数年前まではよくコンサートホールに聴きにいきました。最近はたまにしかいきません。好みの演奏家の来日がめっきりすくなくなったせいです。昔聴いたソリストや指揮者の演奏のほんのさわりだけを書き記してみました。海外からの来日公演は「Top Page」をご参照ください。


(1)声楽家
 
市原多朗 松本美和子 林康子 佐藤しのぶです。
 
 市原多朗は日本人ばなれした声量 美声テノールとして欧羅巴でも高く評価されています。97年11月28日大阪フェニックス・ホールでのジョイント・ガラコンサートでプッチーニ「トスカ」より「星は光りぬ」を朗々と歌ったとき 日本にもこれほどの歌い手がいるのかと感動しました。
 
 そのとき共演していた松本美和子も欧羅巴で活躍している歌唱力抜群のソプラノで ドヴォルザークの「ルサルカ」より「白銀の月」を情感ゆたかにたっぷりと歌ってくれました。
 
 林康子は99年12月17日シンフォニー・ホール。林さんもふだん日本にいないので この機会を逸するといつ大阪公演があるか不明。世界のディーバは健在で 魅惑の美声を堪能しました。「ある晴れた日に」やモノーの「愛の讃歌」もよかったけれど 急所に届いたのは「宵待草」で 上質で薫り高く しっとりと切なく美しく歌いあげたのには 身体がしびれ とろけました。
 
 

佐藤しのぶは98年2月15日京都コンサート・ホールでのリサイタル。
「トスカ」より「歌に生き 恋に生き」は ただまっすぐに情熱的に歌えばよいというものではなく かなりの歌唱力を要する歌。松本美和子 林康子にくらべてやや聴き劣りするのはやむをえないとして この人の本領は若く はちきれんばかりの蝶々夫人で発揮されます。
 
ピンカートンに身も心もささげた女のエロスが発散する「ある晴れた日に」こそこの人の歌姫としての魅力が横溢。 イタリア・オペラの本質は男女の刹那的恋慕の情ではなく かなわぬ大人の恋。深いなじみをかさね 互いに相手を知りつくしながらも別れねばならない男と女のエロスの追求にあります。
 
彼女は その表現力に長けているのです。彼女自身もそのことをよく承知しているから ほかの歌にくらべてすさまじい気合が感じられるのです。



(2)指揮者
 
小沢征爾と小林研一郎です。小沢さんはいつも前売りと同時に いちばん高い席と安い席の
ほとんどは売り切れてしまいます。
小沢さんの指揮でもっともチケットの安かったのは98年1月26日シンフォニーホール。阪神
大震災のチャリティ・コンサートでした。A席6000円 B席4000円 Aペア席10000円。
小沢さんが指揮したチャイコフスキーの「大序曲1812年」 これはナポレオン一世のロシア
侵攻を阻止せんと敢然とフランス軍と戦ったようすを作品化したもの。
 
結局ナポレオンはロシアの冬将軍という思わぬ敵に大敗を喫します。指揮した小沢さんの姿
これはもうオーケストラのそれではなく ロシア軍を指揮する司令官OZAWA将軍そのものでした。
眼前に茫洋たるロシアの大地と降りしきる雪 そのなかを行軍するロシア軍 退却するフランス軍
の姿が忽然と浮かんできました。
 
指揮ということばの意味がこのときはじめてわかりました。アンコールは「G線上のアリア」でしたが 
感極まったのか小沢さん 指揮しながら泣いていました。大震災で尊い命をうばわれた方々に合掌。
 
コバケン(小林研一郎)さんはなんといっても「第九」とスメタナの「わが祖国」です。
特に「第九」は「炎の第九」といわれるくらいで極め付。95年12月25日シンフォニーホールの
「第九」は昂奮しました。そしてアンコールの「ダニー・ボーイ」。こんなに心を打つ曲とは!
 
「わが祖国」はチェコ・フィルを指揮した97年11月16日シンフォニーホール。
「ヴィシェフラード」と「モルダウ」でしたが 断然よかったのはむろん「モルダウ」。
心が解きはなたれました。マーラーの「交響曲第五番」もじっくり聴けました。