尺八の材質は、竹で出来ているのが一般的です。竹であっても真竹と言う種類の竹を使います。
木製のものや、プラスチック製、簡単なものでは水道管のような塩化ビニールで作ったものもあります。
竹藪は、かっての日本では、いたる所で見かけたものですが、都市開発などにより最近はあまり見かけなくなりました。
竹にはいろんな種類があります。日本でよく見かけるものは孟宗竹(もうそうちく)、真竹(苦竹/まだけ)、淡竹(呉竹/はちく)と言う種類の物が大半を占めています。
孟宗竹は一番太い竹で、太さが20Cmを越えるものもある。真竹と淡竹は10cmそこそこほど止まりであり、概観は非常によく似ているので見分けがつきにくい。これら竹の違いについては、「竹と日本人」(上田弘一郎/日本放送協会)が詳しく著されています。
平成13年暮れに逝去されました製管師の小林俊風師と15年ほど前に何回か竹を採取に山に行ったことがあります。
この時、遠くから竹藪を見ても淡竹か真竹か判ると言われていました。
真竹の笹藪は緑が濃く、藪自身が荒れた感じに見えるそうです。
孟宗竹とか、淡竹の藪はしんなりと、整っているそうです。
地歌「吾妻獅子」に
糸竹に心乱れ髪
うたふ恋路や露添う春も
呉竹の
かざす扇子にうつす曲
と言うのがありますが、同じ竹藪でも、藪が荒れた感じに見える真竹や、太い竹の混じった孟宗竹では情緒がないわけで、ここは呉竹(淡竹)でなければその情緒にぴったりの雰囲気を醸し出せないわけです。
何度も言いますが、尺八に使われるのは真竹ですが、この竹の稈(みき)が土に隠れている部分から茎(くき)までのところが管尻部になるのであまり肥えた土で育てばこの部分が細長く延びてしまい尺八用には向かなくなります。
一番多く使われる尺八の寸法は1尺8寸(大体54.5cm)です。
この長さの竹の表側4孔、裏側に1孔の、合計5孔の指穴があいています。
この竹の穴を全部塞いだ時に出る音、これを筒音(つつね)と言いますがこれは、D(レ)の音です。
この次に使われる尺八の寸法は1尺6寸(48.5cm)のもので、この筒音は、E(ミ)の音です。
尺八の上部の吹き口、この部分は歌口と言いますが、この部分は竹の一部を斜めに切り落とした部分に水牛のリード状のものがはめ込まれています。この部分から一番遠い穴(管尻に一番近い孔)を一つ空けたときに、1音半音程が上がります。1尺8寸の尺八管で言えば、筒音がD音だから、F(ファ)の音になります。二つ目の孔も空けると、G(ソ)の音です。更にその上の孔も開けて前部で3孔空けると、A(ラ)になります。
尺八の歌口には、水牛の角がはめられています。象牙であったり、竹の皮の部分であったりする場合もあります。
唾などによる湿気で腐食するのを防ぐため、あるいは、音が出易くするために有ります。
歌口の形は大まかに3種類があります。琴古流尺八、都山流尺八、明暗尺八と言った大きなグループで、各流派によって尺八の構造がすこしづつ違っています。
写真右側から
延べの尺八。真ん中が継がれていない。1本物。
古い農家の屋根に使われれいた煤竹で作った尺八。
1尺3寸の短管尺八。
2尺1寸尺八。
2尺5寸の長管尺八。(地なし管)
1尺6寸
1尺6寸尺八(7孔尺八)
手前 一節切尺八
都山流に使われる尺八の歌口
琴古流に使われる尺八の歌口
明暗流に使われる尺八の歌口
一節切尺八の歌口
尺八管の筒内部に出来るデコボコを平らにして、音量を増したり、澄んだ音色にするため、あるいは音程を整えるために、地(じ)と言う砥の粉(とのこ)と漆を混ぜたものを塗った尺八が一般的に売られています。[下地]。しかし、単に腐食を防ぐ程度に、ごく薄く漆を塗っただけの尺八や、まるっきりそう言ったことをしない尺八もあります。こういった尺八を「地なし管」と言い、明暗の古典本曲を愛好する人たちが好んで使います。
現在の尺八の大半は尺八の真ん中で継ぐ形になっています。
二つに分ければ長さが短くなって、携帯に便利であることともありますが、竹藪が少なくなった事により、尺八に適した長さをや節を持った一本ものの竹が入手しにくくなったことも、その要因になっています。継ぎ手の部分で不要な節を落としたり、必要な寸法に揃えたりしているからです。
標準の5孔の尺八以外にも7つの孔を持った七孔尺八も現代曲の演奏に良く用いられます。
流派によってはこの七孔尺八を忌み嫌う場合もありますが、現代曲には欠かせません。
尺八の音域は、約2オクターブ半、上手な人でほぼ3オクターブの音域をだすことが出来ます。また、孔を全部塞ぐ場合と、少し空けて押さえる場合や、顎を使って、吹き込む息の角度をを変えることによって、半音あるいは一音程、一音半と言った音呈の変化をさせることが出来ます。こういった技法により、音域内を半音程で全ての音を出すことが出来ます。特に尺八独特のポルタメントな音を出せます。しかし、限度をわきまえ、この楽器の特性にあった曲を選ぶことも大切です。
琴古流尺八、都山流尺八、明暗尺八と言った流派の違いは尺八の構造上の違い以外に、使用する楽譜(譜面、譜本とも言う)の記譜法も違っています。当然、吹き方に独特の技法も合わせて指示されています。また、本曲と言う、その派独特の伝承曲で他の流派の者がでは吹けない約束になっていたり、箏や三味線との合奏曲する場合、同じ曲で有るにもかかわらず、各流派ゴトに旋律が違っています。
この違いからは、言い換えれば各流派の演奏により醸し出される独特の雰囲気、判りやすく言い換えるなら方言、訛と言った様な差を生み出しています。しかし、現代曲などという新しい曲はその差はなくなっています。これは作曲された曲が標準語化(洋楽化)されて記譜されているからでしょう。しかし場合によっては、現代曲であっても、敢えて古い流派の持っている方言で演奏するように、作曲者が指示している曲もあります。
尺八備忘帳・楽器としての尺八次のページへ
楽器としての尺八
尺八通俗集(国会図書館蔵)
尺八筆記(国会図書館蔵)