2月18日(月)砂丘の朝

  眠ったか、眠ってないのか、わからないうちに朝は来た。
 目をつむり寝ようとしても いつものようにすーっと落ちていく
 感覚はなく、延々と考え事を続けている、その延長のような眠り。
 沙羅のこと、助けてもらったおじさんのこと、眠りの中で考え続け
 た。

  雨粒が車の屋根に当たる。
  風の音?波のうねりだろうか?
 ゴーッという音が、大きくなったり小さくなったりして一晩中聞こ
 えていた。
  夜中に何回か駐車場に車が入ってきて、砂丘への階段を登って
 いくポックン・ポックンという音が聞こえた。

  夜明け前に一度トイレに行った。
 広い駐車場には私の車以外は一台も停まっていない。
 やはり冬の平日の朝である。

  トイレから帰ってきて車に乗ろうとしたら、沙羅が待っていて
 開けたドアから飛び出そうとした。
  昨日は運転席側のドアから出て行ったので、一晩中運転席で
 番をしていて、今度は私が後ろのドアから出て行ったので、
 運転席から後ろへと移動し、ドアの前で寝始める。
  「今度はきっと置いて行かれまい」としているのだろう。

  雨粒は時々車の屋根に当たるが、小鳥のさえずりが聞こえ
 始めた。
  時間は7時。朝だ。
  さあ 起きよう。

 
早朝の砂丘への階段を沙羅と登っていった。

  砂丘には誰もいない。

  リードを放してやると、沙羅はうれしくてたまらないというよう
 に、砂の坂を全速力で駆け下りていった。

  意地悪をしてわざと戻るふりをしたら、あわててまた全速力で
 戻ってきて
  「なんで、なんで?どこ行くの?」と言うように私にケリを入れ
 る。

  「じょーだん。じょーだん。」そう言って沙羅から逃げ回り、
 しばらく二人でじゃれ合う。

  波打ち際まで降りていき、海岸線に沿って歩く。

  浜にはいろいろな物が流れ着いていて、これをいちいち観察
 するのがまたおもしろい。 なんと、冷蔵庫まで横たわっている。

  向こうから海猫が5〜6羽飛んできた。
 沙羅は追いかけていこうとするが、無駄だと知って思いとどまる。

  海へ向かってきつい風が吹いているのだが、
 海猫は空の上で羽を広げたまま同じ位置を保っているかと思え
 ば、スイーッとまるですべるように仲間のところへ移動する。
 
  鳥ってすごい。 ほとんど羽を動かさずに空にいられるのだ。

  私はしばらく空を見上げ、「ニャーニャー」と海猫に向かって
 話しかけた。

  砂丘には見る見るうちに風紋が作られていく。
 まるで、ドライアイスの煙のような砂煙が、列を作って同じ方向へ
 ザワザワと移動していく。 

  あっちにもこっちにも・・・・
 そのザワザワが、砂の丘を駆け下り、また駆け上る。

  まるで「黄泉の国」へでも迷い込んだような、幻想的な風景の
 中を沙羅がしかめっ面をしてこっちへやってくる。

  目を開けているのがつらそうだ。
 人間に比べて目の位置が下にあるので、目に砂が入るのだろう。

            つづく

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