![]() ■著書名:【ミクロパーク】 ■ジャンル:SF ■著者名:ジェイムズ・P・ホーガン ■出版社:東京創元社(創元SF文庫) 発行年:2000年 初版 定価:980円 ■ISBN4-488-66322-2 ■おすすめ度:★★★★★ ====================================================================== 福井県で恐竜をあしらった「恐竜エキスポ」というのをやっている。おそら く恐竜の模型をあちらこちらと並べて,はるか昔の大恐竜時代を体験しようと いう試みだと想像するが,如何せん行ってないのでよくは判らない。ただ巨大 な植物や大型恐竜を見上げながらパークの中を歩きまわっていれば,おそらく 世界観も変わってくるだろうな,という思いはする。 さて『ミクロパーク』であるが,その名のとおり,極めて小さな世界を扱っ たSFである。SFであれ現実の先端研究であれ,ナノテクの方が流行である が,ナノより3桁大きいミクロ(μ:マイクロ)の世界を扱っている。ナノは まだまだ先の話であろうが,マイクロの方は少し時代が経てば手が届きそうな 気もして,現実味が多少なりとも感じられる。少なくとも無数のナノロボット を土の上にばらまいたら,あっという間にビルが出来上がるといったような話 よりは身近であろう。 * 二人の機械いじり好きの少年がいる。この二人が主人公である。一人の父親 はマイクロロボット(マイクロ工作員)を作るベンチャー企業の社長で,かつ 科学者でもある。科学者というのは大体において経営や政治的折衝には疎いも ので,そこのところをよくつけ込まれる。 このベンチャー企業では,マイクロロボット(数ミリからビール缶くらいの 大きさ)を使って巨大な世界を実体験できる『ミクロパーク』を作ろうとして いる。しかしいつの世にも競争相手はつきもので,同じようなロボットを開発 しているより巨大な企業が存在していた。ベンチャーの社長は元々この巨大企 業にいたのだが,技術的方針が合わずスピンアウトしてきたのである。 大体において優秀な人材がスピンアウトして作った会社の方が,より優れた ものを生み出すものである。例にたがわず,この場合もマイクロロボットへの 神経接続システムにおいてベンチャー企業の方が優れていた。しかもその神経 接続方法についての特許も取得している。さてこんな場合に競合する大企業は どうするか。現実ではどうか判らないが,小説の世界においては当然のように 潰しにかかる。 自分のところで殺人マイクロロボットを製作し,ベンチャー社長の殺人を計 画する。しかもこの殺人には社長の妻(2回目の妻)が絡んでいた。特別とい っていいほどの美人で,しかも極めて上昇志向の強い人間である。彼女はまた 大企業の社長とできており,自ら夫の殺人を計画した。 * 主人公の子ども達は,ひょんなことからこの継母の企てに気づき,父親に知 られないように何とか殺人を阻止しようと動き始める。少年が自分で作ったマ イクロロボットを駆使して,大企業の殺人ロボットとのバトルを繰り広げる。 もちろんロボットには少年自身が神経接続で乗って自分でコントロールしてい る。そして相手の殺人ロボットには継母が乗っている。 ちょこまかと動くマイクロロボットと人間との面白おかしい戦い。ロボット 同士の壮絶な戦い。そして何も知らずに研究と開発に没頭している父親。極微 の世界での物理現象を背景にした活劇と人間同士の戦略がめぐり,とても途中 では中断できない面白さを出してくれている。 ホーガンの小説はいつも楽しませてくれる。しかも必ずハッピーエンドにな るというのが嬉しい。是非ともお勧めの一冊である。 * * * さて,μレベルのロボットはどうやって作るのか。答えは簡単。まずできる だけ小さなロボットを作る。次にそのロボットがまた小さなロボットを作る。 これを繰り返していけば,やがてマイクロロボットができあがる。ただマイク ロといっても部品がマイクロなわけで,ロボット自体は目に見える大きさであ る。ロボット自体がマイクロになって,目に見えなくなってしまうと,それで はナノの世界になってしまう。蟻くらいから芋虫くらいの大きさと考えたらい いだろうか。 ミクロパーク(原題はバグパーク:虫公園)の中には,蟻,蜂,カマキリ, ムカデ,芋虫,・・・といった虫が離してあり,その中をマイクロロボットに 乗った人間が探検していく。(実際にはロボットに乗るのではなくて,ロボッ トに直接神経接続することにより,人間がそのロボットになりきると言えばい いのであろう) 数ミリから十数センチ程度の大きさのロボットから見れば, 例えばムカデはそれこそ,ヤマタノオロチのように見えるのだろう。しかも虫 は自分で動いているのであるし・・・。 ちょっと本文の中からその状況を抜き出してみよう。 『山の側面がぽんとはじけて,一匹のムカデが姿をあらわした−−−琥珀色と 茶色の体に,ペンチのように先端の先端の細くなった大きな鉤爪と,木の幹の ような二本の触覚をそなえている。化け物じみた,おぞましい,多数の分節か らなるその列車は,車輪があるべきところに波打つ脚がずらりと並んでいた。 なだれをうって落ちてきた木くずに,ミシェルはなぎ倒された。頭上にぬっと あらわれた目玉のある巨大な頭は,どんな悪夢よりも恐ろしく,横向きに開く 口のなかからは,よだれのしたたる牙があらわになっていた。ミシェルは恐怖 に押しつぶされてしまった。声も,意志も失われ,まったく反応することがで きなかった。』 (2000.9.11) |
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