2004-07-13 Tuesday
ライブドアの非常識
 
 緊哲子さんと折楠男君は結婚を前提に熱い交際をしている。緊家と折家を除く親類縁者10家の内諾を得て婚約もすでにすませており、結納の日取りを指折り数えるという毎日である。ただ、両家や10家の郎党のなかには二人の結婚を快く思っていない者もいるようで、それは人それぞれの思惑があり仕方のないことである。
 
 哲子さんにしても楠男君にしても、互いの家がすべからく順風満帆なら、なにもいますぐ結婚するいわれはない。とはいえ、そうはいってられない経済事情もあり、だからといって、相手のことが嫌いなら結婚は論外であるのだが、お互い育った環境も似ているし、家も近いし、相性も悪くはない。二人が結婚することで両家が安泰なら文句をいうこともないと考えている。
 
 そこへ何を勘違いしてか、ライブドアという成り上がりの新興資産家が横槍を入れてきた。ライブドアの当主は堀江某という若者で、どういうわけか定かではないが、緊哲子さんに横恋慕したらしい。短期間にインターネット関連企業でボロ儲けして貯めた金にモノをいわせて、折楠男君から哲子さんを横取りしようという算段である。
 
 堀江某の短慮なところは、二人の結婚が秒読みに入っているにもかかわらず大金をばらまくふりをしてお大尽風を吹かせた点と、普通ならそういう話は水面下に進めるべきところを公開した点にある。破談になって名乗りを上げるならまだしも、哲子さん楠男君双方に対して失礼であろうし、親類縁者10家に対しても無礼きわまりないのだが、堀江某は若くて自信家ゆえ自らの非常識に気づかず、メディアを味方につけるためのもくろみを遂行した。
 
 この国のメディアの中枢も非常識というか変人が多いせいか、まるで堀江某を救世主のごとく扱っていて滑稽である。各家にはそれぞれの信義則というものが歴然として存在する。信義則は金銭より優先されなければならない。すくなくともそうあるべきはずである。
大金を目の前にちらつかせたからなびくというのでは、ニンジンをぶらさげられたから思わず食った馬とまったく同じ、無節操というほかない。いや、そういうのは馬に対して失礼というもので、馬でも知らない人間の差し出すニンジンを食べぬ馬もいる。
 
 事はこの国でおそらくもっとも人気のあるスポーツに関わる話である。堀江某の尻馬に乗って利用されたメディアも、彼を哲子さんの白馬の騎士と誤解した支持者も早計であった。金に目がくらんで、あせって結婚したのはよいが、半年と立たない間に破局を迎えたという話はザラにある。肝心なのは相手の人格であり人物ではないだろうか。
 
 哲子さんと楠男君のことで思うのは、彼らの家とほかの10家に贔屓筋へのサービスが不足しているということである。贔屓あってこその存立と繁栄といった認識がいつの間にやら雲散霧消し、哲子さん楠男君も含めて、あたかも自己の所有物であるかのごとく考えているふしがある。
これはとんでもない誤りで、贔屓に媚を売る必要はないが、贔屓の趨勢を見ながら大局を判断する必要はある。尊大は美徳ではない、衆目はそれを決して見逃しはしないだろう。

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