ミルフォード・トラック(Milford Track)
峠越え と 苔と羊歯と滝とブナ林、NZ を代表する山岳コース

 グレート・ウォークの中で最も人気のあるのは エイベル・タズマン・コーストと云われるが、山岳地域としては、やはりミルフォード・トラックがニュージーランドを最も良く代表するトランピング・コースとして知られている。
小屋も綺麗で、道はやり過ぎではないかと思うほど木道で整備さ
れており、安心して歩ける。全長53.5kmで一方通行の3泊4日、インデペンデント・トランパー(Independent Tramper:ガイド無しで食料・寝袋持参のトレッキングをする人)として入れる人数は1日最大40人、ガイド付きのトランパーが最大40人で、合計80人が上限のトラック。4日間、最初から最後までメンバーは替わらないという独特のコース。小屋の予約を早めにしないと行きたくても行けなくなる。

 私が歩いた時は残念ながら殆ど雨で、視界が悪く、充分景色を楽しむことができなかった
が、雨は雨なりにミルフォード・トラックの良さを味わうことができた。

ルートバーン・トラック(Routeburn Track)のマッケンジー・ハット(Mackezie Hut)で出合ったオーストラリア人の男性は、ミルフォード・トラックから続けてルートバーン・トラックに来たと言っていた。日本を出る前は、考えもしなかったが、地理的に充分歩ける位置関係にある。ミルフォード・トラックを歩き、ミルフォード・サウンド(Milford Sound)で一泊か2泊して、休養をとってからルートバーン・トラックを歩くこともでき、歳をとってからも健脚の人なら この2つのグレート・ウォークを1度に踏破することができると思う。

2008年、グレート・ウォークの交通を調べていたら、ミルフォード・トラックとルートバーン・トラックとケプラー・トラックを一度で歩けるよう、宿と山小屋と交通全てを一括して予約してくれるパッケージ・トランピングがあるのを知りました。高そうですが手間を省くには良さそうです。リンク先を貼り付けておきます。
Kiwi Discovery

インターネット情報と予約
*リンク
・Milford Track の案内・交通(英):Department of Conservation

*山小屋(Hut)と交通の予約
 DOCのサイトで予約ができる。入山日を決めると3泊4日でスケジュールが決まり、自動的に交通も予約するシステムになっている。予約状況をリアルタイムで見ることができ、チェックの上オンラインブッキングに入るようになっている。予約が必要なのは10月末日〜4月末日の間の入山で、予約受付は7月1日に始まる(クレジットカードによる先払い)。
 出発のバスは午前と午後がある。午前の方を利用する人が多いようで、午後発のバスで行くと、山小屋のベットは入口付近しか残っていなかったり、グループの場合は別棟にばらばらに泊まることになるので、気になる人は早いバスの方を選んだ方が良い。
予約が決まると、予約番号を通知してくる。
指定された日時までに、ティアナウのDOCのビジター・センターでハット・パスを受け取る。
バスの出発地はTe Anau のDOC 前、帰りはミルフォード・サウンドからティ・アナゥとクイーンズタウン行きのバスがある。

現地での情報入手と予約
*DOCにMilford Track のパンフレットが置いてある。無料で入手できる。
*DOCでMilford Track の1/75000の地図が$15で手に入る。パンフレットだけでも問題無いが、地図があれば、トラックの回りの山や地理を知ることが出きる。
*バスの出発地はTe Anau のDOC 前だが、バスの通路であれば、事前にDOCのオフィースに頼み、希望の場所でピックアップしてくれる。
 
歩いた年月日 
2003.1.27〜1.30


コース
 テ・アナウの市内から6kmほど離れたミルフォード・ロード(Milford Road)沿いのB&Bに泊っていたので、そこからバスに乗れるよう、DOCのオフィースに頼んでおいた。13:20バスが来る。全部で5人、殆どが午前中のバスで出発したようだ。約20分で ティアナウ・ダウンズ(Te Anau Downs)の船着き場に着く。
2時の出発まで船の中で待つ。インバカーゴ(Inverkagil)という地名のついた大きな船だ。続いてまたバスが来た。約40人ほどのガイド付きトランピングの人が下りてきて一緒になる。
 1/3ほどは日本人。賑やかになった所で、船が出る。湖を進む内に前方の両サイドに2‐3日前に降った雪で白くなった鋭い山が見えてくる。ピークは雲の中で見えない。約1時間で登山口のグレイド・ウォーフ(Glade Wharf:波止場)に着く。



1日目Glade Wharf -(1h05min) Clinton Hut / Total 5km 1h05min (Standard1h-1.5h)
 
 ガイド付きのトランパー(Tramper)が波止場で賑やかに記念写真を撮っている中を出発する。2人並んで歩ける綺麗な道を進むと直ぐにガイド付きの人達が泊るグレイドハウス(Glade House)の前を通る。
この辺りで、デイウォークの人に次々と遭う。何回挨拶しただろうか、殆どが日本人だったような気がする

 
クリントン川が豊かに流れる川沿いを進む。
途中ドア・パス(Dore Pass)の表示を過ぎる。ドアー・パスとは舟に乗らずにミルフォード・ロード側から直接ミルフォード・トラックに入る峠があり、この峠を望むポイントのことだが、歩いているときは何を意味する標識なのか分からずに通り過ぎた。
Dore Pass展望ポイント

程なく、クリントン・ハット(Clinton Hut)に着く。綺麗な小屋だ、入口近くのバンク(Bunk:ベッ
ド)が空いていた。家内は下で私は上段。上段にチョットした低い柵があるだけなので、落ちそうで怖い。ここで落ちて怪我でもしたらサマにならないと慎重に昇り降りする。 
 曇りだが雪を乗せた白いアナウ山(Mt Anau)のピークが小屋の屋根越しに見える。時間もあるのでスケッチをする。虫除けの薬は塗ったがサンドフライがウンカの如く集まってくる。スケッチブックを持った左手の指が私の死角になることを良く知っていて、何箇所も食われる。たまらず小屋の中に逃げ込んで描き上げた
Clinton Hut からのアナウ山 (Mt Anau、1958m) 
スケッチ
 
 夕方、ワーデン(Warden:管理人)によるミーティングが行われる。これは、ケプラー・トラック(Kepler Track)の各小屋でも必ず行われた。天気予報は悪くならないと言う。日本人は私達の他に青年が1人、ニュージーランド人が5人、あとは全てヨーロッパから来た人達だった。ルートバーン・トラック同様、子供連れの家族が一組いた。
 夜中にバラバラという屋根を叩く雨の音で目を覚ます。予報とは大分話が違う。良くない天気の兆候にサンドフライに噛まれた指がまた痒くなった。 


2日目Clinton Hut -( 40min )North Branch River -(1h )View of Hirere Falls -(1.5h )
Bus Stop-(1h50min )Mintaro Hut / Total 16.5km 5h ( Standard 6h)

 朝起きた頃は小雨だったが、出発する頃には本格的な雨となる。谷の両側は、山が垂直に切り立っているが、氷河で削られたU字形の谷の為、谷底が狭まっていない。道はなだらかな広い道が続く。   
両側は絶壁で至る所から滝が谷に直接落ちている。山のピークは見えない。ノース・ブランチ・リバー(North Branch River:北の支流)の合流点に着く。水流が早く水深も深いが底まで透けて見える。
ヒレレ・フォールス(Hirere Falls)滝の
ビュー・ポイント(View Point)に来たが、雨のせいか至る所が滝になっていて、どれがその滝か分からない。北海道の層雲峡の滝や熊野の那智の滝を何十本集めても勝てそうもないほど滝が多く、高い落差だ。
Clinton River に落ちる滝

 更に進むと、案内板に明日越えるマッキンノン・パス(Mackinnon Pass)が見えると書いてある。しかし何も見えない。峠の形を想像するしかない。
谷は広いが、雨足が強くなったようで殆ど視界が利かなくなってきた。

ひたすら歩くと、バス・ストップ(Bus Stop)という避難小屋に着く。なぜこんな地名と思っていたが、広い平らな道はここまでということらしい。
既に靴や背中はぐっしょりと濡れている。小屋で休憩し慌しい昼食をとる。
雨の中、ひたすら歩く

 避難小屋を出ると直ぐ林に入る。苔と羊歯に覆われた密林の中で雰囲気は南国を思わせるが、気温が全然違う。不思議な世界だ。
途中ウェッカ(Wekka)という飛べない鳥のツガイに2度ほど会う。
ロビン(Robin)やトムティット(Tomtit)が親しげに寄ってくるが、雨が絶えず顔を流れ、のんびり見てる余裕がない。びしょびしょになりミンタロ・ハット (Mintaro Hut)に着いた。
 
 歩き馴れてきたせいか、または、雨で必死に歩いたせいか、早く着く。雨具を着ていても全身
ずぶ濡れ同然。着替えをし、ストーブの周りに干す。全員が小屋に入った頃はストーブの周りは濡れた衣類と靴で隙間のない状態になる。
ザックは防水のザックカバーをしていたが、背中
からしみこんだ雨がザックの中で水溜りになっている。幸い中のものは全てを防水の袋に入れていたので、濡れずに済んだ。
 
夕食時、ニュージーランド人のグループと同じテーブルになる。57歳と65歳と67歳の兄弟と
その奥さん1人と娘1人の5人連れ。「上の兄2人が50年前に ルートバーン・トラックを歩いたのを記念して、今回、兄弟揃ってミルフォードを歩いている。2月にはルートバーン・トラックを歩く」と言って、楽しそうに説明してくれた。我々夫婦に心地よい刺激を与えてくれた。


3日目 Mintaro Hut ‐(1h40min) Mackinnon Memorial -(30min)Mackinnon Pass
Shelter -(2h40min)Quintin Hut -(1h20min)Sutherland Falls往復 -(1h )Dumpling Hut / Total
14km 7h10min (Standard 7.5h)


 昨日の天気予報の掲示は大体晴れとあったが、夜通し雨、朝小降りになるが山のピークは見えない。乾かしていた衣類はまだ一部濡れているが、それに着替え、夜着ていた服はザックにしまう。
 

小屋を出発し、直ぐにジグザグの登りになる。ガスの切れ目に昨日歩いて来たクリントン・リバーの谷が時々見えるが見えるのは山肌までだ。雨は止んだが視界は登るにしたがって悪くなる。
Mackinon Pass への登り、ガスの合間に、歩いて来たClinton River の谷が見える

 ジグザグの登りが終わり、十字架の付いたモニュメント(Monument:記念碑)に着いたが。4〜5m先はもう何も見えない。

マッキノン・パス(1073m)の展望に立つが足元がスパット切れており、ガスの中にすーと落ちて消えていくような気がして気持ちが悪い。ここでもキーア(Kea)のツガイが餌をねだる。
十字架のモニュメント、何にも見えない

多分晴れなら素晴らしい展望になるはずの尾根筋を歩き、ミルフォード・トラックで一番高い標高の表示を過ぎて、マッキンノン・パス・シェルター(Mackinnon Pass Shelter)に着き休憩をとる。
Milford Track 最高所、
後ろ・霞んでいるのは マウント・バルーン(Mt Balloon)の壁
 Shelterを出た辺りから少しガスが晴れ始め、マウント・バロン(Mt Ballon、1853m)直下の垂直に落ちた壁の下に向かって歩いていることが分かる。
 雪崩れの恐れのある場合は、壁下の道を避けるルートが別に用意されていた。     
少し見えたエリエット山 (Mt Elliet、2003m) と 右・Mt Balloonの壁
 
 
壁の下に下りてからも、谷沿いにどんどん下りる。何時の間にか周りに木が多くなり、次第に苔と羊歯に覆われた林に入る。昨日見た苔と羊歯の林よりも、今日の方が凄い。見える所全部が苔で覆われている。屋久島でも感じたメルヘンの世界をここでも感じる。
すっぽり苔で覆われた木と羊歯の林
 
 下りは更に続き、これでもか、というほど延々と木の階段を下りて、ようやくガイド付きのトランパー が泊る クイントン・ハット(Quinton Hut)に着く。インデペンデント・トランパー用には、小屋とは別に休憩所が設けてあり、ここで昼食。

ミルフォード・トラックの峠越えのハイライトは大部分がガスの中で終わってし
まったが、これも1つのミルフォード・トラックで、忘れ得ない思い出となったと自分に納得させる。
 
 休憩所にザック置き、サザーランド・フォールス(Sutherland Falls)の滝を見に行く。ゆるい登
りを歩いて行くと、途中からゴーゴーという音がだんだん大きくなり、目の前にドーンと真上から落ちてくる滝が見え出す。
 滝の高さは580mもあるらしい。遠くから滝の全景は撮れるが、近づくと、滝の下のほんの一部しか視野に入らないし、水しぶきが凄く、カメラを構えられない。滝の裏に回れるらしいが、パンツひとつになる勇気もなく、引き上げる。
遠くから見るSutherland Falls
Sutherland Falls
休憩所から、元のトラックに戻って歩き出して間もなく、左手に、この滝の遠景を見ることができた。
滝の上は湖になっていて、直接湖から流れ落ちているそうだ


道は平になり、とんとんと快調に歩く。平な木道に出て直ぐダンプリン・ハット(Dumpling
Hut)に着く。
ビジターノートを見ていると、エーベル・タズマン・コースト・トラック(Abel Tasman
Coast Track)で一緒になった横浜の夫婦のメモを見つけた。あの時聞いた話が書いてある。「2日目は猛烈な雨で道が川となって通行できなくなり、クリントン・ハットから全員ミンタロー・ハットまでヘリコプターで送ってもらった。三日目は思いもよらず快晴で素晴らしかった」、とある。場合によってはヘリコプターまで使ってトランパーを次の小屋まで送り出すDOCの徹底ぶりに感心する。
 
 夜、暗くなると、小屋に着く前に渡った木道の土手(小屋から行って左側)で、数は多くない
が、土ボタルを見ることができた。希望すればWarden が案内してくれる。
 
 今夜はフランス人男性のイビキが凄い。どういうわけかエイベル・タズマン・コースト・トラックでも、とて
つもないイビキをかいたやつはフランス人の男だった。
 


4日目Dumpling Hut -(3.5h)Giant Gate Falls -(2h10min)Sandfly Point / Total 18km
5h40min (Standard 5.5h-6h)

 今日は到着点のサンドフライ・ポイント(Sandfly Point)から舟に乗ってミルフォード・サウンド(Milford Sound)へ移動しなければならない。船の時間は決まっていて、遅れたら大変なので、今朝は、いつもと違い足の遅い年寄りや子供連れから先に小屋を出て行く。我々も7時半に出発。
 少し日差しも見えるが山のピークは相変わらず見えない。平らな道をどんどん歩く。ジャイアント・ゲイト・フォール(Giant Gate Falls)に着き、滝を見るがさほどでもない。ただ、川の水が緑がかった明るい透明で素晴らしい。ベンチがあり、ここで昼食。

竿を持った人
がいるので聞くと、山ではなく釣りにきていると言い、川に行き竿を指す。水が綺麗過ぎて魚はいないと違うか、と女房と話しながら少しの間、何が釣れるか眺めていたが、アタリも無さそうなので先に進んだ。
Giant Gate Falls の橋の上から

 トラックの終了点のサンドフライ・ポイントに着く。休憩小屋があり、トラックの終了を示すゲイトがある。子供達が最後に到着し、全員拍手で迎える。4日目はひたすら歩くだけのやや変化に乏しいコースであった。
 それにしてもサンドフライ・ポイントというだけあってサンドフライ の数が凄い。ぶつかってくるほどいる。ニュージーランドには、猛獣や蛇の類がおらず安心して山を歩けるが、サンドフライ というこの虫にはまいる。もしこいつがいなければ、更に数倍素晴らしい国になったのにと思う。 
トラック終了点、サンドフライ・ポイント

 船に乗り、3年前に観光で来たミルフォード・サウンド(Milford Sound)に着く。前に来た時は雨で全然見えなかったマイター・ピーク(Mitre Peak)の尖った形がぼんやり見える。何とか3年越しの欲求不満が解消できた。ただ右側に見えるボーウェン・フォール(Bowen Falls)は3年前の11月に来た時より水量が少なく迫力がないように思えた。雪解けの頃が良いようだ。
 
沢山のバスの中から自分の乗るバスをやっと探す。クイーンズタウンまで行くバスだ。

ホーマー・トンネル(Homer Tunnel)をくぐる前のS字道路を走る車窓からの眺めは、やはり素晴らしい。周りの全部の山がのしかかってくるような感じで、通るのは2度目だが再びその迫力に圧倒された。ただ、前に通った時は雨で、周り全部から猛烈に滝が落ちていた記憶があり印象が少し違う。
 
 その時々の気候で変化する自然の姿をただ1度来て、良いとか悪いとか言うのも無理な話だ
と、文章を書きながら思う反面、一度でも経験したことは事実だから、それはそれで大切にすべきだと考えたりする。

 ザ・デバイド(The Divide)で、ルートバーン・トラックを下山してきた10人ほどを乗せる。約2時間
バスに乗り、ミルフォード・ロード(Milford Road)からの景色を楽しみ テ・アナウ の6Km手前のB&Bで下ろしてもらう。4日間行動を共にしたトランパーに手を振り別れる。


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