創世記機械


■著書名:【創世記機械】
■ジャンル:SF
■著者名:J・P・ホーガン
■出版社:創元SF文庫
   発行年:1981年   定価:447円
■ISBN4-06-185920-X
■おすすめ度:★★★★

======================================================================

 子どもの頃,科学が好きだった。あまり多くの本はなかったけれど,星や宇
宙の本などを喜んで読んでいたと思う。小学校の頃の作文で,将来は宇宙物理
学者になりたいなどと書いていた記憶もある。

 かといって,別段難しい物理の本を読んでいた訳ではなく(もっともそんな
本を開いてみたとしても,あまりに難しくてすぐに嫌になってしまっただろう
が・・・),おそらくただ漠然と宙への憧れのような,子どもなら誰しも持っ
ているような憧れを抱いていて,ただ小憎らしく,それが宇宙物理学という名
を語っていただけなのかもしれない。

                                 *

 ここに取り上げた「創世記機械」,やたらと難しい物理理論を研究している
科学者が主人公である。その彼が自らの理論を武器に,世界中の兵器という兵
器(人工衛星に積まれた核爆弾や潜水艦の核ミサイル・・・)を一掃して一夜
にして兵器のない世界を作ってしまうという痛快物語である。

 舞台は近未来世界で,ややこしい理論(もちろん架空のものであるが)が展
開され,物理嫌いの人々にはちょっと親しみにくいかもしれないが,その理論
に深入りしなければ(もっとも深入りしたほうが面白いと思うが・・・)テン
ポよく進んでいくストーリー展開に,思わずワクワクドキドキしてしまう。

 ラストに近くなると,もう本当に血沸き肉踊るといった感じの展開になって
読書のほうも一気にラストスパートがかかってしまう。確か夜に読み始めたが
寝られなくなって夜を明かしてしまった記憶がかすかにある。

                                 *

 今からはもう20年以上前に書かれたSFであるが,決して古さを感じさせ
ない。というかここに描かれたような理論が出始めてくるのは,まだまだ遙か
先のことのように思う。

 ホーガンという作者,彼はかなりの先取りをしてSFを作っているんだなあ
と思う。とにかくラストは本当に面白く楽しく,しかもこの作者の特徴でもあ
るがハッピーエンドで締めくくられている。読後感も爽やかで,お勧めの一冊
である。

======================================================================

 強い相互作用,弱い相互作用,電磁力,重力を統一した「統一場理論」がす
でに確立された時代。この理論によれば既知の場はすべて,高位の六次元連続
体を伝搬する複雑な波動関数がアインシュタイン時空に投影されたものとして
表される。この連続体は「六次元直行座標空間複合体」と呼ばれ,単純には,
「K空間」と呼ばれている。

 この「K空間」について一人の科学者が研究を進めていた。目に見えない高
次粒子の相互作用により目に見える粒子が生成される。つまり物質の生成がな
されるという物理理論の発見と展開。読み始めて最初のストーリーはかなり難
しい。しかし架空の理論であるはずなのだが,ああそうなのかと思ってしまう
ところが面白い。

 この科学者は理論屋である。ところが理論屋だけでは,決して話は面白くは
進んではいかない。やはり何事も具体化されなければ,エンターテインメント
とはならないのである。

 というわけで,ここにもう一人の天才実験科学者が登場してくる。二人の天
才科学者はそれまで働いていた政府機関を追われるが,やがて民間機関に逃れ
自分たちの研究の結果創造した武器(人工ブラックホールをエネルギー源とし
た“J爆弾”)を使い,世界中のあらゆる兵器ををつぶしていく。 

(2001.6.6)

書評のトップページへ ホームページへ