尺はとはどうして鳴っているのでしょうか。
たいていの文献では、笛の共鳴については、管の内部に正弦波のカーブを描いたもので説明されていますが、これは何か分かっているようで釈然としない部分があります。
このために、次ぎの図を考えてみました。
この図は二つの図になっています。
上の段の図は多くの本に載っている、管内の音の振動を正弦波カーブで表したものです。
下段図は、管の内部を振動する空気の振動を粗密で表しています。
赤い色が濃くなるほど、空気の密度が高く成っていることを示しています。
左端、管の上部で動く横線は、歌口から人が吹く息の状態を表しています。
図では振動をゆっくりあらわしていますが、実際は音の振動数で振れているので1秒間に何十回から数万回に至ります。
この振動は、エッジ部における空気振動によものです。
尺八(縦笛)を上手く吹いたとき、筒の固有長に応じた振動で共鳴をします。
この場合当然、尺八の管内部に定在波が生じます。
音の高さと、筒の長さの関係は、計算で出ます。
計算方法は、音速を振動数で割ったときに1波長の長さになります。
例えば音速は1気圧・摂氏0度では約331.45m/secです。
(音速は、絶対温度の平方根に比例します。温度が上がれば1波長が長くなります。別の見方をすれば、笛のように決まった長さの筒の共振周波数は、温度が上がることのより高くなります)
A音(ら)=440Hz の振動の場合を計算すれば次のようになります。
331.45/440=0.7532...(m) --> 75.3(cm)
です。
共振は、この1サイクルの整数倍あるいは整数分の1で、効率よく共振します。(実際には両端の管長補正が必要です)
上の図の下段の管内部図で説明すれば、左から空気に振動を与えた場合、その振動が右端の開放端に至ればそこで、逆方向に伝搬します(反射)します。この時、お互いの空気振動がうち消し合わずに同じ位相の場合、音のエネルギーが合成されて、音が強められることになります。そして、減衰生じないとすればければ、無限にこの反復振動を繰り返すことになります。
次に、歌口から吹き込む息について考えてみれば、歌口側の管内空気密度が上がればその上昇圧力によって息の流れが管の外側へ押しやられ、逆に内部の空気圧が下がれば(空気密度が低くなれば)息は管内の方に吹き込まれると言った上下振動を行うことになると想定できます。
即ち管内部と息の流れが同期していることになります。
ではこれら一連の運動が、音としてどのように外部に伝搬するのでしょうか。
これは、大きく二つ考えられます。
まず管尻側の開放端で生じる空気密度の変動(音の正弦波で言う腹部)げ管外部の空気を振動させるもの。
これは、あたかも管尻面に空気の膜を張ったようなものを想像して下さい。この部分が空気振動の粗密によって軸方向に振動しているスピーカーの様な役割を果たしているわけです。
蛇足ですが、パスカルの法則というものがありましたね。
U字状の管の中に液体を入れた場合、一方の液面に加える単位面積あたりの力は、反対側の面に作用する単位面積当たりの力とが互いに等しいというものです。
笛も一方(歌口)に力(音の振動)を加えれば、反対側面(管尻)に作用する単位面積あたりの力が等しくなります。と言うことは、管尻部分の面積を広くすれば、その面全体としては、より大きな力(音)が発生することになります。これが、ベルマウスの役割なのではないでしょうか。
次に、歌口の息が振動して空気を振るわせて音として伝わるものがあります。
この他にも、指孔があいている場合そこから漏れる空気の変化が音として伝わる場合や、管自身の震動が音として伝わっていることも考えられるでしょう。
蛇足ですが、半音程は、2の12乗根分に1ですから、基本音から計算で或る音の振動数を計算することが出来ます。
(基本周波数)×12√2^a a:音程差
パソコンなどで計算する場合、
(基本周波数)*2^(a/12)
と、入力します。
(基本周波数)は、例えば、A音=440、あるいは442と言った数字です。
A=440の場合のD音は計算すれば、
440*2^(5/12)=587.32(Hz)
331.45/587.32=0.564 ----->56.4(cm)
尺八の歌口直径=2(cm)
尺八の管尻直径=1.5(cm)
管補正=0.6とすれば
(2+1.5)*0.6=2.1(cm)
56.4-2.1=54.3(cm)
と言うことで、54.3cmの筒長の場合D音に共振(定在波)する事になります。
これらのことから、管内部の状態によって音色が決まり(波形の歪み=高調波の比率の違い=音色)、また、歌口の状態により振動が以下の効率よく内部の振動にエネルギーを伝えるかが決まります。
経験からすれば、特に歌口面の平面が保たれていないと澄んだ音が出ないようです。
例えば、音のに濁っている尺八の歌口を、平らで堅い机面で磨いてみると良く鳴るようになる場合もあります。これは歌口面が真平になっていないため息の乱流が生じてしまうからかもしれません。
尺八の孔の寸法ですが、良くなる1尺8寸管のものを参考に計ってみますと、歌口側の管端から第4孔中心までが26。2cm、同管端から3孔までが32.1cm、同2孔まで37.7cm、同1孔まで42.7cm、裏孔5孔までが22.5cmです。(全長が54.6cm)
孔の直径が11mmです。
左端図は、「尺八筆記」に記載されている、一節切尺八図。
真ん中は「糸竹古今集」の挿絵。
右端図は「糸竹古今集」に載っている一節切尺八の改良された”小竹”。
「糸竹古今集」の笛の図には、いずれも竹に飾りの縞が見える。
「尺八筆記」のものは”天吹”に近いものではないか?
尺八はどうして鳴るのか