オッフェンブルクの街を訪れる|
トップテンの対策
(1)オッフェンブルク市とは

オッフェンブルク(OFFENBURG)は、ライン河を挟んで、フランスのストラスブール(STRASBOURG)と向き合う人口6万人足らずのドイツの小さな街である。街の公共交通機関はバスで、路面電車は走っていない。しかし、この街にはICEやECが停車し、ヨーロッパ陸上交通の要所となっている。
このオッフェンブルク市では、1999年から、市民自らが街の未来像を描き、行政と協働で「ローカルカジェンダ21」に積極的に取り組み、持続可能な地域社会を作っていくためのプロジェクト「オッフェンブルク都市構想21」を進めている。
このプロジェクトに取り組んだのは、1989年から市長を勤めたDr. Wolfgang Bruder氏である。彼は2002年11月1日、ドイツで3番目に大きなエネルギー会社EnBWの総代理人に迎え入れられた。そのため、2002年11月10日、オッフェンブルク市の市長選挙が行われ、現在は、Edith Schreiner女史が市長を勤めている。
また、市議会は57名で構成され、キリスト教民主同盟が45%、ドイツ社会民主党が30%、緑の党が9%を占めている。
以上がオッフェンブルク市の概要であるが、以下は、オッフェンブルク市のホームページ及び2002年9月に同市のインフォで得た資料を元に意訳したものである。
(2)市長のメッセージ
これは、「オッフェンブルク都市構想21」を策定した当時の市長Dr. Wolfgang Bruder氏のメッセージである。
「21世紀の幕開けに、オッフェンブルクは新しいチャンスを切り開く。・・・ヨーロッパの地域は互いに近づき、激しく競争する。その中にあって、オッフェンブルク市は、30万人を超える経済圏の中心地として、益々その重要性を増す。
それゆえ、市民と一緒になって確かめよう。“私達は今何処にいて、何処に向かおうとしているのか(Wo wir heute stehen und wohin wir wollen.)”を。
市民の共通目標は、街の未来である。1999年6月14日から、市民及び専門家をまじえ、持続的な街の発展のため、意見交換を行った。
その過程で、「ローカルアジェンダ21」の都市マーケティングのコンセプトが、「オッフェンブルク都市構想21」へと結びついた。
その結果、議会と行政は、決定と行動の義務を負うことになった。また、市民自らが描いた街の未来像は、都市経営の試金石ともなった。
私は、ワーキングで時間と労力を注ぎ込んだ市民に感謝する。また、信頼と率直さを持って、地方政治の新しい道に踏み込んだ市議会にも感謝する。」
(1)マーケティング
行政は営利を追求する企業ではなく、公共福祉や行政権といった特徴を持つサービス業である。従って、製造・販売の企画や市場需要の宣伝といった企業が行うマーケティングは、行政分野ではほとんど適用がない。
しかし、企業が商品で競争するように、都市もまた、市場原理の厳しい競争にさらされている。
都市の競争目的は、例えば、都市に市民や企業を引き止めておく、あるいは、都市に新たな市民や企業を獲得するといったことにある。そのため、多くの都市は、地方行政の分野においても、マーケティング手法を取り入れる可能性を論議している。
(2)ローカルアジェンダ21
アジェンダ21は、環境を汚染せず、都市の発展を持続させるための世界的に広がる行動プログラムである。1992年、リオデジャネイロで170か国以上が参加して開催された「環境と開発に関する会議」において採択された。
ローカルアジェンダ21では、アジェンダ21を地方レベルで効果あるものとするため、地方自治体に多くの問題や解決策を論じるという大きな役割が求められた。
(3)結びついたプロセス
マーケティングとローカルアジェンダのアプローチは似ており、都市構想を考える上で基礎的に不可欠なものである。このことは、両者が、社会的、生態学的、経済的な面で、対等に平行して研究されることを意味する。
「オッフェンブルク都市構想21」の準備段階では、市民や社会グループが参加した作業の中で、ローカルアジェンダのプロセスに似た行動手法が採られた。それゆえ、このプロジェクトは、マーケティング/ローカルアジェンダのプロセスと結びついて構想されたと言える。
(4)戦略
1999年5月10日、オッフェンブルク市議会は、提案された「オッフェンブルク都市構想21」を満場一致で支持した。このプロジェクトの戦略的意味は、市当局が行う施策の結果を、市民や経済界あるいは市域外の人達に公表し、評価することである。
生活圏としての都市は、地域の行政・政治だけでなく、地域の住民・経済界あるいは市域外からの訪問者を通じても形成され、いわば、多くの人達の手からなる共同作品とも言える。その際、重要なのは、協働とコミュニケーション、専門知識の活用、それから、参加と責任感である。
(1)スタート
1999年6月14日、このプロジェクトをスタートさせるセレモニーが行われ、4つの「ワーキンググループ」と2つの「未来ワークショップ」が、以下の重点テーマを持って組織された。
・ 地域発展のワーキンググループ(ヨーロッパの中心としての地域発展)
・ エコロジーと都市の発展のワーキンググループ(自然と調和した都市の未来発展)
・ 社会・文化のワーキンググループ(積極的に連帯した市民社会における生活)
・ 経済のワーキンググループ(積極的に形成する経済の構造変化)
・ 若者の未来ワークショップ(私がオッフェンブルクの王になったとき)
・ 行政の未来ワークショップ(行政機関の昨日、今日、明日)
(2)公開の市民総会
「ワーキンググループ」や「未来ワークショップ」は、1年半にわたり集中的に活動した。また、200人を超える市民もプロジェクトの構想段階に参加し、都市の未来について一緒に論議をした。
その結果や対策は、1999年6月14日の第1回市民総会、2000年2月16日の第2回市民総会、2000年11月14日の第3回市民総会で逐次報告され、3回目の総会をもって構想段階は終了した。
プロジェクトをデザインした市民は、一覧となった対策の中でどれが実行する上で重要であるかをしっかりと見極めた。
(3)プライオリティ
2001年3月10日、市議会のワークショップが開かれた。その仕事は、市民総会で提案された対策を要約するとともに、実施に向けた準備をすることであった。
まず、市議会は、全ての対策の中から、都市の発展に重要と思われるトップ10の対策を決めた。次に、市民や興味を持つグループによって実行が可能な対策(市民による対策)と、専門分野や行政分野において処理あるいは計画されている対策(行政による対策)とに分類し、最優先で実行する必要のない対策は、そのテーマとアイデアがプールされた。
このように、提案された200を超える対策は、実行を目指した126の対策に要約された。
(1)要約された126の対策
2001年6月25日、オッフェンブルク市議会は、提案された実施構想「オッフェンブルク都市構想21」を承認し、その実施を市当局に委ねた。要約された126の対策は次のように構造化された。
・ 10のトップテンの対策(詳しくは、ここをクリック)
・ 16の市民による対策
・ 44の行政による対策
・ 56のプールしておく対策
具体的な実施が提案された上位70の対策は、広範囲にわたるプログラムであり、その準備作業と実施は、市民、行政、市議会にとって大きな負担である。そのため、専門知識のある多くの市民が協働して討議を行い、相互の集中的な対話を可能にする必要がある。
(2)市議会の決定
また、2001年6月25日、オッフェンブルク市議会は、次のことを決定した。
a. 市当局は、2001年3月10日の市議会ワークショップで決めたトップテンの10の対策について、実施構想を展開し、権限ある専門委員会に提出すること。
b.市当局は、市民が行う対策の実施について、助言を行うこと。
c.市当局は、職務の範囲内において、行政機関に示された対策を実施に移すこと。
d.市当局は、すべての対策の実施状況を、定期的に市議会に報告すること。
e.「オッフェンブルク都市構想21」を支援するため、2002年・2003年の2か年間、毎年25,000ユーロを集める計画で「市民募金」を設立すること。
f.市当局は、対策の実施状況を定期的に公表すること。
(1)公開
市議会は、実施段階のスタートに際して、個々の提言に対する専門委員会での討議の模様を記録し、残すことを決定した。実施状況は、おおよそ半年ごとに定期的に市議会に報告され、平行して市民にも情報が伝えられる。実施段階では、市民が実施状況を把握できるよう、作業は公開され、集中的に行われるべきである。2002年の後半には、4回目の市民総会が開かれ、その成果が発表されるだろう。
(2)「実施プロジェクトグループOG21」
一方、市当局内では、企画事務所によってコーディネートされた「実施プロジェクトグループOG21」が専門分野の代表として共同作業に加わり、対策が達成できるよう助言や指摘を行う。その結果は市議会に報告され、最初の評価は、早くて1年後になるだろう。
(3)市民募金
これまで、都市構想の対策を提案することに関して資金調達の可能性はなかったが、「若者の未来ワークショップ」は、より良い提案がなされるよう準備段階における「市民募金」の設立を発案した。この「オッフェンブルク都市構想21」を支援するアイデアは、市議会によって優先的に取り上げられた。
「オッフェンブルク都市構想21」の成果は、市民自らが作成した方針から生み出されたオッフェンブルク市の「理想像」である。来年、街の発展を問うための投票が実施され、歩むべき道が明確になるだろう。その意味で「理想像」は、街がなすべき事柄をできるだけ明確に規定し、市の政治・行政、企業や連盟、市民や訪問者のために論点を示すべきである。そうすることによって、街はアイデンティティを高め、深めることができる。これからの作業は、実現することが可能な、具体的実行を目指したプロジェクトや対策に取り組んでいくことになる。
以上の意訳をしてみると、小さな街であるがゆえに出来たこともあろうかと思うが、若者の協働によるところも大きいと思う。市のホームページには、「実施プロジェクトグループOG21」のスタッフ写真があり、それを見ていると、街づくりに対する思いも伝わってくる。