飼育に必要なもの

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オカヤドカリを飼育するために必要なもの

飼育容器

砂(床材)

貝殻

保温器具

水入れ

シェルター

温度計と湿度計


その他









飼育容器
 木登りをするなど多少立体的な行動をとることもありますが、基本的にオカヤドカリは地面を歩き回って暮らす生き物です。
昼間は寝ていることが多いのですが、夜間は活発に活動しますので、動き回れるだけの充分な広さを持った飼育容器を用意してください。
水入れやシェルターを設置して、なお活動スペースを確保するには、最低でも40cm以上の容器が必要です。
小さな容器でも上手く管理すれば長生きさせることもできますが、初心者は大き目の容器を用意された方が楽ですし、結果も良いと思います。
容器が小さいほど飼育の難易度は高くなります。


おすすめは水槽

 オカヤドカリの飼育容器としては観賞魚用の水槽やプラスチックの飼育容器(プラケース)が一般的です。
特に湿度の高い環境を好む、ナキオカヤドカリやムラサキオカヤドカリを飼育するには開口部が上部だけの水槽のような容器が適しています。
小動物用の金網ケージや爬虫類用に売られている側面にスリットの入ったケージなどは、通気よりも保湿が優先されるオカヤドカリの飼育には向きません。
観賞魚用の水槽には、ガラス水槽とアクリル水槽がありますが、砂を大量に入れるオカヤドカリ飼育には、傷がつきやすいアクリル水槽よりガラス水槽をおすすめします。
もっとも普及している45cmや60cmの規格品が安価で使いやすいでしょう。
あまり大きな水槽だと、後々のメンテナンスが大変になりますので、導入にあたってはそれなりの覚悟が必要です。
水槽の場合、脱走防止のためのきっちりとしたフタがついていませんので、別に購入する必要がありますが、規格水槽なら専用サイズのフタも多く出回っていますので、その点も便利です。


手軽さならプラケース
 安価で丈夫なプラケースはもっとも手軽な飼育容器といえます。
ぴったりと締まる蓋が付いていますし、軽く扱いやすいので、子供に世話をまかせても安心です。
ただし、あまり大きな物がありませんので、飼育できる数は限られます。
長辺が40cm程度のタイプで、中型の個体2〜3匹が限度でしょう。

水槽やプラケースは使用する前に軽く水洗いしてほこりなどを落としておきます。
洗剤は小さな生き物にとっては、非常に毒性が強いので、絶対に使用してはいけません。


衣装ケース
また、積極的におすすめはしませんが、コンテナ型の衣装ケースという選択肢もあります。
不透明なので観察には不向きですが、何よりもその底面積の広さは魅力です。
大きさの割には軽くて丈夫なので、工夫次第で面白い飼育容器になります。
もともと、しっかりと閉まるフタが付いていますので、一部を切り取って網戸用の網などを張るといいでしょう。
ただ、生き物を飼育する目的で製造された物ではありませんので、成型時に使用した剥離剤がそのまま付着しています。
オカヤドカリに対してどの程度の害があるのかはわかりませんが、私はぬるぬる感がなくなるまでスポンジで徹底的にこすり洗いしています。



直射日光を避ける
 プラケースなら、砂を入れてセッティングしてからも、移動は可能ですが、水槽の場合砂を入れてしまうと移動は困難です。
60p水槽には20s程度の砂が入りますので、持ち上げると水槽が破損することもあり大変危険です。
まず置き場をしっかりと決めてからセッティングをしてください。
置き場所としては、当然のことですが重量に耐えられる安定した台が必要です。
天板の薄い家具などの上に置くと、重みで変形して水槽が破損することもあります。
また
直射日光のあたる窓際などに容器を置くことは絶対に避けてください。
トカゲやカメと違い、夜行性のオカヤドカリに日光浴はまったく必要ありません。
気密性の高い容器に直射日光を当てると、短時間で急激に温度が上昇し大変危険です。
オカヤドカリは南国の生き物ですが、極端な高温にさらされると、口から体液を吐いて死んでしまいます。

部屋の真ん中もNG
 オカヤドカリは非常に臆病で神経質な生き物です。
四方が透明なケージを部屋の真ん中に置くと、常に回りを警戒して暮らさなければなりません。
これでは生体に大変なストレスをかけることになってしまいます。
また、オカヤドカリは透明なガラス面を壁として認識できず、先に進もうとして延々とガラスを引っ掻いていることがあります。
そんな姿は見ていて、とても痛々しいものです。
飼育容器は部屋の隅に置き、できれば前面以外の3面にはスクリーンなどを貼って目隠ししてやると良いでしょう。
オカヤドカリは緑色を好むという実験結果がありますから、緑色のスクリーンを選んでやると、生体にはより優しいかもしれません。
発泡スチロールなどの断熱板をスクリーンの代わりに貼ってやると保温効果もあって一石二鳥です。
特に冬場にはおすすめです。


緑色のバックスクリーンは
オカヤドカリにやさしい


詰め込み飼育はダメ
 以前、ある通販業者が、「オカヤドカリは群れで暮らす生き物なので一度にたくさん飼うのが良い」という情報を流したことがありましたが、まったくのでたらめです。
確かに繁殖期の海岸には、多数のオカヤドカリが集まっていることがありますが、それはあくまで「集まり」であって、哺乳類や鳥類、あるいはミツバチなどのような、いわゆる社会性を持った「群れ」とは概念がまったく異なります。
ただ集まっているだけのオカヤドカリにとって、回りの同類は仲間ではなく、単なる「障害物」、あるいは「食べ物」、良くて「その場限りの交尾相手」にすぎません。
そのような生き物を、小さな容器に何十匹も詰め込んで飼育すればどんな事態になるかは、説明するまでもないでしょう。

60cm水槽に5匹が限度!
 具体的な飼育数としては、45p水槽で前甲長10o前後の中型個体が2匹、60cm水槽では5匹が限界です。
Lサイズなどという表示で売られている大型の老成個体なら、さらに飼育できる数は少なくなります。
2005年の1月に京都で、とれもろさん(ハートミットクラブ)、caveさん(偏屈の洞窟)、プアマリナさん(Decapodjournal)ら、経験豊富な飼育家の方々と同席させていただく機会があったのですが、「60cm水槽に5匹が限度」というのは、席上皆さんの一致した見解でした。



フタは必需品
 オカヤドカリの飼育容器にフタは必需品です。
オカヤドカリの歩脚の先端には鋭い爪があって、これを引っ掛けて高いところにも平気で登ります。
さすがにガラス面を垂直に登ることはできませんが、水槽のコーナーを接着しているシリコンや流木などのアクセサリーを利用して簡単に脱走してしまいますので、フタは常にしっかりと閉めておいてください。
プラケースには元々しっかりと閉まるフタがついていますので問題はありませんが、水槽の場合は小動物用に別売りされているメッシュのフタを購入してください。
角材などで枠を組んで網などを張った物で充分ですので、自作するのも良いでしょう。
ただしフタを乗せておくだけでは、簡単に押し上げて外に出てしまいます。
我が家でも、以前放幼ケースに収容していた中型のナキオカヤドカリが、重石に乗せたこぶし大の石をものともせず脱走してしまったことがありました。
現在、メインの水槽には、水を入れた2リットルのペットボトルを2本乗せていますが、さすがにこれだと、大型のムラサキオカヤドカリでも歯が立たないようです。



協力して脱走をこころみる
ムラサキオカヤドカリのコンビ
こんな知恵(?)もあるので油断は禁物


湿度が大切
 
フタにはもうひとつ、温度と湿度を保つという、重要な役割があります。
温度については、保温機器の項で触れますので、ここでは湿度についてのみ述べることにします。
当サイトで飼育法を紹介している、ナキオカヤドカリやムラサキオカヤドカリは特に湿気を好む種類ですから、砂上は常に70%の湿度をキープする必要があります。
夏場は充分に多湿ですから、風通しの良い網蓋で問題ありませんが、エアコンを使用する時には飼育容器にビニールシートや毛布などをかぶせて、容器内の乾燥を防ぐと共に急激に温度が変化しないように注意します。

湿度管理がもっとも大変なのは冬場です。
元々湿度が低い気候に加えて、ケージ内をヒーターで加温しますので、通気性の良いメッシュのフタだと、たちまち乾燥してしまいます。
これを防ぐために、冬場はできるだけ容器の気密性を高める工夫が必要になります。
ガラス板やアクリル板を用意できるのであれば、それに交換すれば良いのですが、充分な厚みのアクリル板は結構高価ですし、ガラス板は割れやすく扱いが大変です。
手軽なのはメッシュのフタにビニールやラップを貼り付ける方法ですが、保湿に関してならそれで充分な効果が得られるはずです。
ケージ内の蒸れを嫌う愛好家もいますが、乾燥した内陸に棲む外国産の種類ならともかく、国産のナキオカヤドカリ、ムラサキオカヤドカリに限って言えば、通気をよくして乾燥させてしまうより、少々蒸れ気味でも保湿を優先した方が良い結果が得られます。

ただし、飼育容器の中は常に清潔にするように心掛けてください。
高温多湿の容器内では食べ残しやフンはすぐに腐ってアンモニアなど有害なガスを発生させます。
オカヤドカリは鰓や腹部を濡らすことによって水に溶け込んだ酸素を取り込みます。
容器内に有害なガスが多くなると、鰓や腹部にためた水に溶け込んで呼吸障害を引き起こす危険が生じます。
一日一度は換気も兼ねて、容器内の食べ残しやフンを取り除くよう習慣付けてください。
有害なガスを吸着するゼオライトや活性炭などを活用するのも効果的だと思います。

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床材(砂)

 飼育ケージの床材としては、砂を用いるのが一般的です。
厚く敷き詰めた砂には、ケージ内の温度や湿度が急激に変動することを防ぐ効果があります。
また暑さや寒さ、乾燥などの環境変化から身を守るために、オカヤドカリ自身も砂に潜り込みます。
底砂は飼育環境を安定させるだけでなく、オカヤドカリにとって大切な避難場所であり休息場所なのです。


底砂は脱皮床でもある

 
ナキオカヤドカリやムラサキオカヤドカリは、砂の中に巣穴を掘ってその中で脱皮をしますので、底砂は脱皮床でもあるわけです。
詳しくはこちらで説明していますが、オカヤドカリを飼育する上でもっとも気を使うのは脱皮時の管理です。
脱皮床である砂が適当でないと、大切なオカヤドカリを脱皮事故で死なせてしまう危険が大きくなります。
砂は単なるケージのアクセサリーではなく、飼育環境の基礎となる大切なアイテムなのです。
くれぐれも砂の選択は疎かにしないでください。


珪砂で充分

 とは言っても、特別な砂を用意する必要はありません。
結論を先に言えば、ありふれた「珪砂(石英砂)」で充分です。
珪砂とは、火山性鉱物である石英が主成分の白砂のことで、国内の砂浜で見ることができる白っぽい砂はほとんどがこの珪砂です。
場所によっては、火成岩の組成の関係で砂が黒っぽく見えることもありますが、安定した鉱物性の砂であれば問題なく使用できます。
珪砂はサンゴ砂などに比べて比重が大きいため、水分を含ませると自重で適度に締まるという特徴があります。
先に述べましたが、オカヤドカリは砂の中に巣穴を掘って、その中で脱皮をしますので、保水性がよく、崩れにくい巣穴を掘ることができる珪砂は、脱皮床としても優れた砂だといえます。


砂の厚みは15cm以上

 生息地での調査では、小型のナキオカヤドカリでも10p以上の深さまで潜りこむことが確認されています。
飼育下でも、最低10cm、できれば15cm以上は敷き詰めてください。
60cm水槽に15cmの厚みで敷き詰めるには、およそ20kgの砂が必要になります。
取り扱うにはたいへんな量ですが、底砂が脱皮床を兼ねていることを考えれば納得できると思います。
もちろん飼育環境が許すなら、もっと多くてもかまいません。
実際に、大型の個体を飼育していると、15cmでは少なく感じるはずです。


砂の採取は常識的に
 珪砂はどこにでもあるありふれた砂ですから、海岸で採取すればいいでしょう。
本来、自分の所有する土地以外で、勝手に土砂を採取することは禁じられていますが、ダンプカーで乗り付けるのならともかく、愛好家が水槽に入れる程度の砂を持ち帰ることを、厳しくとがめられることはないと思います。
ただし採取する際は常識的で節度ある行動を取るようにしてください。
景勝地などに指定されている浜辺での採取は慎むべきです。


購入するなら川砂
 海に行く機会がない、また運搬手段のない飼い主は、ホームセンターで売られている川砂を購入すると便利です。
18kgか20kg入りが普通ですから、一袋あれば60cm水槽に必要な量はほぼ賄えます。
値段も200円程度と手頃です。
ただし、採取場所によっては泥が混じっていますので、使用前に米を砥ぐ要領で濁りが出なくなるまでよく洗ってください。
重い砂を洗うのは大変な作業ですが、ここで手を抜くと後々飼育個体の状態を落とすことになりかねません。
また、ホームセンターには川砂と共に山砂が置かれているかと思いますが、山砂は砂粒の角が立っているためオカヤドカリの外殻を傷つける危険があります。
砂場用の砂も、薬品による消毒や抗菌が施されていることが多いので使わないほうが無難です。


海砂は洗うべきか?
 採取してきた海砂を洗うかどうかは、採取場所や採取状況によります。
塩分を含んだ砂はオカヤドカリには有害なので、波打ち際で採取した砂は良く洗ってください。
海から離れた場所の乾燥した砂は、雨に洗われて比較的きれいな場合があります。
洗う必要があるかどうかを判断するには、採取してきた砂を洗面器にひとつかみほど入れ、水を入れて軽く掻き回してみると良いでしょう。
私は、アクが浮いたり水がひどく濁ったりするようなら洗いますし、水が濁らなければそのまま使用しています。
洗った砂はよく水を切って乾燥させます。
大量の砂を完全に乾かすのは大変ですが、できれば天日に干してさらさらになるまで乾燥させるとより清潔に使用できるでしょう。


砂の湿り具合は?
 砂は湿らせて使用しますが、どの程度湿らせるかで悩まれる愛好家も多いと思います。
簡単に説明するのは難しいのですが、じくじくと水が滲み出すようでは濡れすぎですし、さらさらでは砂が締まらず巣穴を掘ることができません。
この巣穴を掘れるかどうかというのが、ひとつの目安になります。
海水浴場で砂山を作りトンネルを掘って遊んだ経験は誰にでもあるでしょう。
あの、崩さすにトンネルを掘ることができるギリギリの湿り具合をイメージしながら調節すると上手くいくと思います。
くれぐれも濡らし過ぎないように注意して下さい。
乾きすぎなら水を加えれば良いだけですが、濡らし過ぎると後が大変です。

砂は必ず真水で湿らせてください。
オカヤドカリは脱皮後、体表 から浸透圧を利用して水分を吸収し、身体を膨らませます。
砂を海水で湿らせると、回りの砂の塩分濃度が体液よりも高くなり、逆に水分を奪われて脱水症状を起こして死亡する危険があります。


砂粒は1mmくらいが扱いやすい

 
砂であれば、粒子が細かくても特に問題はありませんが、あまり細かすぎると洗うのが面倒です。
オカヤドカリには快適で飼い主にとってメンテナンスの容易なサイズということになると、およそ1mm程度、ゴマ粒よりやや小さ目くらいが理想的です。
それ以上だと、締まりが悪く巣穴が崩れやすくなります。
小石や粒の粗い砂が混じっているようなら、採取の際に細目のふるいにかけて粒を揃えておくと良いでしょう。  
              

みーばい亭で使用している珪砂

サンゴ砂

 以前はサンゴ砂といえば、マリンアクアリウムのろ材として使用される粒の粗いものか、装飾用のパウダーくらいしか流通していませんでしたが、最近では、オカヤドカリ飼育にも使える細かいサンゴ砂が手に入りやすくなりました。
現在、愛好家の間ではこのようなサンゴ砂が主流になっているようです。
ただ、サンゴ砂はケイ砂に比べると軽く、締まりが悪いため、脱皮用の巣穴が崩れやすいように思えます。
生息地の南西諸島でも、多くの砂浜がケイ砂にサンゴの欠片や砕けた貝殻の混じった混合砂ですし、サンゴ砂の浜でも昼間オカヤドカリが潜んでいる茂みの下などはケイ砂や土の地面です。
多少、見栄えは悪くなるかもしれませんが、サンゴ砂を使用されるのなら、少し珪砂を混ぜた方が、脱皮床としては安定しますし、生息地に近い雰囲気を楽しむこともできると思います。

余談になりますが、数年前、「宮古島の白砂」と称した違法採取の砂がインターネットのオークションサイトで販売されていたことが問題になりました。
おそらくこれは氷山の一角だと思います。
一時に比べると少なくなりましたが、ネット上には悪質な通販業者も存在します。
このような犯罪行為に加担しないために、出所のはっきりしないサンゴ砂などは購入しないようにしてください。

ちなみに愛好家の中には、洗ったサンゴ砂を乾かすために、フライパンで焼く方がおられるようですが、ご存知のようにサンゴ砂の主成分は炭酸カルシウムです。
炭酸カルシウムは加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに分離します。
酸化カルシウムとは即ち生石灰です。
まあ、家庭用のガスコンロとフライパンを常識的に使用する限り、そこまでの高温に達することはないと思いますが、漆喰やセメント原料を作る目的でなければ、サンゴ砂を焼くのはおすすめしません(笑)


オカヤドカリが多数棲息する
沖縄県の某海岸
サンゴのかけらがたくさん混じっているが
砂自体は細かい珪砂だ


沖縄県某所で採取した砂のサンプル
砂に含まれるサンゴの比率は海岸によって様々で
中にはこのようにほとんどがサンゴ砂の場所もある
これくらい粒ならオカヤドカリの床材としては使えるが
やはり細かい珪砂を混ぜた方が脱皮床としては安定するだろう


ゼオライトがおすすめ
 サンゴ砂には気体分子を吸着する性質がありますから、底砂に混ぜることによって、多少の消臭効果は期待できます。
しかし、ケージ内の消臭という目的で使用するのなら、サンゴ砂よりはるかに効果の高いスグレモノがあります。
ゼオライトです。

ゼオライトとは簡単に言えば、結晶中に分子レベルの微細孔を持つ粘土です。
天然に産出するものや人工的に合成されたものなど、多くの種類があり、様々な分野で利用されています。
園芸用に売られている珪酸塩白土も、ゼオライトの一種です。
ゼオライトには様々な効用がありますが、そのメカニズムについては私も専門記事の受け売りでしか説明できませんので、ここでは具体的な効用の一部だけを抜き出しておきます。

・水質、土壌の浄化
・重金属、不良ガスなどの除去
・ミネラル分の補給
・消臭
・保温、保湿
・静菌

実際にこれらの効用を立証する術は持ちませんが、少なくとも飼育容器内や砂の消臭には抜群の効果を発揮していますし、生体の状態も良好です。
使用量としては底砂全体の5%ほどで充分でしょう。
あまりたくさん混ぜると巣穴が崩れやすくなります。
我が家では最初、底砂の下に敷き詰めていましたが、オカヤドカリがほじくり返して、結局混ざってしまいますので、現在では適当にばら撒いています。

オカヤドカリは鰓や腹部で水を介して空気中の酸素を取り込みますので、食べ残しやフンが腐敗した際に発生するアンモニアなどの有害なガスが呼吸用の水に溶け込むと呼吸障害を起こす危険があります。
特に保温のためにケージ内の気密性を高める冬場は有害なガスを吸着するゼオライトの使用をおすすめします。


これはネコのトイレ用
店頭にはペット用 園芸用など様々な用途のものがあるが少量だと割高  
ネコはもちろん園芸用としても重宝するので 大袋を購入した方がお得だろう

その他の床材

オカヤドカリの生息環境を考えると、床材に土や腐葉土などを使うのもひとつの方法です。
我が家でも、試験的にヤシガラ土を試してみたことがありましたが、何個体もが無事に脱皮を終えましたので、床材として使用するのに特に問題はないようです。
ただ、維持管理の手間を考えると、わざわざ砂以外の床材を使うメリットはあまり無いと思います。

コラム 床材のバクテリアは有用か? 

オカヤドカリを飼いはじめた当初は砂の臭いが気になると思いますが、しばらくするとだんだん落ち着いてくるようです。
これは床材の砂に大量のバクテリアが繁殖して、フンや食べ残しを速やかに分解するためだと思われます。
こうなると無臭とは言いませんが、臭いはあまり気にならなくなります。
この状態をキープできるのなら、大変な思いをして砂を洗う必要はないでしょうし、むしろ砂を洗ってバクテリアを流してしまうことは逆効果かもしれません。
実際に、爬虫類や両生類の愛好家の中には、フンや食べ残しの処理は床材中のバクテリアに任せて、洗ったり交換したりしなくてもビバリウムを良好な状態でキープしている方もおられます。

面倒な砂洗いから開放されるのなら、飼い主にとっては願ってもないことですが、オカヤドカリ飼育にはどうでしょうか?

洗って天日に干したきれいな砂でも、適度な湿り気と有機物が供給される飼育容器内ではすぐにバクテリアが発生します。
これは無菌室で飼育しない限り防ぎようがありません。
バクテリアが発生した砂は、食べ残しやフンはもちろんオカヤドカリの死骸でもきれいに分解してくれますから、ある意味では有用だといえます。
ただし爬虫類と大きく違うのはオカヤドカリが鰓呼吸をする生き物だということです。
バクテリアが有機物を分解する過程で発生するアンモニアや硫化水素など有害なガスが鰓内の水に溶け込むと、呼吸障害をおこす危険があります。
オカヤドカリが化学物質に弱いといわれる所以です。
特に保温のためにケージの気密性を高める冬場は、大量の有機物を大量のバクテリアがどんどん分解する・・という環境はオカヤドカリにとってたいへん危険だといえるでしょう。
そうかといって砂を無菌状態に保つことは不可能ですし、オカヤドカリが生きている限り餌も食べればフンもします。
愛好家それぞれも考えもあり、この問題は突き詰めるとけっこう難しいことですが、結局の所大切なのは「バランス感覚」ではないかと思います。
要するに、あまり汚しすぎることもなく、あまり神経質に砂を交換することもなく、ほどほどの状態を保つということです。
具体的には、日に一度は容器内の換気を兼ねてフタを開け、目に付く食べ残しやフンはできるだけ取り除きます。
そうしておけば砂洗いは数ヶ月に一度、全体の3分の1くらいを交換するだけで充分でしょう。
もちろん脱皮モードの個体がいれば無理に洗う必要はありません。
私の経験では半年くらいまったく洗わなくても別に問題はありませんでした。
更にいえば、表面はさらさらに乾いているけれど少し掘ると巣穴が掘れるくらいに適度に湿ってしっかりと締まっている・・と、いう環境が維持できれば理想的なのではないかと思います。
砂洗いは飼い主にとっても大変な仕事ですし、オカヤドカリにとっても大きなストレスになります。
あまり神経質にならずに「ほどほどの状態」を保つこと。
これがオカヤドカリと長く付き合うコツではないでしょうか。

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貝殻

 ヤドカリ類の多くは、貝殻を背負うという特異な習性を持っています。
これが「ヤドカリ(宿借り)」と呼ばれる所以です。
中にはイガグリホンヤドカリのように自らの成長に合わせて大きくなる、イガグリガイ(腔腸動物)のコロニーを殻として利用するという、素晴らしい共生関係を確立した種もありますが、これはごく幸運な例外です。
ほとんどのヤドカリは死んだ貝の殻を利用しますので、成長に伴って宿貝を交換しなければなりません。
もちろん、オカヤドカリも同様です。
貝殻を捨てて巨大化の道を選んだヤシガニを別にすれば、オカヤドカリ類にとって宿貝は大切な体の一部と言えるでしょう。


陸上に貝殻は少ない
 カタツムリなど陸貝と呼ばれる一部の種類を除けば、貝類は基本的に水生動物です。
つまり、陸上で貝殻を見つけることは非常に困難なのです。
実際自然界のオカヤドカリを観察すると、まともな貝殻に入っているほうが珍しいくらいで、大抵は小汚いぼろぼろの貝殻を利用しています。
ビバリウムという発想で飼育環境を整えるのであれば、磨きをかけたようなピカピカの貝殻より、使いこんだ古い貝殻を着せておく方が、より自然の状態に近い姿を楽しめるのではないでしょうか?


オカヤドカリの好む貝殻
 沖縄県教育委員会発行のオカヤドカリ生息調査報告「あまん」によると、オカヤドカリ類の宿貝として確認された貝は249種にも上るそうです。
オカヤドカリの種類や生息場所によって利用する貝にも違いがありますが、大まかに紹介すると、上陸したての稚ヤドカリではウミニナ類、前甲長3o〜9oに成長するとオキナワヤマタニシが多くなり、9oから12mmではウスカワマイマイやアマオブネ、12oを超えるとチョウセンサザエが中心になるとのことです。

飼育下で人気の貝殻
手前中央は上陸個体が最初に着たもの
貝殻交換は楽しみのひとつ
 古い貝殻で充分とはいっても、貝殻交換の様子を観察するのは、陰性の強いオカヤドカリの飼育においては大きな楽しみです。
自然下では慢性的に貝殻が不足していますので、適当な貝殻を与えてやると競って殻交換をします。
新しい殻を得て飼育環境に慣れてくると、貝殻交換をする頻度も少なくなりますが、小型の若齢個体は、短いサイクルで脱皮を繰り返してどんどん大きくなりますので、成長に合わせた貝殻を常に用意しておく必要があります。


ムラサキオカヤドカリはきつめが好き
種類や性別、大きさによって、好みの宿貝のサイズが違います。
若齢個体は一般に大きめの貝殻を選ぶことが多く、大きな貝殻を手に入れた個体は、体を貝殻に合わせるために頻繁に脱皮を繰り返し、急激に成長します。
ナキオカヤドカリやムラサキオカヤドカリのメスは、体に合ったサイズを選ぶことが多いのですが、ムラサキオカヤドカリのオスの成体は、小さめの貝殻が好みのようです。
中には、腹部がかろうじて隠れるくらいの貝殻を利用している個体も見られます。
普通オカヤドカリは危険を感じると貝殻の中に入り、鋏脚でぴったりと蓋をしてじっとしているのですが、ごく小さな貝殻に入った個体は、驚くと貝殻を捨てて裸で逃げていくことがよくあります。
その後どうするのかまではなかなか確認できないのですが、貝殻を捨てるという行為は、オカヤドカリにとって決して良いことではないはずです。
私は海岸でオカヤドカリを観察するときは、できるだけ驚かせないようにそっと歩くことを心がけています。


ヤマトホンヤドカリの場合
海棲のヤドカリ類でも、この貝殻を捨てて逃げるという行動はしばしば見ることができます。
以前、海中で殻を脱ぎ捨てたヤマトホンヤドカリを追跡したことがあるのですが、その時は穿孔性の貝類が掘った岩穴に腹部から入って、鋏脚で蓋をするという、まるでカンザシヤドカリのような行動を観察することができました。
ヤドカリにとって宿貝は体の一部だと述べましたが、このように貝殻への執着の薄い個体は、貝殻を捨てるという次なる進化の可能性を秘めているのかもしれません。

オスのムラサキオカヤドカリは
こんな小さな貝殻を利用していることが多い

ヤマトホンヤドカリ
水温変化や水質に敏感で長期飼育は非常に難しいが
 ヤドカリ好きには魅力的な種だ


貝殻は海岸で探すのが基本

 貝殻の入手については、いくつかの方法がありますが、海岸で拾い集めるのが基本ではないかと思います。
日本は細長い島国ですから、どんな内陸にお住まいでも、電車や自動車を利用すれば数時間で、どこかの海岸に出られるはずです。
殻交換の様子を思い描きながら、オカヤドカリの好みそうな貝殻を探すのは、とても楽しいものですし、生息地以外であっても海岸の様子を肌で感じることはオカヤドカリ飼育にとって必ずプラスになると思います。

巻貝の多くは、海藻の繁茂した岩礁域に生息していますので、海水浴場のような砂浜よりも岩場やゴロタ浜の方が狙い目です。
岩場の間に砂や小石が堆積したポケットビーチを見て回れば、サザエ、スガイ、クボガイ、アマオブネなどは比較的簡単に集められるでしょう。


食用貝を利用する
 食用として売られている貝の中にも、宿貝として利用できるものがいろいろあります。
代表はサザエです。
我が家のオカヤドカリは、ある程度まで成長すればすべてサザエに入ります。
太平洋産の大粒でトゲトゲのものより、日本海産の小粒のトゲの少ないものがオカヤドカリ用としては適しています。
ちなみに味も小粒の方が良いです。
他に、ミクリガイなどが「ツブ貝」として売られていることもありますし、コシダカガンガラやバテイラも時折見かけます。
加工惣菜として売られている南洋産のベンガルバイや、輸入食品店で見掛けるエスカルゴも宿貝として利用できそうです。
これらの貝はもちろん中身を食べた後の貝殻を利用するのですが、中に肉などが残っていると腐ってひどい悪臭を放つので、しばらく土に埋めておくと良いでしょう。
夏場なら一ヶ月ほどで、完全に分解し臭いもなくなります。
急ぐのであれば、よく煮て中身を完全に取り出し、ブラシでこすり洗いすれば大分ましになります。


ポケットビーチをいくつかまわれば
様々なサイズのサザエ殻が見つかるだろう
前甲長が10oを超えた後は終生サザエ殻で事足りる

みやげ物でもおなじみのベンガルバイ
これは醤油煮で売られていたもの
食用の物を探した方がずっと安上がりだ

ピカピカの貝殻には注意
 もちろん、海辺の売店などで売られている貝殻なども利用できますが、処理に薬品を使用している可能性がありますので、一度しっかりと水洗いしてください。
実際、管理人が以前買った貝殻の中から薬品臭のする粉末が出てきたことがありました。
個人的な意見ですが、あまりにもピカピカに磨きあげられた貝殻は、見た目も不自然で生体にも飼い主にもストレスになるように思います。
沖縄産のオカヤドカリに北陸産のサザエを着せるのはどうなのだ?という指摘もあるかもしれませんが、少なくとも薬品汚染の心配はありませんし、何より自分で苦労して探した貝殻に引っ越してくれたときの満足感は得難いものです


ペイント貝
 現在、ペイント貝を肯定する愛好家はいないと思いますが、 店頭では相変わらず見かけますので、一応私の見解を少し書いておきます。
まずオカヤドカリは、カルシウム補給のために、貝殻を小さく割って食べることがあります。
ペイント貝というのは、食べ物にペンキを塗るのに等しい行為なのです。
塗料の有害性や生体へのストレスも懸念されますが、それ以前に生き物を単なる玩具として扱うという非常識な発想自体、愛好家の一人としては到底容認できることではありません。
このような商品を販売し、生き物を玩具やインテリアとして扱うことを推奨するメーカーや業者には、強い嫌悪と憤りを感じます。


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保温器具

 オカヤドカリ類は熱帯から亜熱帯に掛けて分布する生き物です。
国内では主に、南西諸島や小笠原諸島などの亜熱帯域に生息しています。
本来の生息域ではない地域で飼育するには、ケージ内の温度を人工的にコントロールして、亜熱帯の温度環境を作り出す必要があります。
国産のナキオカヤドカリ(Coenobita rugosus)やムラサキオカヤドカリ(Coenobita purpureus)の場合、年間を通して20℃〜30℃の間、できれば最も活性が高くなる25℃前後の温度環境で飼育してください。
保温なしで飼育できるのは、九州以北だと夏場の数ヶ月間のみです。

 セントラルヒーティング完備の屋内、あるいは大型の温室の中に飼育容器を置くことができれば理想的ですが、そんな恵まれた環境を持たない一般の愛好家(管理人も含む)は、個々の飼育ケージの保温に腐心しなければなりません。
しかし、ヒーターを使って小さな飼育容器を安定した温度環境に保つのは、意外に難しいものです。
特に室内温度が10℃を切るような住環境では、個別に容器を温めて、理想的な飼育環境を維持することは、不可能だと言い切っても良いでしょう。
この頁では、室内の最低気温が5℃を下回ることもある、我が家の住環境をモデルにして、保温方法の一例を紹介しますが、これはあくまで「けっして快適ではないが死ぬほどでもない」妥協点だと考えてください。
安定した温度環境を維持するためには、エアコンを使って部屋ごと保温するのが最良なのは言うまでもありません。


飼育下では休眠させない
 ナキオカヤドカリやムラサキオカヤドカリは気温が20℃を下回ると極端に活性が低下します。
生息地である南西諸島では、冬場は落ち葉や石の下などに潜り込んで、休眠していると考えられています。
飼育下においても、気温が下がると砂の中に潜り込んで動かなくなりますが、そのまま保温せずに休眠させるのは危険です。
南方系の生き物であるオカヤドカリは、温帯性のヘビや昆虫などのように、体液の組成や生理機能を変化させて冬眠する能力を持っていません。
低温下で動かなくなったオカヤドカリは、冬眠しているのではなく凍えて動けないだけですから、そのままの状態が続けば力尽きて死んでしまいます。
このような生死のギリギリの状態を何ヶ月も維持することは、困難というよりも賭けに近いでしょう。
確実に冬を越させるためには、必ずヒーターを使用して、休眠させないように温度管理することが飼い主としての責任です。


まず保温(断熱)を考える
 ヒーターによる加温の前に、まず飼育容器の保温(断熱)について考えてください。
後述しますが、オカヤドカリケージの加温には、表面温度が40℃程度のシートヒーターかパネルヒーターを使用しますので、小さな容器ではどうしても外気温の変動によって、内部の温度が不安定になります。
適正温度内であっても、急激な温度変化を繰り返すような環境では、それがストレスになって状態を崩してしまいます。
できるだけ外気温の影響を避けて、安定した飼育環境を整えるためには、飼育容器を断熱材で覆うなどの工夫が必要です。

 保温のために、まず大切なのが床材の砂です。
砂には熱を蓄えて飼育容器内の急激な温度変化を緩和する働きがあります。
また、オカヤドカリ自身が深く潜り込むことによって、一時的に暑さや寒さを回避する避難場所にもなります。
安定した環境を維持するために、床材の砂は必ず15cm以上敷いてください。

 熱がもっとも逃げやすいのが、開口部である飼育容器の上部です。
冬場はガラス板やアクリル板など、気密性の高いフタに交換するのは当然として、常に毛布や断熱板を被せておくくらいの配慮は必要です。
餌交換などでフタを開ける時は、必ず室内を20℃以上に暖房して、容器内の温度が急激に下がることのないように気をつけてください。

 ガラス面から奪われる熱を減らすためには、背面と側面の三方に断熱板を貼り付けるのが効果的です。
断熱材としては、軽くて加工しやすく手に入りやすい発泡スチロール板がおすすめです。
ケージの下には、断熱シートや建材用の断熱ボードを敷いておくと底面から熱放散を防止できます。
夜間や外出時など、部屋の暖房を切るときは、すっぽりと毛布を掛けて、容器内の温度が下がるのを防ぎます。
充分に保温した上で、最低限の熱源で加温する。
これが飼育容器内の温度環境を安定させるための基本です。



ヒーターに関する誤解

 オカヤドカリ飼育は歴史も浅く(洗面器に入れて時々水を掛ける・・というのは飼育ではない)、マーケットも小さいため、残念ながら専用の飼育器具を開発販売できるほど成熟していません。
そのため、必然的に飼育環境に共通点が多い、爬虫両生類用の器具を流用することが多くなります。
黎明期の愛好家たちは、器具と共に爬虫両生類飼育のノウハウを学び、積極的にオカヤドカリ飼育に取り入れました。
それはそれでオカヤドカリ飼育技術の向上に大いに役立ったのですが、乾燥に強い爬虫類や、砂に潜る習性がない両生類の飼育ノウハウを、そのままオカヤドカリに流用することはできません。
そこをオカヤドカリという生き物の特性や習性に合わせてアレンジするのが、愛好家の腕の見せ所だったわけです。
ところが、オカヤドカリという生き物に対する理解度の低い一部の愛好家や、2004年に株式会社タカラトミー(当時株式会社トミー)が販売をはじめた虐待セット「ハーミーズクラブ」に便乗した俄か販売業者によって、安易に流用された「オカヤドカリの特性に合わない」誤った飼育情報が、インターネットを通じて広く流布されています。
とりわけ、比較的高価格で利幅の大きいヒーター類については、適切な使用方法の説明が無いばかりか、オカヤドカリに使用するには非常に危険な商品までが、オカヤドカリ用として紹介されていますので、特に初心者は注意してください。


使えないヒーター
 陸生動物の保温に良く使われるのは、一般に「ひよこ電球」と呼ばれる光を出さない保温球です。
ひよこ電球は直接空気を温めるための器具なので、表面温度が非常に高く、ケージ内を激しく乾燥させてしまいます。
また、気密性の高いケージでは、温度が上がり過ぎないように、サーモスタットを使用して制御しなければなりません。
ひよこ電球は、通気の良い開放的な飼育環境において、鳥類や爬虫類など乾燥に強い生き物に対して使用するヒーターです。
湿度の高い環境を好むオカヤドカリには不向きです。
また、スポットライトレフ球という、熱を一ヶ所に集中させてホットスポットを作るための保温球がありますが、これは日光浴によって体温を上げて活動する習性を持ったカメ類やトカゲ類を飼育するための器具です。
夜行性で鰓呼吸をするオカヤドカリは、日光浴をすれば乾燥して死んでしまいます。
また、リクガメ類を飼育する際、高温に暖房した小屋(シェルター)を用意することがありますが、これもホットスポットと同じ考え方に基づく飼育方法です。
このような、「乾燥に強い」爬虫類の、飼育方法を参考にしたのか、あるいはハムスターなどの小型哺乳類用の飼育玩具を流用したのかは知りませんが、2005年から株式会社マルカンが「ぽかぽかアイランド」と称した、ヒーター付きシェルターを販売しています。
オカヤドカリにとってシェルターとは、太陽の熱による乾燥から身を守るための隠れ家です。
ケージ内では、ヒーターから出る余剰な輻射熱を避けるための逃げ場所でなくてはなりません。
そのシェルターの内部を加温するなど、まさに本末転倒です。
このようなオカヤドカリという生き物を、全く知らない素人が、思いつきで作ったような製品が、「オカヤドカリ専用ヒーター」として、堂々と販売されているのが現状です。
情けないことですが、現在でも「オカヤドカリ専用」として販売されている器具は、この程度の代物です。
「ぽかぽかアイランド」は、一部の愛好家に「オカヤドミイラ製造機」(※)と呼ばれていますが、私もその通りだと思います。
                        
(※)実際に「ぽかぽかアイランド」内での死亡例が愛好家サイトの掲示板などで報告されています。

使えるヒーター
 ケージ内の乾燥を少しでも防ぐために、ヒーターの温度は最低限に押さえます。
必然的に熱量の不足分は、面積でカバーすることになります。
そう考えると、オカヤドカリ飼育に使用できるヒーターは、表面温度が比較的低く、発熱体の面積が広い、パネルヒーターかシートヒーターということになります。
高温のヒーターで強引に加温するのではなく、熱を逃がさないように容器をしっかりと保温した上で、最低限の熱量で柔らかく優しく加温する。
これが乾燥を防ぎ、安定した飼育環境を維持するコツだといえます。


みどり商会 ピタリ適温
表面温度約35℃〜40℃
オカヤドカリ飼育ではもっともポピュラーなヒーター
防水ではないので側面に貼るのなら外側に

朝日産業   電子パネルヒーター
表面温度約37℃〜40℃
丈夫で使いやすい 昔ながらのパネルヒーター 
変色しているのは長年の使用による汚れ

ヒーターを飼育容器内部に設置するのなら
アクリル板のコーナーを小さくカットしておくと
コードを通すのに便利
ただし大きくカットしすぎると
コードを伝って脱走するので注意


底面設置の問題点
 飼育容器の下にヒーターを敷く方法は、地上性のトカゲ類などに飼育に良く用いられています。
腹部を床材につけていることの多いトカゲ類にとって、床材を下から温めるのは効果的だと思われますが、オカヤドカリにはどうでしょうか?
オカヤドカリの飼育容器には、脱皮床も兼ねて、湿らせたケイ砂を15cm以上敷きます。
表面温度が40℃程度のシートヒーターでは、砂の層を通して表面まで温めるには力不足です。
実際、容器内の空気はほとんど温まりません。
また、大切な脱皮場所である砂底が、至近距離で熱放射を受けることになり、ヒーターに接する部分の砂はどんどん乾燥します。
これでは砂中の環境が不安定になり脱皮どころではありません。
それ以前に、60cm水槽なら20kg以上にもなる飼育容器の下にヒーターを敷くというのは、現実的ではないでしょう。
容器の下にシートヒーターを敷くのは、あくまで乾燥した床材を薄く敷く地上性トカゲ類のための方法です。


ヒーターの設置例
 オカヤドカリ飼育にシートヒーターを使用する場合、飼育容器の背面に貼り付けるのが一般的です。
しかし、この方法にも多少気になる点があります。
オカヤドカリが非常に神経質で臆病な生き物であることは何度も述べました。
飼い主が容器の前に立つとオカヤドカリは奥へと逃げるでしょう。
休んだり眠ったりする場所も、たいていは容器の奥です。
臆病で神経質なオカヤドカリにとっては、人目から遠い容器の奥は大切な安息場所なのです
飼育容器の背面にヒーターを貼ると、その安息場所が直接ヒーターの影響を受けて高温低湿になってしまいます。
干からびるまでじっとしているアホなオカヤドカリはいないでしょうが、飼い主の人情として容器の奥はゆっくりと眠れるように適温多湿の快適環境に保ってやりたいものです。

 我が家では、ヒーターを天井、つまりフタの裏側に貼り付けています。
この方法ですと、水槽内のレイアウトの邪魔になりませんし、輻射熱で砂を表面から温めますので、極端に乾燥してしまうこともありません。
いろいろな方法を試してみましたが、飼育容器内の環境を安定させるには、上部に取り付けるのが一番良いようです。
ちなみに、我が家では60cm水槽に、ピタリ適温3号を使用していますが、これ一枚で、外気温が5℃くらいまで下がっても、水槽内(砂の表面)は22〜23℃で安定しています。




アクリル板の蓋にピタリ適温を貼り付けた状態
60cm程度のケージで空間の温度勾配を付けるのは
無理なので気にせず真ん中に貼れば良い
みーばい亭では60cm水槽で冬場は3号
春と秋には2号を使用している

衣装ケースを利用したプラケースの保温例
発泡スチロールのトロ箱を利用すると
さらに効率よく保温できる
このセットでも 蓋をして毛布でくるんでおけば
 真冬でも25℃はキープできる
ただし飼育できるのは ごく小さな個体のみ
乾燥を防ぐためヒーターの前に
水を含ませたスポンジを置いてある



小型容器の保温法
 前述したように小さなケージを安定した温度に保つのは非常に困難です。
私の個人的な意見ですが、冬場気温が10℃以下に下がってしまうような室内環境では、最低でも45cm以上のケージでなければ、そこそこ安定した温度環境を維持するのは無理です。
小さなプラケースで飼育するのなら、極端に温度の下がらない場所に置くか、プラケースごと衣装ケースなどの大きな容器に入れて保温するしかありません。
我が家では当年生まれの繁殖個体を画像の方法で冬越しさせています。


温度はこまめに確認すること
 最近のヒーターは性能が良くなっていますので、正しく使えば故障や事故などの心配はほとんどないと思いますが、以前、間違ってヒーターのコンセント・タップをきってしまい、水槽内の温度が10℃以下まで下がってしまったことがありました。
幸いその時は事無きを得ましたが、世の中なにが起こるかわかりませんので、飼育容器内の温度はこまめにチェックするように習慣付けてください。


一度入れたらヒーターは切らない
 春になって暖かくなっても、最低気温が20℃以上で安定するまでは、ヒーターを切らないでください。
今日は暑いから、あるいは冷えるからと、ヒーターを入れたり切ったりする人もいますが、人の手で温度を安定させるのは限度があります。
オカヤドカリに良かれと思っての行為でしょうが、結果的に、容器内の温度を大きく変動させて、飼育個体の状態を崩してしまうことになりかねません。
特に脱皮中の個体に、急激な温度変化は禁物です。
ひと昔前と違って現在ではヒーターの性能が良くなっていますので、センサー付きのタイプなら異常な高温になることはないはずです。
我が家の設置方法では、外気温が25℃まで上がっても、容器内はせいぜい30℃程度です。


ヒーターを入れる時期
 ヒーターを入れる時期ついては、それぞれの住環境によって異なりますので、一概にいつからいつまでとはいえません。
早朝の室温が20℃を下回らなければ、ヒーターは不要ですから、皆様自身が確認して判断してください。
ただし、5月は暑い日が続いたかと思うと、突然冷え込むことが良くありますし、6月の梅雨寒にも注意が必要です。
我が家(近畿地方中部、木造一戸建て)の場合、ヒーターなしで飼育しているのは、7月から9月の3ヶ月間だけです。


温度は一定に保つ
 爬虫類や両生類の飼育には、日中と夜間の温度変化を付けることが推奨されていることがあります。
これは温度環境を自然の状態に近づけることによって、生体の活性を高めるという目的によるものです。
また、繁殖活動を促すために、季節によって温度差をつける場合もあります。
もちろん、オカヤドカリにとっても、昼夜の温度差を付けることは悪いことではありません。
しかしながら、飼育容器内に温度変化を付けるためには、熱量に余裕のあるヒーターをサーモスタットでコントロールしなくてなりません。
設備が大掛かりになる上に、室内温度をある程度安定させなければ、容器内を正確に温度コントロールすることはまず無理です。
一般的な日本の家屋で、飼育容器個々に温度管理をするのであれば、季節や時間帯に関わらず、温度を一定に保つことをまず優先してください。
私の経験上、温度変化をつけなくても、生体活動に何の支障もありませんし、ケージ内での交尾、産卵、放幼といった、繁殖活動も毎年観察されています。


通気性より気密性
 最低限の熱量であっても、ヒーターを使用すればケージ内の乾燥は避けられません。
通気を確保しながら湿度を保つことができれば、理想的ですが、小さなケージ個々に保温する場合、湿度を下げずに通気を確保するのはまず無理です。
ナキオカヤドカリやムラサキオカヤドカリは、多少の蒸れには耐えますので、ケージの気密性を高めてできるだけ湿度を維持するようにしてください。
ただし、完全に密封してしまうと、結露が激しくなり砂が濡れすぎてしまうことがありますので、時々砂底の状態を確認してください。
最初の冬は、温度計と湿度計をにらみながら、隙間を開けたり閉じたりすることになると思いますが、それもまた楽しいものです。

結露対策
水槽にヒーターを設置した状態で、ガラス面が冷たい空気で冷やされると、水槽内部に結露が発生します。
これを防ぐために、観察するとき以外はガラス面が露出しないように毛布などを被せておくといいでしょう。
オカヤドカリも落ち着きますので、一石二鳥です。
知識の少ない飼い主は不必要に擬人化して「光が必要」などと心配する傾向があるようですが、夜行性のオカヤドカリに光は必要ありません。
冬中、ほとんど薄暗い状態にしておいても、オカヤドカリの健康にまったく影響がないことは、管理人の10余年の飼育経験からも明らかです。
観察を優先するのなら、電熱線を貼るとか前面を2重ガラスにするとか、それなりの手間をかけて工夫してください。

暑さ対策
 オカヤドカリ類は、南方系の生き物ですから、暑さにはある程度耐性があります。
以前、記録的な猛暑の日に、ケージ内の温度が37℃まで上昇したことがありましたが、生体に特に変わった様子は見られませんでした。
日本の夏の気温なら、それほど神経質になることはないと思います。
ただし夏場、部屋を閉めきって外出する時には、注意が必要です。
40℃を超えるような異常な高温になれば、さすがのオカヤドカリも状態を崩してしまいます。
換気扇を回す、雨戸を閉めきるなどして、部屋の温度が上がりすぎないように留意してください。
どうしても無理なら、エアコンをかけて出かけるしかないでしょう。
エアコンを使用する際は、必ずフタを気密性のあるガラス板などに交換して乾燥を防いでください。

 また、外出から戻ってエアコンをかける際には、毛布をかぶせるなどして、温度が急激に下がらないように注意してください。
小さな生き物にとって、急激な温度変化は大きなダメージになります。

 それと、当たり前のことですが、飼育容器に直射日光を当てないようにしてください。
元々海生動物であるヤドカリにとって
直射日光は必要ありません。
水槽を直射日光に当てると温室効果で内部の気温は一気に上昇します。
夏場の炎天下に駐車した自動車を想像してみてください。
水槽を日光に当てるのは非常に危険な行為です。くれぐれも注意してください。


なにがなんでも20℃以上はキープする
 この頁で紹介したのは、外気温の影響を受けやすい一般的な木造住宅においての保温法です。
最近多くなった、高気密高断熱住宅やマンションなら、それほど厳重な保温は必要ないでしょう。
住環境がある程度安定していれば、底面や側面の断熱板も要らないかもしれませんし、補助的にひよこ電球一個を設置する程度で充分な場合もあるでしょう。
要は飼育ケージ内の温度を20℃以上、湿度を70%程度に保つことができれば、それで良いのです。

 しかし保温器具は、必ず室内の最低温度を考慮して設置しなければなりません。
例えば、「普段は24時間空調を入れているが年末年始は電源を切って帰省する」などという場合は、何らかの保温対策をしなければオカヤドカリは死にます。
繰り返しますが、オカヤドカリは熱帯から亜熱帯にかけて生息する生き物です。
どんな方法を用いても構いませんので、飼育容器内はいかなる場合でも必ず20℃以上(できれば25℃前後)になるように管理してください。
それがオカヤドカリを飼育する基本であり、飼い主としての責任です。



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シェルター


 オカヤドカリは活動時間帯である夜間以外は、物陰などに潜んでじっと動かずに眠っています。
オカヤドカリといえば、「海岸を歩きまわっている生き物」というイメージが強いと思いますが、実際には隠れて眠っている時間の方がはるかに長いわけですから「物陰に潜む生き物」と考える方が適切です。
自然界では、海岸近くの茂みの中や石の下など直射日光の当たらない湿った場所に一匹あるいは数匹が集まって眠っていることが多いようです。
私の観察では、公園のゴミ箱の下や、石垣の隙間、道端に放置された木製パレットの下などでも見ることができました。
飼育下においても、このように落ちついて眠るための環境を用意してやる必要があります。


オカヤドカリは観賞用の生き物ではない
 販売業者のサイトを見ると、4面ガラスの小型キューブ水槽や金魚鉢のようなガラス容器が、オカヤドカリ用飼育容器として紹介されていますが、「臆病で神経質な物陰に潜む生き物」を飼育するのに、このような容器が適切かどうかは考えるまでもないでしょう。
常に四方からのストレスにさらされる環境で、「臆病で神経質な物陰に潜む生き物」が長生きできるはずがありません。
繰り返し言いますが、オカヤドカリは陰性の強い生き物です。
あくまで静かに観察することを楽しむべき飼育動物であって、けっして観賞に適した生き物ではありません。
生き物の持つ本来の習性を無視し、インテリアや玩具として扱う行為に当サイトは強く反対します。



シェルターとしての条件
 では具体的にはどのようなシェルターを用意すればいいのでしょうか?
それにはまず、シェルターとして必要な条件を考えてみる必要があります。

@
適切な大きさ
 シェルターは飼育個体やケージのサイズに合わせて適切な大きさの物を設置してください。
 小さすぎて入れないのでは意味がありませんし、大きすぎると落ちつきません。
A
安定したもの
 オカヤドカリは意外と力が強く、軽いものなら簡単に倒してしまいます。
 あまり重過ぎるのも危険ですが、ある程度の重さがあるほうが安定します。
B
安全なもの
 オカヤドカリは化学物質に弱く、気密性の高い飼育容器内では致命的なダメージを受けることがあります。
 有害物質が溶け出したり、揮発したりする危険のある物は使用しないでください。
C
外部からの刺激を遮断できるもの
 当然のことですが、光を遮断して内部を暗くできなければシェルターとしての意味がありません。
 また、ヒーターから出る余剰な放射熱を避けるという目的もあります。
 自然界で太陽熱を避けて乾燥を防ぐのと同じことです。


身近なもので工夫しよう
 これらの条件を満たすものとして、まず挙げられるのは植木鉢でしょう。
ザリガニや爬虫両生類飼育のシェルターとしてもよく利用されています。
吸水性の高い素焼き鉢は、脱皮直後の個体には危険だという指摘もあるようですが、ナキオカヤドカリやムラサキオカヤドカリは、通常砂の中に巣穴を掘って脱皮をしますので、脱皮直後の個体がシェルターに触れるという状況は、脱皮そのものに問題があるといえます。
もっとも、わざわざ素焼き鉢を選ばなくても、シェルターとして利用するのなら、普及タイプのダオン鉢で充分です。
もちろん、割れて捨てられた物があれば、それを利用すれば良いでしょう。

 また、流木や石サンゴの骨格などの自然物を組み合わせると落ち着いた感じのビバリウムになりますし、木切れや陶土などで自作してみるのも楽しいかと思います。

 愛好家のブログを拝見すると、シェルターの選択にもっともよく個性が出るようです。
最低限の必要条件を満たしていれば、あとは飼い主それぞれのセンス次第ですから、いろいろと工夫してみてください。

※自作する場合、接着剤で板を貼り合わせた合板は避けてください。
シックハウス症候群の原因物質であるホルムアルデヒトなどの有害性はご存知の事と思います。
気密性の高いケージ内で、このような化学物質が揮発すれば生体に深刻な影響を与えかねません。
またスギやヒノキなどの針葉樹も注意が必要です。
針葉樹独特の香り成分は総称してフィトンチッドと呼ばれていますが、これは針葉樹が昆虫や細菌から身を守るために、揮発させている物質です。
人間にはリラクゼーション効果が認められていますが、小さな生き物には危険です。
また、ケージ内に金属イオンを持ち込む危険性が指摘されていますので、工作は面倒になりますが、釘などは使用しないほうが安心です。


「石の下」のススメ

ここまでシェルターを「部屋」という概念で考えてきましたが、生息地でオカヤドカリを観察していると、石の下などの隙間を掘り広げて無理やり潜り込んでいることがあります。
これは部屋というより「布団」の概念に近いと思います。
飼育下でもレンガなどを組んで「石の下」を演出してやると、自分で穴を掘ってシェルターを作ります。
この「石の下シェルター」は、そのまま脱皮場所にもなりますので、たいへんに機能的です。


関連記事 みーばい亭のヤドカリ話38 究極のシェルター
       みーばい亭のヤドカリ話15 砂中環境改造計画





植木鉢のシェルターに隠れるナキオカヤドカリ

流木とサンゴを組み合わせたシェルター
機能的には劣るが自然に近い環境を演出できる


登り木
 オカヤドカリは歩脚の先端にある鋭い爪を利用して、岩や低木などによく登ります。
管理人の観察では、気圧が低くなると高い所へ登ることが多いようです。
飼育下においても流木などを利用してレイアウトを組んでやると、立体的な行動を楽しめるでしょう。
また、何本かを組み合わせて物陰を作れば、シェルターとしての機能を持たすこともできます。


流木

 オカヤドカリの登り木として、もっとも良く使われるのが流木です。
海岸へ出かけたときに、貝殻と一緒に探してみてください。
飾り物になるような珍奇な形の物はめったにありませんが、単純な枝切れくらいなら簡単に見つかるはずです。
長時間波に揉まれて真っ白になった物がおすすめです。
海岸近くに落ちていたものであれば、特に洗う必要はないと思いますが、私はその場(海)で、軽く汚れを落としてから持ち帰っています。


生木

 身近で手に入る剪定屑なども、登り木として利用できます。
ただし、オカヤドカリは木の皮を剥いで食べることがありますので、殺虫剤などの危険のないものを選んでください。
公園などは定期的に薬剤散布をすることが多いので注意が必要です。
捨てられている木の枝には虫が入っていることがありますので、気になるのなら、使用前に下処理をしておきます。(虫がついている方が却ってオカヤドカリには安全だといえます)
鍋で煮れば確実でしょうが、そこまでしなくても、しばらく水に浸けておくだけで充分です。
我が家では、たわしでこすり洗いした後、海水に1週間ほど浸けこみ、天日でよく乾燥させてから使用しています。
塩味の付いた木の皮は、オカヤドカリのおやつにもなります。




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水入れ


 オカヤドカリは主に陸上で暮らしていますが、呼吸は海棲のヤドカリと同じく鰓に頼っています。
腹部での皮膚呼吸を併用しているという説もありますが、いずれにしても、呼吸の為には水が必要です。
気門を発達させて完全に陸上に適応した昆虫などとは違い、オカヤドカリは体が乾燥すると呼吸ができずに死んでしまいますので、新鮮な水をいつでも利用できるように常備しておかなければなりません。
水入れは軽視されがちですが、オカヤドカリ飼育にとって非常に重要なアイテムなのです。
なお、オカヤドカリには、真水と海水を与えますので、水入れはそれぞれに用意する必要があります。


水の飲みかた
 飼育下での観察によると、オカヤドカリの水へのアプローチにはいくつかのパターンが見られます。
もっとも良く見られるのは、鋏脚で水をすくって口へ持って行くという方法です。
この鋏脚を手のように使って水を飲んだり餌を食べたりする姿は、観察していて大変面白いものです。
脱皮前など大量の水が必要な時には、口(顎脚)を直接水面につけて水を飲むこともあります。

 また、両の鋏脚の先端を水に浸けてじっと静止しているという行動が時折見られます。
乾季と雨季がはっきりと分かれた地域に生息する種では、水場のなくなる乾季には、湿った石灰岩に鋏脚を押し付けて、毛管現象によって体表を上ってくる水分を利用する習性が観察されているそうです。
おそらくナキオカヤドカリやムラサキオカヤドカリが飼育下で見せる行動もこれに類する習性だと思われます。
実際、湿った砂に同じ様に鋏脚を押し付けることがありますし、流木でも同じ行動が観察されます。
また水入れの中に全身浸かりこんでしまうこともあります。
全身といっても我が家で使用している水入れはそれほどの深さがありませんから、実際に浸っているのは脚と宿貝のごく一部なのですが、観察していると、やはり毛管現象で体表を水が上がり背甲にまで達するようです。
何時間もそのままの状態で静止していることもありました。
このような行動の直後に脱皮モードに入ることが多い事から、脱皮に必要な水分を補給すると同時に、外殻を湿らせて脱皮をスムーズに行う為の準備行動ではないかと推察されます。

水を飲むナキオカヤドカリ


水入れの条件

このような習性を踏まえた上で、水入れに適した容器の条件を考えてみることにします。

・大きさ
 水入れの中に入り込む習性から考えて、少なくとも一番大きな飼育個体が入れるだけの広さが必要です。
ただし、広すぎるとオカヤドカリの歩行する砂面が狭くなりますので、一番大きな個体の宿貝も含めた全長程度で充分だと思います。
逆に深さは一番小さな飼育個体がスムーズに出入りできるように配慮する必要があります。
ただし、あまり浅すぎると大型の個体に必要な水量が確保できなかったり、海水の場合蒸発によって濃度が高くなったりする危険があります。
その他にも飼育管理において、いくつかの弊害がありますので、極端にサイズの違う個体を一緒に飼育する事は避けた方が良いでしょう。

・形状
 オカヤドカリは大きさの割には力が強く、軽い容器だと簡単にひっくり返してしまいます。
そのため、水入れにはある程度の重さと安定した形状が求められます。
また、水を飲むときには歩脚をしっかりと踏ん張って体を安定させますので、爪が掛かりにくいツルツルとした材質の容器を使用する場合は、石やサンゴなどでしっかりとつかまれる足場を作ってやると良いでしょう。
水換えや洗浄などの管理が容易な物を選ぶ事も大切です。

・材質
 あたりまえの事ですが、金属や有害物質が溶け出すような材質のものは使えません。
特に、プラスチックやセメント、塗料で着色したものは注意が必要です。


市販品がベター
 これらの条件に適合する容器を探すのは、かなり難しいと思います。
我が家でも、牡蠣などの貝殻、園芸用の受け皿、食品容器など色々と試してみましたが、やはり小動物用に市販されている樹脂製の水入れの使い勝手が一番良いようです。

 飼育容器や飼育個体の条件に合った水入れが見つからない時は、オーブン陶土などで自作するのもひとつの方法です。



小動物用に市販されているもの
安定性が良く適度な重さもあるので使いやすい
いろいろなタイプがあるので
容器や飼育個体のサイズに合わせて選ぶとよい



真水

 オカヤドカリに与える真水は、基本的に人間が(安心して)飲用できるものであれば問題ないでしょう。
水道水に含まれる重金属などの害を懸念する愛好家もいますが、日本の水道水は世界的に見て非常に高い水準で管理されていますから、浄水器を通せばそれほど心配する必要はないと思います。
ただし、消毒用に添加されている塩素(カルキ)は、小さな生き物には有害ですので、必ず一日以上汲み置きし、充分に抜いてから使用します。
ヤドカリなどの無脊椎動物は、魚に比べて薬害を受けやすいので、カルキ抜き剤は使用しない方が安全です。


海水
 海生生物は海水中に含まれる様々なミネラル分を体内に取り込んで利用しています。
陸生のオカヤドカリも生命維持のためには、海水に含まれるミネラル分を充分に摂取する必要があります。
特に、当サイトで紹介しているナキオカヤドカリやムラサキオカヤドカリは、内陸性のオカヤドカリなどに比べると、海水への依存度が高い種類ですから、海水を与えた方が良い結果が出ます。
与える海水は天然海水、人工海水のどちらでも構いませんが、粉末の人工海水はいつでも必要な分だけ作れるのでたいへん便利です。
人工海水を作る場合、天然海水よりも濃くならないように充分注意してください。
濃い海水はオカヤドカリには有害ですので、必ず比重計を使用して濃度を確認してください。
小さな水入れで与える場合は、蒸発によって濃くなることを考慮して、少し薄めに作っておくと良いでしょう。
粉末の人工海水は概して溶けにくいのですが、ペットボトルに入れてよく振ると比較的簡単に溶かせます。

 天然海水を使用するのなら、汚染の心配のある河口の近くや港内などは避けて、必ず外洋に面した潮通しの良い場所で採水してください。
ただし、そのような場所は足場が悪い事が多いので、くれぐれも気をつけて採水するようにお願いします。
採水した海水は2〜3日放置しておくと、ごみなどが底に沈みますので、上澄みだけをそっとすくって別の容器に移します。
私はさらにウールマットを使って濾過しています。
海水をどれくらい保存できるのかという質問がよくありますが、これは海水中に含まれる有機物の量によります。
プランクトンなどを多く含む海水は数日でアンモニアや亜硝酸塩で汚染されて使えなくなりますが、きちんと処理をしておけば、1〜2ヶ月置いても大丈夫です。
以前、上記の方法で処理して2ヶ月置いた天然海水の亜硝酸塩レベルを測定したことがありますが、まったく問題ありませんでした。


海水槽について
 最近ではオカヤドカリの飼育容器の中に、小型の海水槽を設置されている愛好家が多いようです。
自然環境を再現するという意味では、たいへん良いことだと思いますが、少し気になる点がありますので、ここで述べておきます。

 まず、水質の問題です。
アクアリウムでは細菌の生体活動によって、アンモニアを比較的無害な硝酸塩にまで硝化・変換するのが水質維持の基本です。
ただし、海水中では淡水に比べて硝化細菌の働きが数段落ちるので、海水水槽では淡水水槽に比べて非常に大掛かりな濾過システムを組むことが常識になっています。
つまり海水中ではアンモニアなどの有害物質が残りやすいということです。
とりわけ数リットル程度の小型水槽をバランスよく維持するのは、ベテランのアクアリストでもたいへん困難なことです。
オカヤドカリ水槽に設置した海水槽も、槽内に持ち込まれたフンや尿、餌の食べ残しなどの有機物由来の
有害物質のレベルをきちんと把握しておかないと、オカヤドカリに毒水を与えることになりかねません。

 それから、エアレーションによる飛沫の心配があります。
飼育容器内に飛び散った飛沫は砂中の塩分濃度を高めます。
オカヤドカリは脱皮後、浸透圧によって体内に水分を取り入れますので、
砂中の塩分濃度が体液よりも高くなれば、逆に水分を奪われて脱水症状を起こしてしまいます。

 この辺りの問題をクリアしておかないと、オカヤドカリのために良かれと設置した海水槽が、オカヤドカリを苦しめることになりかねません。
海水槽の設置を考えておられる方は、まずこれらの問題の対策をしっかりと考えてください。


旅行に出かけるときは
生き物を飼っていて一番困るのが、旅行などで長期間留守にする時の管理です。
飼育家はそれぞれ様々な工夫をされていると思いますが、ここでは参考までに、我が家の方法を紹介しておきます。

底砂の厚み程度の深さのタッパ‐ウエアを用意し、水の腐敗を防止する為に、ゼオライトを適量敷きます。
オカヤドカリが出入りできる深さになるように小石や砂で調整し、底までしっかりと砂に埋め込んで、水を注ぎます。

 この方法だと、水量が充分に確保できますし、オカヤドカリにひっくり返されることもありません。
海水は蒸発によって濃度が高くなることを考慮して、同量の真水で希釈しておきます。
私の経験では、これで10日くらいは大丈夫です。(もちろん、適正な数(45cm水槽2匹、60cm水槽5匹)で、飼育している事が前提です)
それ以上の期間、留守にする場合は、信頼のおける人に世話を頼むしかないでしょう。


強制的な水浴についての見解
 海外の有名なオカヤドカリ情報サイトに、観賞魚用の水質調整剤を添加した水にオカヤドカリを強制的に浸けこむことを推奨する記事が掲載されています。
国内で得られる飼育情報が限られていた頃は、海外サイトに情報を求める飼育家が多かった事もあって(管理人もその一人)、このような強制的な水浴が愛好家の間で広く実践されていました。
しかし、現在私自身はこの強制的な水浴については、必要がないという見解を持っています。

 理由として、まずオカヤドカリの種類が違うという点が挙げられます。
アメリカなどで飼育されているオカヤドカリについて私は多くの知識は持ちませんし、生息環境を自分自身の目で確認した事もありません。
しかし、乾燥した砂を床材として推奨している愛好家が存在することから推察すると、かなり乾燥した環境に適応した種類ではないかと思われます。
日本で主に流通している、ナキオカヤドカリやムラサキオカヤドカリは、ある程度海水に依存し湿った環境を好む種類です。
湿度を70%程度にキープしていれば調子を落とす事もありませんし、必要であれば自ら水浴びをします。
ナキオカヤドカリやムラサキオカヤドカリの飼育において強制的な水浴びが必要だとするのなら、それは飼育環境そのものが間違っているといえます。

 また、水質調整剤を添加した水にオカヤドカリを浸けこんで本当に大丈夫なのかという心配があります。
オカヤドカリなどの無脊椎動物は魚などの脊椎動物とは根本的に代謝機能が異なります。
脊椎動物である魚用に開発された水質調整剤を、無脊椎動物であるオカヤドカリにも効果があると考えるのは、あまりにも軽率だと思います。
効果がないだけならまだしも、害になる可能性も否定できません。
事実、魚病治療薬を、ヤドカリなどの無脊椎動物の居る水槽で使用しないことは、アクアリストなら誰でも知っている常識です。

 さらに、ハンドリングによる大きなストレスを生体に与えてまで、水浴びをさせる必要があるのかという疑問もあります。
オカヤドカリは非常に臆病で神経質な生き物である事は何度も述べました。
そのような生き物を飼育する場合、極力刺激を与えないような静かな環境を用意して管理するのが、飼育者としての常識です。
自然界でのオカヤドカリの暮らしを想像してください。
オカヤドカリにとってハンドリングされることは、捕食されること、つまり死を意味します。
オカヤドカリを飼育容器から出して、手の上に乗せたり、机の上を歩かせたりして遊ぶような行為は、オカヤドカリに死の恐怖を与える虐待に他なりません。
大脳を持たないオカヤドカリですが、生き物である以上、死の恐怖は絶対に感じているはずです。
穿った見方かもしれませんが、強制的な水浴も、この生き物で遊ぶという行為の延長にあるような気がします。
繰り返し言いますが、オカヤドカリはそっと観察して楽しむ飼育動物です。
むやみに飼育容器から出して玩具にするようなことは絶対にやめてください。
みーばい亭は生き物を玩具扱いする事に強く反対します。

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温度計 湿度計


 亜熱帯性気候の南西諸島の海岸近くに棲息する、ナキオカヤドカリやムラサキオカヤドカリは、温暖で湿潤な環境でないと生きていけません。
温度や湿度が適正でないと、状態を崩して死んでしまいます。
飼育容器内を適切な温度と湿度(温度25℃前後、湿度70%程度)に保つことは、オカヤドカリ飼育の基本中の基本です。
人間の感覚などいい加減なものですから、(特に初心者は)温度計と湿度計を必ず設置して、温度と湿度を「数値」で確認してください。
飼育容器内に設置できる小型の物なら、何でもかまいませんが、やはり小動物の飼育用に市販されている物が、使いやすいでしょう。
粘着テープで貼り付けられるようになっていますが、容器に直接貼らずに、下敷きなどの薄いプラスチック板に貼り付けて、ガラス面に添って砂に差し込むようにすると、メンテナンスが容易になります。
温度はオカヤドカリが主に活動する、砂の上数p以内で測る必要がありますが、この位置だと必ず悪戯されますから、簡単に取れないようにしっかりと貼り付けてください。

 湿度の高い容器内では、腐蝕などによって故障しやすくなりますので、時々正確な数値を示しているかどうか確認してください。
できれば2年くらいで交換した方が良いでしょう。

プラスチック板に貼り付けた温度計
必ず悪戯されるので
しっかりと貼り付ける


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その他

メンテナンスに必要な物、あれば便利な物を紹介しておきます。

日常管理3点セット

・スポイト
水交換に使います。
水入れを取り出さずに作業ができるので、オカヤドカリに与えるストレスを軽減できます。

・ミニシャベル
盆栽用として売られています。
日々の糞掃除にあると便利です。

・ピンセット
手の入らない場所の、食べ残しなどを取り出すのに使います。
長めの物がおすすめです。

日常管理3点セット
ピンセット ミニシャベル スポイト


砂洗い用具
・バケツ 洗面器
必ず専用の物を用意してください。
洗剤や薬品を使う掃除や洗車用と兼用するのは危険です。

・ふるい
一般園芸用。
砂とゼオライトを選り分けるのに使用します。

・シャベル
できるだけ錆びにくい物を選んでください。
砂の移し替えには、片手鍋が便利です。
管理人は、古いステンレスの片手鍋を愛用しています。

・土嚢袋
布目が粗いので、水切りに最適です。
ホームセンターで手に入ります。

・ゴム手袋
真冬の砂洗いには必需品です。
炊事用は破れやすいので、厚手の作業用がおすすめです。

・ホースヘッド
手元で水流が切り替えられるものが便利です。

洗面器 土嚢袋 バケツ
ふるい ゴム手袋 ホースヘッド シャベル 片手鍋

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