14. 堅牢度と染料の構造

前章では、 染色された繊維での主要な堅牢度につき、 それが原因で起こるトラブルと、それを再現あるいは事前チェックするための試験法につき説明しました。 この章ではそこから一歩進んで、そうしたトラブルが、染料の構造にどう関わっているのかを説明していきます。

水堅牢度・汗堅牢度  繊維全般

水堅牢度については、問題になるのは白布への汚染です。この原因として上げられるのは次の通りです。

原 因 対 策 参考文献
(1) 洗浄不足 再ソーピング、 ソーピング工程の見直し 染料メーカー、 助剤メーカー資料
(2) 染料の親和性 親和性 の大きい染料を使う。汚染性の少ない染料を選択 パターンカード、 パターンリーフレット
(3) サーマルマイグレーション 熱加工条件 を下げる。セット後の汚染の少ない染料を選択 パターンカード、 パターンリーフレット
     (分散染料) 染料引き出し効果 の少ない加工助剤を使う

(1)(2) は、水溶性染料の宿命です。 直接染料、反応染料、酸性染料には、FIX処理も有効ですが、不完全な洗浄をFIXで補おうとすると、 摩擦堅牢度が悪くなってしまいます。基本は、洗浄できる分は洗浄し、その後にFIX処理をする事です。

(3) は分散染料にかかわる堅牢度です。分散染料では、染色後、還元洗浄(=reduction clearing)により、繊維表面に付着している染料残渣を化学分解し除去します。 この状態で、一旦繊維表面はきれいな状態になるのですが、その後、後加工やセットのため、 高い温度をかけると表面近くにある染料の一部が昇華して出てきます。 この染料に、長期保存の間に出てきた染料が加わり、汚染を引き起こすのです。 この現象は、サーマルマイグレーションと呼ばれます。この時、水堅牢度や汗堅牢度で汚染する染料は、下の様な染料です。
 (a) 昇華しやすい染料
 (b) 極性の高い染料 (例. アセテート用分散染料)
 (c) 副生成物として極性の高い染料を含んでいる染料
 (d) 汚染の色が目立ちやすい染料 (例.赤色)
  
添布白布に、ナイロンやシルクを使用すると汚染は一層強くなります。

サーマルマイグレーションは、洗濯堅牢度でも問題になりますが、この場合は、繊維の外側に付着している染料の総量が効いてきますので、 (a) の昇華性のファクターが最も大きくなります。

(分散染料の昇華性およびサーマルマイグレーションについては、次の洗濯堅牢度の項で更に説明しますので参考にして下さい。)

反応染料で、水堅牢度・汗堅牢度で白布汚染を引き起こす原因を更に上げて行きます。

(4) 酸加水分解
これは既に前章で説明しました。
この酸加水分解の反応は右に示した様に、非常に複雑なものです。 ただし、実際に起こるは、右図の左上部にあるジクロルトリアジンやジクロルキノキサリンを反応基に持つ染料で、 既に市場からは消えてしまっています。現在市場にある染料は、 余程常識的ではない取り扱い(例えば、酢酸溶液に一晩漬けておいた)をしない限り酸加水分解が問題になる事はありません。 それでも心配な様ならFIX処理をしておけば安心です。

加水分解のし易さ  ビニルスルホン<モノクロロトリアジン<ジクロルキノキサリン<<ジクロルトリアジン




(5) 塩素開裂
置換型の染料の内、親和性を大きくするために二つの染料母体を繋いだHomo型二管能染料を、強い塩素条件で一定時間置き、 その後、水試験や汗試験をすると認められる汚染です。 この開裂は中央で起こり、染料母体を持つ片方の染料がそのまま遊離するので着色汚染が起こります。


(6) 酸化開裂     
ピリミジンを反応基に持つ染料が、 強力な酸化剤に影響されて起こる開裂です。 例えば、大量に過炭酸ソーダを含んだ液に長期間浸けておいたり。 そのまま、洗い流さずに日に当てて干したりした後、水試験や汗試験を行なうと汚染します。




(4)〜(6) は、いずれも汚染を引き起こす原因となる反応ですが、日常的に起こる反応ではありません。 仮に起こったとしても、反応染料は、直接性が極めて小さい染料ですので、ソーピングすれば簡単に取れてしまいます。 遊離した染料が、どこにも逃げようのない水試験や汗試験だから汚染が起こるのです。

汗試験では、 汗液中のヒスチジンが染料の変褪色を引き起こす可能性がある事を説明しました。
これを実例を上げて説明します。 左の染料は今も捺染分野で広く使われている染料で、鮮明な紫色をしています。その構造中には、銅を含んでいます。 この分子から、その銅を引き抜くと赤い色になってしまいます。汗の中のヒスチジンはそうした金属イオン引き抜き効果(=キレート作用)を持っています。 (反対に、「夏場に 赤いTシャツを着ていたら、金属ネックレスに触れた部分だけが青くなってしまった。」と言う様な事が起こったら、ネックレスに含まれている銅が、 汗に濡れイオン化し赤の染料と結びついてしまったに違いありません。 こうしたケースには、少量のEDTAで洗浄処理するか、弱い酸で洗えば元に戻ります。)

一般的には、染料の分解や構造の変化が生じると、光の吸収に不具合が生じ、吸収波長は、より短波長へと変化して行きます。 (青→紫→赤→黄色)これに対し、ジアゾ化や金属付与により構造が大きくなったり電子吸引効果が増したりすると長波長側へシフトして行きます。


洗濯堅牢度      繊維全般

洗濯堅牢度についても、「汚染」に関しては、「十分な洗浄」と「染料の選択」が最も重要な事に変わりはありません。 ただし、水溶性染料で、水堅牢度や汗堅牢度汚染の改善に有効であったFIX処理は、洗濯堅牢度に関してはそれ程役に立たない事があります。 それは、洗濯試験での、物理的な「叩き出し」作用によりFIX剤ごと叩き出された染料が、FIX剤込みでの大きなV der W力により添布へ汚染して行く可能性があるからです。ですから、洗濯堅牢度を達成するためには、十分な洗浄と正しい染料の選択が基本となります。

さて、水堅牢度くらいでは、染料の変褪色が起こる事はまずありません。 汗試験では、一部の含金染料で変色が起こる可能性はありますが、既にそうした染料は補足されています。 しかし、洗濯堅牢度の試験では、試験液に、アルカリ(ソーダ灰)が入る試験もあり。温度も最高95℃までかかります。 従って、条件によっては、染料が高温で炊き出されて起こる濃度低下だけではなく、染料構造の末端が破壊されたり、アゾ基が分解されたりして、 変色や褪色が起こる可能性が出てきます。この場合ポリエステルでは、繊維が染料を深く閉じ込め守っていますが、 他の繊維の場合は水や薬剤が自由に出入りできますので深刻な問題を引き起こします。 例えば、共有結合で繊維と強く結ばれており炊き出される筈がない反応染料でも、ビニルスルホンベースの染料では、 下の様なアルカリによる加水分解や染料自身の分解で濃度が落ちて行きます。 したがって、製品の企画に当たっては、どの程度の堅牢度が必要か十分に検討しておかなくてはなりません。




                アルカリ加水分解のし易さ  トリクロロピリミジン<モノクロロトリアジン<<ビニルスルホン

先の章で触れましたが、水が悪いEUでは、過酸化物が入った洗剤を日常的に使用しています。 このため、洗濯試験での変褪色をチェックするのに「繰り返し洗濯」と呼ばれる試験が設けられています。 「UK-TO」と呼ばれる試験がこれに当たります。この試験でも、やはり、幾つかの反応染料がはねられていますが、 それは、右に示したように染料分子中のアゾ基が隣り合う炭素の置換基により守られていない反応染料です。例えば、Black B として良く知られている、CI Reactive Black 5 もそうした染料の一つです。
       



分散染料で染められたポリエステルの場合、染料自体の変褪色はまず起こりませんが、 前の項で説明したサーマルマイグレーションで出てきた染料が、添布汚染を引き起こします。その程度は、一義的には出てくる染料の量、 つまり染料の昇華性に関わってきます。分散染料の昇華性を決定する第一の要素は分子の大きさです。 つまり、大きい染料を動かす(昇華させる)には大きいエネルギーが必要となります。 しかし、黄色や赤色の染料は光の吸収を制限するため余り大きな構造には出来ません。そこで、分子量を増やすのではなく、 他の手段で昇華性を上げなくてはなりません。ここで利用するのが極性です。極性の大きい水溶性染料に昇華性はありません。 そこまでいかなくても、分散染料に極性の大きい置換基をつけてやれば昇華しにくくなります。 例えば、下右図の、(A) の昇華堅牢度は、2級ですが、分子量と少し極性を上げた (B) は、4級に向上します。 一方、(C) は、分子量は (B) より小さいのですが、極性が非常に高い水酸基 (-OH) を持っているため昇華性は5級に達します。


この一方で極性を上げ て行くと本来の分散染料が持っているべきポリエステルに対する親和性が失われて行きます。 同時に、ポリエステルより高い極性を持つ合成繊維(例えば、ナイロンやアセテート)への汚染性が大きくなっていきます。 総じて、黄色や赤色の分散染料がサーマルマイグレーションでナイロンへの汚染が大きいのはこのためです。 ですから、極性を上げる時には、昇華性だけではなく、ポリエステルへの染色性や、 他繊維への汚染など多くの点にバランスをとって設計しなくてはなりません。また、ノニオン性の助剤は、分散染料を引き出す効果があります。 特に長期間保管する可能性がある場合には「貯蔵中昇華」を助長します。ノニオン系助剤は、柔軟剤や吸汗加工剤、帯電防止剤、 SR剤などとして広い分野で使われていますのでその影響を、セット前後の水試験や汗試験で確認しておいて下さい。

比較的新しい分散染料のグループに、アルカリ可溶型の分散染料があります。 上の (B) もそうしたアルカリで加水分解するエステル基を持った染料ですが、アルカリ可溶型としてラインアップされている染料には、 更にアルカリで分解されやすいチオフェン構造などを導入しています。例えば、左の染料は、50℃以上で弱アルカリ条件で洗濯すると、 エステル基がケン化し水溶性になるとともに、チオフェン部分が分解し色を失います。結果的に、ヒートセットで出てきても添布への汚染は起こりません。 しかし、分解条件が与えられなければ、極性が高い分ナイロンなどに大きく汚染してしまいます。 (もちろんそうした汚染は洗浄で容易に除去できますが。) つまり、アルカリ可溶型の染料は、スポーツ衣料などの洗濯堅牢度向上には絶大なる効果を示しますが、 水試験や汗試験の様に単に接触転染していくだけの汚染を改良する効果はないのです。
              
そこで、ヒートセットで出てきても、洗濯堅牢度でも、水・汗堅牢度でも添布汚染しない染料が新たに作られました。 この染料の特徴の第一はその立体構造です。つまり分子量はそれ程大きくないのですが、ボールの様に三次元に大きい構造を持っています。 また、その極性はポリエステルに極めて近いため、ポリエステルへ大きな親和性を示します。 つまり、一端染めればポリエステルからなかなか出てこない、仮に出てきても再びポリエステルには入り難いし、他の繊維にも着かないのです。 更に、この染料は、アルカリで分解する性質も兼ね備えています。(この性質を利用して、捺染では「アルカリ抜染」に利用されています。)

ちなみに、これら一連の染料は、ポリエステル開発メーカーである英国 ICI により開発され、現在では、上記アルカリ可溶型分散染料は、 Dianix XF染料として、ベンゾジフラノン染料は、Dianix SF染料としてダイスターから販売されています。その後、同じベンゾジフラノンの骨格を持つ染料として、Sumikaron brilliant Red S-BWF、Terasil Red W-BFが上市されています。この Sumikaron と Terasil は同じ構造の染料です。
注:2023年3月に住友化学が染料事業から撤退し、ハンツマンは染料事業 を含むテキスタイルエフェクト部門全体を Arcoroma へ売却した。 これにより本章で記載した Sumikaron は消滅。Terasil 名も変更される可能性がある。

<補足>
・ベンゾジフラノン染料の開発当時、担当者から直接聞いた話では、この構造を基本として全ての色領域の染料を合成できるとの事でした。 実際には、先ず、最もサーマルマイグレーションでの問題が起こりやすい “赤” 分野での染料が幾つか作られました。 次に作られた “Navy” は、日光堅牢度が従来のNavyに比べ若干低かったため商品化はされませんでした。 他の色領域は、それ程問題がなかったのと、価格的に合わなかったため試作されませんでした。
・他の染料会社からこの構造の染料がほとんど販売されないのは、それが ICI (現ダイスター)により広範に特許化されているためです。
・ベンゾジフラノンの染料は特殊な構造のためそれ単体でのビルドアップはあまり良くありません。 そこで、ベンゾジフラノン染料同士の配合使用が有効になってきます。 (その原理については、「10. PET の RAPID 染色」を参照の事。)
・ダイスターでは、ベンゾジフラノンの構造を持つ染料に “SF” の名を記していますが、“SF” レンジの中には、 それ以外の構造で湿潤堅牢度の良好な染料も含まれています。


塩素堅牢度     セルロース繊維・ナイロン水着

水道水中の活性塩素が影響して染色物が変褪色する現象は前章で触れ、そのチェック法も説明しました。 ここでは、そのメカニズムについてもう少し具体的に述べて行きます。上の水試験/汗試験の項で、塩素開裂の例に触れました。 この塩素開裂では、汚染は起こっても変褪色は起こりません。          
実際に染料が塩素により変褪色する場合には、 塩素の持つ酸化作用が原因の複雑な分解反応で、 アミノ基やアゾ基が破壊されます。その例として、右の様な分解物の生成が示されています。 つまり、染料の持つ色素母体自体が破壊されることにより色の変色や濃度低下が起こり、添布への汚染は伴いません。

この分解のし易さは、上の例ではアゾ基に隣接する置換基(図ではX)の種類・位置によって変わってきます。 一般にアゾ基を守る立体位置にバルキーな置換基を導入すると塩素堅牢度が向上します。 色領域では、ブルーの染料の塩素堅牢度が問題になることが多く、アントラキノン系のブルー(例. Remazol Blue R)が、一般的なアゾ系のブルーに比べてやや良好なため、染色性にやや難はあるものの広く使われています。 一方、世代としては新しいジオキサジン系のブルーは、鮮明な色相も分子吸光度が高い点も魅力的なのですが、 酸化に対しては極めて弱く、日本では塩素堅牢度向上剤無しには使えません。同じブルー系でも、やや色の濁ったネービー領域の染料は、 塩素堅牢度に関して言えば前述のブルー群に比べてより良好なものが多くあります。 ただし、色目の制限と日光堅牢度の弱さからブルーに置き換える事は出来ません。

こうした、破壊反応は基質の違いによっても異なってきます。例えば、セルロース上では、弱い塩素堅牢度しか持たない反応染料で、 ナイロンを染めると同じ塩素水試験を行なっても、1 級以上良好な結果を示します。 これは、アミノ基を持つタンパク繊維が塩素を不活性化するために起こります。また、セルロース繊維に対して、反応染料を、 連続染色法で尿素を溶媒として乾熱固着した場合に塩素堅牢度は低下します。これは、高温で生じる尿素分解物と繊維素が結合し、この結合物質が、 塩素と染料間の反応に触媒的にからむためです。つまり、活性塩素と染料間の酸化反応=化学反応は、常に一定ではなく、 回りの状況にも作用されることを知っておいて下さい。

塩素堅牢度を向上するためには、幾つかの手法があります。
最も、単純なものは、無色で塩素に酸化されやすい物質を生地につけておくやり方です。 つまり、アタックしてくる活性塩素の作用を自らが分解される事によって奪ってしまう訳です。しかし、この効果は当然ながら有限です。 つけた物質の全てが消費されてしまったら染料の酸化分解が始まります。考え様によっては姑息な手段ですが、 初期試験をクリアするのには有効ですので、結構行なわれています。
次に、酸化作用により分解される訳ですから、還元物質を生地につけておく手も考えられます。 しかし、この世は酸化物質=酸素に満ち溢れていますので自らの還元性を維持し続ける事は非常に難しい事と言わざるを得ません。
こうしたことから、現在主流となっているのは、アミノ化合物をポリ化して、繊維表面を覆う方法です、連続染色での樹脂加工や、 浸染工程での、ポリアミノ酸処理がこれに当たります。 (こうした処理で気をつけなくてはならないのが、向上剤そのものの毒性と、日光堅牢度への影響です。留意しておいて下さい。)

還元/酸化工程を経て染色されるバット染料は、基本的に他の水溶性染料より塩素堅牢度は高いと言えます。 (実際には、塩素堅牢度や日光堅牢度がそれ程高くないバット染料もあったのですが、堅牢度の良さを目的として使われる事が多いため淘汰が進み、 今の高堅牢度イメージが出来上がりました。)現在、使われているバット染料の中で、塩素堅牢度がしばしば問題になるのがCI Vat Blue 4 (通常RSタイプと呼ばれる)染料です。この染料は、活性塩素の存在下で向かい合うイミド部分が酸化されアジンになることにより紫味に変色します。  (右図参照)
これに対し、イミド基が塩素により守られているCI Vat Blue 6 (Blue BC) では、アジンへの変化は起きません。そこで、塩素堅牢度への要求が高い時は、Blue 6 へ染料をスイッチするか、Blue 4 に、塩素堅牢度がより低い Violet 色の Vat染料を少量加えて色出しを行ないます。(こうすることで、Blue 4 が赤味になると同時に、Violet が淡くなり目には変化が無いように映る訳です。)



ナイロンは水着用途に広く使われるため、高度の塩素堅牢度を要求される事があります。このため、多くの染料メーカーでは、 非常に厳しい条件での塩素堅牢度試験を行ないその結果をパターンカードやパターンリーフレットに掲載しています。 その数字を参考に染料選択を行なうのが最も早道です。それでも足りない場合は、ナイロン繊維用塩素堅牢度向上剤があります。

前の項で、ポリエステルでは、繊維が染料を深く閉じ込め守っていると説明しました。 事実、通常の塩素堅牢度の試験でポリエステルに染められた分散染料が変色や褪色を起こす事はありません。 しかし、ファーストフード店や業務用のユニフォームの場合、 シミ汚れを取るために、漂白用次亜塩素酸ソーダを原液のまま塗り付け放置する事があります。 ここまで厳しい取り扱いをすると分散染料といえども変褪色を起こす場合があります。 こうした厳しい活性塩素条件に耐性のありそうな染料名を上げておきますので参考にして下さい。

Dianix Dianix
Kayalon Polyester Terasil Sumikaron

Yellow AM-42
Red BN-SE
Li. Yellow 5G-S
Br. Pink 2GLA
Br. Red SE-BL

Yellow S-6G
Red BS-E
Yellow 4G-E
Pink P-2B


Yellow C-5G
Red BLS
Pink RCL-E
Blue GLF Kiwalon Polyester

Yellow S-G
Blue AM-77
Red BL-E
Blue BLF
Yellow YL-SE

Yellow SE-G
Black KIT-FS
Black EX-FS
Blue NFB
Pink 2GLA

Yellow S-3G
Black CC-R
Black ECX


Pink REL

Yellow S-4G
Black CC-G

Sumikaron
Red BFL

Red AM-86

Terasil
Yellow SE-5G
Red KBL

Red AM-REL Kayalon Polyester
Yellow GWL
Br. Red S-BLF
Blue GL-FS

Red S-BEL
Yellow E-HGL
Yellow 4G
Br. Red SE-2BF


摩擦堅牢度     繊維全般

摩擦堅牢度については、前の章でも説明しましたが、生地自体の性質が大きく関わります。 これは、摩擦係数の大きい素材では、摩擦堅牢度の試験時に生地表面の毛羽がちぎれて試験白布に付着するからです。 また、通常のPLAの様に融点の低い繊維で、学振型を使用し試験を行なうと摩擦熱により繊維の融解が起こり染料を閉じ込めた状態で汚染します。
同じ条件の素材では、以下のケースで摩擦堅牢度は低下します。


乾摩擦 湿摩擦
水溶性染料 洗浄不足

水溶性染料 洗浄不足+FIX

水溶性染料 選択の誤り (親和性過小)

水溶性染料 使い過ぎ (極濃色/過飽和)

バット染料 使いすぎ/ 洗浄不足

分散染料 サーマルマイグレーション


追記 
摩擦堅牢度について “悪い” イメージが定着している素材がインジゴデニムであるが、 これを改良する為の一手法が岡山県工業技術センターにより技術化されている。 インジゴ染色物の摩擦堅牢度向上


日光堅牢度     繊維全般

染料の日光に対する堅牢度を決定するのは、染料の構造だけではありません。 染料が染着している基質(繊維)の性質や染料との相性にもかかわってきます。 例えば、ポリエステル用の分散染料でナイロンを染めても、ポリエステルでの日光堅牢度程良くありません。 これは、ポリエステル繊維そのものが持つ多くのベンゼン基が紫外線を吸収し、その下にある分散染料を守る役目をしているからです。 また、カチオン染料でCDP繊維を染めると、アクリルに染めた時より日光堅牢度が低下します。 これは、アクリル繊維では繊維内のニトリル基が活性酸素の動きを封じ込めてくれるのに対し、 CDPではその様なニトリル基が存在しない事によります。(ちなみに、ポリエステルで日光堅牢度の良い分散染料はCDP でも良好な日光堅牢度を示します。)あるいは、酸化や還元に強いバット染料は、綿に応用すると極めて良好な日光堅牢度を示しますが、 ポリエステルに昇華染着した時に、その日光堅牢度が極端に低下する事があります。 これは、ポリエステル上では、本来あるべき大きな結晶形(⇒顔料化)を作れないからです。また、反応染料では、 繊維と反応した染料の方が未反応の染料に比べて高い日光堅牢度を示す事が良く知られています。

染料の使い方も関係してきます。例えば、一般的な吸尽法で使用する反応染料を、 連続染色のパッド−ドライ−ベーク法で染着させると日光堅牢度が若干低下します。これは、染料がより繊維の表面で染着するからです。 リング染色した分散染料が正規に染着した時よりも日光堅牢度が落ちるのも同じ理由によります。 さらに続けますと、超マイクロファイバーに染色した染料の日光堅牢度は、通常の繊度に染めた染料に比べて大きく日光堅牢度が劣ります。 これは、紫外線を吸収する繊維層が薄くなる事に加えて、 同じ濃度を得るのにより多くの染料を使用しているため染料全体での光を受ける表面積が著しく増大するからです。

高度の日光堅牢度が要求される時には、基質そのものの変褪色も関係してきます。例えば、ポリエステルは長時間日光に曝されると黄変が起こります。 同じエステル構造を持つPTTはポリエステルより黄変の度合いが大きく、PLAは、元々の生成色がかえって白くなっていきます。

ナイロンについても日光や酸化窒素によって繊維中のアミノ基が変性し黄変を起こす事は知られています。 また、ウールは日光に当たると先ず緑色の可視光で白くなり、更に暴露が続くと紫外線の作用により黄変して行きます。
こうした黄変の原因は様々で、合成繊維の場合には繊維の重合触媒や酸化防止剤、製糸のための柔軟剤など添加剤が影響する事もありますし、 ポリエーテルポリオールを原料にしたウレタンの様に、キノンイミドを生成し激しく黄変したり、 PPSの様に、日光により構造の一部がラジカル化しグラフト重合体となる事で短時間で濃い茶色に変色する場合もあります。 こうした基質の変褪色は、単純な酸化・還元反応ではない事が多いので、復色させる事は難しく、 繊維に相性が合う紫外線吸収剤があればそれを使用し遅らせる事ができるという程度です。

それではいよいよ染料自身の日光堅牢度について説明して行きます。

染料に光が当たると、先ず、染料分子が光のエネルギーを受け励起します。 そして、この励起エネルギーを分子運動や熱エネルギーあるいは蛍光色として発散し元の基底状態に戻ります。 この時、一部のエネルギーが空気中の酸素分子に与えられると、活性酸素が生じます。
染料の褪色の多くはこの活性酸素が染料を攻撃し破壊する事によって起こると考えられています。
(ちなみに、反応染料では繊維と共有結合をつくると、この励起エネルギーが容易に基質に移し替えられます。 これが、繊維と固着した染料と未固着染料の間に耐光堅牢度の差が生じる理由です。)

アゾ基を持つ染料の場合には、活性酸素による破壊の第1段階として、下の様なアゾ基への酸素の付加反応が起こります。この場合 R に隣接する窒素原子は電子供与基として働くので R に電子吸引基が付いていればこの反応は起こり難く、反対に電子給与基が付いていれば起こり易くなります。 (この説明では分かり難い人はこう考えて下さい。光による染料の破壊は、人間に例えるとストレスが溜まり過ぎて、遂には切れてしまう状況に似ています。 次々に受けるエネルギー(光)で、ストレスがどんどん蓄積してきた時に、 うまくそのストレスを吸い取ってくれる物(電子吸引基)があると切れずに済みますが、  反対に、大きなストレス(電子供与基)を抱えているとすぐに切れてしまいます。) この様に、例えば、-OH、-NH2 は、電子供与基として、日光堅牢度を低下させ、-NO2、-Cl、-Br、-SO3H、-COOHは電子吸 引基として耐光性を高めます。
左に示したアントラキノン骨格は、アゾ骨格より頑強な作りを持っています。それでもアミノアントラキノンをベースしている染料では、 光化学的酸化反応により、N-脱アルキル化、アミノ基や置換アミノ基の水酸基への加水分解、アミンからイミンへの酸化、 核水酸基化が起こる事が知られています。これらの化学反応の第一段階は、アミノ基への酸素付加であり、 やはり窒素原子上の電子密度が高い程耐光性が低下します。つまり、ここでも電子供与基は、日光堅牢度を低下させ、 電子吸引基は日光堅牢度を増進させます。しかし、実際には、日光堅牢度は、染料の持つ一つの性質でしかありません。 いくら電子吸引基が日光堅牢度に良いとしても、その効果を上げたばかりに染色性が悪くなったり。 価格がとんでもなく高くなってしまったら使い物になりません。変異原性や毒性も大きなファクターです。 結局、目的に応じてそれらのバランスを考えながら設計している訳です。

ですから、染料を使う方にしてみれば、メーカーの資料を見ながらそれぞれの商品の規格に最善の染料を選択する他ありません。 参考に、車両関係によく使われる高耐光の分散染料を上げておきます。これらの染料に普段から馴染んでいる人が見ると、 高日光の染料が、昇華性や得られる濃度、或いは、ヒートセット後の堅牢度などにおいて、 必ずしも最良の染料とは言えない事が良く分かると思います。

Yellow成分 Red成分 Blue成分

CI Solvent Yellow 165
CI Disperse Red 60
CI Disperse Blue 54

CI Disperse Yellow 42
CI Disperse Red 86.1
CI Disperse Blue 56

CI Disperse Yellow 71
CI Disperse Red 91
CI Disperse Blue 60

CI Disperse Yellow 149
CI Disperse Red 92
CI Disperse Blue 73

CI Disperse Yellow 163
CI Disperse Red 167.1
CI Disperse Blue 77



CI Disperse Red 279
CI Disperse Blue 79.1

CI Disperse Orange 29
CI Disperse Red 302
CI Disperse Blue 167

CI Disperse Orange 30


CI Disperse Blue 197

CI Disperse Orange 33
CI Disperse Violet 57
CI Disperse Blue 214

これらの染料以外にも、CIナンバーのない新規染料もありますが、それらは、高耐光車両用として、 Dianix AM や Teratop と言うそれ専用の冠称や符号が付いています。言い換えれば、汎用性はないと言う事です。

上では、分散染料の例を上げましたが、直接染料や酸性染料などでは、 分散染料ほど大きさの制限が無いため分子の中に銅やクロムやコバルトなど配位性のある金属原子を導入し構造の安定化を計る事が出来ます。 この時、染色の後に錯塩を作る後処理型染料も有効ですが、処理により色が大きく変わってしまいますので色合わせに難しさがあります。 直接染料や酸性染料ほど大きさを自由にはできませんが、反応染料においても含金構造は日光堅牢度を上げるのに有効です。 しかし、金属原子を利用し構造を大きくすると色目がくすんでしまうと言う欠点があるため一部の染料にとどまっています。 また、次の項で触れる汗日光堅牢度では、含金構造がかえって大きな色変をもたらす原因となる可能性も潜んでいます。 含金型反応染料として広く使われているホルマザンブルーの構造を参考に上げておきます。




汗日光堅牢度     セルロース繊維/反応染料

繊綿製品の企画をする時、最も頭を痛める問題の一つが “汗日光” です。

海水浴で、水に濡れて日光に当たる動作を繰り返すと、ごく短時間で、ひどい日焼けになります。 それは、皮膚表面の水層で、紫外線が散乱・反射を繰り返す事により増幅されるのと、「日焼け」と言う化学反応が水の存在で倍加されるためです。
通常の、日光堅牢度の試験は、乾いた生地に光を当てます。この時生地を水に濡らした条件で光を当てると、 海水浴での日焼けと同じように染料への光の破壊力は大きく増進します。 ですから、毎日の洗濯でも日光に干している間に少しずつ変褪色が進んでいる筈です。 (しかし、多くの主婦は、それを当然の事と考え、裏返しに干したり、あるいは、あるがままに受け入れたりしている訳です。 もちろん、この頃増えている部屋干しで乾かせばそんな問題は起こりませんが・・・。)

それでは、何故「汗日光」が大きな問題となるのでしょう。 それは、家庭での洗濯では、洗濯→脱水→乾きやすい(風の当たる)所に干す→乾燥→取り込み で終わるからです。 これに比べ、着用時に汗で濡れる場合には、長い時間(汗で)濡れながら、日に当たり続ける。もしくは、濡れと乾燥を繰り返します。 つまり、濡れた状態でより長く日光の照射に曝されるからです。変褪色は化学反応ですから、水が介在すると当然より激しく起こります。

これを堅牢度試験で再現するためには、同じように長い時間濡れた状態で露光することが必要なのですが、既成の日光堅牢度試験機ではそれが出来ません。
ちなみに、一般的なフェードメーターは、下部に常に水が供給される状態、通常、指標用ブラックパネルの温度63℃、 相対湿度35-65%で運転されています。 この時、温度コントロールは、上部ダンパーの開閉でなされていますが、湿度のコントロールは特に行なわれておらず、 湿気とりの布から水を蒸発させる事で高温多湿な環境が作り出されています。さて、ここに、汗液で濡らした試験布を取り付けるとどうなるでしょう。 試験布には、直接強い熱エネルギーを含んだ光と温度コントロールのための風が当たります。 これでは、いくら高温多湿といえども極めて短時間で試料は乾いてしまいます。乾いた後は、ただの日光試験です。
JISの汗日光には、別に、蓋のある耐熱ガラスの容器に入れて行なう方法(=A法)もあり、 容器内の底部に少量の人工汗液も入れ湿度を与える工夫もしています。 しかし、この方法においても、ガラス容器内の資料には強い熱エネルギーを含んだ光が当たりますし、締め切った容器内は、 温室状態となり温度は63℃以上になってしまいます。その結果、試料はやはり短時間で乾いてしまいます。

私たち自身も含め、酸素が1/5 存在するこの地上に存在する全ての物質は、酸化に対し多かれ少なかれ耐性を持っています。 その反面、通常の状態では還元状態に曝されることはありませんので、還元に強い物質はそれ程多くありません。 染料もその例に漏れません。前の項で説明した様に、染料構造の設計では日光堅牢度を上げるため活性酸素を取り込まない工夫がなされています。 言い換えれば、酸化に対する強度を増している訳です。 ところが、セルロースの末端には水に濡れると還元性を示す水酸基がフリーの状態で存在します。もし、それが原因で還元によるアゾ基の破壊が起これば、 活性酸素に対する防御は役に立ちません。更にやっかいなことに、この還元性を打ち消してくれる酸素は、水の層でさえぎられています。

(反応染料が、還元に弱い事は簡単に試験できます。ぬるま湯に、少量のソーダ灰とハイドロサルファイトを入れ、 その中に反応染料で染色した生地を入れて見て下さい。ほとんどの染色物はあっという間に色が変わってしまいます。)

これらの知識を元に、現在行なわれている「汗日光堅牢度」を検証してみましょう。セルロースを湿潤状態で苛性ソーダに合わせれば、その一部が加水分解し、 末端はアルデヒドとしての性質を持ち還元性を示します。つまり、苛性ソーダの存在によりセルロースの還元性が大きくなる訳です。 このため、「汗日光:アルカリ(pH8.0)」では、還元によるアゾ基の破壊が起こり大きな褪色が起こる可能性が出てきます。 
更に、人工汗液にはヒスチジンが含まれpH6.0〜8.0 の範囲でキレート構造を作り易くなります。 含金染料では金属原子の位置が悪ければヒスチジンが原因での脱金属変色を起こす可能性もあります。 しかし、それでもJIS法では、極端に悪い結果は出ません。
それは、試験早々生地が乾いてしまうからです。そこで、勢い方向は、汗成分を強くする方向に進みました。 是非はともかく、現在では、ATTS(繊維技術研究会)が、(強すぎて)正式には推奨しないとしていたアルカリ汗での処方が、 クレーム事故を最も再現する方法とされ、普通に使われています。 何故、JISの汗液では起こらない大きな変褪色がATTS の汗液では起こるのでしょうpH は両者とも同じ8.0です。

ここで、JISのアルカリ汗液とATTSのアルカリ汗液を表にし比較してみます。

  成 分       g/L
JIS アルカリ汗液
ATTS アルカリ汗液
 L- ヒスチジン1塩酸塩・1水和物
0.5
0.5
  食 塩
5.0
5.0
 DL -アスパラギン酸

0.5
 D- パントテン酸ソーダ

5.0
  グルコース

5.0
 乳 酸

5.0
  リン酸2水素ナトリウム・12水
0.5
5.0
    苛性ソーダでpH8.0へ


先ず、 両者に入っているのが、 L-ヒスチジン1塩酸塩・1水和物と食塩とリン酸塩です。 この内、ヒスチジン塩は、pH6-8の範囲で、キレート作用を示します。リン酸塩は、苛性ソーダと共に安定なpH(=8)を与えます。

さて、ATTS にはあって、JIS にはない化学物質について考えて行きましょう。先ず、DL-アスパラギン酸ですが、これは苛性ソーダを加えた時点で、 DL-アスパラギン酸ソーダになります。DL-アスパラギン酸ソーダは、良好な保湿効果を示しスキンケア用品に使われたりします。

D-パントテン酸ソーダは、吸湿性・保湿性が極めて高い物質です。
グルコースは、 多くの水酸基を持ち水和作用(水を抱え込む性質)が高く、 水の蒸発を防ぎます。つまりこれは保湿より一歩進んで保水作用を持っています。更に、グルコースが他の物質と違うのは、 アルカリ条件で水に溶けると明らかな還元作用を示す事です。次に乳酸ですが、ネットで調べると、「「大辞林第三版」に、 「染色工業で還元剤,食品工業で酸味剤などに用いる。」とありますので、私自身はそうした例を知りませんが、 弱いながらも還元作用持っているのかもしれません。 いずれにせよ、ここでは苛性ソーダを加えた段階で乳酸ナトリウムとなり還元性は持ちませんが、強力な保水作用を示します。 (ちなみに、5g/L の乳酸が苛性ソーダと反応すると、6.25g/Lの乳酸ソーダとなります。
リン酸2水素ナトリウムも12水を持っている事からも分かりますが保水剤としてカン水などに使われています。)
これらの情報を元に上の表もう一度見直してみましょう。     青 字:JIS/ATTS共通助剤

成 分                 /g/L
JIS アルカリ汗液
ATTS アルカリ汗液
保湿・保水性
還元性
キレート効果
 L -ヒスチジン1塩酸塩・1水和物
0.5
0.5


 食塩
5.0
5.0



 DL-アスパラギン酸

0.5



    DL-アスパラギン酸ソーダ(換算後)

0.68



 D- パントテン酸ソーダ

5.0


  グルコース

5.0

 乳酸

5.0



    乳酸ナトリウム(換算後)

6.25



  リン酸2水素ナトリウム・12水
5.0
5.0


  苛性ソーダでpH8.0へ





    苛性添加で生じるアルカリセルロース




保湿・保水剤 計
 5.0
21.93



ちなみに、 DL-アスパラギン酸は抗酸化アミノ酸として広く使われていますので、多少の還元性があるのかもしれません。 また、ヒスチジンにも抗酸化作用があるとしているサイトもあります。 アスパラギン酸と、ヒスチジンはキレート作用に関わる部分(H2N-CH-COOH) に同じ構造を持っています。しかし、仮にキレート力があったにしても、この汗液中では、 アスパラギン酸はナトリウム塩となることでそうした効果は失われるかもしれません。

上の表を見ると一目瞭然ですが、ATTS の汗液では、保湿・保水成分がJIS に比べると圧倒的に多い事が分かります。 (22g/Lと言うのは大した量とは思えないかもしれませんが、これらはすべて不揮発性の助剤ですので、 試験の過程で、半分の水が飛べば倍濃度になります。 この濃縮で見逃してならないのは、試験中に生じる水分移動のメカニズムです。試験では光が当たる部分以外をアルミやステンレスの枠で覆います。 これにより、乾燥は露光部分でのみ起こり、乾燥に従って金属枠で覆われている部分から水分が露光部分に移動します。当然、水溶性の保湿成分も、 露光部分に移動します。つまり、単純に考えて、80% の乾燥で、100g/L を超える保水成分が、露光部分では溶解度の限界まで濃縮される訳です。 それだけの吸湿成分があれば、ビショビショに濡れてはいなくても高温多湿の槽内で化学反応を起こすための適度の湿分を保つ事は難しくありません。 そこに、還元性を持つグルコースとアルカリセルロースが存在する訳ですから耐え得る染料がないのもうなずけます。 (ATTS が推奨できないのも無理ありません。)この試験は、実際に起こったトラブルを再現する試験ではなく、 殆どの染料がひどい変褪色を起こすため、その結果を見て、再現したように錯覚するための試験です。つまり、 先に上げたソーダ灰とハイドロサルファイトを使って反応染料を無理に変褪色させる試験と大差ありません。 もし、この試験に通る染料を欲するなら、染色性や他の堅牢度に目をつぶってでも還元に強い染料を選び出し使うのが早道です。 例えば、ジオキサジンの染料に極めて塩素(=酸化)に弱いブルーがあります。 反面この染料は還元に強く、ソーダ灰/ハイドロサルファイトの液で処理しても、また復色してきます。 この染料を塩素向上剤と共に使えばATTS の堅牢度は通ります。しかし、これは一種のごまかしであり。 消費者トラブルを本当の意味で解決する手段にはなりません。私は、ATTS の汗日光はやはり当初の指示通り酸性汗に留めるべきだと思います。 更に言えば、JIS の汗試験を改良して本当に資料が濡れている時間を長くすべきです。 (例えば、ガラス容器内の下部に液溜まりを作るだけではなく、そこに毛管吸水性の良い生地をたらし、 試験布と繋ぐことにより、試験布を濡らし続ける。) それでも、ATTS のアルカリ汗日光試験にこだわるなら、反応染料は捨て、バット染料を使わなくてはなりません。


酸化窒素ガス堅牢度(NONOX)

酸化性のガスで起こる変褪色で主として分散染料、反応染料、酸性染料で起こります。代表的には、アミノ基を持つアントラキノンのブルーで、分散染料のCI Disperse Blue 56 や反応染料のCI Reactive Blue 19 (Brilliant Blue R)の変褪色がよく知られています。これらの構造中のアミノ基がジアゾ化やニトロソ化を起こし、多くの場合赤っぽい色に変色します。 分散染料で、この変褪色が起こり易いのはアセテートを染色した場合です。 ポリエステルでは、ガスがなかなか深部には届き難いため同じ試験を行なっても変褪色は起こりません。

酸化窒素ガスが原因で変褪色を起こす他の例として、反応染料でのジオキサジンブルーがあります。この染料も酸化窒素ガスで赤味に変色して行きます。

ウールの場合には、繊維中のアミノ基が酸化窒素ガスを固定してしまうため染料への攻撃は起こりません。

酸化性のガスとして近年話題になる事が多いのがオゾンです。オゾンの酸化還元電位は、1.24V (25℃、pH14) と酸化性のガスの中では最も激しい酸化作用を持っています。従って、 オゾンが原因で変褪色が起こったとしてもそれは極めて薄いオゾン濃度で起こった事であり再現証明する事は非常に難しいと言わざるを得ません。

染料中のアミノ基がガスで変色する例としては、 他にホルムアルデヒドによるネービー系反応染料の変色が知られていますが消費者サイドでトラブルとなることはほとんどありません。


その他の特異な変色例

先にも触れましたが、 人間の目には単に濃度が変わっていく褪色よりも色相に変化が起こる変色の方がひどく感じられます。ですから、染料を配合してある色を作る場合、 それぞれの堅牢度をある程度合わせておく事が必要です。例えば、日光堅牢度の弱い黄色と強い青を組み合わせてグリーンを作ったとしましょう。 この場合、日光で黄色が先にやられますので、どんどん青っぽくなってしまいます。
また、一つの服は様々なパーツから成り立っています。この場合には、全パーツを同じ染料使いで染めるか、 同じ方向で変褪色する様に合わせておく注意が必要です。

色のトッピングや、脱色・再染する場合も同様です。特に脱色を伴う場合には、脱色工程で、様々な条件で壊れやすい形の色素に変化している可能性があり、 それが原因で上がけした染料の堅牢度が期待値に届かない場合が起こります。


消費者の手に渡ってから起こる変褪色の例を幾つか挙げておきます。

(A) 何らかの処理で元の色に戻るもの。

ウォータースポット(
water spot)  ・・     水に濡れた部分の色が変わる現象です。バット染料のベンザンスロンを骨格に持つネービーでよく起こり、赤っぽくなります。完全に乾けば元に戻ります。 染料の構造に関わっていますので染料使いを変えれば改善します。反応染料のブルーで起こる場合もあります。 極性の高い水の介在で染料間や繊維-染料間の水素結合や、V der W力が影響を受け、電子状態や、結晶状態に変化が生じて色が変わると考えられます。 (ポリエステルにおいても、「ウォータースポット」のトラブルが起こる場合がありますが、 これは、 サーマルマイグレーションにより繊維表面に浮き出した分散染料が水の滴下で移動し輪ジミが生じる現象を指し色の変化を意味するものではありません。) 

・pHの影響     ・・     酸やアルカリによる変色は、ほとんどの場合染料内の助色団にプロトンの付加あるいは脱離が起こって生じます。具体的には、反応染料のブルーで、 酸性物質を含んだ水がかかると極端にくすんだ赤味にかわる染料があります。 乾いても酸性物質が残っている限り元に戻りませんので、軽く洗ってやる事が必要です。


・熱の影響 (hot press)     ・・     俗に言う「アイロン焼け」です。各種の染料部族で起こります。反応染料では特に赤の染料に顕著に起こり、紫っぽく濁った色になる染料が多くある半面、 中には黄味鮮明になる染料もあり様々です。生地の温度が下がっても、湿度が戻らないとなかなか元の色に戻りません。 そのため、撥水性の高い加工をすると湿度が戻りにくいため影響が長く残ります。
 (これらの色の変化は、各染料のパターンカードに、JISの試験に従って評価級数が記されていますので参考にして下さい。)

・光の影響 (ホトトロピー)     ・・     光の照射を受け色が変わる現象です。光が無い暗所に置いておくと元の色に戻ります。
(この現象を表わす言葉としては、pototoropyやpotochromy あるいは、photochroismと言う単語が使われます。)
これは、 光のエネルギーにより染料の構造に変化が生じるためと考えられています。 そうした構造の変化には、立体構造が変化するトランス⇔シス異性化、酸化⇔還元、ケト⇔エノール転移など様々な可逆反応が考えられています。 赤味の黄色-オレンジ色の染料にしばしば見られます。(ちなみに、熱による変褪色にも同様の可逆反応によるものがあります。)

・高濃度塩の影響     ・・     海水などが付着する事により染料の会合度が変化し濃色化して見える事があります。 ウールに染色した酸性染料での報告例があります。水で洗うことにより元に戻ったそうです。

(B)元の色には戻らな いもの。

・熱の影響・・・同じ熱の影響でも元に戻らない変褪色があります。 例えば、ブルー系のカチオン染料をCDPに使う場合に変色や褪色が起こります。染色時のpHを下げたり、染料を変えることで改善できます。 ナイロンでもアントラキノンベースのモノスルホンタイプの赤を淡色使いした時に、ヒートセットで褪色し元に戻らない場合があります。 改善は難しく、染料を替えるのが早道です。

・蛍光増白剤の黄変・・・捺染の場合には、 白場を引き立たせるためにしばしば全体に蛍光増白剤をかけます。 その増白剤が、日光や酸・アルカリによって分解すると当然の結果として染料の色相にも影響が出てきます。 (繊維に蛍光増白剤が付いているかどうか、目で見ただけでは分からない場合には、 暗所でブラックライトで照らすと蛍光増白剤があると蛍光を発します。)

・ウール中の硫黄が原因の変色・・・ ウール中の硫黄が持つ還元性により隣接する着色物の色が変色したとの報告を読んだ事がありますが詳細は不明です。

・カチオンFIX剤やカチオン柔軟剤の染料吸着による変色・・・ カチオン性の助剤で加工した繊維を、色物の染色物と一緒に洗うと、その色物から出たアニオン性の染料を拾ってしまう事があります。 このための変色は容易に元に戻りません。

・包装材からのもらい汚染・・・ 包装材やプラスチックに酸化防止剤として入れられた BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)が昇華し繊維に付着し、それが酸化窒素との反応で呈色する事で起こります。 このトラブルは結構頻繁におこるので詳しく説明します。

BHTはフェノール系の酸化防止剤です。ラジカル補足効果により基質の酸化が起こる過程で発生する活性酸素ラジカルを補足する事により、 酸化の進行を妨げます。この変色は少々複雑ですが、次の様に進みます。先ず、酸化窒素との反応でキノン化合物が生成されます。 ちなみに、このキノン化合物の生成過程では亜硝酸が作られるためそれが消費されやすいアルカリ下で反応はより速く起こります。 次にこのキノン化合物に更に酸化窒素が作用しニトロ化物に変えます。このニトロ化物は、 空気中の水分と反応しキノンメチド型化合物となりここで黄色やピンク色が出てきます。 更にこのキノンメチド型化合物が二量化すると赤色をしたスチルベンキノンになります。







黄変物質がまだキノンメチドの段階であれば、酢酸や塩酸などの酸性蒸気に曝されれば、色が無くなります。2〜3時間の日光暴露でも色を失うそうです。 BHTによる変色を避けるため、生地に不揮発性の酸(例.クエン酸、リンゴ酸)を乗せておく処理もありますが、 最近では、昇華の起きにくいBHTの四量体や、メチル基を置換したものを含め、黄変物質を生じない酸化防止剤がありますので、 そうした対策を行なっている包装材を使う方が賢明です。

同じ様なトラブルに、段ボールの中に含まれるリグニン分解物としてのバニリンが原因の黄変があります。 これは、昇華して繊維についたバニリンがやはり酸化窒素と反応し黄変が起こると言われています。 段ボールは、硫化水素を発生させ染料を還元変色させる恐れもありますので、製品を直接ダンボール箱に入れない注意が必要です。

・ウレタン混紡品でのウレタンの変色・・・ 日光暴露でのウレタンの変色については先に説明しましたが、 ウレタン内のアミノ基の水素が塩素と置換反応を起こしてクロルアミンを生成し黄変する事が良く知られています。 最近ではウレタンを含む素材がごく一般的になっていますので、 その入り方によってはウレタンの変色が着色部分にかかわってくる場合も考えられます。


まとめ     

この章では、色々な堅牢度につき染料の構造との関連を説明しました。
「汚染」については、単純な洗い不足や染料の選択ミスだけではなく過酷な条件での反応染料の分解や繊維との開裂、 あるいは、後加工の方法、加工剤の影響までからんできます。
変色や褪色については、多くの場合、染料の持つアゾ基やアントラキノン構造付加のアミノ基が酸化攻撃を受ける事で生じます。
直接的に、ハイドロサルファイト等に曝される場合を除き、染料が「還元」変色する事はほとんどありませんが、 セルロース繊維が水に濡れるとそうした可能性が出てきます。

(次の章では、顔料による着色と堅牢度について説明します。)