【役柄に関する言葉】


あかっつら
赤っ面
顔を赤く塗ったらみんな赤っ面かとゆーと、そうではなくて、赤い顔をした小憎らしい敵役を指す。さほど偉くもないのに威張り散らしたりする小役人などに多い。本当に憎々しげな大悪党は青白い顔をしているので、違いを観察すると面白いと思う。



あかひめ
赤姫
歌舞伎に登場する典型的なお姫さまのこと。たいがいが赤い振袖を着ているから、そう呼ぶみたい。んで、たいがい胸元に片袖をあててかしこまっていたりする。



あくば
悪婆
婆はついてもババアじゃぁない。お転婆も婆のついた言葉だけど、それほどの小娘でもない。もっと妖艶な女の人で、伝法な姉御肌。あばずれにも見えて、悪事も平気ではたらいたりする。しいて言えば毒婦に近いニュアンスか。わっちゃぁ悪婆にあこがれていたりするのさ、実は(笑)



あらごとし
荒事師
歌舞伎の代表的な演技・演出様式である荒事を演ずる役のこと。隈取りをほどこし衣裳も派手で、身振りも大きい。さまざまな見得もある。若さと力を表現するのが大切だとか。「七つ八つの子どもの心で演じる」らしい。



いろあく
色悪
文字どおり色男の悪人。見るからに二枚目なれど、爽やかな、では決してない。冷酷、残忍、無情な悪党で、か弱い女をいたぶるのが得意。こういう危険な男に弱いんだよねぇ、女は。ころり、とまいっちゃう。時代がどんなに変われども、こいつぁ不変の真理みたいな気がするぜ。



ウケ
暫に出てくる公家悪の役を、なぜか特別にこう呼んでいる。受けて立つ悪人、ってことなんだろうけど、慣習なのかなぁ? 詳しいこと知ってる方、教えてくだされ。 



おしもどし
押し戻し
荒事に見られる役柄。暴れ回る怨霊や妖怪を抑えこんで舞台に押し戻す、正義の味方。花道の向こうからあらわれたスーパーヒーローが困ったやつらを見事に押し戻したら、良かったね〜、ちゃんちゃん♪とあいなり幕が閉じる。



おやじがた
親仁方
歌舞伎の「おやじ」はイコール爺。見りゃ分かる。白髪にシワだもん。現代じゃぁ「おやじ」の守備範囲は相当広い。OLにだっておやじがいるからね〜。



おんなぶどう
女武道
武術にすぐれた女性という設定の役。ひ弱に見える女の人が、男顔負けの立ち回りを見せる。中には、怪力の大女という飛んだ設定の役もある。



かしゃがた
花車方
中年以上の女性の役のこと。「花車」って、花街の茶屋女房や仲居さんのことを言うんだって。だから、本来は、そうした役柄を指していたのかもしれないけど、いまでは老女の役までをも含めての総称になってるらしい。



かたきやく
敵役
ヒーロー、ヒロインに対する悪人の役の総称。つまりは嫌われ役なんだけど、その役によっては役者の技量を要求するものもある。



かた
片はずし
片はずし」という髪形から呼ばれるようになった役柄、と言うんだけど、その髪形というのがよく分からない(汗)。先代萩の政岡、加賀見山の尾上、熊谷陣屋の相模などが典型的な片はずしらしい。ん〜、なんか、みんな、できすぎた女の人ばかりでござんす。今度は髪形にも注目して見てみよう・・・。



くげあく
公家悪
天下を盗って我が世の春にせんとする極め付けの大悪人。公家っつーくらいだから生まれが良く、もともと身分が高い。市井の人間からすりゃ想像を絶するくらいの雲上人。だからでしょうかねぇ、とても人間とは思えない青白い顔に藍色の隈どりで、口をあければ真っ赤な舌がチロチロと・・・。一度見れば絶対に忘れられん。



くにくず
国崩し
天下国家を転覆させてしまおうという、とんでもねぇ野望の持った悪人を指す。お公家さんの極悪人が公家悪とすると、武家の極悪人が国崩しと思えばいいのかも。いずれにしても座頭クラスの貫録のある役者さんがつとめる役。胆が小さくちゃぁやっていられねぇ、ってな感じなんざんしょ。



こやく
子役
文字通りだが、歌舞伎の子役は映画やTVに出てくる子役とはちょっと違う点がある。どことなくぎこちない身振りと一本調子のせりふ回し。芸をしない、のだ。その方が可憐に見えるからと言われているが、芸達者な子役を見慣れた目には奇異にも映る。いまいち納得がいかん。でも、芝居の世界が現代とはかけ離れた中で子役だけがリアルじゃぁ妙だしなぁ。・・・なぁんて思いながら実は見ていたりする。



さんにょうぼう
三女房
女房役の中でも至難とされる役三つ。「吃又」のおとく、「本朝廿四孝」のお種、「腰越状」の関女を指す。いずれも亭主ために甲斐甲斐しくはたらく、できた女房でありんす。



さんばば
三婆
時代物に登場する位の高い老婆の中でも大役と言われる役三つ。「道明寺」の覚寿、「盛綱陣屋」の微妙は絶対、あとひとつは「本朝廿四孝」の勘助母とも「源太勘当」の延寿とも言われているらしい。



さんひめ
三姫
お姫さまの中でも最も難しいとされる役三つ。「鎌倉三代記」の時姫、「本朝廿四孝」の八重垣姫、「金閣寺」の雪姫を指す。美貌と気品と情熱が並たいていではないらしい。



じつあく
実悪
読んで字のごとく実に悪いやつなんだが、敵役の中でも並はずれてスケールの大きい悪人を指す。国崩しなんかがこれ。役の位も重いんだそうな。若い役者にはできない役なんだろうな。




じつごとし
実事師
実事を演じる役のこと。実直、誠実な人柄の立役を指す。忠臣蔵の大星由良之助が代表的な役。分別があり沈着冷静で理性的。正義派で、実行力があり統率力もある中年の男の人。って言ったら完璧じゃん? でもさ、そういうのって男として頼りにはなるけど面白みには欠けるかも?(って、いいかげんな・・・。苦笑) あと、実事師の中では比較的やわらかみのある役を「和実(わじつ)」と呼ぶそうな。和事と実事を足して二で割ったような感じなんでしょうか、ね。



シン
歌舞伎では主人公のことを「シンの役」などと言うことがある。中心のシンなのかな。当然ながら、力量のある役者が勤めることになる。



しんぼうたちやく
辛抱立役
じっと我慢する男。耐え忍ぶ役どころ。



たちやく
立役
男役のこと。



つっころばし
つっついたら転んでしまいそうな優男の役。実際、肩をたたかれただけで前へつんのめる若旦那が出てくる芝居もある。いっくら見た目が良くても、そんな頼りない男はやだなぁ(苦笑)



どうけがた
道外方
文字どおり滑稽な役。おどけて観客を笑わせる。つまりは三枚目。この手の役は、見るからに道化と分かるヘンテコな髪型のかつらをかぶっていたり、メイクをしていたりするから分かりやすい。けど、言ってること、やってることが笑えるかどうか、はまた別モノ。笑いは多分に時代の空気とか身体感覚と密接だと思うから。道化のカタチ、と思って見た方がスカがないだろうなぁ。



にまいめ ・ さんまいめ
二枚目・三枚目
二枚目は美男子で、三枚目はコメディアン。いまではごく一般的な言葉だけど、もとは歌舞伎の言葉でありんす。出演する役者さんの名前を順に書き並べる時に、筆頭は実力ナンバーワンの人気者、次に色男を演じる役者、三番目に来るのが滑稽役者と決まっていたことから生まれました。



はがたき
端敵
力のある人物の腰ぎんちゃくだったりして、敵役の中でも端っこに位置する役。オツムの単純な悪人なんだけど、憎らしさの中にとぼけた愛嬌が必要らしいから、これがけっこう難しい役なんだってさ。文字どおりに解釈しちゃうと誤解するおそれがあるよね。いやぁ、歌舞伎って奥が深いわ。




はんどうがたき
半道敵
敵役なんだけど、半分道化が入っている役。こずるいわりに、おばかだったりして。なぁんか憎めないよなぁ、コイツ、っていう感じ。




ぴんとこな
二枚目なんだけど優男じゃぁなくて、きりっとした振る舞いのいい男のこと。それを、なぜ「ぴんとこな」なんつー妙ちくりんな名前で呼ぶのかは、はなはだ疑問。いったい語源は何だ? ご存知の方、いらっしゃったら教えてくだされ。



やつし
身をやつす演技・演出をする役。いちばん有名なのは廓文章の伊左衛門。若旦那なのに勘当されてるからお金がない。落ちぶれちゃって着るものにも困ってる有り様を紙衣姿であらわしたりする。



よてん
四天
四天とは歌舞伎特有の衣装の名前で、左右の裾にスリットの入った、やや長めの上着のこと。転じて、四天を着て出てくる人たちのことも言うみたい。黒い衣装の捕手たちは「黒四天」。捕手なのに、なぜか桜の枝を持って出てきて(不思議だぁ)主役に絡む方々は「花四天」と呼ばれています。



わかしゅうがた
若衆方
前髪のある少年の役。きりっとしてるんだけど色っぽい。少年の美を売り物にするジャニーズ系アイドルのようなもの(?)



わごとし
和事師
上方で生まれた演技・演出様式である和事の役柄。江戸の荒事に対し、やはり印象がやわらかい。また、上方では「二枚目は二枚目半のつもりでやれ」と言い伝えがあるそうで、愛嬌があってかわいらしいのがいい男のようだ。笑いを取れないと人気者にはなれないという関西の常識は、どうやら昔からみたいですな。