20000打記念

紫陽花の咲き終わった頃






いいなぁ…





週明けに提出しなくてはいけないらしいレポートの話で盛り上がっているふたり。
さっきから何度心の中で繰り返し呟いただろう。





ぼくより2つ年上で。
同じ大学に通って同じ勉強をしていて。
先輩にとって成瀬さんはかけがえのない友人で。
おそらく成瀬さんにとっても先輩は大切な友人。
だから、同じ話題で盛り上がるのも。
絶妙なタイミングでやりとりされる会話も。
ふたりにとっては何でもない自然なことなんだろうけど。
ぼくには羨ましくて仕方がない。







だって…







すごく楽しそうだ。
ぼくにはとうてい理解不可能な専門用語が飛び交って。
それを使い慣れたように口にする先輩。
ぼくの知らない、見たことのない先輩。





いいなぁ…





それは成瀬さんに対しての憧憬。
ぼくにとっての先輩は、永遠に憧れの人。
奇蹟的にも、恋人同士になれて。
一緒に暮らして。
ともに過ごす時間はここにいる誰よりも長いけれど。
それでも僕らの先輩・後輩というポジションは変わることはなく。
いつだって先輩に甘え、甘やかされ、守られている。
ケンカなんてしたこともないし。
意見を戦わせたこともない。
毎日が穏やかで幸せでいいじゃないか。
そう言われればそれだけだけど。








だけど…









ぼくも成瀬さんのように先輩と同じ目線で話ができたら。
同じ目線の高さで先輩と見つめあうことができたら。
先輩はもっともっと充実した日々を過ごせるんじゃないだろうか。
一緒にいるときとは全く違う顔の先輩が、何故だかとても遠くに感じるのは。
そしてそれを寂しく思ってしまうのは。
ぼくの卑屈さゆえなんだろうか。






もしそうだとしたら……






そんな自分が大嫌い。
僻みっぽくて何の役にも立たないちっぽけな自分。
そんな自分をひた隠しにしていい子を演じてる。
そんな自分なんて大嫌い……







そのとき三上は… そのとき成瀬は… そのとき片岡は… 戻る