くんぼのSF紹介

=くんぼのSF紹介=

 ここでは「J・P・ホーガン」の作品を紹介しています。ホーガンは読むもの全てが面白いですね。 初期のハードSFや近年のスパイ小説も,楽しく読めて,それに大概がハッピーエンドで終わるというのも, 安心して楽しめるというものです。
 個人的には,本当に初期の,数学や物理をこねくりまわした「創世記機械」が一番好みです。


  ・星を継ぐもの (INHERIT THE STARS) 1977
  ・ガニメデの優しい巨人
       (THE GENTLE GIANTS OF GANYMEDE) 1978
  ・巨人たちの星 (GIANTS' STARS) 1981
  ・内なる宇宙 (ENTOVERSE) 1991
  ・創世記機械 (THE GENESIS MACHINE) 1978
  ・未来の二つの顔 (THE TWO FACES OF TOMORROW) 1979
  ・未来からのホットライン (THRICE UPON A TIME) 1980
  ・断絶への航海 (VOYAGE FROM YESTERYEAR) 1982
  ・造物主の掟 (CODE OF THE LIFEMAKER) 1983
  ・終局のエニグマ (ENDGAME ENIGMA) 1987
  ・ミラー・メイズ (THE MIRROR MAZE) 1988
  ・インフィニティ・リミテッド (THE INFINITY GAMBIT) 1991
  ・マルチプレックス・マン (THE MULTIPLEX MAN) 1992
  ・時間泥棒 (OUT OF TIME) 1994
  ・量子宇宙干渉機 (PARTH TO OTHERWHERE) 1996
  ・ミクロ・パーク (BUG PARK) 1997


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ここからは下は,何冊かの簡単な紹介(感想)です。

 

星を継ぐもの(J.P.ホーガン)

 月で一体の死体が発見された。何者かは判らないが5万年以上前に死んだらしい。 その死体は現代の人間と,その構造において殆ど変わらず,頭蓋・歯の構成・肋骨・ 鎖骨・骨盤すべて現在の人間と同様である。
 というような状況で物語は始まる。

 トライマグニスコープというニュートリノビームを用いたスキャナーを使って,彼の持ち物の 調査が始められ,またそれと平行した研究で,月の表側と裏側の非対称性の原因が,裏側に比較的 新しい時代に付加された物質のためであるということなどが明らかにされた。

  一方,木星の衛星「ガニメデ」では,氷のしたに宇宙船が発見され,その船内で巨大な人間が 発見された。
 月で発見された人間が「ルナリアン」,ガニメデで発見された人間が「ガニメアン」と 名付けられ,そこから話は発展して,現在の人間の祖先にまで話が遡る。

 とにかく,話の展開が非常に面白い。ホーガンという人は科学的な人間であるらしく,その科学的 ストーリーが楽しい。ハードSFの好きな人間には,必須の作者かと思う。

 この後,このシリーズは全部で4作を数える。

  1.「星を継ぐもの」 (Inherit the Stars)
  2.「ガニメデの優しい巨人」 (The Gentle Giants of Ganymede)
  3.「巨人たちの星」 (Giant's Star)
  4.「内なる宇宙」 (Entoverse)
  


 
内なる宇宙(J.P.ホーガン)

 この作品は「星を継ぐもの」,「ガニメデの優しい巨人」,「巨人たちの星」と続いたシリーズの4作目である。

 「星を継ぐもの」や「創世記機械」でも驚かせられたが,このホーガンという作者は本当に面白く, また難しい理論を操る人である。  ただ私のような理系人間には面白いけれども,理論が苦手な人には(例えば,うちの奥さんのような) 決して面白くはないのではないかと思ってしまう。
 六次元時空だとか重力井戸とかいったって,頭から拒否反応を示す人達は屹度多いに違いないと思うが, 果たしてどうだろうか。

 物語は地球人の双子の兄弟「ジェヴレン人」の住む惑星「ジェヴレン」を舞台として進められる。

 このジェヴレンでは,人間が一瞬にしてこれまでと全く別の人格に変容してしまう, 「狐憑き」というか「神懸かり」といった現象が頻発している。 「狐憑き」達の内部では,これまでの自分固有の記憶は全て消し去られ,全く新しい精神が形成されてしまっている。 彼等は自分自身を解脱者と称し,振興宗教のような教えを説いて廻り始めるが,実は彼等は, 数を増やしながら惑星「ジェヴレン」を乗っ取ろうとしていたのである。そうして まもなく大量の解脱者を産み出す準備が整のおうとしていた。

 さて,この精神は何処から来るのであろうか?それがこの作品の核心である。

 ジェヴレンは,「ジェヴェックス」という惑星中に張り巡らされたコンピュータ・ネットワークにより支えられている。 実は,この高密度大容量のコンピュータシステムの内部に別の宇宙が生まれ, その宇宙で全く別質の人類が進化していたのである。(この宇宙を「エントヴァース」と名付けている)  我々の宇宙は,量子力学的な基本粒子から成っているが,この別宇宙は情報の流れ(ビットというか) を基本粒子として形成されたものであった。(このあたりが難しい)

 ジェヴレン人は時々,「ジェヴェックス」に精神を接続して楽しむ習慣がある。 ちょうどこの機会を利用して,「エントヴァース」の人類精神がジェヴレン人の中に流れ込んでくるのである。 そうしてジェヴレン人の精神は乗っ取られ,いわゆる「神懸かり」になるというわけである。

 この物語は,いかにして「エントヴァース」が創造されたかを推理し,またいかにしてその侵略を食い止め, 大団円に持っていくかといった内容で展開される。 最後はやはりハッピーエンドで終わるのであるが,さて,これまでのように自分の意志で,外界の 精神を侵略していた道が閉ざされた「エントヴァース」人はこれからどうするのだろうか? 物語の最後では,うまく共存の道を取るような方向で書いてあるが,果たしてそれでうまく収まるのか?
 もしかして,また続きがあるのだろうか・・・・・。   


 
創世記機械(J.P.ホーガン)

 強い相互作用,弱い相互作用,電磁力,重力を統一した「統一場理論」がすでに確立された時代である。
 その理論によれば,これら既知の場はすべて,高位の六次元連続体を伝搬する複雑な波動関数が アインシュタイン時空に投影されたものとして表される。この連続体は「六次元直行座標空間複合体」 と呼ばれ,単純には,「K空間」と呼ばれた。

 この「K空間」について,ある科学者が研究を進め,そうして新しい発見をした。 目に見えない高次粒子が相互作用をして,目に見える粒子が生成される。つまり物質の生成がなされる。 ということから始まり,ややこしい物理の理論が展開されていく。
 これは架空のものであるはずなのだけれど,ああそうなのかと思ってしまうところが面白い。

 ところで,この科学者は理論屋であり,理論屋だけでは話は進んでいかないので,ここにもう一人 実験屋の天才科学者が現れてくる。
 この二人の天才科学者がそれまで働いていた政府機関を追われ,民間機関に逃れ,やがて自分たちの 研究成果としての武器(人工ブラックホールをエネルギー源とした“J爆弾”)を使い,世界中のあらゆる 兵器ををつぶしていく。

 ラストは極めてハッピーエンドである。途中からそうかなと思って読んでいくと,やはりその通りで, 安心してラストまで読み進められる。この作者は,大概がハッピーエンドで終わるので,安心して 読んでいける。
  


 
未来からのホットライン(J.P.ホーガン)

 スコットランドの古城に住む「ノーベル物理学賞受賞者」の老科学者が,その地下の私設研究室で タイムマシンを完成した。ただし,タイムマシンといっても,機械に乗って人間が過去や未来に移動 するというものではなくて,情報を過去へ送る「時間間情報通信機」,時間軸に沿ってエネルギーを 送り,従ってメッセージをやりとりできるというものである。

 タイムマシンという機械に乗って,過去や未来を行き来するのであれば,もうかなり以前のイメージで 新鮮味がないけれども,情報だけを送るというのはこれまでになく面白い。

 さらに情報を過去に送り,その情報を利用するものがいるのであれば,当然そこにタイムパラドクスが 生じてくる。それを新しい宇宙連続体のモデルを出してきて説明するあたりが理論派ホーガンだなと 思わせてくれる。当然,そういった宇宙論だけでなく,核融合論のちょっとしたミスで地球が微少 ブラックホールで滅びてしまうといったパフォーマンスが含まれており,理論と出来事をうまく 楽しむことが出来る。

 ラストは,この作者らしくハッピーエンドとなるので読後感も気持ちいい ものである。   


 
終局のエニグマ(J.P.ホーガン)

 ソ連が月の公転軌道上,月とも地球とも同じ距離の重力平衡点,ラグランジュ空域に直径1マイル 余りの宇宙島(スペース・コロニーで,車輪のような形の宇宙ステーション。1万人以上の人が住む ことができる)を建設している。目的は人類の宇宙進出のための平和利用としている。

 直径1マイルというと,これまでの人工衛星と比べれば超巨大である。ソ連に対する西側の国は SDIシステムの完成により,宇宙でのアドバンテージを築いていたのであるが,もしもこの宇宙島 が軍事施設であるならば,一挙に東西の戦略的アドバンテージが入れ替わってしまう可能性がある。
 なぜなら西側のSDI兵器では,この巨大な宇宙ステーションには大きな打撃を与えられないこと, および核ミサイルを放っても,この宇宙ステーションに到達するまでに数時間も要するために,確実に 迎撃されてしまい,用をなさないためである。

 西側の諸国はソ連の発表する「平和の象徴」には納得せず,必ず強力なX線レーザ兵器が備えられた 軍事施設であると認識し,この謎を解くために2人のエージェントを送り込む。1人はプロのスパイであり, もう1人は通信畑の女性技術者である。

 2人のエージェントは宇宙ステーションに入った後すぐに捕まってしまい,それぞれがステーション 内の収容所に入れられる。ここから物語はスパイ物のような展開で進められていく。収容所の中で 一体誰が逆スパイであり,誰が信頼できるのか?そして互いの相棒の安否を探るツテをどうやって たどっていくか?

 最終的には,信頼できる仲間を集めて収容所を脱走し(脱走といっても,真空の中を逃げ出す訳で そのあたりの描写もなかなかにたいしたものであるが),この平和の象徴といわれた宇宙ステーション が実は,強大な最終兵器であることを暴いていく。

 ストーリーの流れとしては,SFというよりもスパイ物といった感があるが,所々にやはりサイエンス フィクション的なところもあって,まあ面白ければジャンル分けはどうでもいいのかなという気がする。

 ところで,ここに出てくる宇宙ステーションは「未来の二つの顔」で出てくる「ヤヌス」と基本的には 同じ構造を持っているステーションであるので,事前に「未来の二つの顔」を読んでいると,この話の 舞台もより理解しやすいと思われる。

 ソ連と西側という設定になっていて今では変な感じもするが,この話が書かれた時にはまだ世界は そのような情勢にあったわけで,作者もそうすぐには東側の崩壊が訪れるとは考えていなかったので あろう。   


 
ミラー・メイズ(J.P.ホーガン)

 舞台は西暦2000年のアメリカ合衆国。大統領選挙で既成の二大政党を押さえて選挙戦を制したのは 「護憲党」と呼ばれる新政党であった。護憲党は政府による干渉を一切止め,真の自由経済を目指すことを主張している。 しかし当然のことながら,こういう真の自由経済を嫌う巨大資本家達がいる。
 選挙に勝った護憲党からは数週間の後に新しい大統領が生まれることになっているが, これに反対する勢力は次期大統領の暗殺を企てる。こういった政界の流れに偶然ながら若いエンジニアが 巻き込まれ話は進んでいく。

 SF色は少なくなったとはいえ多少は残っており, ソビエトの偽装戦略ミサイルを危機一髪で防ぐくだりなどは,なかなかに手に汗握るものがある。 ラストはいつものようにハッピーエンドに終わるのだが,全体のストーリーよりも,話の中に散りばめられた ホーガンの主張が興味深い。
 以下には,本文から抜粋したパラグラフを載せることとする。ちょっと長くなりすぎてしまったが・・・。(●は上巻,◆は下巻より引用)

●これまでの悪弊はどれをとっても資本主義のせいで起きたものは一つもなく, すべて政府の干渉のせいで起きているんだ。

●自由な金融市場には完全な経済安定装置が備わっているのよ。−−−利率というのがね。 それが相場−−−つまり資本の価格−−−で,いろんな状況を知らせてくれる信号なの。 −−−誰かが歪めたりしなければね。それはどこに投資するのが安全かも示してくれる。

●最終目的は政治権力を経済問題から完全に引き離すことにある。

●政府は市民が自分の労力や資産を取り引きするやり方,−−−どの相手と,どんな条件で, どんな価格でといったこと−−−に口出しすべきではない。 その機能はただ,自由に結ばれた契約の履行を強制することに限られる。 だから,なんらかの特権を強制することになる法律はすべて廃止される。

●皮肉なのは当の人間達が,自由市場で起きることは計画されたものではないとでも言うかのように, “計画”経済を論じてきたことである。だが実際には,日常の自由経済システムを形成する無数の商取引において, その生産も,価格設定も,市場開発も,大規模な準備や計画ぬきで行われるものは一つもない。 すべてが長い経験を積んだ専門家によって計画されているのだ。そう,たしかに彼等にもときとして誤りはある。 しかし,企業の経営に参加したこともなく,ただの1ドルさえ自分の金を投資したことのない少数の 官僚のほうがうまくやれそうだと本気で考える人がどこにいるだろうか?

●もし技術改良によって食料の自由市場価格が下落し,一部の農民が生計をたてられなくなったら, 非能率的な生産者のとるべき最善の道は生産を止めることである。最悪の道は, 政府の買い取り保証によって価格を維持しようとすることだ。それでは,保証された利益がさらに多くの生産者を集め, 余剰を生む結果を招くだけだ。そして人為的な高価格で需要が低下するため,さらなる余剰が生じる。 ついには価格の大規模な下落が起こる。目標とは正反対の結果だ。そこで政府はさらに何らかの手を打たなければならず, あげくの果ては現在我々が見ているような,農民は生産しない代償として支払いを受け, 現実に穀物や家畜が廃棄されているという馬鹿げた状況に行き着くことになる。

●全宇宙はエネルギーと物質でできている。そして人類の知識が増大するにつれ,我々はそれに手が届くようになる。 資源は時間の経過とともにより安価になり,より豊富になる。減っていきはしない。 何年にもわたって聞かされてきた,いずれ破滅の日がくるというご託宣は現代最大のナンセンスだ。

●自由市場資本主義と大企業政治とは同じものじゃない。まったくあべこべなのに,みんな混同している。 大企業の広報部がなんと言おうと,大企業は自由市場を望んではいない。自由市場は大企業を規制し, 庶民に利益をもたらすからだ。大企業が望んでいるのは政府による保護だ。法律による経済的特権の強制っていうやつさ。

●例えば政府は商売に参加するためのコストを引き上げている。いろんな許認可制なんかがそれだ。 大企業はそれに必要なコストを吸収できるが,小さいところはゲームに加わるための前払い金が出せない。

●失業者の大部分は,相場より高い最低賃金の設定や,その本来の雇用者である企業への制限という悪報によって 作り出されているんだよ。問題の大きさを,最後に残った本当に援護を必要とする人数にまで縮小すれば, 民間の慈善行為だけだ充分カバーできる。前の世紀に爆発的に増えた学校,病院,孤児収容施設,公園, 劇場などはぜんぶ個人経営で設立された。人間は,自分の金の行き先を自分で決められる場合, そして本当に援助を受ける資格のある者とそれに便乗する手合いとを自分で見受けられる場合, びっくりするほど気前がよくなるものなんだ。

●昔から政治構造を語るのに使われてきた右翼・左翼という色分けには,いまではもう単なる伝説としての意味しかありません。 いずれにせよ,もし個人の生活のあらゆる面が事実上政府に管理されるとしたら,もし政府の許可を得なければ生活できず, そこで得たもののうち許される取り分しか手もとに残らないとしたら,もし自分に関係のない大儀への献身を強要され, 私生活や思想までも誰かに承認されたものでなければならないとしたら−−−そうなったら, たとえその体制を共産主義と呼ぼうがファシズムと呼ぼうが,スターリン主義,ヒトラー主義,あるいはシーザーの独裁君主制, ファラオの専制君主制,毛沢東主義,その他なんと呼ぼうと,そこにどんな違いがあるでしょうか? 個人に関する限り,その区分は実際的なものではない。私に言わせるなら,現実意味がある構造はただひとつ, スペクトルの一方の端に「全体主義」,もう一方の端に「無政府主義」−−−言い換えると無秩序(アナーキズム)で, これは全体主義よりも人類を苦しめる唯一の体制だが−−−をおいたものです。

●過激主義は,どんな理由づけやスローガンの陰に隠れていようと,その目的は必然的に, 何らかの方法で大衆を収奪して少数のものに権力を集中することです。それは社会の経済的資産を管理することで達成されます。 左翼は集団の利益という名目で公然と奪い,右翼は競争を排除して独占の特権を享受する。 両者は利権をめぐって対立関係にあるかに見えるが,それは同じ宿主の体内で争う寄生虫同士の争いにすぎない。 彼ら双方の真の敵は同じ−−−すなわち誰にも奉仕を強制されない自由で自律した個人なのです。

◆一つの問題に関して,科学者仲間の1%以下の意見が報道の99%を占める場合,そしてそれが一度ならず繰り返され, しかも予想通りに発生する場合,そこには経験不足や締め切りに追われたための単なる誤報とは異質な何かが進行しているはずだ。 簡単に言えば,それは大衆が事実として信頼する情報源が,思想的な観念や意見を操作するために利用されているということだ。

◆19世紀における鉄道や近年における電話・電力などの公共事業に対する国家の管理が, 庶民を搾取から守るために施行されたものだという一般の信仰は,ほとんどの場合誤認に過ぎなかった。 むしろその経営者達は,政府の介入を求めるよう大衆を扇動した−−−それによって彼等自身を競争から守ったのだ。 そういった要求に応える手順の第一段階は,きまって専門家の委員会に調査を委嘱し,法律の制定を勧告させることである。 そして当の産業に通暁した専門家は,その産業自体の中以外のどこに求められるだろうか? その結果,必然的に鶏小屋の世話は狐たちの手に委ねられ,改革者たちはその成果に気をよくして, つぎに征服すべきドラゴンを求めて進軍していく。

◆組織の機能は人々に考え方を教える方向にではなく,特定の考えを持つよう人々を誘導するように働くらしい。

◆みんな自分で檻をつくって他人にもそこに入ることを強要し,いっしょに幽囚を味わっているのだ。

◆金が必要な政府はどんな独占権でも与える−−−例えば天然資源,石油の採掘権,運輸事業などだ−−− が本当に大きく儲かるのは,国の金融を支配したときだ。そしてそれが中央銀行に集中していることは, その種の支配権を狙っている者なら誰でも知っている。レーニンもそれを知っていた。彼は中央銀行を設立すれば, その国の接収は99%終わったようなものだと言っているんだ。

◆計画立案者を必要としない制度を許容する計画立案者がいるでしょうか?

◆人類の大半に対する残忍で組織的な搾取は,多くの場合,民衆がもっとも信頼を寄せている勢力自体によって, 民衆のためという美名のもとに,何の配慮も憐れみもなく行なわれている。
 そうした権力への欲望が通常に人間の理解を超えたものだからこそ,一般の人々は搾取の構造を見抜けないばかりか, その手先にすらなって,ほとんど誰にも気づかれずに進行していく。   


 
インフィニティ・リミテッド(J.P.ホーガン)

「インフィニティ・リミテッド」は,ホーガンの作品の中でもSF色を一切なくしてしまった作品で, いわゆるスパイ小説ある。

 主人公は「バーナード・ファロン」といい,元イギリス空軍特殊部隊の兵士で現在は作家を隠れ蓑として フリーで諜報活動をしている。このファロンのもとに,アフリカの小国「ズゲンダ」の政府筋から反政府 テロリスト組織「ZRF」の要人暗殺依頼があり,また同時にZRFからもコンタクトがある。 さらに元上官の大佐からもコンタクトがあって,この政府筋の依頼を引き受けて,かつZRFのために 働いてほしいという話が舞い込んでくる。
 このような背景の下で,ファロンはズゲンダ政府に逆スパイとして入り込み活動を進めていく。

 ズゲンダから世界への情報は,政府の監督下におかれ人民の解放と自由な世界を目指すZRFの活動は 全てテロ行為として宣伝されている。
 ズゲンダでは,政府筋である軍と国家保安局,そしてZRFの三者が三すくみ状態となって安定を保っている。 軍や国家保安局の背後にはそれぞれ謎のバックがついており,それぞれが相手を出し抜くことにより, ズゲンダの実権を握ろうと画策している。
 こういった状況において,主人公のファロンは軍と国家保安局を操り,互いに戦わせて武力を削ぐことにより ZRFを勝利へ導いていく。

 内容は本当にスパイ活劇であり,各場面場面の描写も優れている。しかし,ホーガン流のSFを期待している 者にとっては当て外れの作品としかいいようがないであろう。
 ただしところどころにホーガンの思想というか哲学というか,自由世界への希求みたいなものが見受けられ, これは作者がSFであれ,スパイ小説であれ一貫して持っている態度でもある。

 SF性は全く見られないが読んでみて興味深い一作ではある。   


 
時間泥棒(J.P.ホーガン)

 近未来のある日,突然時間の流れに異常が発生する。殆どのあらゆる時計が狂い始め,外部から 送られてくる時報と合わず,どの時計も標準時から遅れていく。だが,その遅れは一定ではなく, 国防省とかNASAとか放送局とかいった近代的なところでは時間の遅れが顕著で,教会などの 昔ながらの場所ではあまり時間遅れが発生していない。時間が忙しく流れているところでの時間消失が 顕著なのである。

 なぜ,時間が消失していくかというと,異次元の宇宙が我らの宇宙と接触して,どうもそちらの宇宙に 住む虫の好物がこちらの宇宙でいうと時間にあたるためらしい。だから,時間のいっぱいあるところ, 時間が忙しく流れているところでその虫が繁殖して時間を食っていくため,時間が消失していくと いうストーリーである。

 「時間泥棒」,最初にこの題名を見て「ホーガン」とは思えなかった。一瞬,ミヒャエル・エンデの「モモ」が 頭に浮かんだ。いや,あれは時間銀行だったか?
 「モモ」では,忙しく働く人々が自分の時間を銀行に預けていくということをとおして,現代文明に 警鐘を鳴らしている訳だが,この「時間泥棒」も背景としてはやはりそういうものがあるみたいである。

 まあ,ホーガンの作品というのは,文明批判的なところがいつもあるように感じるけれど・・・。   


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