ケプラー・トラック(Kepler Track)
展望抜群の尾根筋と、ふかふか腐葉土のブナ林コース

 ニュージーランドでは珍しく、尾根筋歩きのコースを持つ全長60kmの周回トラック。
 DOCが総力をあげてコース開拓をし1988年に完成したというだけあって、変化のある魅力的なコースを歩くことができる。山裾に深く入りこんだ湖を眼下に、360度の展望を楽しみながら歩く尾根筋と、ふかふかとしたブナの落ち葉の腐葉土を踏んで歩く林など、気持ちの良いコースが続く。テアナウ(Te Anau)からも近く、登山口へのアプローチも容易だ。以前、山小屋は予約の必要が無かったが、2002年末から、夏期の山小屋は予約制になった。
 私達は、コントロール・ゲイト(Control Gate)から反時計方向に、3泊4日で一周した。
Te Anau の B&B からKepler Track の
マウント・ラクスモア( Mt Luxmore)を望む,
スケッチ
       
インターネット情報と予約

*リンク
・Trackの案内(英):Department of Conservation
・交通     (英):Fiordland Tracknet

*ハット(Hut)の予約
 2002年のシーズンからハットが予約制になった。10月末日から翌年の4月末日までが予約対象。DOCのサイトで予約状況をリアルタイムで見ることができ、チェックの上オンライン予約に入る。クレジットカードによる先払い。
予約すると、予約番号が送られてくので、これを持って指定日までにテ・アナウ(Te Anau)のDOCの窓口に行き、ハット・パス(Hut Pass)をもらう。

現地での情報入手と予約
*Kepler TrackのパンフレットがDOCオフィースで無料で手に入る
*パンフレットだけでも良いが、詳しい地図を知るにはDOCオフィースで トラック・マップ・ケプラー(Track Map Kepler)を購入すると良い。値段は$15。
*登山口へのバスは利用しなかったので、予約の要否が不明だが、ティアナのi-SITE (Fiordland National Park Visitor Information Center)で確認すれば分かる。
*町の中心近くにある
i表示の案内所は、ミルフォード・サウンド(Milford Sound) やダウトフル・サウンド(Doubtful Sound)などのクルーズ申込所なので、場所を良く確認する必要がある。

歩いた年月日:2003.2.04〜2.07



1日目Control Gate ‐(1h10min)Brod Bay(1h40min)Limestone Bluffs -(1h)Lookout -(40min)Luxmore Hut / Total 13.8km 4.5h(Standard 5h-6h) 

 B&B の女主人に車でコントロール・ゲート(Control Gate)まで送ってもらった。ここには、テ・アナウ湖から流れ出る水量調節の水門があり、鉄の大きな扉を開けて水門の上を歩き、トラックが始まる。
空気が冷たい薄曇の空。テ・アナウ湖の岸辺に沿ってブナの林の中の綺麗に整備された平らな道を歩く。歩くうちに、太陽が顔を出し、対岸のテ・アナウの町が逆光の中に光って見え美しい。

ブロッド・ベイ(Brod Bay)には休憩のベンチがあり、砂浜が前に広がるが、サンドフライの歓迎を受け、早々に歩き出す。平坦な道も終わり登りとなり深い林の中に入るが、ミルフォード・トラック(Milford Track)のように苔や羊歯は多くなく、林は明るい。汗が出るが休むと寒い。ファンテール(Fantail)やイェロー・クラウン・パラキート(Yellow Crowned Parakeet)やトムティット(Tomtit)の小鳥が出迎えに現われる。
ライムストン・ブラフ(Limestone Bluffs:石灰岩の崖)の下を通る。高い崖ではないが、長く続く。

樹林帯がようやく終わり森林限界を超えると、なだらかな丘陵地に出、一挙に視界が広がる。雲も次第に少なくなってきたようだ。Te Anau 湖が眼下に見え、その対岸に、泊っている B&B の辺りも良く見える
視界が広がる

気持ち良く歩いて行くと、直ぐラクスモア・ハット(Luxmore Hut)に着く。最近歩くのに慣れてきたのか、予定より早く着いた。 

小屋からは、下にフィヨルド(Fiord)と、正面にマウント・オーウェン(Mt Owen)の山並みが手の届くように近く見える。スケッチをする。
尾根筋のせいなのか、寒いせいなのか、サンドフライがいない。ありがたい。
Luxmore Hut(1085m)からのMt Owen (1769m),  
スケッチ 

 ラクスモア・ケイブ(Luxmore Caves:洞窟)が小屋から往復30分のところにあるので行ってみる。かなり大きく、中は真っ暗。ヘッドライトをつけるが、光が遠くに届かない。下に水がたまっていて女房は気持ちが悪いというので、少し入ったところで止めて帰る。

 夕刻完全に晴れる。小屋に明日登る予定のマウント・ラクスモア(Mt Luxmore)から撮った360度の拡大パノラマ写真が貼ってあった。ルートバーン・トラック(Routeburan Track)で見たマウント・ツトコ(Mt Tutoko)やグレノキー(Glenochy)で見たマウント・アーンスロー(Mt Eanslaw)が矢印で示されている。明日が楽しみだ。
 
 夜2時ごろ目がさめてしまう。小屋を出て昨日来た道を少し戻り、なだらかな尾根に出てみ
る。満天の星だ、南十字星がどれか直ぐに分からないほど星が多い。大小あるマゼラン星雲も天の川の横に白く蜘蛛の巣のように見える。空が明るい、月が出ているのかと思うほど星が明るい。山の輪郭が分かる。Te Anau 湖の形も何となく判る。Te Anau の町の灯が小さく見える。



2日目Luxmore Hut -(1h )Mt Luxmore 分岐 -(40min)Mt Luxmore往復 -(30min )Forest Burn Shelter -(1h50min)Hanging Vally Shelter -(2h20min)Iris Burn Hut
/Total 
14.6km 6h20min (Standard 5-6h)

再び朝早く尾根に出て、朝日に当たるティアナウ湖を見下ろした。昨日と違い寒くなく雲が全くない気持ちの良い朝だ。
朝日の中のティアナウ湖

ラクスモア・ハットを出る。すぐ尾根に出、マウント・ラクスモア(Mt Luxmore)の山腹を東から北側に回り、西の尾根に出て、マウント・ラクスモアの分岐に着く。左手の、ガラガラの急勾配を20分ほど登ると頂上(1472m)だ。
 360度の展望で何処までも見える。小屋のパノラマ写真で記憶してきたグレノキー(Glenochy)のマウント・アーンスロー(Mt Eanslow、2819m)やハリフォード・リバー(Hollyford River)の西のマウント・ツトコ(Mt Tutoko、2746m)がテ・アナウ湖を挟み遠く光って見える。
 
北から北西にはテ・アナウ湖から入りこんだフィヨルドが眼下に細長く伸び、そのフィヨルドから急に立ちあがった山々が目の前に見える。

西には、これから歩く尾根が続いて見える。
マウント・ラクスモアの頂上にて

、南方向には、明日下りるレイク・マナポウリ(Lake Manapouri)が見え、その向こうに遠くスチュワード島(Steward Island)の海が見えているようにも思える。2月に入ったせいか、山の雪は少なくなり、白く輝いて見える山が少なくなった感じで、少し迫力不足のようにも思うが、まあ、贅沢は止そう。 

 西にはテ・アナウの町とそれに続く湖岸が広がる。丁度泊っているB&B あたりから「のろし」の如く煙が立ち昇っている。まるで我々にB&Bの位置を知らせてくれているようだ。
下りてから聞いた
ら、隣の家( 隣と言っても数百メートルは離れている)が集めた雑木と雑草をちょうどその時に燃やしていた、とのことだった。 
マウント・ラクスモアからテアナウ、
泊っているB&B の近くから煙が上がる 
 頂上から分岐に戻りトラックを歩く。少しづつ変化していく景色を眺めながら、アップダウンを繰り返して尾根筋を進む。フォレスト・バーン・シェルター(Forest Burn Shelter)を過ぎ、更に尾根筋を歩く。360度の展望が続く。
Forest Burn Shelter を過ぎた尾根から
(西の方向)
 テ・アナウ湖から入り込んだフィヨルドが奥深く谷をうめている。
Forest Burn Shelterを過ぎた尾根から
(北の方向)

尾根筋が続く

 ハンギング・バレー・シェルター(Hanging Valley Shelter)の少し前の小高くなった尾根で昼食をとる。暖かい。微風。快晴が続く。しかし、ここにもサンドフライはいた。こんな高く周りに何もない乾燥した場所にも、サンドフライがいるとは思わなかった。急いで薬を塗る。温度が高くなると活動が活発になるのだろうか。11月のアーサース・パス(Arthurs Pass)には殆どサンドフライがいなかったように思うのだが。
 
ハンギング・バレー・シェルターに着き、トイレに行く。トイレはシェルターから少し離れたオープンスペースにポツンと立っていて、四方を細いワイヤーで支えてある。強風時はトイレを使うなと書いてある。
トイレの中にいると、風が無いのに、このまま飛んでいくのではないかと心細くなり、出るものも元気よく出てこない。

 景色の良いのはほぼここまで。あとは約900mほどの高度を一気に下り アイリス・バーン・ハット(Iris Burn Hut)に着く。
小屋に着く少し前、
ベルバード(Bell Bird)が直ぐ近くの枝にとまっていて、始めて確認できた。

 小屋の前からスケッチをするが、サンドフライが多くとても我慢ができない。部屋に逃げ込んだが,中に入っても食われた、絵を描くのも大変だ。今までの経験では小屋に入れば、食われることは殆ど無かったが、暖かい気候のせいかここは違う。
食堂で食事の準備をしているとき、食べているとき。ベッドで寝ているとき、トイレの中に入っているとき(ここが一番始末が悪い)、何処も安心できるところがない。夜中に耳を食われ耳たぶの上あたりが腫れてカチカチに固まった。 
Iris Burn Hut(497m)からIris Burn Vally,スケッチ 



 3日目Iris Burn Hut -(2h )Rocky Point -(4h40min)Moturau Hut
   / Total 16.2km
 4.5h (Standard 5-6h)
   Moturau Hut -(2h)ShallowBay Hut往復 (Standard 1h10min)
 
 今日は雲が少し出ているがまあまあの天気。小屋を出て、なだらかな道を アイリッシ・バーン(Irish Burn)の川にそって歩く。
崖崩れの跡のビッグ・スリップ(Big Slip)のあたりは湿原になっていて、白骨樹のような木が並ぶ。
ビッグ・スリップ近辺

ロッキー・ポイント(Rocky point)は、休憩に良い場所だが、サンドフライが多く、休まずパスする。

ブナの林を通り時々川原の近くに出る。小鳥が多い、
ビン(Robin),トムティット(Tomtit),ファンテイル(Fantail)、多分ライフルマン(Rifleman),名前が分からない茶色の鳥などが飛び交う。ピリピリピリーという鳴き声やギーという鳴き声が聞こえるが、何の鳥か姿が見えず分からない。
 
 
正面にマナポウリ湖(Lake Manapouri)が見え始め、湖沿いのブナの林の中のふかふかの厚い腐葉土を踏んで歩く。あちらこちらに風で根こそぎ倒れた木が横たわっている。ニュージーランドの山は硬い岩盤でできていて、その上に落ち葉の腐葉土層がのっているだけなので、木は下に伸びる直根を作ることができず、横に伸びた根だけで幹を支えているので倒れやすい。しかし、倒れて朽ちた木を養分にして、その上に新しい木が育ち、林が再生されている。屋久島で見たのと同じ木の再生サイクルが、ここでもいたる所で見られた。
 
 林を抜けると、モツラウ・ハット(Moturau Hut)に着く。 この小屋に泊らずにレインボー・リー
チ・スイングブリッジ(Rainbow Reach Swingbridge:吊橋)に行くパーティーは小屋で休憩して出発していく。
 私達はマツラウ・ハット泊で、時間があるので湾の対岸のシャロー・ベイ・ハット(Shallow Bay Hut)まで行ってみることにする。サンダルを履いて行ったのが悪く、歩きにくく、時間がかかった。ブナの林を抜けると綺麗な砂浜に出、そこを暫く歩く。小屋は6人迄の小さなもので、青年達が泊まる準備をしていた。静かな佇まいでかわいい小屋だった。
 
4日目Moturau Hut -(1h25min)Rainbow Reach Swingbridge -(2h55min)Control Gate -(50min)DOC.Office / Total 20.1km 5h10min (Standard 4h45min-6h15min)

 少し歳をとったワーデン(Warden:管理人)に見送られて、小屋を出る。雲はやや多いが雨の心配は無さそうだ。昨日Shallow Bay Hut に行った時の道をたどり、次いで分岐を真っ直ぐ進む。深い緑のブナの林で、落ち葉の腐葉土は一層厚みを増した感じで、歩いていて気持が良い。

林が突然切れて、湿地帯が現れる。ウェットランド・ビューイング・プラットフォーム( Wetland Viewing Platform)と言い、展望地になっていて登ってきたマウント・ラクスモア(Mt Ruxmore)が見える。
ウェットランド・ビューイング・プラットフォーム

湿地帯を過ぎて間もなく レインボー・リーチ(Rainbow Reach)に着く。立派な吊橋がかかっているので荷物を置いて、対岸まで渡ってみる。3日前に出発したコントロール・ゲイト(Control Gate)から流れてくる川で、ゴーゴーと音を立てて川幅いっぱいに流れて行く。
レインボー・リーチ吊橋

 元に戻り、川岸を歩く。せみの声がうるさい。今まで聞いてきたせみの声は、何処となく弱々しかったが、ここのせみは元気が良い。張りのあるせみの声をニュージーランドで始めて聞いた。

 川に沿って歩くといっても全く人家の気配が無い。見えるのは林と川のみ。聞こえるのはせみ
の声と川の音のみ。ほぼ平らな道を延々と歩き、出発点のコントロール・ゲイトに着く。バスは15:00でまだ大分時間がある。待っていてもしょうがないので、遠くには見えるが テ・アナウの町まで歩くことにする。
いつのまにか太陽が出てきて暑い。テ・アナウ湖の湖岸を歩く道は木や
林がなく、まともに太陽にさらされる。汗ぐっしょりでDOCビジター・センターに着いた。4日間一緒だったインド系の二人連れのお兄さんも歩いてきて、やったねー(こんな意味だろう)と言葉をかけてくれる。

DOCの綺麗なトイレで上半身の服を着替え、街まで歩き、スーパーで缶ビール6
個($11、約800円)とマカディミアンナッツを買い、テ・アナウ湖の岸辺のベンチに座り、登ってきた ケプラー・トラックの山を眺めながら祝杯をあげた。たちまち二人で缶ビールを飲み干し、しばしベンチの上でのうたた寝となった。初老の夫婦、2人、日本ならホームレス狩りに合うところだが、何事も無く過ぎて行った。 



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