれてきている。やはり重登山靴を持ってくるべきだったかと反省。それにしてもこの靴の値段は高かったのにとグチが出る。
振り向くと、オーバー・ガーベルホルンは雲の中に入ってしまったがマッターホルンはかろうじて雲の間でまだ見える。
昨夜泊まったロートホルンヒュッテの背後の岩が見える。ヒュッテ高さと同じくらいの標高に近づいたようだ。
青空が殆どなくなってきたが、これ以上悪くならないように祈りながら登る。
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マッターホルンとウンター・ガーベルホルン(右) 登る途中から |
ロートホルンヒュッテは右側の盛り上がった赤岩の下辺りにある 中央はオーバー・ガーベルホルン |
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ヴァイスホルンが現れた! |
峠(Furggji)まで大分近づいてきたなー、と見上げると、ウヮー、大きなーピークが浮かび上がっている。ヴァイスホルン(Weisshorn
4506m)だ。曇ってきたので見えないかと半ば諦めていたので、突然の出現にビックリ、そして感動。登るに連れて一層大きくなるので足早に峠(Furggji)に着いた。
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峠(Furggji)に立つ標識、 右上がプラットホルン、左がメッテルホルン |
このトレイルには、ペンキマークや標識は全く無いとWebの体験記などで読んでいた。ペンキマークは確かに無かったが、峠(Furggji) には真新しい所要時間の書かれた表示板(メッテルホルン、プラットホルン、トリフトの表示)が立てられていた。プラットホルンとメッテルホルンを間違えることが過去に良くあったようだが、もうその心配はいらない。
峠は足元からもう氷河で覆い被さるように広がっている。右手上がプラットホルン(頂上に立っているのはMobile
Phone Antenna と言っていたので携帯電話のアンテナらしい)、氷河の上にチョコンと見えているのがメッテルホルン。
氷河の端に立ってヴァイスホルンを見る。雲が出ていているがそれでも複雑な形をした氷河と荒々しい山肌の迫力が伝わってくる。
登ってきた谷を振り返る。マッターホルンも雲の中に入ってしまったが、ウンター・ガーベルホーンからブライトホルンまでが視野に入り美しい。標高は昨夜泊まったロートホルンヒュッテとほぼ同じ高さの3200m弱、結構登ってきた。
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峠(Furggji)からヴァイスホルン(右 4506m)を見る 中央雲に隠れたピークはシャリーホルン(3974m) |
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峠(Furggji)から登ってきた谷を振り返る 正面はウンたターガーベルホルン(3392m), マッターホルンは雲の中 |
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峠(Furggji)下の雪渓の斜面を下る登山者 |
メッテルホルンに登るには氷河を渡る必要がある。しかし氷河には柔らかな雪が積もっていて踏み跡がはっきりしているようだし、さほど傾斜も無い。標識にはメッテルホルンまで35分とある。前後しながら登ってきたペアーはアイゼン無しで登って行った。問題なさそうだが、靴に水が浸み込んできていて、一人歩きということもあり、トラブルになっても困るので、諦めて氷河歩きのない右手のメッテルホルンに登ることにした。
プラットホルンはメッテルホルンより61m低い標高3345m、岩がゴロゴロした急斜面だが、残雪も無く踏み跡を頼りに登ると峠より25分で頂上に着いた。頂上には丸いポールのアンテナが立っていて、ちょっと興ざめだが、展望は抜群。メッテルホルンからの眺望はもっと素晴らしいのかもしれないが、雲がでてきてクリアーな眺めではなかったが、それでも凄い。プラットホルンでも充分と納得。
山も凄いが氷河も凄い。ツェナールロートホルン右手にあるのがホーリヒト氷河(Hohlichtgletscher)で、ヴァイスホルン正面がシャーリー氷河(Schaligletscher)だが、それ以外にも幾つもの氷河が重なり合い押し合いをしていて迫力満点だ。
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プラットホルンからの見るツェナールロートホルン(左雲の中)、とヴァイスホルン(右)方向 左下の〇印の所が峠(Furggji)、メッテルホルンへ登るには〇印から氷河を右下方向に向かう |
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プラットホルンから見るメッテルホルン、後ろはミシャベル山群 |
直ぐ目の前にメッテルホルンが聳える。茶色のカエルがじっとしているような奇妙な形をしている。写真では分かりにくいが氷河に面したカエルの背中から頭までジグザグの踏み跡がはっきり見える。頂上は尖っていて恐そうだが、天候さえ良ければ上り下りは問題無さそうに見える。
メッテルホルンの後ろにはミシャベル山群のナーデルホルン(Nadelhorn 4327m)やドーム(Dom
4545m)やテッシュホルン(Taschhorn 4491m)などが見えているはずだが、雲がかかって良く分からない。
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メッテルホルンから氷河を下る登山者(拡大) |
丁度登山者1人がメッテルホルンから下りてきて氷河を歩き始めたので拡大で撮ってみた。小さな氷河だと思ったが、こうしてみると立派な氷河だ。表面の雪が解けた場合は青氷になるそうです。
目を右に転じるとミシャベル山群の南端にあるリムプフィッシュホルン(Rimpfischhorn
4199m)とシュトラールホルン(Strahlhorn 4190m)と尖ったピークのアドラーホルン(Adlerhorn 3988m)が1つの山のように固まって見える。モンテローザ方向は残念ながら雲の中。マッターホルンが少し見え出して存在感を発揮してくれた。
そしてウンター・ガーベルホルンを飲み込むようなガーベルホルン氷河(Gabelhorngletscher)が良く見え、ロートホルンヒュッテの往復で歩いたモレーンは大分下に見える。雲が無ければオーバー・ガーベルホルンの右横にダン・ブランシュ(Dent Blanche4367m)のピークも見えるそうだ。 |
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プラットホルンから見る展望 | ||
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左リムフィッシュホルン、手前はオーバーロートホルン | マッターホルン | ウンター・ガーベルホルン、 右端の中央付近が今朝下りたモレーン |
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氷河で遊んだ後、アンザイレンして下山する男子の団体 |
プラットホルンからの眺望を堪能して峠(Furggji)に戻り、昼食のパンをかじる。氷河の縁で遊んでいた中学生くらいの男子がアンザイレンして下山を始めた。指導者が3人ついていているとはいえ、結構険しいトレイルを歩かせるのには感心する。
峠(Furggji)で昼食をとった後は登りと同じ道を下る。途中にあるケルンまでは雪渓とガレ石でのスリップに注意して下る。ケルンを過ぎてからは気持ちのいい下りでロートホルンヒュッテの分岐を過ぎれば今日泊まるトリフト小屋まではもう少しの下り。前方にツェルマットの谷を挟んでスネガの駅の建物が近くに見えだすと直ぐトリフ小屋に着いた。
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トリフト小屋の上部から、スネガの駅の建物が見える | トリフト小屋とテラス |
ベッドに行くと、隣のベットに旗が広げてかけてある。旗には左上にユニオンジャックがあり羊と帆船が写実的に描かれている。こんな国旗有ったかなーと眺めていると、若い男女のペアーが隣のベットに戻ってきた。どこからきたのか訪ねるとフォークランド諸島という。フォークランドと言えば20年位前にアルゼンチンと英国が領有を争い軍艦が沈んだりしたが結局は英国が勝ったフォークランド紛争というのがあったので知っていた。アルゼンチンの先っぽの島だ。ワー遠い!と言うと、あなたは何処から?と聞くので、日本と答えると、貴方も遠いではないかと言われてしまった。考えてみれば、スイスからは日本もフォークランドも同じくらいの遠さということだ。外国に居ても、つい日本を中心にした地図を描いてしまうのは致し方ないことか。
夕食時にオーストラリアから来た中年の夫人と同席になった。日本人と知ると、「何故日本人は毎日毎日あんなに沢山ツェルマットの町にやってくるのか、ゴルナグラートやクライン・マッターホルンは何時行っても日本人のグループでいっぱいだ、どうしてか?」と聞いてきた。答えに困って「日本人は美しい山を見るのが好きだから」と答えにならない答えをした。幼稚な英会話しかできないせいだけでなく、今もって核心をついた答えが日本語でも思いつかない。正しい回答はいったい何だろうかと今でも思う。