2004-06-30 Wednesday
市川海老蔵

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 新之助が海老蔵になった。今世紀の歌舞伎界を背負って立つ役者になることはまず間違いない。この人の存在感は独特で、歌舞伎の立役になくてはならない凛々しさがある。その凛然たる姿は、テレビや映画とちがい、顔や容姿のズームアップできない生の舞台に不可欠である。顔よし声よし姿よしというが、新海老蔵は声もいい。
 
 近ごろよく思うのだが、海老蔵が団十郎を襲名するとき、はたして私は生きているだろうか。むろんこれは、現在病気療養中のいまの団十郎がめでたく恢復し、いつものタフマンぶりを見せてくれたらのことであり、私は心から団十郎の本復を願っている。もし、団十郎、菊五郎、猿之助、鴈治郎、仁左衛門がいなかったら、歌舞伎は惨憺たるありさまになる。五人が欠けたらということではない、役者それぞれに異なる柄とニンを持つゆえ、だれか一人欠けても歌舞伎はつまらなくなるのだ。
 
 私がたいした用もないのにこの国にいるのは、ひとえに歌舞伎と高校野球の存在するからであることはすでに記した。それらがなくなれば迷わず私はこの国からオサラバするだろう。つれあいも躊躇なく私につきあってくれるだろう。
海老蔵が研鑽を積み、押しも押されもせぬ団十郎になるのを見て、福助が芸を磨いて七代目歌右衛門を、海老蔵の嫡男が新之助から海老蔵を襲名するのを見て死にたいと思っている。そこだけは欲が深いのである。それが長生きの秘訣ならと居直るほかない。
 
 上の画像は6月30日、大阪・寝屋川にある成田山別院で市川海老蔵襲名のお練りがおこなわれ、海老蔵が挨拶に立ったときのデジカメ画像で、つれあいが撮影した。寝屋川市長が挨拶に立ったら、大阪のおばちゃんが、「暑いから、挨拶はみじかめにして〜えな」とよくとおる声で叫んだ。そして、まだ市長の話が途中なのに、そこかしこから拍手がおきた。話が長い、早く終われというおばちゃんたちの催促である。「ええ話やった、ええ話やった」と口々にいう声もきこえたらしい。市長の話が終わったときの拍手はなく、やれやれ、やっと終わったというタメ息が洩れただけ。
 
 市長のあと、海老蔵が茶目っ気たっぷりに、「挨拶はみじかめにします」というと、おばちゃんたちは口をそろえて、「長くていいヨ、海老蔵さんは」といってのけたそうである。海老蔵はこう締めくくった。「この暑さに負けないほどみなさんも熱い。大阪の熱いエネルギーに負けないよう、精一杯がんばりたい」。

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