「このくらいの演出はしなきゃ失礼かと思って」

そう言って、風雅は笑みを浮かべる。

「総司令の息子さんへの挨拶には」

照明は未だ消えたままなのではっきりと表情が見えるわけではないが、月の光が差し込んでいるので何となくは分かる。そしてはっきり見えないことでより風雅の神秘さを増しているようにも思える。怪盗の正体を知らなければ、だが。

「光栄ですね」
「知ってたの?」
「愚問ね。怪盗には実力と、情報が必要なの」

何その言葉遣い、と言おうとして気付いた。
風雅は一応女怪盗ということで通っているのだ。そして、風雅が実は男だという事は華月以外は知らない。
風雅も華月の前では普通に話すが、今は湊がいる。寒気がするが、今は我慢することにした。

「さて、どうやって盗むつもりですか」
「どういう意味?」
「既に知っているんでしょう?」

そう言った湊の視線の先にあるのはガラスケースに入った予告品。
湊がコインを指で弾いてガラスケースの方へ投げる。すると、ケースに触れた途端バチィっとものすごい音がした。

「・・・何、今の」
「電流です」

呆然とした華月の呟きに対し、何でもないことのようにさらりと言われたがあれだけの電気を流せば万一触れてしまった場合、確実に感電死するのではないだろうか。

「あれ? でも今停電してるのに何で・・・」
「これだけ別電源にしてありますから」

つまり、停電させられるのも予想済みだったということか。
それなら警吏を外に配置させたもの分かる。停電くらいでパニックになったりはしないだろうが、多少の動揺は生じるだろうし、それに便乗して何か仕掛けられれば混乱を起こすことも難しくはない。
そして混乱に紛れて、盗み出すことも。

「どうせそれも知っていたでしょう?」
「今までと違う配置、さらに屋敷内に誰もいなければ警戒するのは当然でしょう? 例えば、罠が張り巡らされてるとか?」
「外から窓を破って入ってきたのもその為でしょう。演出などではなく」
「停電でほとんどの仕掛けは作動しなくなったとは言え、わざわざ屋敷内を通って危険を冒すこともないから」
 
湊と風雅の会話を聞いていた華月は、もしかして喧嘩を売られてるのだろうか、と思った。
仕掛けだらけの邸内を堂々と通ってきたし、ガラスケースの電流にも気付かなかった。そのことに対する嫌味に聞こえるのは気のせいだろうか。
ていうか、あんな滅茶苦茶な仕掛け、作るほうも予測する方もどうかしてるわよ、と毒づく。

電流をどうにかしない限り、宝石はおろか、ガラスケースに触れることすら不可能な状況で、どう動くのだろうか。
単純、かつ手っ取り早い方法は電源を落とすことだが、出来るなら最初の停電の時にとっくにやっているだろう。

と、思ったら。

電気が回復し、部屋に明かりがついて眩しさに少し気をとられた間に、予告された宝石は風雅の手の中にあった。まるで手品だ。

「どうやって・・・」
「特別なことは何も? 電源を落としただけ」

だからその方法を聞いているのに。
だが、湊はそれだけで理解したらしく「なるほど」と呟く。

「では、また」

またもや二人に馬鹿にされてるような気になってるうちに、風雅は窓のすぐ傍に移動し、それだけ言って去っていった。





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