IABP (大動脈内バルーンパンピング)の原理



《List》

home

entrance

menu

bbs

mail



《Contents》

総論
急性心不全とIABPの適応
IABPの原理
IABPの実際
参考





 

■IABP (大動脈内バルーンパンピング)の原理

 下行大動脈内にバルーンを挿入・留置し、心臓の拡張期にこれを膨張(diastolic augmentation)させることにより冠動脈血流量の増加、平均大動脈圧の維持を図り、心臓の収縮期にこれを収縮(systolic unloading)させることにより心仕事量と心筋酸素消費量を抑える働きをする。

 バルーンサイズと留置位置

≪バルーンサイズ≫

バルーンサイズと留置位置

 バルーンサイズは、患者の身長に合わせ、バルーン長が大動脈遠位弓部から腹腔動脈(第十二胸椎又は第一腰椎)上におさまるサイズを選ぶ必要がある。
  最近では、バルーン径を太くすることでバルーン長を短くしたショートバルーンが市販化され、日本人の体型に合わせた腹部大動脈の腎動脈分岐部にかからないバルーンが販売されている。

● 身長とバルーン容量の目安

身長155cm未満155〜165cm165cm以上
バルーン容量30cc35cc40cc
※ あくまで目安であるため使用バルーンサイズは取扱説明書を参考に選定を行うこと

● バルーン容量とバルーン長比較

販売名メーカー分類30cc35cc40cc
IABP 8FXEMEX従来型210mm214mm243mm
TOKAI 7Fr-Clear東海メディカル195mm225mm255mm
IABP 8F ショートバルーンXEMEXショートバルーン162mm
TOKAI 7Fr-TAU東海メディカル180mm205mm220mm
YAMATO 7.5FrMAQUE178mm203mm229mm

≪留置位置≫

  X線線透視下または、経食道エコーガイド下にてバルーン先端が左鎖骨下動脈から約2cm下の胸部下行大動脈内に留置


 膨張と収縮のタイミング

≪トリガーの選択≫

  IABP駆動装置は心周期を同期させるため、心電図(R波)あるいは大動脈圧を認識しその波形をトリガーとしバルーンの膨張と収縮のタイミングの設定を行う。
  通常は、トリガーは心電図波形を選択し、大動脈圧波形にて効果が最大限発揮されるタイミングに設定するが、電気メスなどのノイズなどで心電図がうまく認識できない場合は、大動脈圧トリガーを選択する。又、人工心肺中等で心停止状態で拍動動脈圧の維持や血栓形成防止のためIABP駆動装置の動作させたい場合は内部同期を選択をする。
  心電図トリガーは、駆動装置入力される心電図の誘導波形のR波高が低い場合やP波・T波高と近い場合うまくR波を認識できないため、有効なR波が確認できる誘導を入力する必要がある。もし、適切な誘導がなければ心電図電極の貼付位置を変更する。
又、心電図トリガーは機種によって様々であるが複数のモードが用意されている。心電図の一番高い波高(R波)のみを認識するピークモードや心電図の一番高い波高(R波)の他に複数の波形(P波やT波)を認識するパターンモード、心房細動や期外収縮等によりR-Rが不整な場合に用いる不整脈モード、ペースメーカーのペーシングスパイクの認識に適したペーシングモードなどがあり、患者さんの心電図に適切に同期できるトリガーモードの選択が可能である。

≪膨張と収縮のタイミング≫

IABPの膨張と収縮のタイミング

  バルーンを膨張させるタイミングは、大動脈圧波形にて大動脈弁の閉鎖時のdicrotic notch(重複切痕)、心電図波形にてT波の頂点付近で行い、収縮させるタイミングは、心電図波形にてP波の終了直後、大動脈発波形にて拡張末期圧が最も低くなるタイミングで収縮させる。
 しかし、実際はバルーンの応答や血液伝播の遅延があるためこれよりも若干速いタイミングで動作させる必要がある。

Ballon膨張Ballon収縮
大動脈圧Dicrotic notch拡張末期圧が最低値
心電図T波の頂点P波の終り

≪最適なタイミングの調整≫

適切なIABPのタイミング

不適切なIABPのタイミング


 IABP駆動装置とバルーンカテーテル

≪充填ガス≫

 開発当初は、バルーンの膨張・収縮に炭酸ガスを使用していた。炭酸ガスは血液に溶けやすく万が一バルーンの破裂、リークした際空気塞栓を起こし難いと考え用いられていたが炭酸ガスは重く(分子量;44)応答性が悪かった。
  現在は、バルーンの耐久性能が向上したことやカテーテルの細径化により追従性の良いヘリウムガス(分子量;4)が使用されている。但し、ヘリウムガスは血液に非常に溶けにくいためバルーンの破裂には注意する必要がある。


≪駆動方式≫

  IABPの駆動方式はコプレッサー方式とベローズ方式の2種類に大別される。コンプレッサー方式は、現在の主流であり、ベローズ方式はArrow社のみ採用されている方式である。

  コンプレッサー方式は、コンプレッサーで陽圧と陰圧を発生させ、陽圧と陰圧のタンクを電磁弁で切り替えることでヘリウムガスが入った容器の容積を変更しバルーン内へヘリウムガスを移動させ膨張と収縮を行う。
この方式は、電磁弁の切替動作のみで行えるため応答速度が速いのが特徴である。

  ベローズ方式は、ステッピング(パルス)モーターの回転によって、ヘリウムガスの入ったベローズ(蛇腹)を伸縮させることでバルーン内へヘリウムガスを移動させ膨張と収縮を行う。
この方式は、構造が単純で構成部品も少ないため故障しにくいのが特徴である。

IABP駆動装置(コンプレッサー方式)IABP駆動装置(ベローズ方式)


 バルーンカテーテル

  開発当初はカテサイズが大きく外科的に挿入されていたが、経皮的挿入法が開発や膜素材や加工技術の向上により、細径化が進み、8Frカテーテルが標準化し、7Fr以下のカテーテルも市販されるようになっている。又、日本人の体格に合わせた太くて短いショートバルーンやリアルタイムに正確な圧波形を得ることのできる圧力センサー内蔵のバルーンカテーテルの開発などにより、安全性と治療精度の高いカテーテルに進歩している。

≪構造≫

バルーンカテーテルの構造

  バルーンカテ―テルは、先端よりバルーン部、アウターカテーテル部、分岐部からなり、カテーテル内はカテーテル内にインナーカテーテルを有する同軸型のダブルルーメン構造となっている。インナーカテーテルは、先端部まで開通しており留置時のガイドワイヤー(GW)の挿入や先端圧モニターとして利用される。アウターカテーテルは、バルーン内に開通しており駆動ガス(Heガス)の導管として使用される。


≪細径化バルーンカテーテル≫

  現在は、8Frのカテーテルサイズが主流であるが、7Fr以下に細径化したカテーテルも登場している。カテーテルサイズを細径化は、IABP留置による下肢虚血や挿入部の出血、抜去時の止血時間の短縮など低侵襲に行える利点がある。
  6Frバルーンカテーテルは、閉塞性動脈硬化症(ASO)などで挿入が困難な患者さんの下肢虚血のリスクの低減や腹部大動脈の閉塞や狭窄、高度のASOによりIABPを下肢からの挿入することが不可能であった患者さんに対しても6Frの細径により左上腕動脈又は左腋窩動脈から挿入し、IABP治療が行える可能性が広がった。
  しかし、細径化することは駆動ガスルーメンやGW・圧モニタルーメンを狭くすることとなるためバルーンの応答性の低下や先端圧波形の鈍りを起こしやすくなる。特に7Fr以下のバルーンカテーテルは旧式の駆動装置ではガス駆動力が足りず精確なバルーンの膨張・収縮行えないものもあるため注意が必要である。又、バルーンの応答性の低下は頻脈や不整脈の追従性を低下させ、先端圧波形の鈍りは正確なバルーンの膨張・収縮のタイミング調整が行えなくなるなど十分な心補助効果が得られない可能性があることを理解したうえで使用する必要がある。


センサー付きIABPカテーテル

≪センサーバルーン≫

  近年、カテ先に光ファイバー圧センサーや圧電トランスデューサを組み込むことで従来の水封式圧トランスデューサよりも遅れの少ない正確なdicrotic notch(重複切痕)の認識が可能なバルーンカテーテルが開発され、より至適なタイミングの調整が可能となってきている。


≪吉岡式IABPバルーンカテーテル≫

吉岡式IABPバルーンカテーテル

  インナールーメンを太くすることで、7Fr(6Fr)以下のガイディング挿入を可能にし、1つの穿刺部位でIABPを駆動しながら、CAGやPCIを行うことを可能としたバルーンカテーテルである。東海メディカル社より製造販売されており、7Frガイディングが挿入可能なカテーテル適応シース径は13Fr、6Frガイディングが挿入可能なカテーテル適応シース径は12Frとなっている。





Next                            Back

menu