さともようあざみのいろぬい
花街模様薊色縫【別の名前】
いざよいせいしん
十六夜清心
【見どころ】
心中した男女が死に損なった末に再会して、どっぷりと悪に染まったあげく
悲惨な死をとげる、というのが全体の筋で、本来は黙阿弥お得意の白浪物です。
薄暗い照明、しっぽりした雰囲気の前半だけを見て「十六夜清心」を見たと思ってると、
これが、あ〜た、ぜんぜんちゃいまんねん。後半は一転して雰囲気ちゃいますもん、
そらもー詐欺にあったみたいなもんでっせ!(大笑) 特に、十六夜さん、
なんでそないに変われるの???ってなもんです。いや〜、女ってコワイ。。。(苦笑)
これ、実は「女が人生の主導権を握ってる」という芝居なんですな〜(ほんとか?)
よく上演される前半の「稲瀬川の場」の見どころは、やっぱり清心の悪への転身。
死んだはずが死にきれず、つい出来心から人を殺してしまった己が身の上と、
遊山で浮かれ騒ぐ人達とを引き比べ、悪心に変わるところでしょー。
それまでの揺れ動く心をスッパリと切って言う清心のせりふは、けっこう好き。
「こいつぁめったに死なれぬわぇ」と思った男が
どんな悪を見せてくれるのか、やはり通しで見たくなるんでありんすよん。
ところで、清心が若衆の求女と出会う直前に、清心が本舞台で、求女が花道で
交互に台詞を言うのが割りぜりふってやつじゃねーだろーか?(自信ないけど・苦笑)。
んで、この幕の最後、清心と十六夜が闇に紛れてすれ違う場面、ここはだんまりです。
さてさて、清心さんがどんな悪を見せてくれるのかな〜と期待してると、
後半になって出てきたのは、女の尻に敷かれた男だったりするわけです・・・(爆)
何より驚いちゃうのが、楚々としてた十六夜さんの悪婆への転身ぶり。
直前に、惚れた男の菩提を弔いたいと髪を落として出家するわけだから、なおさらです。
こうも変わるか!ってところを、じっくりとご覧くだされたし。
なんですが。。。美男美女の心中場面がやはり一般的にも人気が高いのか、
後半の悪党ぶりがあまり上演されないので、見る機会が少ないのは、とても残念なり。
【あらすじ】
「稲瀬川の場」
大磯の遊女十六夜と馴染んだため女犯の罪で鎌倉極楽寺から追放された僧清心。
再修業の心で稲瀬川まで来たところで、
ひと目会いたさに廓を抜け出してきたという十六夜と出会ってしまった。
別れ話を口にする清心に、十六夜は、それなら死ぬと言い、
実は身ごもっているのだと打ち明ける。そうと聞いては見過ごしにはできない。
かといって、一緒に行けば、さらに罪を重ねることに。
どうしたものか・・・。思い余ったふたりは川へ身を投げる。
しかし、十六夜は、白蓮という俳諧師に救われる。身請けしてもいいと言う
白蓮の言葉に、十六夜は、こどもを産むまでは生きていようと決心する。
一方、清心もまた、死にきれずにいた。石を袂に入れ再び入水しようとしたとき、
近くで聞こえる遊山船の騒ぎが耳について気が散りはじめる。
そこへ通りかかった寺小姓の求女が癪を起こしたのを介抱してやるうち、
清心は求女の懐に五十両という大金が入っていることを知る。
その金を貸してくれ、いや貸せないと揉み合ううちに、
ひょんなはずみで求女が尖った杭にのどを突いて死んでしまった。
直接手を下したわけではないが、犯した罪のつぐないにと死のうとする清心。
だが、待てよ・・・。
折しも雲の切れ間から出た月が清心を照らし出した瞬間、清心は悪に目覚めた。
求女の死骸を川に落とし、財布を手ににんまりとほくそ笑む。
「初瀬小路妾宅の場」「箱根山中地獄谷の場」「雪の下白蓮本宅の場」
その後、白蓮の妾となった十六夜は、おさよと名を改め、
清心の菩提を弔うために尼となり、父親の西心と巡礼の旅に出ることに。
(ここまでの十六夜さんは、ほんとーに「清く正しく美しく」ってな感じでっせー)。
一方、清心は盗賊となり、鬼薊の清吉と名乗っていた。
そのふたりが箱根で再会し、悪のコンビを組むことになる(ヲイヲイ!)。
で、さっそくふたりで強請りに来たのは、恩ある白蓮の家だった。
だが、いい人に見えた白蓮こそが、実はふたりの上を行く大盗賊の大寺正兵衛で、
なんと清吉の実の兄だったことが分かり、3人で捕手から逃げることに。
「名越無縁寺の場」「同表門捕物の場」
清吉とおさよは、おさよの父の西心を訪ねた。そこで清吉は、
いつかの求女がおさよの弟であったこと、清吉の盗みが原因となって
清吉の父親と西心の故主が切腹してしまったことをはじめて知り、
申し訳なく死のうとする。が、止めようとしたおさよを誤って殺してしまう。
清心は、おさよとの間にできた子を西心に託すと、切腹して果てる。
【うんちく】
安政六年(1859年)初演。作者は河竹黙阿弥作。世話物の人気狂言。
実在した人物(小塚原で処刑された盗賊の鬼坊主清吉)と、
実際に起こった事件(江戸城の御金蔵破り)を題材にしたものだそうで、
そのために幕府から弾圧を受け、大当たりながら35日で中止されたという。