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山鳴らし(杜)

第二十二話

2004.12.8

                                         僅かな風に木の葉が左右に大きく揺れ、葉と葉がふれあい音を奏でている。
 微風でも左右に揺れるのは、それぞれの葉が、まんべんなく光を浴びるように葉柄の断面が縦に長く、横幅が狭い構造となっているからである。 

杜(もり)と書いて山鳴らしと読むこともある。帰化植物は一般的に繁殖力が強い、この木も一時は日本各地の里山に簡単に森を手早く作っていたのだろうか・・・?
ヤマナラシと出会い

 真夏の渓を釣り上がっていたが一向に目印が動かない。 仕方ないなあ・・・こう暑くちゃなあ あまごも岩魚もお昼寝中なんだろうかと思う?  今日は朝が遅かったが、少し空腹を覚え腕時計を見た。何と夢中で釣り上がっていたので気がつかなかったようで、すでに時刻は12時を廻っている。

うむ!頷きながら釣り人は、昼飯を食べようと日陰のある空間と座り心地の良い石がある場所を探す。 少し渓を上ると左岸より小沢が流れ込んでいるところが目に入った。 そこは適当な日陰や平地と腰掛ける石があった。 よし!と声を掛け小谷の出会いに上る。 ザックを下ろして屈み、小沢より流れ出す沢水に手を浸す冷たくて透き通った沢水が熱で浮腫んだ手を冷やしてくれる。 顔も洗う、何と心地良いことだろう。 沢を渡る風が頬を撫ぜる。 その時、何処となくざわざわとした葉音が聞こえてきた。 何の音だろうと思い頭を上げる。この場所に日陰を挺している樹の木の葉が左右に大きく揺れ、葉と葉がふれあい音を奏でている。 付近の他の木の葉は殆ど揺れていない。何故だろうと思い、葉をよく見る、どうもポプラの一種らしい。


 帰宅して調べてみると、ポプラはヤナギ科ヤマナラシ属の樹木の通称であるがその中で黒ポプラと呼ばれているセイヨウハコヤナギと思われる。 この木は葉柄が扁平で少しの風でも葉が左右に大きく揺れて音を出すことから山鳴らし(杜)といい,又、昔京都ではその材で扇の箱を作ったので別名ハコヤナギとも言うとある。

ボプラ(Populus)はラテン語の人民(populus)に由来しており、それらはホピュラーやピープルの語源とされている。ギリシャ語では『ざわめき』であり日本語の山鳴らしと同じ意味を持っていると思われる。

 ローマ市民がこの木陰でいつも集会を開いたといわれ,人が集まると足音やささやきがザワザワとすることからといわれている。 花言葉は勇気である。 これは最初の一人の小さなささやきが発端で、やがては大きなうねりとなり社会を動かす程の力を発揮することがあるが、最初の一声を出した人への勇気を讃えたものと思われる。すなわち色々な不合理な事柄に、勇気をもって立ち向かうことや、その勇気に賛同する勇気を指し示しているものと考えられる・・・。

ヤマナラシの戦略

内 容    
葉が横方向に大きく揺れるのは、右写真の様に葉柄が三味線のバチの如く断面が長方形なのである。  
 葉と葉柄の付け根には2個程度の密腺が有り、アリを呼び寄せ毛虫などからの食害を防いでいる。    
風媒で綿毛を持った小さな種子で風に乗り散布される。発芽が早く又、 成長も早い。 山火事跡などに先駆種として定着して二次林を作る時もある。             樹肌はソロバン玉状の模様が見られ、異様な雰囲気を持つ。


木の名が分かり、葉や幹の特徴を知るに付けこの木のしたたかさに驚かされる。渓にあってもあのさらさらと言う

葉摺れ音がすれば思わず空を仰いで確かめるようになった。 今迄、全く感心が無かった物についてである。

この木の持つ不思議は、もっともっとあると思うが何となく忘れられない存在となってしまったのだ。

丁度、旅先で出会った可愛い少女との純愛のように・・・   

 第二十二話 完  2004./12/8

第二十三話 とんでもない釣り