20000打記念 紫陽花の咲き終わった頃 |
今どきの若者には珍しく礼儀正しく素直で聡明。
どうやらおれの人を見る目はかなりの確率でヒットするらしい。
第一印象と何ら変わりのない優くんにおれは感動すら覚えた。
1泊2日の温泉旅行。
成瀬が連れてきた友人とその同居人。
兄弟でも親戚でもない、ただの高校の先輩と後輩だというふたり。
そんなふたりの同居は明らかに不自然で。
それでいて一緒にいるふたりからは何ともいえない雰囲気が漂っていて。
類は友を呼ぶという諺はまんざら迷信でもないようだと確信した。
おれたちの関係もどうやら向こうにはすっかりバレているようで。
それでもお互い牽制しあって見える場所ではベタベタしなかったが。
お互いそれなりに上手く楽しんだようで。
なかなか有意義な旅行だった。
ただひとつ。
優くんとゆっくり話ができなかったのが心残りではあった。
もちろんそこに変な感情はなく。
ただ彼の人柄に好感を持ちもっと仲良くなりたかっただけだ。
だから今日ここで彼がひとり待っていたときチャンスだと思った。
最初は緊張していたようで俯き加減だったのだが。
成瀬から聞き及んでいた大学の話をしてやったら食いついてきた。
正しい敬語を使い、慣れてくるときちんと相手の目を見て話す。
学校でオトコにもモテルらしいと成瀬が言っていたが。
この顔とこの性格じゃ無理もないと納得した。
ただおれの恋愛対象からは若干外れているだけのこと。
いや、もともとオトコにな興味なんて米の粒ほどもないわけで。
好きになった相手がたまたま同性でそれが成瀬だっただけなのだが。
それにしても。
さっきからチクチクと針のような視線を感じるのは。
おそらく優くんとばかり話しているおれに嫉妬でもしている若造のせいだろう。
どうやらあちらはおれに対してさほどいい印象を持っているわけではないようだが。
おれはこの成瀬の親友のポジションに居座っているこのオトコにも好感を持っている。
真っ直ぐに人を愛することができるヤツに悪いヤツはいないというのがおれの持論だから。
ただおれもひねくれものだからかそういうヤツには意地悪をしかけたくなってしまう。
「優くん、写真もひととおり見たし、さっきの数学の続き見てあげるよ」
おれへのあてつけのつもりだろうか、いつにも増して激論をかわしているふたりを無視して。
おれは優くんのノートにペンを走らせる。
「よしっ!それでいいんだよ!優くんは飲み込みが早い」
学校では絶対に言わないだろう台詞を口にして。
柔らかそうなさらさらの髪を持つ小さな頭に手を伸ばせば。
四つの瞳から放たれた殺されそうなほど鋭い視線が返ってきた。
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