13. 染色堅牢度

繊維製品の商品企画を行なう時、 デザインや色目・濃度だけではなく、それが使用される用途によって、どの様な堅牢度が必要か十分に検討しておかなくてはなりません。 一般繊維製品は裾野が広く、検討が不十分ですと大きなクレームを起こす可能性があります。 ここでは、消費者サイドに立って、繊維製品にどの様な日常トラブルが生じるのか、 それをどの様な事前チェックによりスクリーニングできるのかについて説明します。

染色堅牢度の区分

繊維製品での堅牢度を考える時、 大きく二つの区分があります。その一つが、色の汚染です。つまり、染めた色が、他の服や、生地に色移りすると言う現象です。残りの一つは、 色の変化です。色が褪(あ)せたり、元の色と違う色になってしまう現象です。そのそれぞれに関連してくる堅牢度を下右の図にまとめます。 ピンク色の事項は、色の汚染がからむ堅牢度、緑色の事項は、色の変褪色(へんたいしょく)が、からむ堅牢度です。 この内、両者が関係してくるものについては、もう一方の色の線で囲っておきました。




水堅牢度・汗堅牢度  繊維全般

さて、 これらの堅牢度は、それぞれ日常のどの様なトラブルと結びついているのでしょうか?
まず、濃い色の服を着て、水に濡れたらその色が下着に移ったと言う様な経験はありませんか?今の日本で売っている服では余り起こらないトラブルですが、 海外生産品を輸入した場合には、結構な頻度で起こります。こうしたクレームを起こさないためには、水試験や汗試験で事前チェックします。 この試験の方法は、右に示した通りです。 
       Water test / perspirometer
 簡単に書きますと、
  1. 染色物を白い布にはさみ縫い合わせる。
(白布は、普通、綿、及び、染色布と同じ素材。普通「添布(てんぷ)」と言います。添布として、ナイロンやシルクやレーヨン、 ウールを使う場合もあります。)
 2. 水で濡らしガラス板にはさむ。
  (ガラス板に代わり、最近では軽くて扱いやすい透明アクリル板の使用が一般的です。また、汗試験の場合には、人工の汗液を使います。)
 3. 上に4.5kgのおもりを乗せ、37±2℃で4時間放置する。

4.5kgと言うのは、1 ポンドです。こうした規格の多くは、英国で出来たものを導入したためメートル法ではなく、 ヤード/ポンド法のなごりがそのまま残っています。37± 2℃と言うのは中途半端な温度の様ですが、人間の体温に基づいて決められています。
4 時間後、試験片をガラス板から外し、乾燥させます。 乾燥したら汚染した白布の汚染度合を “グレースケール”を使用して判定します。

“グレースケール” と言うのは万国共通の指標で、 グレーに着色した紙を、右の様に並べたものです。日本では、JIS協会で販売しています。

“グレースケール” には、「汚染」を判定するものと、 「褪色」を判定するものの二種類があります。それぞれが、5段階になっており、例えば、判定する汚染の明度差が、 汚染判定用グレースケールの「2」で表わされる差と同じ程度ならば、「汚染2級」と言う様に、級数で表わします。

何故この“グレースケール” を使うのかと言いますと、判定に客観性を持たせるためです。 つまり、“グレースケール 2級” と言えば、誰にも共通してその程度を想像させる事ができます。 また、改善目標として、「4級」と言う数字を上げれば、具体的で正確な目標設定となります。 (もちろん、その際には、添布白布の種類もはっきりさせておかなくてはいけません。)
染料はそれぞれ、その染料に付随した堅牢度を持っています。 もし、上の判定が商品企画に合っていなければ、使用する染料を替えなくてはなりません。その指標となるのが、 染料各社が出している。「パターンカード」や「パターンリーフレット」(左写真)です。 そして、この中にある1 から 5までの数字が、グレースケールに基づく級数です。

反対に、染料と繊維が正しく合っているのに、 染色物の判定値がこれらの級数より大きく劣っている場合には、その使い方や、 染色後のソーピングなどが正しく行われているかどうかチェックしなくてはなりません。時には、後加工などもチェックの対象となってきます。

ここで、気をつけなくてはならないのは、「1級」と言う級数です。「5 級」と言うのは元と全く変わっていない状態ですので、これ以上に良い段階はありません。 しかし、「1級」は、このスケール以上に悪い場合も含めて全てが「1級」と表わされます。 つまり、真っ黒に汚染しても、真っ白に褪色しても「1級」です。「褪色」を表わしている場合に特に注意が必要です。 また、グレースケールで評価できるのは明度だけです。 変色の場合、明度が変わらずに、色相、彩度が変わる事も考えられます。
こうした場合、赤味に変われば「r」、黄味ならば「y」、 彩度が失われる様なら「d (=duller)」という様に決まった符号を付けておけば、より分かりやすくなります。 通常の染色物でしたら4級以上の判定ができ変色も無い場合にはまず問題は起こりません。



水試験と汗試験の違いは、二つあります。汗試験に使用する人工汗には、アルカリ汗(pH 8.0)と酸性汗(pH 5.5)があります。水試験で使用するのは、ただの水(正確には蒸留水)ですから、pH に影響される染料は、水試験と違った結果が出てきます。例えば、酸性染料で染められた染色物の場合、 アルカリ汗液で、ナイロンやシルクの添布の試験を行なうと汚染の程度は悪くなります。また、汗試験の中には、L-ヒスチジン塩酸塩・1水和物が 0,5g/L 入ります。ヒスチジン塩は、そのキレート作用により含金染料から金属を引き抜く事で色を変える作用があります。 (脱金属、或いは、金属イオンが作用して色の変化が頻繁に起こるのが、水溶性の直接染料、反応染料での 赤⇔紫 の変色です。 酸性含金染料や銅後処理型の直接染料の様に安定した位置に金属が入っている染料では、ヒスチジン程度のキレート力では、 脱金属反応は起こりません。ちなみに、このキレート反応は、pH6.0-8.0で起こりますので、 酸性汗よりはアルカリ汗で起こる可能性の方が高いです。) 
 ヒスチジンは、溶液中で分解して行きますので、その添加は汗試験を行なう直前にして下さい。 この、ヒスチジンの働きを更に強めた10倍量試験も幾つかの繊維メーカーにより定められていますが、JIS の方法がより一般的です。


洗濯堅牢度      繊維全般

日常生活では、 洗濯に伴って、 他の衣服への色汚染や、そのものの色落ちトラブルが起こる場合があります。

洗濯堅牢度のチェックには、洗濯堅牢度試験機(Launder-O-Meter) を使用します。試験方法は右図の通りです。 添布白布は水試験と同じですが、 マルチファイバーと言って、 一片に色々な繊維が入っている布を添布白布として使用すると一度の試験で多くの繊維への汚染度合が確認できるため便利です。

洗濯試験は、JIS の他に、ヨーロッパでのISOや、米国でのAATCCがあります。日本のJISも温度や時間、 洗剤の組成などが違ういくつかの条件がありますが、ISOやAATCCでもそれぞれの地域に応じた洗濯条件の設定がなされています。 このため、洗濯堅牢度の試験を実施するためには、液組成を含めた洗濯条件の詳細と添布を確認しておく事が大事です。 (水が悪い欧米では、ヒーター付きの洗濯機が一般的です。又、活性酸素を発生させる過ホウ酸ソーダを含んだ洗剤も日常的に使いますので、 日本の一般家庭での洗濯条件よりかなりきつくなります。ただし、日本においてもホテルや営業用のユニホームでは、 汚れ除去のため高温で苛性ソーダを使用し炊き込む事を普通に行ないますので、こうした分野に対応できる染料 (綿の場合は、それに耐えるバット染料)を使っておかなくてはなりません。)

(JISにしろ、ISOにしろ使用する洗剤については、元々マルセル石鹸(=油脂石鹸)でしたが、現在一般家庭では、 いわゆる中性洗剤が主として使われていますので、今ではそれに模した「標準洗剤」も作られています。 試験結果としては、こうした「標準洗剤」の方が悪く出るのが普通です。これは、油脂石鹸が100%洗剤成分であるのに対し、 「標準洗剤」ではそれ以外のものが多く混ざっている事によります。また、pH 的にもアルカリ度がより高い油脂石鹸は、 添布白布への染料の吸着を妨げます。)

洗濯試験後、軽くゆすぎ乾燥の後、添布への汚染と試験布の褪色を、それぞれ、汚染用グレースケール、褪色用グレースケールで判定します。

ドライクリーニングによる洗濯試験では、パークレンに若干の水・洗剤を加えて行なう試験がありましたが、環境問題から、 パークレンやトリクレンの様な含フッ素溶剤は実質的に使えなくなりました。 このため、2008年にJISも改正され、石油系溶剤での洗濯試験も規定されました。 しかし、コストと汚れ除去効果への要求は様々で、石油系溶剤のレシピが全国で同一化されている訳ではありません。 したがって、ドライクリーニングでのトラブル原因の特定は容易ではありません。

これら、水試験や洗濯試験での白布汚染が認められる場合、その多くは、ソーピング不足や、 フィックス条件の甘さが原因です。 これをもっと簡単に調べるために、吸水性がある繊維であれば、左の様な吸い上げ法(通常、「大丸法」と呼ばれる)やホットプレス法が有効です。 吸い上げ法では、染色布の小片を、白い布(吸水性のある綿布など)と縫い合わせ、活性剤入りの水溶液にその一端を浸け、30分程放置します。 この後、この複合布を引き上げ、乾燥した後、染色布を通って白布まで浸透して来た液の汚染度合いで、十分に染着していない染料の程度を見ます。 (大丸法では、生地の大きさや活性剤も決まっていますが、簡単に見るだけなら、手持ちの活性剤でも構いません。)この吸い上げ法は、 ドライクリーニング適性を見るのにも有効です。この場合には、活性剤溶液に替えドライクリーニングに使う溶剤を使用します。
「ホットプレス」はより簡単な方法です。染色布を水で濡らして、薄手の綿の白布にはさみます。 この状態で、白布の上から熱いアイロンをかけ染色布ごと乾かします。 乾いたら白布に移った染料で遊離する染料の多寡を判断します。特に、反応染料での染色物に有効な方法です。

セルロース繊維やナイロンでは、水試験や洗濯試験での汚染を改善するのに、FIX処理が有効ですが、 処理による日光堅牢度の低下や色のくすみ度合いを確認しておく事が必要です。

衣類の洗濯に関して、経済産業省では、平成28年8月 「新しい洗濯表示」 を定め、同12月より使われています。参考としてリンクしておきます。

塩素堅牢度     セルロース繊維・ナイロン 水着

洗濯堅牢度試験では、 何の変褪色も起こらない場合、次に変褪色の原因として考えられるのが、水道水中の塩素です。
日本では、多くの自治体が、法律で、水道水がカランの出口で、 1ppmの活性塩素を含んでいる様に定めています。このため、 オゾン等で殺菌処理などの高度処理を行なっている浄水場でもわざわざ塩素を水に追加封入しています。 (元々水の悪い欧州などでは、飲用に水道水を用いるのはまれですので、塩素処理しない国も多く、塩素水での変色は殆ど問題になりません。)

塩素試験は、上の洗濯試験に使用した洗濯試験機を使って行ないます。
試験法は、水道水を想定して行なう 有効塩素10ppm =A法 の試験と、プールの水を想定して行なう有効塩素20ppm =B法の二種類があります。 A法では、試料の200倍量の液で、25℃X30分。B法は、試料の100倍量の液で、27℃X60分試験し、水洗・乾燥の後、 変褪色用グレースケールで結果判定を行ないます。(B法の試験温度が少し高いのは、プールの水温を想定しているからです。 ISOの試験は、JISに比べると良い結果しか出ませんので、JISを参考にしておけば十分です。)
 
この試験では、次亜塩素酸ソーダ(アンチホルミン)を塩素発生原として使用しますが、冷蔵庫で保管を行なっていても、経時的に有効塩素は、 失われて行きます。できれば、試験毎に有効塩素濃度を計り確認することが望ましいのですが、 もしどうしても滴定確認できない場合には、塩素に弱い染色物を基準布として別のポットに入れ、同時に試験する事を勧めます。 (それも出来ない時は、せめて試薬屋より新ロットの瓶を頻繁に仕入れて下さい。試薬屋には、長期ストックからではなく、 出来るだけ新しく瓶詰したものを供給する様に依頼しておく事。)

塩素堅牢度の一つに「流水塩素」と呼ばれる試験があります。これは、電気洗濯機で、水を流しながらすすぎを行なう時に起こる褪色を想定したものです。 この場合には、水道水がどんどん供給されます。従って、その水で加算される大量の塩素が変褪色の原因となる訳です。 これを、再現するために、家庭用の洗濯機で、ダミーの布と共に、30:1 の浴比で、水量 6L/分で60分 洗濯を行ないその結果を判定します。
ただし、この試験法には、下の様な問題があり、一試験での試験布間の相対比較はできますが、 期間の離れた複数回の試験結果を正確に対比できるかは疑問です。
 1. 季節により水道水中の塩素濃度が違う。(その地域にもよるが、水質が悪くなる夏場は、塩素を多く入れがち。)
 2. 一度汲み上げてから使うビルなどの水の中の塩素濃度は、給水塔回りの環境により左右される。(特に夏場。)
 3. 水温が夏場と冬場で大きく違う。
 4. ダミー生地の材質、使用回数により塩素吸着量が違う。
 5. 古い鉄管を通って供給される水は、さびにより溶存酸素が減じられる。(塩素活性は、水中の溶存酸素の量に極めて影響される。)

 ポリウレタンが混繊されている繊維では、ウレタンそのものの塩素黄変も留意しておいて下さい。
 後加工として塩素堅牢度向上剤を使用する時は、日光堅牢度の低下が無いか確認しておく事が必要です。
(ちなみに、塩素堅牢度向上剤には永続効果は有りません。)

ナイロン製の水着の場合には、きわめて強い塩素処理水で試験を求められる事もあります。十分な条件確認が必要です。


摩擦堅牢度     繊維全般

次のトラブルは、こすりあわされる事による色移りです。 このチェックには、摩擦試験機を使います。
その方法は、左に示した通りです。

一般に使われているのは、日本では 右の「学振型」、 欧州では「クロックメーター」です。試験後、白布への汚染度合をグレースケールで判定します。水溶性染料で染められた綿の場合は、 一般的に湿摩擦 (白布を濡らした状態でこする)が乾摩擦より悪い事が多いのですが、疎水性染料で染められたポリエステルでは、 乾摩擦の方が湿摩擦より悪く出る場合があります。  摩擦堅牢度では、使用されている染料やその濃度だけではなく被染物の表面の状態やソーピングの可否など多くの条件がからみます。 このため、表面を滑りやすくし白布への汚染を軽減する様な後加工剤もあります。ちなみに、ほとんどの場合、「学振型」で行なうJIS試験の方が、 「クロックメーター」で行なうISOの試験より悪く出ます。

クロックメーター         Crockmeter

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日光堅牢度     繊維全般

服の色が日に曝されて褪せてしまう現象は、ごく普通に起こります。 ただし、変褪色は少しずつ進みますので、表と裏の色の違いを比べるまで気が付かなかったという風な事もあるかもしれません。 そうした、光による変褪色を短時間で再現するために日光堅牢度試験を行ないます。
これには、強力な人工光を放つ光源を使います。この光源には二種類あります。
日本で一般的に使われるのは、フェードメータ(左写真。正式には Fade-O-Meter フェード・オ・メーター)と言って、 二本の炭素棒の間に高圧電流を流しアーク放電により発光させる方式の試験機です。炭素棒を使うので、カーボン・アーク Carbon-Arc と言う言い方もよくします。 戦後アメリカ向けの輸出で標準的に使われました。その名残りもありJISでもこちらを主体に扱っています。

もう一つの方式は、Xenon Meter (キセノメーター)と言ってキセノンガスを 高電圧で発光させる方式です。(右写真)Xenon Meter の方の光分布の方が太陽光に近くて実際的なのですが、試験機の価格が高いので、フェードメーター程には使われていません。 (キセノメーターは、1千万円以上します、フェードメーターは、その五分の一程度します。) しかし、車両メーカー、及び、ヨーロッパでは、その波長がより日光に近いキセノメータが主体です。

これらの試験機で一定時間光照射を行なった後、その変褪色の度合いを判定します。
(Fade-O-Meter の光は、Xenon Meter の光よりも紫外領域が強く、同じ照射条件では、紫外領域に強い鮮明黄色染料を除きほとんどの染料で変褪色がより大きくなります。)

さて、その判定の仕方ですが、先に示したパターンリーフレットには、「日光(キセノン)」として、 幾つかの数字が書かれています。 ここで、注意したいのは、その判定の数字に「5」以上の数字が含まれている事です。 日光堅牢度の判定には、グレースケールではなく、8 級まである「ブルースケール」を使うためこうした事になります。 このブルースケールには、その等級に応じて光に対する堅牢度の違う八つの染料で染めた布が貼られています。 このブルースケールと被試験布を一緒に試験し、どの等級の所の焼けに近いかで等級を付けるのです。ちなみに、ブルースケールでは、級数が大きい程、 堅牢な染料である事を表わしていましたが、日光堅牢度でも級数が大きいほど光に対する耐性が高いことを意味します。

ここで、一つ注意しなくてはならないのは、日光堅牢度の試験には「第三露光法」と呼ばれる独特の試験法があることです。この第三露光法は、 ブルースケール自体の褪色を基準として光の照射を行なう方法です。

具体的に説明しますと、規格として設定した級数部分のブルースケールが、グレースケールで4級を示す褪色を起こすまで光を照射し、その段階で、 被染物に褪色が生じるかどうかで判定を行ないます。 例えば、ブルースケールの3級に当たる部分が、7時間の光照射で、グレースケールの4級相当の褪色をしたとします。 この時被試験布に何の変化も生じていなければ、その染色物は、3級合格となります。 (もし、何らかの「焼け」が見られるならば、単に「不合格」となり、「2級」とか「1級」の判定は付きません。) ですから、単に「日光堅牢度3級」と言った時、それが、第三露光法での「3級合格」を意味しているのか、それとも、ある一定時間露光した時、 同時に焼いたブルースケールの3級と同じ程度の焼け方である事を意味しているのか十分に確認しておかなくてはなりません。 (染料メーカーのパターンリーフレット等にある級数は、後者の方で、その露光条件はどこかに記されている筈です。)


車両用やインテリア・エクステリア分野への厳しい照射条件では、繊維自身も黄変しますので、白生地の黄変度合いも合わせて確認しておく事を勧めます。

汗日光堅牢度     セルロース繊維/反応染料

繊維関係の皆さんにとって「汗日光」と言う言葉は頻繁に聞く堅牢度のひとつだと思います。 日常的には、「夏戸外で汗をかきながら運動していたら、たった一日でTシャツの色が変わってしまった」と言う風な大きな色変化が起こります。 これを再現するために、汗試験に使う人工汗液に濡らしてから光の照射を行なうのが、汗日光と呼ばれる堅牢度試験です。 JISの汗液では変褪色の程度がそれ程大きくないため、最近では、 ATTS(繊維技術研究会)が試験的に作成したより強い作用を及ぼすアルカリ汗液を使って試験する事も多くなりました。

操作としては、汗液に30分浸した後、垂れない程度に水を切り、アクリル板に取り付け、Fade-O-Meterで、一定時間光照射(注) します。その結果を、通常の乾燥条件で焼いたブルースケールと照らし合わせて級数を決めます。 (注:染料自体を試験する場合には、第三露光法では、トラブルの再現としては結果が良すぎるため10時間または20時間の照射を行なうのが一般的です。) JISでは濡れた試料を、光を通す耐熱ガラス容器に封じて試験を行なう方法もあり  A法と呼ばれますが、このガラス容器の価格が高いため広くは行なわれていません。

(JISの汗日光およびATTSの試験については、次の章で詳しく述べます。)


酸化窒素ガス堅牢度(NONOX)

酸化性のガスが原因で起こる変褪色です。

滞留している排気ガスや、室内でのストーブから発生する酸化窒素ガスが原因物質となります。酸化に弱い染料が、ガスに触れた部分にのみ起こりますので、 空気に触れる折り目部分だけが変色していたり、ごく薄い表面層だけが変色するという特徴的なトラブルです。 主として、アントラキノン系のブルーで起こり、赤味に変色します。
ただし、多くのケースでは、該当するブルーを配合した様々な色目で起こりますので、線状で、元の色より薄く赤く変わっていたら右の試験を行ないます。

(JISで決められた通りの試験を行なおうとするとそれなりの装置や、発生したガスを補足するためのドラフトも必要です。そうした装置が無く、 簡便に手っ取り早くチェックするには、試料を適当なビニール袋に入れ、その袋を、自動車の排気口から出てくる排気ガスで満たします。 封をして、太陽の下において30分後、水洗・乾燥し変褪色を調べます。 もし、その色変化の方向がトラブルで起こった色変と同じならばNO/NOXガスが原因の可能性大です。太陽に曝すのは、 ガス褪色に対し光が触媒的に働くからです。言い方を変えれば、酸化性のガスがあっても光がなければ褪色は起こりません。 「光化学スモッグ警報」が出たら、こうした酸化性のガスが人体に害を及ぼす危険が迫っています。)

こうした、染料の変褪色を引き起こす酸化性ガスには、他に、亜硫酸ガス、オゾン等があります。

ナイロンは、酸化性のガスで、基質そのものが黄変する可能性もありますので、白生地があれば同時に試験し参考にすれば確実です。

ガス褪色防止剤は、一定限界までの変色を予防するのに有効ですが、日光堅牢度を低下させる場合も多く確認しておく事が必要です。


酸加水分解     セルロース繊維/反応染料

セルロース繊維に使用する反応染料で、置換型の反応基を持つ染料の一 部は、 長期間酸性状態におかれると、繊維と染料の連結基が加水分解により切れる場合があります。 この現象のチェックでは、試験布を酸で処理した後、水試験と同じ方法で、白布添布への汚染を調べます。

加水分解して生じた遊離色素は、簡単な洗濯で容易に除去されます。
FIX処理は、このトラブルにも有効な方法ですが、反面、柄地では、過剰になって、何らかの原因で出て来た染料を取り込んでしまうリスクもあります。

(付加型の反応染料では、酸加水分解ではなく、アルカリ加水分解が起こります。ただし、起こるのは染色現場のため、消費者問題にはなりません。)





昇華堅牢度     ポリエステル/分散染料

これも、生産現場で起こるトラブルです。 分散染料が昇華性を持つ事は、別の章で説明しましたが、 分散染料は、熱エネルギーにより昇華(=ガス化)します。この昇華性は、主として染料分子の大きさに関わり、 通常分子量の小さい染料ほど大きい昇華性を示します。こうした、昇華性の大きい染料は、幅出しや、形態セットのために過剰の熱エネルギーを与えると、 染着していた場所から飛び出し、他の部分へ汚染して行きます。

昇華性試験は、加熱したステンレスプレートの間に、染色布とポリエステルと綿(又は、ナイロン)をサンドイッチにした状態の試験布をはさみ行ないます。
    Sublimation Test
通常の試験条件は、170℃〜210℃で30秒ですが、差を出すために、時間を60秒まで延長したり、ナイロン汚染で判定する事もあります。
試験後、プレートから取り出し、ポリエステル白布(タフタ)への汚染を、グレースケールで評価します。


まとめ     

染料の堅牢度については、染料部族、繊維部族毎にさまざまな堅牢度がありますが、この章では、主要な堅牢度に絞り簡単な説明を行ないました。 試験の詳細は、JIS協会で出している資料を読めば分かりますので、幾つかの堅牢度では、 敢えてオーソライズされていない簡便法についても紹介してみました。

現実に日々起こる染色物でのトラブルでは、単純な洗い不足が原因であったり、日光やガスなどが複雑にからみあったものまで様々です。

トラブルの原因究明に一番大切な事は、それが起こった状況を出来るだけ詳しく知ることです。

単なる結果合わせなら、汚染においても、変褪色においても、いくらでも強い条件は設定できます。 しかし、それが本当に起こった事故を再現していない限り同じトラブルが繰り返されます。世の中にオールマイティの染料はありません。 やがて使える染料はなくなってしまいます。
そんな事にならない様、持ち込まれたトラブルについての聞き取りを丁寧に根気よく行なって下さい。ヒントはそこにしかないのですから。

参考として、この章の中に出てきた堅牢度試験と関連するJISの番号を記しておきます。

JIS規格   JIS L 0841  日光に対する染色堅ろう度試験方法
              JIS L 0842  紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅ろう度試験方法
              JIS L 0843  キセノンアーク灯光に対する染色堅ろう度試験方法
              JIS L 0844  洗濯に対する染色堅ろう度試験方法
              JIS L 0845  熱湯に対する染色堅ろう度試験方法
              JIS L 0846  水に対する染色堅ろう度試験方法
              JIS L 0847  海水に対する染色堅ろう度試験方法
              JIS L 0848  汗に対する染色堅ろう度試験方法
              JIS L 0849  摩擦に対する染色堅ろう度試験方法
              JIS L 0850  ホットプレッシングに対する染色堅ろう度試験方法
              JIS L 0854  昇華に対する染色堅ろう度試験方法
              JIS L 0855  窒素酸化物に対する染色堅ろう度試験方法
              JIS L 0860  ドライクリーニングに対する染色堅ろう度試験方法
              JIS L 0875  ポッティングに対する染色堅ろう度試験方法
              JIS L 0879  乾熱処理に対する染色堅ろう度試験方法
              JIS L 0884  塩素水処理に対する堅牢度
              JIS L 0888  光及び汗に対する染色堅ろう度試験方法

        (次の 14.では、染料の構造と各種堅牢度の関係について、もう少し突っ込んで説明します。)